神は巫女の頭に宿る   作:榊 雅樂

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第四章 ?
七十七話 来たる招集の日


 翌日、望緒たちは風宮の屋敷に集まっていた。屋敷に入ると、彼らの使用人が客間へと案内をしてくれる。

 襖を開けられると、望緒は座っていた風宮の当主と、バッチリ目が合ってしまった。彼女は気まずさから、咄嗟に目を逸らす。

 

 部屋には既に他の三家が集まっており、それぞれが家ごとに固まって座っていた。

 

 だが、当主が––––他の者全員が見ていたのは、望緒ではなく、その後ろにいる八下だ。皆、食い入るように彼のことを、ジッと見ている。

 

「こっち来い」

 

 爽玖が自身の隣を、ポンポンと叩く。飛希と望緒は言われるがまま、そこへ座り、それに続いて真澄たちも座った。

 

 彼らが座っても、視線は常に八下に向けられていた。

 誰も話さないでいると、風宮の当主が一つ咳払いをする。

 

「それで、今回は八下様の復活……ということで良いな」

 

「ああ」

 

「本当にそちらが八下様なのか」

 

「その髪色、瞳ともに、文献に書かれている通りですな」

 

 雄太郎の返事の後に、出水、雷久保もそれぞれ思うことを口にする。八下はどこか気まずそうにしている。どこか疑われているような、そんな空気があるから。

 

「……それで、なぜ望緒(きさま)が復活をさせられる?」

 

 そう言った風宮の当主の表情は、とてもじゃないが穏やかではない。不満が顔に出ている上、憤りのようなものさえ感じる。

 望緒はそのピリついた空気に、思わずしり込みした。

 

 しかし、ここで説明をしないわけにもいかない。他の者に任せるのもよろしくない、そんな気がする。

 

「あ、えっと……」

 

 緊張感で口ごもっていると、飛希が他の者に気取られぬように、軽く背中に手を当ててくれた。チラっと彼の方を見ると、軽く笑う。

 その横で、爽玖と千夏も応援の視線を向けてくれる。

 

 彼女はそれで少し緊張がほぐれ、より落ち着く為に、そして意気込みも兼ねて、息を一つ吐く。

 

「私は、出水に来た時から、八下と話すことができました」

 

 それを聞いた、事情を知らない者たちは、皆驚きの表情を浮かべる。

 風宮の当主は、さらに険しい顔をした。

 

「ならば、なぜその時に言わなかった」

 

「……言ったとしても、信じてもらえないと思ったので」

 

「勝手に判断して、勝手に言わなかったのか? 石火矢にも」

 

 そう言われると、望緒は少しばかり苦々しげな表情をするが、それもすぐに戻し、平静を保つ。

 

「怖かったんです。自分の言うことを否定されると思うと、余計に……嘘を言っていると思われたら、どうしようって。真澄さんたちが、そういうことを言う人達じゃないっていうのは、今となってはしっかり理解してます。でも、初めのうちはそうもいかなくて……」

 

「仮にあの時言われたとて、私は信じなかったと思う」

 

 彼女らが話していると、出水の当主が割って入る。彼は顎髭を触りながら、

 

「望緒さんは、向こうの空間から来た者だ。それ自体は何の問題もない。だが、それが神と話せると言ったら、少なくとも私は信じなかった。それは、皆様方も同じでは?」

 

 出水の当主の発言に、一同は何も言わない。否定も肯定もしない。これはつまり、そういうことだ。

 望緒はわかっていたが、実際に聞くと、心にくるものがある。が、自分の判断は、あながち間違いではなかったということは知れた。

 

「だがしかし、どうやって話せたので? つい最近まで、八下様のお身体はバラバラだったはず」

 

「それは俺から説明しよう」

 

 雷久保の当主の問いかけに答えたのは、八下本人だ。

 

「まず、望緒(こいつ)は特殊なんだ。向こうの神の血を引いてる……とか、そういう感じの。だから、俺が入れる隙があった。それを利用して、俺が自分の精神世界に、望緒を呼んだんだ」

 

「なんと……」

 

「その時に、まあ、雑談だとか、現世の状況だったりとかを、望緒から聞いてた。……闇戸のこともな」

 

 八下は爽玖の方を見ながら、ふっと微笑んだ。爽玖の中にいる闇戸が、それに返した、そんな気もする。

 

「では次に、なぜ八下様は四肢がバラバラになっていたのですか? それに、首は一体……」

 

「首に関しては、私の元いた空間にありました」

 

「どういうことだ?」

 

 彼らの疑問に、八下は暗い顔をして、話すのを渋っている様子だった。

 

「千年前、火と風の間に生まれた子どもに、四肢も首も切られてな。頭部は、そいつが向こうの空間に持って行った」

 

 八下が言うと、一気にザワザワとした雰囲気になる。当たり前だ。

 彼らは、四家同士では婚姻関係を結べない、そういう決まりの中で生きてきたのだから。

 

「火と風の間に生まれた子、とは、どういうことですかな?」

 

 雄太郎は、驚いているような、でもどこか冷静な口調で、八下に尋ねる。

 それに八下は、望緒にも話した、火夜の生い立ちとその後について、一から丁寧に説明をした。

 

 話を聞いた当主たちは、なんてことだと嘆くように頭を抱えた。

 

「まさかそんなことが……」

 

 口々に嘆いている中、爽玖が口を挟む。

 

「なあ、それ、望緒は知っとったん?」

 

「え、うん。私がそれを知って、八下に直接どういうことか聞いたから……」

 

「……望緒が知っとることを、なんで当主のあんたらが知らんの?」

 

 彼の言葉に、その場にいる者たちは黙り込む。そして、少し考えたあと、出水の当主が望緒に一つ質問を投げかける。

 

「望緒さん、それはどこで知った?」

 

「えっと……風宮の図書の間で……」

 

「待て、そんな本があるなんて、聞いたことがないぞ」

 

「僕も読んだことはないですね。そもそも、目にしたことすらあるかどうか……」

 

 風宮の当主に続き、日向もそう口にする。

 望緒はそれを聞いて、不思議に思う。確かに、あの本は辺(へん)鄙(ぴ)な場所にあったが、あれだけ赤い表紙ならば、いやでも目に着きそうなもの。

 だが、彼らは知らないという。

 

 どういうことかと思った望緒は、八下の方をチラッと見る。すると、彼女は目を見開いた。

 

 彼の顔色は、明らかに優れていなかった。だが、体調が悪いというわけでは無さそうだ。

 まるで何かに怯えているのではないか、とでも思えてしまう程、怖い顔をしていた。

 

「八下、大丈夫?」

 

「えっ、ああ……いや、大丈夫……」

 

 そうは言っているが、脚に乗せている手は、グッと力が入ったままだ。

 

 まさかそんなはずはない。そう思っているのは、一体誰だったか。

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