神は巫女の頭に宿る   作:榊 雅樂

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六十七話 僕の気持ち

「––––そう。だから、もし八下がいいんなら、とりあえず過去に何があったかってことだけは、話しておきたいなって思って」

 

『そっか、そうだな。……でも、俺が戻りたくないって言ってるって他の奴に言ったところで、お前が事実を言ってるかわかんないってなるぞ? そうなると、また嫌味を言われるかも……』

 

「う、それは……たしかに」

 

 望緒は今、他の者たちにも八下と火夜の過去を話しておくべきではないかということを、本人に相談中だ。

 

「やっぱ、風宮が大きな壁だよね……。闇戸は八下バカだから、割とどうとでもなるんだけど……」

 

『八下バカってなんだよ』

 

「望緒ー」

 

 そんな話をしていると、部屋の外から飛希が声をかけてきた。もう神社へ行く時間なのだろう。

 

「あ、ごめん。呼ばれちゃったから、もう行くね」

 

『わかった。まあ、俺も、戻るか戻らないかはちゃんと考えておくよ』

 

「……無理しないでね」

 

『わかってるって』

 

◇

 

「はあ、肩痛いわあ」

 

 雑務をしていた真澄は、筆を置いて自身の肩をトントンと叩いた。その様子を、飛希が後ろから見ている。

 

「なに、肩こり?」

 

「そうなのよ〜。もう歳かしら?」

 

「四十肩……」

 

 飛希がボソッと呟くと、真澄は彼の頬を思い切りつねった。

 

「いだだだ」

 

「誰が四十のおばさんですって?」

 

「誰もそんなこと言ってないじゃん! っていうか、『もう歳か』なんて言ったのは、母さんでしょ!」

 

 彼の発言に、真澄はキョトンとした顔をして、頬をつねっていた手をパッと離した。飛希は反動で少々よろける。

 

「それもそっか。あ、そうだ、望緒ちゃんと話すの、楽しい?」

 

 唐突な質問に、飛希は目を何度か瞬く。最近、望緒と飛希は仕事終わり、夜に話すことが日課になっている。それを提案したのは、真澄だった。

 彼女なりの気遣いだろう。望緒が息子に好意を抱いてると知ってからだから。

 

「うん、楽しいよ。でも、なんで急に『話してみたら』なんて言ってきたのさ」

 

「だって、もう望緒ちゃんも家族なんだから」

 

「––––母さんさ、気づいてるでしょ」

 

「ん〜? 何に〜?」

 

「ぼ、僕の気持ち……」

 

 飛希は顔を赤らめてそう言った。語尾がだんだんと、自信なさげに小さくなっていく。それを見て、真澄はニマニマと笑っている。

 

「母親の勘を舐めちゃダメよ? わかりやすいったらないわぁ」

 

「そんなにかな……」

 

「まあでも、望緒ちゃんは気づいてないと思うわ。母さんが気づきすぎなだけかも、なんて」

 

 真澄はくすくすと笑うが、飛希はどこか不服そうだった。自分の気持ちが母親に見透かされているのだから、無理もないかもしれないが。

 

「でも、僕、一回望緒に“妹みたい”なんて言っちゃって……」

 

 照れ隠しというよりは、望緒のように自分の気持ちを抑えるために言った。向こうにどう思われているかなんてわからない、家族のように思われていたときの為に、保険としてあんなことを言ってしまった。

 

 真澄はそれを聞いて、「まあ」と口にした。

 

「なら、もしも望緒ちゃんが飛希に好意を抱いていたとしたら、その言葉で気持ち抑えちゃってるかもしれないわね」

 

 望緒が好意を抱いていることは、あえて言わない。飛希が『妹みたい』などと言ったのなら、尚更。

 ここで彼女も自分を好いていると言って、彼に安心材料を与える必要はない。むしろ、そんなややこしいことを言ってしまったのなら、当人同士で解決してもらう他ない。

 

「僕はなんてことを……。勢いでほっぺなんか触っちゃって……」

 

「やだー、大胆! さすが母さんの息子ね♡ 詳しく聞きたいわ〜」

 

「絶対やだね!」

 

◇

 

 仕事終わり、望緒は家で八下と話をしている。過去を聞くまでのぎこちなさは、もう無くなっていた。

 

「今日も雷久保で“念”が出たんだよね。やっぱり、八下がいないから、空間が乱れてるとかそういうことなのかな。あ、でもだからといって、八下に戻ってきてって言うつもりはなくて……! あ、でもこれ言うと反対に……?」

 

『慌ただしいな、お前』

 

 八下はクスクスと笑いながら言う。

 

『別に、戻ってきてって(そう)言うつもりがないことがわからないぐらい、俺は落ちぶれてないよ』

 

 その言葉を聞いて、望緒は安堵のため息を漏らす。

 

「……今思ったんだけどさ、火夜って子ども––––男の子だったんだよね?」

 

『ん、ああ。そうだよ。それがどうかしたか?』

 

「いや、私が風宮で炎に包まれる前、後ろから男の子の声がしたの。あと、夢の中でも」

 

『え、それどういう––––』

 

「望緒ちゃん?」

 

 八下が言いかけると、望緒の後ろから声が聞こえてきた。振り向くとそこにいたのは、徳彦だった。彼は怪訝そうに彼女の方を見つめていた。

 

「や、徳彦さん」

 

「ごめんね、何度か声かけたんだけど、返事が無かったから……」

 

 襖を開けた、ということだろう。そのまま徳彦は続ける。

 

「聞き耳を立てるつもりはなかったんだけど、聞こえてきちゃってね……。望緒ちゃん、一体誰と話してたの?」

 

 望緒は目を見開く。まさか、会話を聞かれていたとは思っていなかった。いや、望緒以外からすれば、彼女の独り言にしか聞こえないだろう。

 ただ、内容が聞こえていたら、話は別。どう考えても、独り言の内容と話し方ではない。

 

「あ、えと……」

 

 ––––ど、どど、どうしよう……!? 話した方がいいかなとかは考えてたけど、まさかこんな急に来るとは思わないじゃん……! 何を話したらいいの? そもそも、どこからどう話したらいいの……!?

 

『望緒、なんかあったか? あ、もしかして誰か来た? 会話内容聞かれた!?』

 

 ––––察しいいな、こいつ!?

 

 そんなことを思いながら、望緒は唾を飲み込み、覚悟を決める。

 

「あの、そのこと含めて、折り入って話があります……!」

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