地球。
夜明け前。
⸻
海は静かだった。
⸻
だが。
その静けさは、
穏やかさではない。
⸻
まるで。
世界そのものが、
息を潜めているようだった。
⸻
波の音だけが続く。
⸻
一定だったはずの潮のリズムが、
時折わずかに乱れる。
⸻
まるで。
“何か”が、
世界へ触れている。
⸻
⸻
■海岸沿いの邸宅
窓辺に立つ一人の少女。
⸻
■エリシア・マス
海を見つめている。
⸻
白いカーテンが、
風で揺れる。
⸻
その瞳が、
遠い水平線を静かに見ていた。
⸻
⸻
■エリシア
「……また」
⸻
小さな呟き。
⸻
耳鳴りのような感覚。
⸻
波の奥から。
誰かに見られているような気配。
⸻
最近ずっと続いている。
⸻
夢ではない。
⸻
“観測”されている。
⸻
⸻
■セイラ・マス
部屋へ入ってくる。
⸻
柔らかな足音。
⸻
だがその表情には、
隠しきれない緊張があった。
⸻
⸻
■セイラ
「眠れていないのね」
⸻
⸻
■エリシア
少しだけ笑う。
⸻
「お母様もでしょう?」
⸻
セイラは否定しない。
⸻
窓の外を見る。
⸻
海。
⸻
夜明け前の深い蒼。
⸻
⸻
■セイラ
「……揺れているわ」
⸻
⸻
■エリシア
「世界が?」
⸻
⸻
■セイラ
静かに頷く。
⸻
「ええ」
⸻
「まるで、
境界線そのものが
崩れていくみたいに」
⸻
エリシアは黙る。
⸻
彼女にも分かっていた。
⸻
ブライト奪還以降。
世界の“音”が変わった。
⸻
存在してはいけないものが、
現実へ浮上してきている。
⸻
アムロ。
シャア。
⸻
そして——
⸻
ラプラス・コア。
⸻
⸻
■エリシア
「……来るのね」
⸻
⸻
■セイラ
「あの子達が動き始めた以上、
もう止まらないわ」
⸻
短い沈黙。
⸻
その時。
⸻
海の波音が、
一瞬だけ途切れる。
⸻
完全な無音。
⸻
だが次の瞬間、
何事もなかったように潮騒が戻る。
⸻
⸻
■エリシア
ゆっくり振り返る。
⸻
「……今、
止まった」
⸻
⸻
■セイラ
目を細める。
⸻
「いいえ」
⸻
「揃ったのよ」
⸻
エリシアの背筋に、
小さな寒気が走る。
⸻
⸻
やがて。
セイラは静かに振り返る。
⸻
その目は、
母親のものだった。
⸻
⸻
■セイラ
「宇宙(そら)へ上がるわ」
⸻
エリシアの目が揺れる。
⸻
⸻
■エリシア
「……お母様」
⸻
⸻
■セイラ
「もう、
隠している時間はない」
⸻
ゆっくり歩く。
⸻
机の上。
古いデータ端末。
⸻
そこに映る、
一つの名称。
⸻
■REVIVE PROJECT
⸻
エリシアは、
静かに息を呑む。
⸻
⸻
■エリシア
「……始めるの?」
⸻
⸻
■セイラ
少しだけ目を閉じる。
⸻
アムロ。
シャア。
ブライト。
失われていった時代。
⸻
そして。
これから失われようとしている未来。
⸻
⸻
■セイラ
「ええ」
⸻
静かな声。
⸻
「リヴァイブ計画を始めるわ」
⸻
部屋の空気が変わる。
⸻
それは、
戦争開始の空気ではない。
⸻
未来を選ぶための決断。
⸻
⸻
■セイラ
「ジョブ・ジョンへ連絡を」
⸻
「アナハイムへ来てもらう」
⸻
その時。
⸻
静かに扉が開く。
⸻
■マルク
「既に準備を始めております」
⸻
穏やかに一礼する。
⸻
「私も、
微力ながらですが——」
⸻
「お手伝いさせていただきます」
⸻
セイラが、
少しだけ目を細める。
⸻
■セイラ
「ありがとう、マルク」
⸻
短い沈黙。
⸻
そして。
⸻
■セイラ
「……それと」
⸻
「カイにも連絡を入れておいてもらえるかしら」
⸻
エリシアが、
少し目を瞬かせる。
⸻
■エリシア
「カイさんにも?」
⸻
⸻
■セイラ
静かに頷く。
⸻
「あの人は、
戦争を“外側”から見続けた人よ」
⸻
「今の世界には、
必要だわ」
⸻
⸻
■マルク
「承知しました」
⸻
⸻
■エリシア
「……レイジには?」
⸻
⸻
■セイラ
少しだけ微笑む。
⸻
「あの子は、
まだ知らなくていい」
⸻
「気づいた時には、
もう届ける時よ」
⸻
エリシアは、
小さく頷く。
⸻
窓の外。
⸻
海。
⸻
夜明け前の蒼。
⸻
その波間に。
⸻
一瞬だけ、
虹色の光が走る。
⸻
エリシアの瞳が揺れる。
⸻
⸻
■エリシア
「……海が鳴ってる」
⸻
⸻
■セイラ
静かに海を見る。
⸻
「ええ」
⸻
「世界が、
揺れているのよ」
⸻
遠く。
⸻
空の向こう。
⸻
まだ見えない宇宙で、
亡霊達が動き始めている。
⸻
そして今。
⸻
未来もまた、
静かに動き始めた。