神は巫女の頭に宿る   作:榊 雅樂

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七十九話 遺骨

「「なかった!?」」

 

 戻ってきた子どもらは、揃って大きな声をあげた。

 

「ああ、戻って隅々まで探したが、一切そのようなものは無かった」

 

 風宮の者全員で探したようだが、望緒が見たという、赤い冊子の本はどこにも無かったらしい。

 風宮の当主は、彼女のことを疑うように見つめる。

 

「本当に見たのか?」

 

「ありました……あったはずなんです……」

 

 無かった、とはっきり言われてしまうと、自信がなくなる。あの時自分が見たものは、本当にこの世に存在していたのだろうか。

 

 しかし、実際に手に取った。紙の匂いも確かにしたはずだ。

 

「……八下様とのご意見と一致しているのなら、事実なのでは?」

 

 藤花は疑っている祖父に対して、意見する。彼は僅かに眉間に皺を寄せるが、すぐに平静に戻る。

 

「もし火夜という者が置き、また持って行ったのだとしても、それを証明する術はない」

 

 彼の言葉に、望緒は自身の腕を悔しそうに掴むことしかできなかった。

 

 そもそも、火夜は死んでいるのだ。本を置くことも、取ることもできるはずもない。誰も信じれなくて当然の話ではある。

 

「あ、ねえ! 祠! 祠は?」

 

 そんな時、朝陽がパッと思い出したかのように、口にした。視線は一気に彼女の方へ向けられる。

 

「火夜っていう子どもが殺されて、その子の死体が祠に入れられたんでしょ? だったら、そこに行ってみればいいんじゃない?」

 

「朝陽、別にそこに行ったって、このことが証明できるわけじゃ……」

 

「でもでも、行ってみる価値がないわけじゃなくない? 風宮のご当主もそう思うでしょ?」

 

 彼女は光雅の言葉を遮り、風宮の当主に賛同を求める。彼は特段表情を変えるわけでもなく、一つため息を着いただけ。

 

「……全員で行くわけにも行かぬな」

 

 彼が言うと、朝陽含めた子どもらの顔が、少しばかり明るくなる。

 

「望緒(外の者)は行くべきだな。言い出した朝陽(お前)も行け。他はどうする」

 

「僕も同行します。藤花には、できるだけ残っていてもらいたいけど……」

 

 日向が振り向くと、藤花は一つ頷いて、同意を示した。

 

「子どもだけでは危険だな。ワシも行こう」

 

 どうやら、雄太郎も着いてきてくれるようだ。一番怪しんでいた風宮の当主は、行く気が無さそうである。

 

 彼が一つ返事をしたところで、これまで招集の場では一切喋らなかった闇戸が、八下に問いかけた。

 

『八下はどうするのだ』

 

 彼が喋ることで、少々場がザワつくが、それもすぐに収まり、意識は八下へと向けられる。

 

「––––俺は……あまり……」

 

 行きたくない、ということだろう。苦々しい表情を浮かべながら、自身の腕をギュッと握っている。

 

 望緒はそれを察すると、

 

「なら、飛希とさっくんには残っててもらいたいかな」

 

 その提案に、二人ともすぐに頷いた。

 望緒は飛希の肩をちょいちょいと叩き、耳を貸すように言う。

 

「さっきの、八下を石火矢に招いてくれるって話、真澄さんたちに話しておいて」

 

「! わかった」

 

 そんな話をしていると、雄太郎が手を叩いて、

 

「よし、行くなら早いうちの方がいい。行くぞ」

 

◇

 

 八下に教えてもらった場所は、どこの家系の管轄下にもない山だ。祠のある位置は、それほど山頂ではないらしいが、麓付近にある訳でもないらしい。

 

 とりあえず、今は麓にたどり着いた。ここから、祠がある場所まで歩いていく。

 しかし、ここら辺は整備されておらず、つくらていたであろう山道は、すでに荒廃していた。

 

 草木は無造作に生え、とても歩きやすいと言える道ではない。

 

「歩きにくっ。二人とも、大丈夫?」

 

「一応……」

「なんとか……」

 

 とは言うものの、やはり歩きにくい。高低差が激しいため、脚が疲れる。岩場では、何度か日向や雄太郎に引き上げてもらっている。

 

 普段は元気な朝陽でさえ、疲れている様子だった。

 

「あれか?」

 

 なんとか歩いていると、突然雄太郎が立ち止まり、遠くにある物体を指さした。

 近寄ってみると、それは確かに木で出来た祠だった。

 

 とは言っても、それはもうボロボロで、苔も生え揃っている。雄太郎が恐る恐る扉を開いてみると、鼻を突く異臭が辺りに蔓延した。

 望緒はあまりの匂いに、鼻をつまむ。

 

「うえ、くさーい」

 

「カビの匂いですかね……。死臭とはまた違う臭さが……」

 

 朝陽と日向も、望緒と同様に鼻をつまんでいた。

 

「これ以上開けたくないな……」

 

 開けた張本人でさえ、この反応である。しかし、開けなければ中身を確認することができない。

 だから、彼らは嫌々ながらも祠の戸を全開にする。

 

 中にあったものを見て、その場にいた者たちは戦慄した。

 

「何これ……」

 

「……これが、匂いの原因だったか」

 

 祠の中にあったのは、ドロドロとした物体だった。

 

「え、これ何ですか?」

 

 朝陽が雄太郎に聞く。雄太郎は、僅かな時間黙り込むが、すぐに口を開いた。

 

「恐らく、火夜の骨だった物だろう。時間が経ちすぎて、骨すらも残っていないんだ」

 

 火夜が祠に入れられたのは、千年近くも前の話だ。あまりに昔のことすぎて、骨なんて残るはずも無い。

 

「……どうするんですか、これ」

 

 望緒が尋ねるが、雄太郎はすぐには答えない。これをどうするべきなのかを、考えているのだろう。

 

「とりあえず、このことを他の者たちにも伝えて、それから考えよう。ワシの一存ではどうすることもできん」

 

 言うと、彼はおもむろに立ち上がった。

 

「一度、向こうへ戻ってこのことを報告しよう」

 

◇

 

 四人は、戻って祠とその状況について説明した。反応はそれぞれ違う。口を抑えて言葉を失っている者や、険しい表情で考え込む者。

 

 風宮の当主は、一つ息を吐いて、

 

「祠が確認できたということは、火夜という者の話は、少なくとも嘘ではないということになるな」

 

「彼女が見たという本も、また探してみよう……か……」

 

 雷久保の当主の言葉が、そこで途切れる。彼は、何かに気づいたような表情をしていた。

 それは、彼だけではなく、他の当主たちも同じだった。––––そして、望緒と八下も。

 

 望緒は空気が変わるのを感じた。歪んでいる。何かがおかしい。

 

「––––結界……?」

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