「ええ!? 望緒ちゃんがいないって、どういうこと!?」
飛希は両親を起こし、事の
「なんだ、どうした?」
「あ、爺ちゃん……。実は、望緒がいなくなって……」
「なんだと! ––––とにかく、この周辺と神社付近を調べてみよう。仕方がないが、風宮にも頼むか……。協力するかはわからぬが……」
◇
「いた……!?」
「いないよ」
真澄が小走りで駆け寄り、飛希に確認するが、やはり向こうでも見つからないようだった。
「こちらにもいませんでした」
真澄より後に戻ってきたのは、藤花と日向。今は風宮の神社に集まり、望緒がいたかいなかったかの確認を取り合っている。
ただし、それをよく思わない者もいる。
「まったく……なぜ我々まで探さねばならぬのだ」
風宮の当主だ。
こんなことを言っているが、一度も探す素振りすら見せていない。仁王立ちで腕を組んで立っているだけ。
「また、あのジジイは……!」
日向はバレないように小さな声で怒りを顕にした。もはや日常茶飯事ではあるのだが、それでも怒りが込み上げてこないわけではない。
藤花も隣で、ムスッとした表情をしていた。
「どこに行ったんだろう……」
飛希はそんな二人の隣で、ずっと望緒のことだけを考えていた。ブツブツと何かを言っている。よく聞いてみると、それは恐らく望緒が行きそうな場所であった。
あらかた検討はついているのだろうか。しかし、全て探しているのでは時間がかかりすぎてしまう。その間に彼女に何かあっては、と考えていると、なかなか行動できない。
だが、このまま何もせずここにいる、それも良くないことである。
「この周辺にはいないってことよね。もう少し遠くを探してみましょうか?」
「こんな暗い中じゃ、少し危険かもしれないけど……」
「そんなことも言ってられんだろう。とにかく、望緒が行きそうな場所をもう一度––––」
「ええい、腹立たしい」
そう言ったのは、風宮の当主。その表情と声色は、明らかに怒りを含んでいた。彼の言葉に、全員が振り返る。
「はた迷惑だ。外の者のくせに四家の巫女になり、この清浄の地に足を踏み入れた。挙句の果てには逃げ出して周りに迷惑をかけるなど、ありえないだろう。なんなのだ、貴様らの巫女は。貴様らのせいで寝てられやしない」
一瞬、周りが静まり返る。すぐに何かを言えず、固まっているのだ。そして、雄太郎がハッと我に返り、何かを言おうとしたその瞬間。
「うるさい黙って!」
またも、周りは静まり返った。というより、驚いていた。なぜなら、大きな声でそう言ったのは、他の誰でもない、藤花だったのだから。
普段の彼女は大人しく、誰かに何を言われても、何も言い返さない。笑って誤魔化すだけ。しかし、今は生まれて初めて誰かに叫んだ。しかもその相手は、自身の家系の当主。基本逆らえない相手だ。
「ふ、藤花……?」
風宮の当主は、普段なら何も言わない自分のお気に入りが、言い返してきたことによって、困惑している様子であった。
「そうかもね、こんな夜に起こされるのは迷惑かもね。でも、私は別に迷惑だとは思ってない。だってお爺様みたいに望緒さんのこと疎ましいだなんて思ってないもの! というより、こうさせたのはお爺様が原因じゃないの?」
「何?」
「だってそうでしょう? 何回彼女に酷い言葉をかけましたか? その度に苦しそうな顔をしていたのを、あなたは知っていたのに! 私だって、望緒さんが苦しんでいることを知っていたのに、何もしてあげられませんでしたが……そもそも、お爺様があんなことを言わなければ、彼女が苦しむことも無かったのではないんですか?」
藤花の言葉に、風宮の当主は何も答えなかった。ただ黙っている。周りの人間も、誰も何も言わない。言えない。
沈黙だけが流れていたそんな時、風宮の当主の傍に一体の“念”が近寄る。彼はすぐさまそれに気づき、右腕を左から右へと素早く動かし、風で“念”を薙ぎ払った。
「なんだこんな時に……」
そんな様子を見ていた飛希にある一つの疑問が浮かび上がった。
––––紫色の……“念”?
通常、“念”は灰色だ。それは、強くなっても同じ。変わったとしても、黒が多い。先程の“念”も黒く見えたが、それは初めの方だけで、実際に見えたのは紫色。そんな“念”は今まで現れたケースはなかった。
「なんだ……なんの……。まさか……!」
飛希は後ろへ振り返り、全力で走り出した。急な様子に、その場にいた全員が驚いている。
「飛希!?」
「……! 日向、行こう!」
そう言って藤花は飛希の後ろに続いて走って行く。日向もそれに続こうとした瞬間、風宮の当主に呼び止められた。
「日向、お前まで……!」
「……藤花が言い返したからっていう訳じゃないけど、僕は僕の正しいと思ったことをします。では」
それだけ言い残して、日向は長い階段を走って降りて行った。
◇
飛希は迷わず走って行く。もう望緒がどこにいるのかがわかっているかのように、どんどんと突き進む。時折、邪魔そうに面を触っているが、立ち止まることは一切ない、
藤花と日向も全力で彼に続く。ただ、差が開いていた。飛希よりも遅く出たというのもあるだろうが、それよりも、彼はがむしゃらに走っているからだろう。
望緒を早く見つけたい一心で、ただ走り続けている。
「ねえ、飛希さん、どんどん走っていくけど、場所わかったのかな? あんなに至るところ探したのに」
「さあね。でも、この感じだとわかっていそう。ただまあ、僕らもちゃんと追いつかないと、迷う羽目になるよ」
「うん……!」
––––ねえ、望緒。どうしていなくなったの? 何か思うところがあったの? 僕の見当違いじゃなければ、あの“念”は望緒のものだ。
先程の“念”が風宮の当主に切られた一瞬、望緒の気配がした気がする。どこか悲しんでいるような、つらそうな、そんな気配。
––––こんなに遠くに行っちゃうなんて。でも、そうだよね。苦しんでるところなんて見られたくないよね。自分のせいで迷惑をかけてちゃっているんじゃないかって思ったら、消えたくなるよね。
一心不乱にそんなことを考えながら、望緒がいるはずの山の麓へたどり着いた。そこで一度立ち止まり、その山を見上げた。
かなりのスピードで走ったので、息が上がっている。
「行かないと……」
一言呟き、山をガサガサと音を立てながら登っていく。着いてきた二人も、それに続いて登って行った。