神は巫女の頭に宿る   作:榊 雅樂

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十五話 恐れと優しさ

「龗ノ龍」

 

 爽玖が手を合わせ、つぶやくと、先日と同じように何も無い空間から水が音を立てて現れる。

 

 龍が出ても、“念”はこの前の“念”ほど動じていなかった。爽玖はそれを見て、軽く舌打ちをする。

 

「もっとびびれや……」

 

「文句言うな。これより上の“念”は、動揺すらせんぞ」

 

 碧仁の発言に、爽玖は口を尖らせた。こんな時まで説教しなくていいだろうとでも思っていそうだ。

 

 “念”は躊躇なく飛びついてくる。が、飛希はそれを軽くいなし、すぐに体制を整える。

 しかし、それは向こうも同じこと。何度でも、何度でも飛びかかっていく。

 

 同じ人間ばかりでなく、徳彦にも碧仁にも飛びかかる。ただし、爽玖には飛びついていかない。彼には龗ノ龍がついており、向かって行けば反撃される。

 

 だが、それ以外の人間に飛びかかれば、手出しは出来ない。下手に手を出せば、味方も傷つけてしまう可能性があるから。

 

 仲間だけを傷つけないという技術は、まだ爽玖にはない。

 

「くっそ」

 

「やっぱり、強くなるにつれて面倒くさくなるね。『彼岸』」

 

 徳彦がつぶやくと、“念”は彼岸花のような炎に取り囲まれる。飛びかかろうとしていた奴は、急ブレーキをかけた。

 その際、チリっと身体が炎に当たり、熱そうに飛び跳ねた。

 

「『大滝』」

 

 碧仁が手を上から下へ動かしながら言うと、何も無いところから蛇口をひねったように水が流れる。

 

 しかし、“念”はかろうじて下にあった隙間から抜け出した。

 

 ––––もう少し幅を狭めないといけないか。

 

「爽玖」

 

「はいはい!」

 

 彼はわかってるとでも言いたげだったが、グッと堪えて人差し指を上から下へ動かす。

 

「『昇り龍・落』」

 

 言うと、待機していた龗ノ龍は空高く昇り、一定の高さまで行くと、急降下する。

 大きく口を開き、“念”を食らう。そして、そのまま地面にぶつかり、龗ノ龍は“念”ごと消えた。

 

「……これ、四人も必要やったん?」

 

「僕なんもしてない……」

 

「まあ、足りんよりはマシやろ」

 

 徳彦も碧仁の発言にうんうんと共感している。

 

 

 退治に当たっていた四人が、村人たちが避難していた場所へ来た。つまり、退治が出来たということ。

 

「あ、お疲れ様。終わった?」

 

「うん、終わったよ」

 

 徳彦が言うと、避難していた村人たちはザワザワとし始めた。ただ、それは決して否定的なものではなく、感謝や喜びであった。

 

 様々な場所から良かった、ありがとうと声が聞こえてくる。

 

 彼らの表情は避難した時とは全く違い、笑顔だった。望緒はその表情が嬉しくて、つられて笑顔になる。

 初めはムスッとしながら村人たちを助けていた千夏も、今ではすっかり笑顔だ。

 

 

 真っ暗な空間、望緒はすぐに夢の中だと気づいた。暗いということは、ここは八下の精神世界ではないということ。

 

 辺りをウロウロしていると、人影が見えた。背は高く、見た感じ男性である。

 

 足を忍ばせて近づくと、その男性が誰か、すぐにわかった。

 

(しゅう)……?」

 

 望緒はポツリと呟いた。男性は後ろを振り返り、彼女を冷たく見下ろした。

 

「なんで……」

 

 男性は望緒が絶対に会いたくない人間だった。彼は、望緒の弟であり、両親が愛してやまない人物。自分とは正反対の、優秀な弟。

 

「あんたって、可哀想だよね」

 

「っ」

 

 それは昔、一度だけ彼に言われた言葉。

 望緒はそれを思い出し、過呼吸になる。

 

「俺が生まれたせいで、お前は愛されなくなったんだから」

 

 冷たく言い放つ。望緒は耳を塞ぐが、弟の言葉が頭の中で反芻し、離れてはくれない。

 

 彼女の呼吸はだんだんと早くなっていく。そして、その中で母親に言われた言葉も思い出した。

 

 ––––あんたなんか、生まなきゃ良かった

 

 

「っ!」

 

 望緒はそこでバッと飛び起きた。冷や汗がすごい。

 

 呼吸を整えながら周りを見ると、そこは真っ白な空間。先程の空間よりも居心地が良い。ここは八下の精神世界だ。

 

「起きた?」

 

 後ろを見ると、そこには心配そうな顔をした八下が座っていた。

 

「……うん、起きた」

 

「なんか(うな)されてたから起こしたけど、全然起きてくんねえからさ」

 

「ごめん…………」

 

 望緒が力なく謝ると、八下は右手を彼女の頭の上に優しく置いた。

 

()な夢見た?」

 

「見た」

 

「怖かった?」

 

「……怖かった」

 

 そう言うと、八下は望緒の頭を優しく撫でた。彼女の目に、涙がじんわりと滲む。

 

 一番見たくない夢を、最近は見ている。優しい環境下に置かれたから、余計につらく感じるのだ。

 

「––––なんで呼んだの?」

 

「ん、ああ、この前の続き話そうかと思って。でも、もう少しあとでもいいか?」

 

「……うん」

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