神は巫女の頭に宿る   作:榊 雅樂

57 / 59
五十七話 封じた者

 夜、望緒は布団に入り、昼間考えたことをもう一度考えてみる。

 望緒の予想が正しければ、八下を封印したのはあの火夜という人間。

 

「でも、それを確認するには八下に訊くしか方法は……」

 

 そう口にし、目を閉じかけた瞬間、一つの案が思い浮かんだ。

 

「闇戸に訊いてみる……?」

 

 案としてはナシではない。ただ、訊いたとて答えてくれるかは定かではない。あの時も話を中断させられたぐらいだ。もしかすると、答えてはくれないかもしれない。

 

 しかし、訊いてみないことには始まらない。出水に行く価値は十分にある。

 

「……飛希、もう寝ちゃったかな」

 

 真澄たちに言うと、ややこしくなってしまう。だから、爽玖と千夏がやったように、バレないように向こうに行ってしまう。それが最善策だと思った。

 

 しかし、望緒は瞬間移動の方法を知らない。飛希なら知っているかと考えたが、肝心の彼は寝てしまっているかもしれない。

 

「……行くだけ行ってみるか」

 

 望緒は布団から出て、暗い廊下を歩いて飛希の部屋へ行く。

 

 

 部屋の前へ着いた。蝋燭が付いている様子はない。これはもう寝てしまっているかもしれない。

 

 ––––とりあえず、呼んでみよう。

 

「飛希〜」

 

 望緒は普段より小さめの声で彼の名を呼ぶ。すると、意外なことに返事が聞こえてきた。

 襖を開けると、飛希は布団の上に座っている。布団を被っているから、寝るところだったのだろう。

 

「あ、ごめんね。寝るとこだった?」

 

「まあね。どうしたの? また寝れない?」

 

「ううん、そうじゃなくてね。ちょっと相談というか……」

 

 望緒が言うと、飛希は首を傾げる。

 

「相談?」

 

「うん。あのね、明日出水に行きたいの。できれば、真澄さんたちにバレずに……」

 

 話を聞いていた飛希はふふっと笑う。望緒はどこに笑う要素があったのかと不思議に思った。

 

「いや、ごめんね。今度は僕らが内緒で出水に行くのかと思って」

 

「あはは、たしかに」

 

「でも急にどうしたの?」

 

「あ、えっと……」

 

 千夏たちに会いたいからと嘘をついてしまおうか。その気がないのかと問われれば、そういうわけではないのだが、どこか八下のことを素直に言うのは気が引ける。

 

 しかし、飛希に嘘をつきたくもなかった。どうせ闇戸に訊くのなら、飛希もついてくるだろうし、もういっそ素直に言ってしまおうと彼女は考えた。

 

「あのね、闇戸に八下のことを訊きたいの」

 

「八下様のこと?」

 

「そう」

 

 望緒は風宮で見た文献のこと、それについて書かれていた文字と自分の見解、そして闇戸が過去に言っていた発言についてを、事細かに話した。

 

「なるほど。わかった、行こうか」

 

「え、ほんと? いいの?」

 

「うん、なにか解決の糸口が見つかるかもしれないなら、協力を惜しむ理由はないよ」

 

「ありがとう」

 

「じゃあ、明日はいつもよりはやく起きないとね。爽玖は毎朝龗ノ龍が祀られている祠に行くから、それを狙って行こうか」

 

「うん!」

 

 

 翌朝、望緒は予定通り、いつもより早い時間に起きる。寝ぼけながら布団を片付け、巫女服に着替える。髪も結い、部屋を出て静かに襖を閉める。

 

 すると、ちょうど飛希が彼女の元へ歩いてきた。

 

「おはよう、ちゃんと起きれたんだね」

 

 こう言っているということは、飛希は望緒を起こすつもりで来たのだろう。

 

「起きれる自信なかったんだけどね。起きれたよ」

 

「それは良かった。行こうか」

 

 そう言って飛希は自身の右手を差し伸べる。望緒は心臓が跳ねたのを感じながらもその手を取った。その瞬間、辺りの景色は大きく変わった。

 

 鬱蒼とした木々の中に立っていた。滝の音が聞こえてくるから、ここは出水の神社の敷地内なのだろう。

 

「あっちだね」

 

 飛希は望緒の手を繋いだまま、歩き始める。望緒は鼓動がはやいのを気取られまいと必死に抑えようとする。こんなことで照れている自分に嫌悪感を抱こうとするが、もはやそんなことも考えていられなさそうだ。

 

「あ、いた」

 

 飛希が呟いたのを聞いて、ようやっと意識が現実へ向く。見えたのは、爽玖が料理を運んで祠の方へ歩いていく姿だった。その姿は随分と神職らしい。

 周りをキョロキョロと確認するが、爽玖意外の姿は特に見えなかった。

 

「よし、行こう」

 

 飛希の合図を皮切りに、二人は足音を忍ばせて爽玖の元へ行く。

 

「爽玖」

 

 名前を呼ばれると、爽玖はパッと後ろを振り返った。飛希と望緒の姿を見るなり、驚きの声を上げる。

 

「え!? 飛希に望緒!?」

 

「「しー!」」

 

 二人が同時に言うと、爽玖はあっと言う風に慌てて口を抑えた。

 

「それで、何の用なん? ただ会いに来た……ってわけじゃないやろ」

 

「よくわかったね。ちょっと八下のことで闇戸に聞きたいことがあるの」

 

「闇戸に?」

 

『なんだ』

 

 話していると、瀧の方から闇戸の声が聞こえてきた。どうやら、爽玖がこの神社にいる時は、ここから声が聞こえるらしい。どういう仕組みなのだろうか。

 

「前に闇戸が八下を封じたのは人間だって話したじゃん?」

 

『それがどうした。誰かは答えんぞ』

 

「あのさ、その人火に夜って書いた名前だったりする?」

 

『……!』

 

 何も言葉には発さなかったが、なんとなく空気でわかる。これは図星だ。望緒は気にすることなく話を続ける。

 

「風宮の神社で文献を見たの。漢文だったから全部はわかんなかったけど、文脈的に、火夜(それ)が名前なんじゃないかって……」

 

 隣で話を聞いていた爽玖も目を見開いた。まさかそんなことを知ったとは思ってもみなかったからだ。

 

 闇戸はしばし黙った末、一つため息をついて話し出す。

 

『そのことを八下には』

 

「まだ話してないよ」

 

 するとまた一つため息をついてみせる。

 

『それは火夜(かや)と読む。察しの通り、八下を封じた人間だ。……子供だがな』

 

 子ども、その単語を聞いて三人は驚いた。

 

「まっ、て、どういうことや? 子どもって、子どもが神を封じれるとでも言うんか?」

 

 先に口を出したのは爽玖だった。望緒もまさか子供だとは思っていなかった。神を封じたのだ。まだ未熟であるはずの子供が。

 

『我もまさかあんな稚児に封じられるとは思っていなかったさ。ましてや一人でなど』

 

「……何があったの。その時に」

 

『八下から聞け』

 

「話してくれないんだもん」

 

『……』

 

 闇戸は何も言ってくれない。これは断固として答えてくれないということだろう。望緒はしゅんとした顔で俯くが、すぐに顔を上げて彼に質問をする。

 

「なら、これだけ教えて。その火夜って何者なの?」

 

『四家に生まれた子供さ––––風と火のな』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。