不老不死なら寿命を削る禁術も無限に使えるんじゃね?   作:正義のヒーローA

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第一話「正義のヒーローになりたかった男」

 俺は子供の頃から正義のヒーローに憧れていた。

 正体を隠し、颯爽と困っている人を助け、颯爽と去っていく姿に心惹かれていた。

 

 いつからだろうか、正義のヒーローになりたいと思い始めたのは。

 

 何度も何度も学校にテロリストが襲いに来る妄想をしていた。

 俺は秘められた力を発揮し、そのテロリストを追い払い、クラスの女の子たちに感謝される。

 そんな妄想を何度も何度もした。

 

 仮○ライダーの変身ベルトも買い漁った。

 いつ選ばれても良いように、体術も必死に学んだ。

 

 しかし、結局のところ、正義のヒーローにはなれなかった。

 正義のヒーローを気取るには、少しばかり現代日本は平和すぎたのだ。

 

 そんな時だった。

 俺はトラックに轢かれ、異世界に転生することとなった。

 

 今度こそ正義のヒーローになれる。

 そう思った。

 

 トラック事故からの異世界転生。

 これはチート確定だろう。

 最強の力で、この過酷な異世界で、正義のヒーローになるのだ。

 

 ――そう思っていた。

 

「うわぁああああああああああああああああっ!!!」

 

 俺は叫びながら逃げ惑う。

 

 現在。

 Fランクの魔物、スライムに追い立てられ、逃げ惑っているところだった。

 

 転生してから約十年。今か今かと待ちわびていた初の魔物との戦闘。

 今までは両親からの許可が下りず、一切魔物との戦闘は行えなかったが、十歳にしてようやくその権利を得た。

 村からほど離れたところにある草原で、俺は意気揚々とスライムと向き合った。

 

 さあ、俺のチート能力よ!

 いますぐ覚醒しろ!

 

 短剣を構えてそうスライムと向き合った結果、今のところ一切覚醒の気配はなし。

 

「うんうん、うんうん。俺も十歳の時はそんな感じだったなぁ」

 

 見守っている父親が腕を組んでそう言う。

 

 ……アレ?

 俺のチート能力は?

 俺の最強最悪の邪王滅殺龍は?

 

 俺は短剣を構え、震える足を無理やり反転させ、スライムと向かい合った。

 

 シーーーーーーーーーン。

 

 どうやら駄目みたいです。

 

 ペシッ。

 

「うぎゃっ!」

 

 スライムの体当たりを食らい、俺は三メートルくらい吹き飛ばされる。

 

 痛い!

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

 

 左の手首が軽く捻挫したみたいだった。

 

 クッ……いや、痛いのは我慢できる。

 俺は正義のヒーローになるんだろ。

 これくらいの痛みで根を上げるわけには――。

 

「たぁっ!」

 

 その時、目の前でロングソードが振り下ろされ、スライムは真っ二つに引き裂かれた。

 

「おい、エル、大丈夫か?」

「……だ、大丈夫だ!」

 

 スライムを切り裂いたばかりのロングソードを肩に担ぎ、俺の方に近づいてきながら父は尋ねる。

 俺は強がって立ち上がると、頷いてそう答えた。

 

「そうか。ま、初日なんてこんなもんさ。ははっ、もしかして凄い才能が秘めてるとか、そんな期待してたか?」

「し、ししししし、してねぇし!」

「そんなこったろうと思ったよ。俺も昔はそうだったからな。だがな、現実ってのはいつも非情なもんなのさ。こんな小さな村の小さな農家の生まれがそんな都合良く凄い能力を秘めてることなんてあり得ないのさ」

 

 ……そうか、そうだよな。

 いや、分かっていた。

 薄々勘付いていた。

 俺に才能がないことくらい。

 

 でも……だからって……少しくらい正義のヒーローの夢を追ったって良いじゃないか。

 せっかく異世界に転生したんだからさぁ……。

 

 

   ***

 

 

 それから五年の年月が経過した。

 俺は村を離れ、帝都にやってきていた。

 

 それはいまだに正義のヒーローへの夢を諦め切れていないからだった。

 

「う~ん、禁術、禁術かぁ……」

 

 帝都中央図書館にて。

 俺はこっそり忍び込んだ禁書庫で禁術の本を読み漁っていた。

 

 十ゴールドも叩いて買った透明化の塗り薬。

 俺は今までEランク冒険者として貯めに貯めた貯金を使い果たして、その薬を闇市で購入した。

 本当に効果なんてあるのかどうか、半信半疑だったが、実際には大正解。

 完全に俺の身体はスケスケになり、俺は楽々門番の目を掻い潜って禁書庫に入ることが出来たのだった。

 

 これが十ゴールドで入手できたのは僥倖だった。

 効果の割に少し安すぎる気もするが、まあ安いに越したことはない。

 十ゴールドとは言え、すぐに売り切れててもおかしくないくらいの価値だと思う。

 ふひひ、いい買い物したぜ。

 

 ……そういえば、この薬、副作用があるとかなんとか言っていたが、何だったかな?

 薬の使い道で頭がいっぱいで、ちゃんと聞いてなかったぜ。

 まあどうせ、一週間腹痛が続く、とかくらいの副作用だろ、多分。

 それなら全然耐えられるな、うん。

 だって俺、これから正義のヒーローになる男だし。

 腹痛くらいで根を上げるほど、ヤワじゃないのだ。

 

「しかし、寿命を代償にする禁術かぁ……。もの凄く強力そうだけど、寿命を削るのは流石になぁ……」

 

 正義のヒーローをやりたいとは言え、流石に自ら寿命を削るのは違う気がする。

 俺が憧れるのは正義のヒーローであって、自殺志願者ではないのだ。

 

「ま、世の中、何があるか分からんし、一応メモだけしておくかぁ」

 

 俺は禁術の発動方法などをメモし、新たな禁術を求めて禁書庫を歩こうとして――。

 

「そこにいるのは誰だ!!」

 

 怒鳴り声が聞こえてきた。

 

 ……あっ。

 やべっ。

 透明化の薬の効果が切れかけているみたいだった。

 

 にっ、逃げなきゃ……!

 

 俺は必死に禁書庫から脱出し、今住んでいる帝都のぼろっちぃ集合住宅に戻ってきた。

 結局持ち帰れたのは寿命を削って使う禁術――〈絶死〉のみ。

 あーあ、また十ゴールド貯めて、透明化の薬を買うか……。

 今回の侵入捜査では何の成果も上げられませんでした。

 

 

   ***

 

 

「はぁ!? 本当にお前、あの薬使ったのかよ!」

 

 それから数ヶ月後。

 節約頑張って何とか十ゴールドを貯めた俺は、再び闇市に訪れていた。

 

 透明化の薬を売ってくれた露店商は、俺がもう一度透明化の薬を買いたいと伝えたら、大声を上げた。

 

「いや、使ったけど……」

「おめぇ、さては話聞いてなかっただろ!」

「話?」

「ああ、その薬の副作用についてだ! その薬、副作用で呪いを付与するって言っただろ!」

「え? そうなの?」

 

 俺が首を傾げると、露店商は呆れたように額に手を当てた。

 

「ああ、そうだ。とんでもねぇ呪いを付与しやがるんだ、その薬」

「えー、マジか」

「お前、事の重大さ分かってねぇだろ」

「まぁな」

「胸張っていうことじゃねぇ」

「で? その呪いってどんな呪いなんだ?」

 

 俺が尋ねると、露店商は顔を青ざめてブルブルと震えだした。

 

 ……あれ?

 そんなに恐ろしい呪いなの?

 マジかよ、クソッ、ちゃんと聞いておけば良かった。

 

 今になって後悔が襲ってくる。

 あー、ちくしょう。

 何であの時の俺、ちゃんと聞いておかなかったんだよ。

 俺のバカバカバカ!

 

「その呪いってのはな――」

「呪いってのは?」

「不老不死の呪いなんだよ」

「ふ、不老不死……!?」

 

 え、マジかよ!

 俺、死ねないし歳も取れないってのかよ!

 え、マジか!

 クソッ、マジかよ!

 

 俺は一気に顔面蒼白になる。

 血の気が一瞬にして引いていくのを感じ取った。

 

 こんなウォシュレットも風呂もまともにない異世界で、正義のヒーローにもなれず、永遠を暮らさなきゃならないって?

 

 絶望だ。

 終わった。

 この世の終わりだ。

 

 泣きたくなってきた。

 このままじゃあ、俺、何百年も何千年もただの凡人としてつまらない人生を歩まなきゃいけないことになる。

 それだけは嫌じゃ!

 

 死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい!

 って、死ねないんだった!

 てへっ。

 

 ……って、ん?

 死ねない?

 死なないって……?

 

 俺はその時、天啓が降りてきた。

 ズバババッ、って何かが脳内に舞い込んできた。

 

 死ねないなら、あの禁術、使()()()()()()()

 

 え、だって、俺の寿命言ってしまえば無限ってことでしょ?

 だったらいくら寿命を削る禁術使っても、俺の寿命は減ることはない。

 ということはつまり、禁術使い放題ってことじゃね?

 

 マジか!

 マジかマジかマジかマジかマジかマジか!

 

 やったぁ!

 これなら――これなら、正義のヒーローができる!

 

「ありがとうオッサン!」

「……はぁ?」

 

 俺が思わず露店商に感謝を告げると、頭おかしい人を見る目でこちらを見てきた。

 しかし構うものか。

 俺は今、ようやく正義のヒーローへの片道切符を手に入れたところなのだ!

 

「これで俺、正義のヒーローになれる!」

「はぁ……」

 

 露店商は呆れたような目を向けてきた。

 おそらく彼の脳内では「コイツ、理不尽な現実を直視できず、現実逃避を始めやがった」とか思っていることだろう。

 

 だが、そんなことはどうでもいい。

 そんなことよりも――。

 

 まずは人助けだ!

 早速人助けを行うぞ!

 

 ――って、そうだな。

 

「オッサン、これくれない?」

 

 俺が指さしたのはぼろっちぃ石仮面だった。

 

「まあ……良いけど……」

「ありがとう、オッサン! いくら!?」

「いいぜ。これくらい、タダでやる」

「え!? いいの!? マジ助かるわ、オッサン!」

 

 ――そう。

 俺がこれから使おうとしているのは禁術である。

 正体がバレるのはあまりよろしくないのではないかと考えたのだ。

 仮面○イダーのパクりとか、そんなんじゃ決してないからね!

 

 俺はオッサンから石仮面を受け取ると、駆け足で闇市を抜けていくのだった。

 

 さてさて、困っている人は何処にいるんだろうな!

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