神は巫女の頭に宿る   作:榊 雅樂

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七十四話 可能性

「朝陽、お前がやれ」

 

 その発言を聞いて、朝陽は驚きの声をあげる。彼女は自分の耳を疑った。

 

「はあ!? 正気!? あたし、父さんみたいに雷を使って武器を作り出せる訳でもない、じいちゃんみたいに、空を穿つほどの雷を発生させられるわけでもない。そんなあたしに、あんな強い“念”をどうにかできるなんて、本気で思ってるの!?」

 

「思ってる」

 

「……!」

 

「アレは能力を使えないお前を舐めきっている。現に今も軽々投げられたしな」

 

 光雅の発言に、朝陽はバツが悪そうな表情をする。

 

「でも、アレの力は底が知れないもん……。あたし、そこまでの自信ないよ」

 

「お前は何のためにこれまで鍛錬を積んできたんだ」

 

 父親の言葉に、朝陽は顔をあげる。彼の表情は、呆れているわけでも、諦めを見出しているわけでもなかった。ただ単純に、彼女に問うているだけ。

 

「そりゃ、強くなりたかったからで……」

 

「そうだな。そしてお前は今、強くなった」

 

「いや、強くなった奴は簡単に吹っ飛ばされないって……」

 

「それも事実だ。しかし、お前は昔に比べたら遥かに強くなった。くだらないこだわりを捨て、ひたむきに努力を続けてきた。それは誰でもできるわけじゃない」

 

 朝陽は、光雅の言いたい意図が上手く掴めずに、首をかしげている。

 

「確かに、昔よりは強くなったよ。でも、だからってあの“念”に勝てるわけじゃない」

 

「俺は、お前には確かにあの“念”に勝てる力があると踏んでる」

 

「いやいやいや! お父さんたちの方が勝てるでしょ!? あたしが行ったところで、みんなに迷惑かけるだけだって!」

 

「アレは対処が早い。すぐに能力を理解して、それに対応できる。つまり、この戦いは能力で戦う奴の方が不利だ」

 

「そうかも……しれないけど……」

 

 彼女は強くなった。子どもの中では自分が最も強いという自覚もある。しかし、自分より格上であるはずの父でも勝てないような相手を、自分が倒せるとは思えなかった。

 

「自分より強い相手が勝てない敵を、自分が絶対に倒せないということはない。戦い方にはいくつも方法はある。今回は、それがお前向きだというだけだ」

 

「……」

 

「それに、さっきも言ったが、アイツはお前を完全に舐めきっている。純粋な攻撃の対処はそう簡単にはしない。いや、できないはずだ」

 

「……」

 

 朝陽は決断できないでいる。これでもしも自分たちが負ければ、村はどうなるだろう。他の村にも襲いかかり、滅ぼされるかもしれない。

 そんな最悪の事態を考えれば、決断するにできない。自分の判断で、皆の危機に繋がるのなら、できることなら戦いたくない。

 

 しかし、自分がここでやらなければ、誰がやるのだろうとも思うのだ。

 

 ––––望緒ちゃんは、自分で判断したんだよね。それで、あんな大きな結界を創ったんだよね。

 

「……ねえ、ばあちゃん、あたしのこと見てくれてるかな」

 

「……! 見てる。見てるさ。今だけじゃない、ずっと、見てくれているさ」

 

 その言葉で、朝陽はふっと微笑む。そして、俯いていた顔を上げ、日の輝くような瞳で、真っ直ぐ見据えた。

 

「あたし、やってみる」

 

◇

 

 “念”は今まさに、徳彦に襲いかかろうとしていた、その時––––

 

「うわっ」

 

 ヤツは朝陽の攻撃を受け止める。雷を纏った薙刀により、左腕が若干痺れるが、それはすぐに無くなる。朝陽の霊力量が少ないからじゃない。この“念”の対処が早すぎるだけ。

 

 彼女は少し悔しげな表情をするが、すぐに平静にもどる。

 

「お前弱いんだからさァ、そんなに立ち向かって大丈夫ゥ? 他の三人に任せたらァ? ま、すぐに殺すけどねェ」

 

 “念”はそう言うと、大口を開けて笑った。それに飛希はムッとした表情をするが、朝陽はできるだけそんな表情を浮かべないようにしている。

 足にグッと力を込めて前へ––––ではなく、後ろへ飛び退いた。その瞬間、光雅が飛び出し、雷の刀で斜め下から上へ“念”を切る。

 

 攻撃が入ると、徳彦も火の矢で応戦した。“念”の周りに無数の矢を出し、それをヤツへとぶつける。煙が舞い、数秒“念”の姿が見えなくなるが、すぐに煙は晴れた。

 

 しかし、“念”は倒れるどころか、ピンピンとしている上に、余裕そうにニヤニヤと笑っている。

 

「だからァ、効かないんだってェ。お前たちは、オレに勝てないのォ」

 

 “念”が呆れ気味に言うと、背中に悪寒が走る。後ろには、朝陽がいた。彼女は姿勢をできるだけ低く、もう既に薙刀を構えており、勢いのまま“念”の背中を斜めに切りつけた。

 

「いっ」

 

 “念”は思わぬ攻撃に、声が出る。すぐに体を捻って腕を振るうが、朝陽は瞬く間に姿を消した。

 ヤツはすぐに周りにいた飛希たちに攻撃を仕掛けようとしたが、それは飛希の炎によって遮られた。

 

 目の前にボウッと大きな火の玉が現れ、“念”は邪魔だと言わんばかりに移動しようとするが、それすらも火の玉によって遮られる。

 

「あーもう! 邪魔ァ!」

 

 ヤツは腕で火の玉を凪払おうとするが、すり抜けるだけで消えはしなかった。

 

「チッ」

 

 “念”は舌打ちをすると、左腕をバッと振るって伸ばした。着物の袖がひらりと揺れたその時、今いる“念”と全く同じ姿の“念”が現れた。

 正確に言えば、少し姿は違う。新しく現れた“念”は、灰色の肌で顔はない。まるで人形のようであった。

 

「は、何あれ––––」

 

 飛希が呆然と見ていると、新しく現れた“念”は、彼のすぐ目の前まで来ていた。“念”の拳が彼に当たりそうになるが、すんでのところで徳彦が炎の壁を作り、“念”の攻撃を防いだ。

 

 朝陽はそれを見て静かに驚く。そして、“念”の方を見る。ヤツは腹の立つ程に口角を上げて笑っていた。

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