機動戦士ガンダム:残響   作:片蔵清優

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■第6巻 第5章 「潮境」

地球。

 

夜明け前。

 

 

海は静かだった。

 

 

だが。

 

その静けさは、

穏やかさではない。

 

 

まるで。

 

世界そのものが、

息を潜めているようだった。

 

 

波の音だけが続く。

 

 

一定だったはずの潮のリズムが、

時折わずかに乱れる。

 

 

まるで。

 

“何か”が、

世界へ触れている。

 

 

 

■海岸沿いの邸宅

 

窓辺に立つ一人の少女。

 

 

■エリシア・マス

 

海を見つめている。

 

 

白いカーテンが、

風で揺れる。

 

 

その瞳が、

遠い水平線を静かに見ていた。

 

 

 

■エリシア

 

「……また」

 

 

小さな呟き。

 

 

耳鳴りのような感覚。

 

 

波の奥から。

 

誰かに見られているような気配。

 

 

最近ずっと続いている。

 

 

夢ではない。

 

 

“観測”されている。

 

 

 

■セイラ・マス

 

部屋へ入ってくる。

 

 

柔らかな足音。

 

 

だがその表情には、

隠しきれない緊張があった。

 

 

 

■セイラ

 

「眠れていないのね」

 

 

 

■エリシア

 

少しだけ笑う。

 

 

「お母様もでしょう?」

 

 

セイラは否定しない。

 

 

窓の外を見る。

 

 

海。

 

 

夜明け前の深い蒼。

 

 

 

■セイラ

 

「……揺れているわ」

 

 

 

■エリシア

 

「世界が?」

 

 

 

■セイラ

 

静かに頷く。

 

 

「ええ」

 

 

「まるで、

境界線そのものが

崩れていくみたいに」

 

 

エリシアは黙る。

 

 

彼女にも分かっていた。

 

 

ブライト奪還以降。

 

世界の“音”が変わった。

 

 

存在してはいけないものが、

現実へ浮上してきている。

 

 

アムロ。

 

シャア。

 

 

そして——

 

 

ラプラス・コア。

 

 

 

■エリシア

 

「……来るのね」

 

 

 

■セイラ

 

「あの子達が動き始めた以上、

もう止まらないわ」

 

 

短い沈黙。

 

 

その時。

 

 

海の波音が、

一瞬だけ途切れる。

 

 

完全な無音。

 

 

だが次の瞬間、

何事もなかったように潮騒が戻る。

 

 

 

■エリシア

 

ゆっくり振り返る。

 

 

「……今、

止まった」

 

 

 

■セイラ

 

目を細める。

 

 

「いいえ」

 

 

「揃ったのよ」

 

 

エリシアの背筋に、

小さな寒気が走る。

 

 

 

やがて。

 

セイラは静かに振り返る。

 

 

その目は、

母親のものだった。

 

 

 

■セイラ

 

「宇宙(そら)へ上がるわ」

 

 

エリシアの目が揺れる。

 

 

 

■エリシア

 

「……お母様」

 

 

 

■セイラ

 

「もう、

隠している時間はない」

 

 

ゆっくり歩く。

 

 

机の上。

 

古いデータ端末。

 

 

そこに映る、

一つの名称。

 

 

■REVIVE PROJECT

 

 

エリシアは、

静かに息を呑む。

 

 

 

■エリシア

 

「……始めるの?」

 

 

 

■セイラ

 

少しだけ目を閉じる。

 

 

アムロ。

 

シャア。

 

ブライト。

 

失われていった時代。

 

 

そして。

 

これから失われようとしている未来。

 

 

 

■セイラ

 

「ええ」

 

 

静かな声。

 

 

「リヴァイブ計画を始めるわ」

 

 

部屋の空気が変わる。

 

 

それは、

戦争開始の空気ではない。

 

 

未来を選ぶための決断。

 

 

 

■セイラ

 

「ジョブ・ジョンへ連絡を」

 

 

「アナハイムへ来てもらう」

 

 

その時。

 

 

静かに扉が開く。

 

 

■マルク

 

「既に準備を始めております」

 

 

穏やかに一礼する。

 

 

「私も、

微力ながらですが——」

 

 

「お手伝いさせていただきます」

 

 

セイラが、

少しだけ目を細める。

 

 

■セイラ

 

「ありがとう、マルク」

 

 

短い沈黙。

 

 

そして。

 

 

■セイラ

 

「……それと」

 

 

「カイにも連絡を入れておいてもらえるかしら」

 

 

エリシアが、

少し目を瞬かせる。

 

 

■エリシア

 

「カイさんにも?」

 

 

 

■セイラ

 

静かに頷く。

 

 

「あの人は、

戦争を“外側”から見続けた人よ」

 

 

「今の世界には、

必要だわ」

 

 

 

■マルク

 

「承知しました」

 

 

 

■エリシア

 

「……レイジには?」

 

 

 

■セイラ

 

少しだけ微笑む。

 

 

「あの子は、

まだ知らなくていい」

 

 

「気づいた時には、

もう届ける時よ」

 

 

エリシアは、

小さく頷く。

 

 

窓の外。

 

 

海。

 

 

夜明け前の蒼。

 

 

その波間に。

 

 

一瞬だけ、

虹色の光が走る。

 

 

エリシアの瞳が揺れる。

 

 

 

■エリシア

 

「……海が鳴ってる」

 

 

 

■セイラ

 

静かに海を見る。

 

 

「ええ」

 

 

「世界が、

揺れているのよ」

 

 

遠く。

 

 

空の向こう。

 

 

まだ見えない宇宙で、

亡霊達が動き始めている。

 

 

そして今。

 

 

未来もまた、

静かに動き始めた。

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