神は巫女の頭に宿る   作:榊 雅樂

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六十八話 疑わない

「それで、話っていうのは?」

 

 部屋には徳彦の他に、飛希と真澄も集められていた。

 

「えっと……」

 

◇

 

『え、ほんとに言うの?』

 

 望緒は徳彦に話があると言ったあと、飛希にも話に行った。もちろん、彼は心底驚いた顔をしていた。

 

『うん、八下と話してるとこ聞かれたから、もうこれを機に言っちゃった方がいいと思って』

 

 望緒は、手をモジモジとさせながら続ける。

 

『本当は、もっとはやく言った方が良かったっていうのはわかってるんだけど、自信? がなくて……』

 

『……望緒と八下様がそれでいいって判断したなら、僕はいいと思うよ。大丈夫、隣にいるから、ね』

 

 いつも通りの彼の優しい笑みに、望緒は安心したように笑った。

 

◇

 

「し、信じてもらえるかはわかんないんですけど、私……その……」

 

 いざ言おうと思うと、なかなか言葉が出てこない。もし、冷たい目で見られたらどうしよう、疑われたらどうしようなどと考えてしまうと、思うように話すことができない。

 

 望緒は安心を求めてか、飛希の方をチラリと見る。飛希はその視線に気づくと、軽く微笑んだ。望緒はそれでどこかホッとし、全身に入っていた力が抜けるのを感じた。

 

「私、この空間の創造神と––––八下と話せるんです」

 

 しばし沈黙が走る。二人は、望緒が言ったことを処理しきれないでいる。

 

「ちょっ、と、待って。ごめんね、どういうこと?」

 

「え、あっと、そのままの意味……です。あの、出水に行ってから、八下の精神空間に呼ばれて、ちょっとしてからそっちに行かなくても話せるようになって、っていう感じで……」

 

 まるで夢のような話。飛希に初めて説明した時もそうだったが、すぐ理解してもらうのは、やはり難しいらしい。

 

 そこで、真澄が困惑した表情で、口を開いた。

 

「でも、八下様って生きてらっしゃるの? だって、四肢はバラバラで、頭部は未だに行方知らずなのに……」

 

「それは、八下が首を切られる前に、霊力で自分の首の切れ目を繋いだからって。じゃなきゃ、状態良く四肢や胴体が残ることなんて、ないと思います」

 

 望緒が言うと、徳彦が小さく「確かに」と呟いた。彼は定期的に、石火矢で祀られている胴体の状態を確かめるために、それが入っている桐箱を開ける。

 だから、状態良く残っているというのも、それだと合点が行くのだろう。

 

「あれ、待って。望緒ちゃんさっき、『首を切られる前に』って言ったよね?」

 

 徳彦に確認されると、望緒ははいと頷く。

 

「首を切られたって、誰に?」

 

「その説明は難しいというか……いや、説明するのはいいんですけど、どこから言ったらいいのか……」

 

「それでもいいよ。わかる範囲で答えてほしい」

 

 言われると、望緒は「わかりました」と言って、火夜について説明し始めた。

 

 まず、首を切ったのは火夜という、風と火の間に生まれた子であること。親族からも他の家からも疎まれていたこと。全てを恨み、八下を元凶だと考え、彼に襲いかかったこと。そして、彼の首を切ったことを伝えた。

 

 それは飛希も知らなかったをだから、飛希含めた三人は、呆気に取られたような表情をしていた。

 

「……それは、一度、四家で話し合ったかもしれないね」

 

 ––––やっぱ、そうなるかあ。

 

 全員の前で説明するのが嫌だというのもあるが、何よりも風宮の当主に会いたくないのだ。何を言われるかわからない。

 

「望緒ちゃんには少し苦かもしれないけど、それが本当なら、周知しておくべきだから」

 

「疑ったりは、しないんですか……?」

 

 望緒は恐る恐る聞いてみる。徳彦は真澄と目を合わせ、数回瞬きをして、また望緒に視線を戻した。

 

「望緒ちゃんが、意味の無い嘘を言う子じゃないと、わかってるからね。夢みたいなことだから、まだ少し理解しきれてはいないけど、疑っているなんてことはないから、安心して」

 

 そう言って、彼は望緒の想い人によく似た笑顔を向ける。望緒はそれを聞いて安心するが、それでも不安が完全に払拭しきれているわけではない。

 それでも、言わねばならないことだから。この空間の人々の為にも、八下の為にも。

 

◇

 

 望緒は自室に戻り、徳彦は他の三家に話し合いの時間が欲しいという旨を、手紙に書いている。部屋に残ったのは、飛希と真澄だけだ。

 

「飛希は知ってたの?」

 

「うん、出水にいた時から。……ごめんなさい、黙ってて」

 

 真澄はしばし黙るが、小さくため息をついて口を開いた。飛希は怒られるのではないかと、少々身構える。

 

「私は、あなたが正しい判断をしたと思うわ」

 

 予想外の返答に、飛希は小さく声が漏れる。

 

「望緒ちゃんが言おうとしてなかったのに、飛希が先に言っちゃったら、人としての信用ガタ落ちだもの。望緒ちゃんが話すまで待っていた、それは立派な判断だと、私は思う」

 

「あ、ありがとう……?」

 

 飛希は急に恥ずかしさが込み上げてきた。母親に褒められることは、いくつになっても慣れないものだ。

 

◇

 

「闇戸〜」

 

 爽玖は滝へと歩み寄り、龍神の名前を呼んだ。

 

『なんだ』

 

「望緒が、話すらしいで」

 

『何をだ』

 

「八下様のこと」

 

 爽玖が言っても、闇戸は何も反応しない。それは理解できないから、というわけでは無さそうだった。

 

「なんや、全然反応せんやん」

 

『いやなに、そろそろかと思っていたところだ。あいつは“火夜”の事を知った。八下もそれはどこかしらの機会で知ったはず。なら、もう話していてもおかしくはないからな』

 

 まるで、八下のことならなんでも知っているかのような口ぶり。しかし、実際にそうなのだろう。何年も一緒にいたのだから。

 

「俺さ、一個心配しとることあんねん。風宮の当主は、望緒を散々な目に合わせた。それは、日向君たちに咎められたらしいけど、それでも、あの長年染み付いた考え方が簡単に変わるとは思えん」

 

『……つまり、お前は何が言いたい?』

 

「何があっても、闇戸に望緒の味方をしてほしい」

 

『我がそんなこと、そう易々と受け入れるとでも?』

 

 闇戸の嫌味な物言いに、爽玖は一切動じない。

 

「そう言うとは思っとった。……風宮は四家の中で一番立場が大きい。現当主のあいつが認めんかったら、八下様がこっちに戻ってくることは、二度とないかもしれんぞ」

 

『ふん、脅しか。まあしかし、そうだな。その時の状況しだいだが、善処しよう』

 

 その言葉に、爽玖はフッと微笑む。

 

「助かる」

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