神は巫女の頭に宿る   作:榊 雅樂

7 / 19
七話 心配高じて

「望緒ちゃん、大丈夫!?」

 

 家に帰るなり、真澄が半泣きで望緒に飛びついた。彼女が大丈夫だと言っても、肩を掴んでブンブンと振り回す。そのせいで望緒は目を回した。

 

「落ち着いて」

 

 徳彦が(なだ)めてようやっと落ち着いてくれた。

 

「ごめんね、僕らがちゃんとついてれば良かったのに……」

 

「いや、簡単について行っちゃった私が悪いわけで……!」

 

 申し訳なさそうな表情をしている徳彦に、望緒は咄嗟(とっさ)に否定した。

 

 ––––あの時、大声で呼ぶことだってできたはずなのに……。

 

 望緒は何もしなかった自分に腹を立てる。あの時こうしていたら、ああしていたら、迷惑をかけずに済んだかもしれないのに、そんな風に思った。

 

 真澄と徳彦が心配そうに見つめるなか、ただ一人––––飛希だけが不服そうな表情をしていた。

 

 その日の夕ご飯は、いつも通り賑やかだが、どこか沈んだ空気になっていたのを、望緒はひしひしと感じた。

 

 

 望緒が一人部屋で静かに字の練習をしていると、襖の向こう側から飛希の声がする。

 

「入っていい?」

 

「うん、いいよ」

 

 彼女が許可を出すと、飛希が入ってきた。だが、いつものにこやかな表情ではなく、真剣な表情だ。

 

「今日のことだけど、なんでついて行ったの?」

 

「……何もできなかったから。大声で呼ぶことだってできたのに」

 

「そうだね」

 

 その言葉で一時会話は止まる。静寂の中、使用人が話しながら歩いていく音だけが聞こえる。

 

「––––僕はさ、望緒みたいに念について行って後悔したことがある」

 

「!」

 

「詳しいことは今は言えないけど、あの時の望緒と当時の自分を重ねて、あんな大きな声を出した。ごめんね」

 

 望緒は首をブンブンと横に振る。

 

「心配、してくれたんだよね?」

 

「うん」

 

「なら当然というか……私もあんなふうになっちゃうかもしれないし」

 

 そう言っても、飛希はいつもの微笑みを取り戻してくれない。だから望緒はもう一つ、自分の本心を伝える。

 

「あ、あとね、私、飛希が一番最初に駆けつけてきてくれたの、嬉しかったよ」

 

「! ……ふふ、なにそれ」

 

 飛希はようやっと笑ってくれた。

 

 場を和ませるために、その後は他愛もない話をした。先程の静寂とは一転、笑い声が部屋中に響き渡った。

 

 

「あ、真澄」

 

 別室で徳彦が真澄の名を呼ぶ。

 

「どうしたの?」

 

(ふみ)を出しておいてくれないかな」

 

 徳彦が言うと、真澄は机の引き出しから紙を取り出し、筆に墨をつけ、字を書き始める。

 

「ねえ」

 

 文を書いている真澄が、徳彦に話しかける。彼は彼女の近くまで行き、隣に座った。

 

「そろそろ望緒ちゃんも、村に行ってもいい頃だと思うのよね」

 

「たしかに、みんなに巫女ができたっていう報告も兼ねて、行ってもいいかもしれないね」

 

「お義父さんに確認してみましょ」

 

 真澄はワクワクした表情でそう言う。徳彦はそれに返事をして、彼の父に話をすべく、立ち上がって部屋を出た。

 

 

「望緒ちゃんっ」

 

 真澄が楽しそうに襖を開けた。

 

「わっ」

 

「ちょっと、母さん! 声くらいかけなよ」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 謝ってはいるものの、何も反省している様子は伺えない。

 

「ね、行かない?」

 

「? どこにですか?」

 

「村!」

 

「……村?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。