俺たちゃ翔陽天空騎士隊~第二次サマイルナ大戦空戦記 作:クワ
まずは足の遅いランスフィッシュが先行して敵艦へ向かう。
「秋川隊、発艦よし」
艦からの通信が届き、発艦のため発動機の出力を上げる。
「秋川隊、発艦します」
周囲を見回し障害が無いことを確認する。
出力を上げても魚雷があるせいか、出だしが重い。
やっとノロノロ動き出したと思ったらそこからは特に問題なく速度が出てくれて、甲板終わりまで行くことなしにフッと浮き上がってくれた。
浮遊空母は水上空母と違って、一定の速度さえ出ていれば多少甲板を過ぎてしまっても空の上のためどうにかなってしまうのはそうなのだが、やはり甲板上で飛び立ちたいという気持ちは気分的なものだが皆持っている。
ゆっくりとクィーンエレインの周りをらせん状に上昇し始める。
予定高度に到達し、味方の偵察騎の先導で敵空母へ針路をとる。
空は昨日の嵐が嘘のように雲一つない青空が広がり、逆に雷撃隊としては敵に発見されやすいのではと複雑な思いが湧いてきた。
直掩隊の青電隊やサイクロン隊にホウキを小刻みに振って別れを告げた。
(お互い武運あらんことを)
高度は約四〇〇。魚雷は重く、いざ高度を上げたいとなってもそう簡単に上げられないため、高度を当初の予定より高めに設定しておくことにした。
飛行時間の問題で足の長い青電隊は先のランスフィッシュ隊に付き、こちらには足の短いスプライトディーバ隊やサイクロン隊が護衛についている。
計算上は、敵艦隊の少し手前で合流できる予定となる。
「中尉、敵艦到着まで三十分程ですよね」
ダリーの心配そうな通信が入る。
「ああ、計算上はその位だ。大丈夫、偵察騎が先導してくれている」
(即席の訓練で命中させられるのかどうも自信が持てないが、こうなったからには当てるしかない)
自分にそう言い聞かせ飛行していると、ミアに緊張が伝わったのだろうか、先ほどとは逆に、後ろ手で背中をポンポンと撫でるように叩いてきた。
大丈夫と言わんばかりに優しく叩き返す。
左右の僚騎を見やると、ダリーは表情が硬く、余裕なさげについてきている。
スカーレットは――夏子とケンカをしているようだ。
その後ろに他の暁星隊が三小隊・九騎ほど続いている。
今回は
前方に目を向けると、一〇〇mほど高い位置にノワルド隊のスプライトディ―バ一二騎ほどが見え、これより遥か高い位置に爆装の暁星十二騎ほどがサイクロンの護衛と共に飛んでいる。
「総員、もうすでに敵の魔探に発見される位置まで来た。迎撃準備を忘れないよう」
通信で各騎に通達をし、敵騎来襲に備え蓄魔石から自分の魔力に切り替えた。
この空域まで来ると雲が騎の下にもわもわと浮かんでおり、太陽光を弾き返してひと際白く感じられた。
ミアは魔銃の試射を行っており、結果を知らせてくれた。
速度は一二〇。後一〇分も飛べば、ランスフィッシュに追いつくだろう。
「?」
前方から僅かながらチカチカと何かが光っているのに気付いた。
ノワルド隊も光に気が付いたのか、切り離された増魔石が落下していく。
ランスフィッシュ隊の無事を祈りつつ、敵の襲撃に備えてより密集させるように合図を上げた。
黒い影が横切ったと気付いた瞬間、上空より敵騎の魔銃が降り注ぐ。
「暁星隊密集急げ。敵機来るぞ」
各騎の複座から魔銃が一斉に火を噴く。
ミアがその小さな体に見合わないような大きな叫び声を上げながら必死に魔銃を放ち、また次の騎が降ってくるとまた放ち、必死に戦っているのが背中越しに伝わる。
その魔銃に当たったのか、目の前を敵騎が血を噴いて落下してゆく。
(それにしてもこの母鳥が卵を抱えているような、回避せずに敵に攻撃されるがままというのはかなり辛いものがあるなぁ)
ランスフィッシュ隊が視野にハッキリと捉えられる距離に近づくと少なからず被害が出ていることが隊の乱れから見て取れた。
「ふふん、こんなところよ」
ベアトリクスの勝ち誇った通信とともに、一騎敵が落ちてゆく。
ランスフィッシュ隊と合流し、今度は速度の速いこちらが追い抜かす形で先行することになる。
追い抜きざまに確認すると、三〇騎ほどいたランスフィッシュ隊は激しい戦闘のためか二〇騎ほどに減っており、入れ替わる際に安堵の表情を浮かべているのが見て取れた。
味方騎の射撃を見ていると、襲い掛かってくる敵にカラフルな魔銃の軌道が向かっていき、交錯しそうになると敵騎がスルリと逃れていって、かなり見ていてもどかしい。
前に目を移すと、小さいながらも敵浮遊空母を目視で捉えることのできる位置まで近づいているのに気が付いた。
護衛艦が空母の周りに四隻見える。
敵騎もこちらを近づけさせまいと一段と攻撃が激しくなってきた。
――こちら、クィーンエレイン。敵の部隊の攻撃を受けつつあり――
(どうやらお互い同時期に発見しあったらしい)
「無事だといいのだが......」
ノワルドのつぶやきが通信に乗る。
敵艦がパッパッと点滅したのを皮切りに、魔銃の各門から無数の弾がこちらに向かって打ち出されてきた。
「水平になると旋回銃の命中率が上がる、角度をつけるぞ」
空母との水平状態を避けるために高度を少しばかり上げる。
味方の様子が気になり、振り返ると八騎ほどが続いている。
(三騎足りないか)
落ち込む間もなく再び敵騎が襲ってくる。
「こぉーのぉ、ババアがぁ、落ちろー」
ケイトの音割れした叫び声が通信より投げつけられた。
敵空母はすでに六・七mほどの大きさに見えている。
すぐ上で敵の銃口が光り、プスプスプスと壁を貫いている音が聞こえてきた。
撃った敵騎が、すぐ横をもの凄い速さで突き抜けていく。
マイバッハ・ベンセデスの発動機が確認できたことからFM一九九だろう。
プロイデンベルグ会心の騎体で、当時あらゆる国の戦闘騎を過去に追いやった名騎であり、その万能性から色々と派生型を誕生させている。
持っている情報では空母搭載は難しいはずだが改良型なのか無理に運用しているのかわからないが、直掩しているのは確かだ。
(当てるためにはもっと接近しないと)
眼下一杯まで空母が広がり、魚雷発射のために投下レバーを確認しゆるく握りしめる。
空母の魔銃から放たれる閃光はいよいよ近くこちらの周囲をかすめてゆく。
「
各騎が速度を上げ、横一線に並ぶ。
「魚雷投下――はじめ」
ガクっとした振動と共に、魚雷が水平に数メートル落下してゆく。
(点火してくれ! せっかくここまで持ってきたんだ)
祈る気持ちで後方下の魚雷に目をやる。
その願いが通じたのか、暁星のスピードに置いて行かれた魚雷は後部から勢いよく魔力を噴出し、海の暁星を瞬く間に追い越して敵艦へ突進してゆく。
「当たってくれよ」
そうつぶやくと敵艦との衝突を避けるために、騎を左に大きく切り速度を上げる。
魚雷の重さがなくなったおかげで、騎体の挙動は軽くなりスッと反応してくれる。
視界の端には僚騎が放った魚雷が進んでいるのが見えた。
「ひょあぁ――」
ミアが奇声を上げたすぐ後、ドカンという爆発音が眩しい光と共に広がった。
「ミア、当たったか?」
「すごいです、命中ですぅ」
興奮を抑えきれない声でミアに確認したところ、ミアも同じように興奮した声で返答してきた。
その後も複数回爆発音が響いた。
「全騎、体制を整え次第高度を上げランスフィッシュの支援を行う」
少し離れたところで周囲を確認し、
敵の空母を見ると、左舷からもうもうと煙を噴出しており、煙の出具合からかなり大きな穴が開いているのがわかった。
上昇している騎は俺を含めて七騎で、みな一様に興奮して顔を赤らめているのが見て取れる。
俺の隊は損害がなかったが、他の部隊の騎数が合わなくなったので、臨時に三騎を組ませて、残り一騎は秋川隊にについてくるよう指示をだした。
眼下では、ランスフィッシュ隊が魚雷を投下せんと空母に迫っている。
その周りでは、何としてもこれ以上は攻撃させまいとする敵騎とランスフィッシュをこれ以上落とされまいとする味方戦闘騎が激しく
「ランスフィッシュの支援に向かう」
通信で皆に伝えて方角をそちらに向けた瞬間、敵の高高度で待機していた直掩騎がランスフィッシュに向かって突進してきた。
おかげでがら空きになった空母の上空から暁星隊が急降下してきたのが視界に入る。
ドカン・ドカン。爆発音が幾度も響きわたり、甲板から真っ赤な炎が噴出した。
「おっと、ランスフィッシュを守らないと」
ダリー騎とスカーレット騎を組ませ、こちらは他隊の天空騎士と組む。
攻撃に移らんとしているF一九九数機を見つけ、背後に忍び寄る。
敵が攻撃するより少しばかり早く背後から魔銃を放った。
距離は遠かったが、敵の射撃体勢を妨害することはできた。
こちらの存在を知った敵は
またしばらくすると戻って来るので、同じように蹴散らし味方騎を保護する。
そのように他の戦闘騎と必死に守っている内に、ランスフィッシュ隊が魚雷を投下し始め、終わった順に
その
爆発音が至る所で起き、様子見に背後を振り返る。
護衛艦が二つに割れて落下していき、また空母も至る所から炎が噴き出していて、じりじりと高度を落としていく。
「これは落ちるだろう」
そのうち敵空母は雲下に沈み見えなくなった。
確証して前を向き、皆に指示をだしつつ魔力を蓄魔石から取るよう切り替えた。
みな攻撃の結果を見てか浮かれ気味で、帰りの足がいつもより早く多少の危うさを感じた。
「そういえば、クィーンエレインはどうなったのだろうか」
通信での続報が全くない。
「気になるよな。まあ、何かあったら連絡来ると思うのだが」
ノワルドがこちらの通信を拾って話しかけてきた。
「あまり考えたくないことだけど、こちらがこれだけの戦果を出したのだから、相手も同じくらいやっていてもおかしくないと思ってしまって」
悲観的になってしまう俺の言動が気に入らないのかベアトリクスが腹立ちまぎれに言葉をはさむ。
「いちいちウジウジうるさいのよ! それとも何、スチューザンの船に沈んでもらいたいわけ」
(俺のことが気に入らないのはわかってはいるが、逃げ場のない罵りほどつらいものがあるのだろうか)
「ベアトリクス、落ち着け。秋川はそこまで言ってないだろう」
ノワルドの言葉を受けて多少落ち着いたのか、深呼吸を行い押し黙った。
「いや、すまんな。コイツは悪い人間ではないのだが......な」
「そうですよ。ベアトリクスは頑張り屋さんで仲間思いの――」
「じゃあなんだい。ウチの隊長は仲間じゃないっていうのかい」
ノワルドとソフィアがフォローを入れるも話の途中スカーレットが割り込んできた」
「いや、そういうわけじゃ」
「ええそうよ、仲間じゃない。これで満足かしら?」
「その言い方はどうかと思いますよ」
再び怒り出すベアトリクスに今度はダリーが喰ってかかる。
「あーやめやめ、これでおしまい」
周囲がヒートアップしているおかげで怒りの感情より冷静さが勝っており、今の険悪な空気を終わらそうと、話をぶった切ってノワルドに「これ以上みんなで話すと余計に争うことになるから通信を切ろう」と提案するとノワルドは「OK、そうしよう」とお互いの僚騎に通信を切るように話した。