神は巫女の頭に宿る   作:榊 雅樂

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十七話 今まで通り

 翌日、昨夜は八下に呼ばれることはなく、いつもよりぐっすり眠ることができた。

 

 ––––なんか最近、飛希に避けられてる気がする……!

 

 朝一番にそう思った。

 

 しかし、避けられているというのは割と事実で、話しかけても軽く話したらすぐにどこかに行ってしまうし、何なら話しかけたらびっくりされてしまう。

 

 他にも、笑顔がぎこちなかったり、目をなかなか合わせてくれないなどなど……避けているであろう行動がいくつもある。

 

「何かしたかな」

 

 腕を組んで考えてみるものの、これといったことは特に思い浮かばなかった。

 

「うん、何もしてない!」

 

 大きめの独り言を言ったところで、望緒はもう一度考える。

 

「本人に聞きに行くか!」

 

 食事の時間になる前に聞きに行こうと、急ぎ足で布団を片付け、巫女服に着替える。

 できるだけ足音を立てずに飛希の部屋へ行く。

 

 部屋の前まで行くと、望緒は声をかける。返事があったので入ると、飛希はちょうど着替え終わったとこだったようだ。

 

「どうしたの?」

 

「……」

 

 なんと言うべきか迷う。

 

 ––––遠回しに言ったところでなあ。

 

「単刀直入に聞くけど、避けてるよね?」

 

「えっ」

 

 急にそう言われた彼の額には冷や汗が流れる。反応的には図星なのだろう。

 

「いや、そんなこと……」

 

 しかし、目を逸らしながら否定する。望緒がじっと見つめると、冷や汗の量が徐々に増えていく。

 

 しばらく見つめられたあと、観念したかのように小さくため息をつき、望緒の目をしっかりと見る。

 

「ごめん、避けてる」

 

「……なんで?」

 

「……」

 

 彼女が訊くと、飛希はまた黙り込んでしまった。

 

 だが、望緒にとっては説明されなければ何もわからない。だから、ちゃんと説明してほしいと考えている。

 

「ちゃんと説明するから、帰ってきてからでもいい、かな?」

 

 飛希は申し訳なさそうに手をモジモジさせながら言った。しっかり、目を合わせて。

 その感じで嘘とは思えなかったため、望緒は素直に承諾した。

 

「忘れないでね」

 

「うん」

 

 

「……まじで説明すんの?」

 

「うん、する。それで気持ち悪いとか思われちゃったら、その時は……まあ、色々考えるかな」

 

 寂しげな表情をする飛希に対し、爽玖はムスッとした表情をしている。

 

「もし仮に望緒がそんなことを言うようなやつなら、俺が意地でも引き剥がす」

 

「……うん」

 

 

 夜、帰ってきた望緒たちは、ぎこちないまま食事を済ませた。

 風呂に入る前に、飛希から呼び出しがあり、望緒は彼の部屋へ行った。

 

 襖に手をかけ、部屋に入り、飛希の正面に座った。

 

 座ったものの、どちらもなかなか言葉を発さない。それも無理はない。

 

 ––––なんて話そう……!

 

 ––––沈黙つらっ、でも私から聞いたら催促してるみたいになるし……!

 

 ご覧の通り、二人は話そうにも話せない状態だった。心臓がうるさく跳ねている。

 

 飛希は小さく呼吸を整えて、口を開いた。

 

「えっと、何から聞きたい……?」

 

「何から……?」

 

 飛希から問われると、彼女は顎に手を当て、少し考える。

 

「じゃあ、お面をつけてる理由から」

 

 そう言うと、飛希はわかったと頷いた。

 

「僕の目は、“ある理由”で他人に見せちゃいけないんだ」

 

「どうして?」

 

「この目を見た人は、精神がおかしくなっちゃうみたいでさ。昔何人かに見られたんだけど、全員気がおかしくなったんだ」

 

 見られてはいけない目は、望緒が霊力が集約される前に見た、あの赤い瞳のことだろう。

 

 重い話だと承知していたものの、やはり実際に聞くとなんと反応していいかわからなくなる。望緒は何も言わず、ただただ話を聞いている。

 

「それで、そうなっちゃった理由なんだけど、小さい頃に一人で森の中に入っちゃってね。そこは野生動物が出るから行くなって言われてたんだけど、好奇心で行っちゃったんだ」

 

 先程から飛希は、下を向きながら話している。望緒が部屋に入ってきてから一度も、彼女の目も顔も見ることは無かった。

 

「そこでね、小さな“念”を見つけたんだ。人魂みたいな形をしてたから、どうせ弱いだろうって思って、無視して森を歩いてた。そしたら、急にその“念”がこっちに飛びついてきた」

 

「……」

 

「飛びついてきた場所っていうのが、今お面で隠しているこの左目だよ。“念”がようやく離れてくれたと思ったら、この有様だ。自業自得なんだよ」

 

「……」

 

 飛希が話し終わっても、望緒は何も言わないでいる。いや、言えないという方が正しいだろうか。

 

 自分もつらい思いをしてきた自信はあれど、それはいっても自分が苦しむだけ。彼のように、思ってもいないところで人を傷つけるようなことは、さすがに無かった。

 

 自分が経験してもいないことに、無責任な言葉は投げかけられない。それは逆に、苦しんでいる者を、余計に苦しませることになる。

 

「……なんて言うかさ」

 

 望緒が言葉を発すると、飛希はビクッと反応した。

 

「重いね」

 

「……え、あ、うん?」

 

 サラッといった物言いに、飛希は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

 

「いやあ、重すぎて何て声かけたらいいかわかんない。何て声かけたらいい?」

 

「……はは、それ、本人に聞いちゃダメでしょ」

 

 今まで強ばっていた飛希の顔が、やっと緩み、口角が上がる。それに対し、望緒は自信満々の笑みを浮かべている。

 

「でも、そうだなあ。かけてほしい言葉とかは無いけど、今まで通り接してほしい」

 

「! もちろん」

 

 

 飛希の部屋の前で、真澄たちがこっそり話を聞いていた。二人は嬉しそうな、穏やかな笑みを浮かべていた。

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