神は巫女の頭に宿る   作:榊 雅樂

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十一話 龗ノ龍

 翌日、慣れない場所で寝たからか、寝付きが少々悪かったらしい。

 

「おかしいなあ、石火矢(向こう)では寝れたのに……」

 

 ––––というか、こっちに来てからなんか違和感?

 

 そう、彼女は出水(こちら)に来てから、不思議な感覚を覚えていた。なにか、モヤがかかっているような違和感。

 

 龍神の祠でも何かを感じ取ったが、それが何かまではわからなかった。

 

「ま、いっか」

 

 立ち上がると布団を片付け、服を着替えた。

 

 

「あ、望緒、おはよう」

 

「おはよー!」

 

 神社へ行くと、千夏が大きく手を振った。つられて望緒も振り返す。

 

「朝から元気やな」

 

 笑いながら言ってきたのは、千夏の兄である爽玖。彼が千夏の隣に立つと、彼女は元気で何が悪いとでも言いたげな顔をしていた。

 

「あ、おはようございます。えと……爽玖さん」

 

「ははっ、敬語なんかいらんよ。さん付けもなし。もっと柔らかい呼び方でええよ、あだ名でもなんでも」

 

「あだ名?」

 

 望緒は手を顎に当て、何かいいものはないかと思い浮かべる。そして、一ついいのが思いついた。

 

「じゃあ、さっくんって呼んでもいい!?」

 

「あっははは、なにそれ。超ええやん!」

 

 爽玖はひとしきり笑うと、「改めてよろしく」と手を差し伸べてきた。望緒は手を握り返す。

 

飛希(お前)も呼んでええんやで」

 

「えっ、いや、僕が呼んでも可愛くないでしょ……」

 

「うん、全く」

 

 その言葉に飛希は「はあ?」と言って、爽玖はそれでまた笑った。

 

 ワイワイしていると、大人たちがそろそろ仕事だと言ったので、望緒たちもそれぞれの持ち場へ行った。

 

 爽玖は望緒と握手した右手を、無言でじっと見つめていた。

 

 

「今日は参拝する人少ないね」

 

「んね、なんでやろ」

 

 昨日は人が結構来ていたのだが、今日はなぜかあまり来ない。参拝しにくる気分では無いのか、あるいは––––

 

「?」

 

 千夏は空を見上げた。望緒もそれにつられて空を見上げると、何やら一羽の鳩が慌ただしく飛んでいるのが見えた。脚には何かが巻き付けられている。

 

「あ、あれ伝書鳩や!」

 

「え、伝書鳩……? って、待って!?」

 

 千夏は鳩を見るなり飛び出してしまった。望緒もそれを追いかける。

 

 鳩が降り立った先は、出水家の当主であり、初日に話した老人。彼は鳩に巻き付けられた紙を取ると、それを読み始める。

 

「……ふむ、小さな“念”が現れたらしい。爽玖、千夏、行ってきてくれ。それと、この近くにまだ人がいるらしい。飛希くんと望緒くんは避難に当たってくれるかね」

 

 命令を聞くと、四人は黙って頷いた。当主の命令は絶対。逆らいは出来ない。

 

 望緒たちが着いた場所は、村からそれなりに近い河原。どうやら、子どもたちがよく遊ぶ場所らしい。

 川の近くに人魂のようなものが浮いている。あれが“念”である。

 

 飛希が辺りを見渡すと、確かに三人の子どもがいた。

 

「君たち、大丈夫!?」

 

 飛希が声をかけると、三人はビクッと体を跳ねさせた。急にやって来た男に怯えているようだった。

 

「大丈夫だよ、お姉ちゃんたちと向こうに一緒に行こう?」

 

 望緒は子どもたちを怖がらせないよう、しゃがんで目線を合わせた。初めてこの空間に来た日、飛希がしてくれたように。

 

 子どもたちはそれで少し落ち着いたらしく、半泣きで無言のまま頷いた。

 望緒と飛希は子どもと手を繋いで、できるだけ離れた場所に避難した。

 

 それを見た後、爽玖と千夏はすぐさま戦闘態勢に入った。

 

「兄ちゃん、()()()出して」

 

「こんな雑魚にいらんやろ」

 

 彼の言葉に、千夏はピクッと反応する。

 

「油断大敵っておじいちゃんしょっちゅう()うとるやんけ!」

 

「はあ!? でも出すんは千夏やなくて俺やんかさ!」

 

「関係あらへんわ! いつでも出せるように弱い“念”でもあれ出せるようにしとけ言われとるやろ!」

 

 何やら二人が喧嘩し始めてしまった。“念”は逆に何も出来ないでいる。

 遠くから見ている望緒もオロオロと心配している。

 

「ね、ねえ、あの二人大丈夫?」

 

「うん、大丈夫。案外何とかなるんだよ」

 

 望緒は心配げに「そう……」と呟いて、二人に視線を戻した。

 

「あーもう、変にぶっ壊れても知らんからな!」

 

「そんなすぐ壊れるほど脆ないやろ!」

 

 爽玖はムスッとした顔のまま、手を合わせ、口を開く。

 

(おかみ)ノ龍」

 

 彼が呟くと、何も無い空間からバシャバシャと音を立てて水が現れ始める。そして、だんだんと形を作っていき、最終的に大きな龍の形になった。

 

 望緒と子どもたちは驚くが、隣にいる飛希は何も驚いていないどころか、むしろにこやかである。

 

 “念”はあまりに大きい龍に恐れをなしたのか、逃げようと身体の向きを変えた。

 

「あ、こらっ」

 

 千夏は手を左から右へ勢いよく動かし、鎌のようになった水を“念”にぶつけた。

 そのおかげで、“念”のスピードが格段に落ちた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「わかっとる! 『昇り龍・(らく)』」

 

 爽玖が言うと、水の龍は上へ昇り、一定の高さまで来ると、“念”へ向かって勢いよく落ちる。

 

 龍は口を開け、“念”を食らった。そしてそのまま川の中へ溶け込んだ。

 

「っはあ……」

 

「おつかれ」

 

「ああ」

 

 二人は飛希たちに手を振り、もう大丈夫だという合図をした。

 

 四人は無事に子どもたちを村に届け、神社へ戻った。

 

「四人とも、ありがとう。苦労をかけたな」

 

 当主が言うと、四人は笑顔で返した。

 

 

「それにしても、さっくんのあれ、ちょー凄かった! あれなに?」

 

「あれは龍神様の疑似体みたいなものやな」

 

「疑似体?」

 

 望緒が問うと、爽玖は一つ頷いて話しだす。

 

「俺、自分で言うのもアレやけど、四家の中で一番霊力量多いんよ」

 

「? 霊力?」

 

「ありゃ、それもわからんか」

 

 爽玖はどう説明したらいいかわからず、目配せで飛希に助けを求めた。彼はそれを察知し、苦笑いをしてから望緒に説明しだす。

 

「えっとね、まず技を出すには霊力を使うことが必須条件なんだけど、人間には少なからずそれがあるのね」

 

 望緒は頷きながら説明を聞く。

 

「で、爽玖はそれをどの人間よりもたくさん持ってるっていうわけ。これは、人によって全然違う。もちろん、四家に生まれても霊力量が少ない者もいる」

 

「私が元いた空間の人間でも、持ってるの?」

 

「持ってるはずだよ」

 

「ほえぇ、よくわかんないけど、めっちゃすごいね」

 

 望緒は初めて聞く情報に、目を輝かせる。自分の中にもそれがあるのだと思うと、ワクワクするらしい。

 

「んで、霊力量が多いから、神の疑似体を従えることができるん」

 

「神様自体は無理なの?」

 

「霊力的には多分そんな問題は無い。けど、神様自身が従えるに相応しい人間だと判断しないと、絶対無理」

 

「そうなの……」

 

 望緒が小さく言うと、飛希がそうそうと何かを思い出したかのように言った。

 

「ここに来た日、父さんが一瞬でここに来たでしょ?」

 

「うん」

 

「あれも、この霊力を使ってやったんだよ」

 

 その言葉を聞いて、望緒の目は更に輝いた。

 

「すっご!」

 

 その後は他愛も無い話をしつつ、親睦を深めた。

 

 ––––なんか望緒、こっちに来てからすごく明るくなったなあ。来てくれて良かった。

 

 飛希はそんなことを思いながら、持ち場へ戻った。

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