俺たちゃ翔陽天空騎士隊~第二次サマイルナ大戦空戦記   作:クワ

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撃墜王ヴァイツフォーヘンの孫娘

「敵爆撃騎侵入」

 

「隊長、先に行っていますよ」

 佐那が先頭を切って勢いよく駆け出した。

 

「おし、ミア行くぞ」

 駆け寄ってきたミアを抱っこして愛騎に向かう。

 騎付の整備員に軽く会釈しミアを後部座席に乗せると海も操縦席にまたがり、目視で点呼を始めた。

 

(みな、いるな)

 まず、海・ダリー組が発進し、スカーレット・佐那組がそれに続く。

 

 代り映えのしないベトンの地べたからふわっと浮くと、騎首を南東へ向けた。

(高度は道中で稼ごう)

 整備のおじさんが頑張ってくれたおかげなのか、発動機はいつも以上に機嫌よく歌を奏でている。

 

 続報が流れてくる。

(どうやらサウスプシャーが目標の様だ)

 

 サウスプシャーはかつて悲劇の豪華客船ファンタスティック号の出航した港であり、スプライトディーバの製造工場がある。

「全騎南へ。目標サウスプシャー」

「第一波FM一九九が五十とFM一九〇が五十それにHu一八八が一〇〇程来襲」

 無線より第一波の陣容が入って来る。

 

 FM一九〇は双発の戦闘爆撃機だが中途半端というのが敵味方双方の評価であり、またHu一八八は双発の軽爆撃騎だ。

「どうせFM一九九は魔力が持たないから一〇分もすればサヨナラさ」

「よし、早めに仕掛けるぜ」

「ああ、そうすれば町の上では真っ裸のプロイデンベルグの姉ちゃんを狩り放題だぜ」

 

 若い天空騎兵たちの戯言(ざれごと)のあと、しばらくして交戦の連絡が入った。

「なあ、おかしくないか」

「ああ、一九九が全然帰らねえ」

「どうなってやがる」

 迎撃している天空騎士の訝しむ声が入ってきた。

 

(空母がいるのか?)

 雷撃のため戻った方がよいのか、それとも進んだ方がいいのか。

 海は多少考えたものの戻るには距離を稼ぎすぎたことに気付き無線でダリーたちに話しかけた。

 

「先発迎撃隊の通信から空母がいる可能性が出てきたが、戻るには進みすぎたのでこのまま進軍する」

 周囲からは了解の声が伝わる。

 もうそろそろ目視できる範囲に入ろうかという段階でふと騎付(きつき)の魔探が反応していないことに気付いた。

 

 電源は入っている。

(故障したかな)

 それなりの重量があるので、故障は割に合わない。

 

 高度は七〇〇まで上げている。

 タカタカ。

 短い射撃音で顔を上げる。

 

 スカーレット騎の射撃の先では、敵味方入り乱れ戦闘を行っていた。

 先ほど情報のあった敵ではなく、CL一五七がゆったりと編隊を組んで飛んでいた。

「また、えらい骨とう品を持ってきたな」

 スカーレットの言う通り、双発騎のCL一五七は、大戦前からの騎種で、戦争が始まった時点ですでに陳腐化(ちんぷか)しており、直掩が見込めない戦いだと全滅に近い損害を出すのが常なので、夜間爆撃に比重(ひじゅう)を移して昼間は基本見かけなくなった。

(直掩がいるからでてきたのか?)

「CL157に攻撃を加えるが、直掩騎のことも考えてそのまま下に抜けて行って、離れた場所で高度を立て直す」

 

 そう言い放って敵騎の真上に陣取ると、編隊の一番騎目掛けてダイブを敢行した。

 ブレないようゆっくりと引き金を引くと、七色の魔弾が左の発動機に吸い込まれ、小さく発火したかと思うと、またたくまにボワッと燃え広がりコントロールを失ったのか右旋回をしながら落ちていった。

 

「うおおおおお」

 振り返ると、ダリーの雄たけびと共に打ち出された魔弾は二番騎に吸い込まれていく。

 スカーレットと佐那の騎は最後尾を狙ったようで後ろの騎体が深紅に染まり脱落していくのを確認できた。

 

 安全な場所で体制を整えている最中、急に魔探が反応して鮮やかに敵飛行隊を映し出した。

 

「いきなりどうしたんだ」

「どうかしましたか」

 ダリーは海の驚く声を耳にして、様子見がてらに話しかけた。

「今日の飛行中全く反応しなかった魔探がいきなり反応し始めた」

「ひょっとしたら、先ほど落とした騎体に魔法妨害の何かが搭載されていたのかもしれませんね」

 海の不思議そうな言葉にダリーは冷静に分析をして返答を返した。

 

 二撃目のため、少し距離を取った場所で高度を稼ぎ切ると再び敵の上空目指して騎首を傾けた。

 残念ながら、上空に到着したものの、CL一五七はサイクロン隊に狩りつくされ、FM一九九隊も青電隊に追いまくられて退散する姿を遠目に眺めることができただけだった。

 

 十分ほどグルグル周回していると、今度はHu三七がJG一九二の直掩を伴って侵入してくるとの連絡が入る。

 そのころには、初めに迎撃したスプライトディーバの諸隊が補給を終え再び戦列に戻ってきていた。

 

 Hu三七は急降下爆撃騎で、独特な音を掻き鳴らしながら突っ込みながら爆撃してくるので、魔導歩兵隊からは一方的に攻撃してくる恐ろしい敵ではあるのだが、速度がそれほど早くないので戦闘騎にとっては組みしやすい敵ではある。

 

「JG一九二も居座るのかねぇ」

「かもな」

「監視塔のねえちゃんに聞いたところ、散々探しても空母はいなかったらしい」

「新しい改良騎か?」

「めんどくせえな」

「ああ、まったくだ」

 

(どうやら、先ほど会話していた天空騎士たちは激戦を切り抜けたみたいだな)

「敵戦爆連合北上中、高度九五〇」

 (りん)とした女性の声が無線から響いた。

 

「えらい高度をとるなぁ」

「ホント、そうだよなぁ」

 先ほどの二人の会話を聞き流しながらも、高度計に目をやると八〇〇しかない。

 

「みんな、高度が足りないので上昇するぞ」

 海の言葉を合図にぐるぐると螺旋状に旋回をしながら自騎を上げてゆく。

 一一〇〇まで高さを上げたところで、魔探に無数の反応が現れた。

 

「魔探に反応あり、南東三時から四時の間、騎数は約五十程は確認可能」

 海が無線越しに味方に伝えると、スプライトディーバの隊とサイクロンの隊がゆっくりと針路を変更して進み始めた。

 

「隊長、うちらも続こう」

「そうだな」

「この機体では、JG一九二との格闘戦は難しいゆえスプライトディーバやサイクロンが戦闘に入った後、Hu三七の方を攻撃しようと思う」

「わかりました」

 

 陸地の切れた水平線の遥か向こうにカール大陸がおぼろげながら見える。

 その大陸から来たであろう敵騎が水面の反射した光によりキラキラと時に見えたり見えなかったり、まるで点滅しているかのように感じられた。

 

 味方戦闘騎隊から続々と増魔石が切り離されていく。

「蓄魔石から切り替え」

 海の号令とともにみな魔力出力を切り替えてゆく。

 

(ちょっと体が重いな)

 さすがに連日の出撃で疲れが溜まっているのを感じながら軽い溜息をついた。

 スプライトディーバとJG一九二がドッグファイトに入るのを見届けると、サイクロン隊も攻撃の機会をうかがっているのか、グルグルと周囲を旋回している。

(どうしたんだろう)

 その刹那、遥か上空から矢のように深紅のFM一九九の一隊が降ってきた。

 目の前で二騎、三騎と喰われるサイクロンたち。

 

「敵だぁ」

 慌てて騎を左に傾け頭を上げた。

 瞬間、先ほどまで飛んでいた場所に、魔銃を掻き鳴らしながら一騎突っ込んできた。

 

「あれは、間違いない」

 かつての撃墜王ヴァイツフォーヘンの孫娘シャルロッテの隊だ。

 そのシャルロッテの隊に果敢(かがん)に反撃をするサイクロン隊。

 

 真っ赤なビロードの服を纏い、白い羽飾りの帽子を被る――ポラスタンのユサリア隊の生き残りだ。

 赤い鷲と赤い天馬の戦いは華麗かつ過酷な風を醸し出しており、手助けのために容易に近づける空気ではない。

 

 その中でも、軽快に旋回し、翻弄するFM一九九が目に留まった。

 腰位まであるであろう銀髪をキラキラと靡かせて相手を追い詰めていく。

 

「ダリー、あの銀髪の一九九、見えるか」

「はい」

 緊張がしみ込んだ海の声色に、ダリーは優しく返答した。

「ユサリアの騎士を救うために攻撃をかけるが、あくまで牽制でおそらく落とせない」

「だろうね」

 スカーレットが余裕ありげな声で紛れ込んできた。

「各騎、牽制した後切り抜けつつ下にいるHu三七に一撃を加え離脱する。

「了解しました」

 海以下速度を上げて銀髪の敵に迫った。

 

 騎首をくるりとひねり敵の周りに魔弾をばら撒くと、敵の回避のタイミングとあったのか、数発魔法の壁をするりとすり抜けて敵に吸い込まれた。

 海にとってそれはまるでスローモーションを見ているかのようにゆっくりと時が過ぎ、撃った自分が他人事のように感じられて戸惑った。

 時が再び平常に動き出した頃には、Hu三七のうちの一騎が目前に迫っており、射撃と同時に体を捻って向きを変え、ぎりぎり衝突を避けることに成功した。

 

「ミア、当たったか」

 自信なさげに後ろに声をかけると、跳ねるような声色で、「海さんの打った弾は当たって敵騎は落ちてますよぉ~。 それとミアの弾も当たって敵が落ちたの」と伝えてきた。

 

 ミアにとって初めての単独撃墜なのだろうことがその興奮具合から感じられた。

「ミア、おめでとう」

「はい、ありがとうございます」

 

 敵を突き抜け低空のまましばらく進むと、味方の天空騎士が見えたので、後続を待つために速度を落とし、後ろを振り返った。

 みな無事に着いてきており海は安堵(あんど)のため息をついた。

 

「隊長、大丈夫か」

「ん? 何が」

「後部魔銃の群れから一斉に集中砲火を浴びてたじゃないか」

 スカーレットは呆れとも驚きとも取れる口調でHu三七のことを伝えていたが全く覚えていない。

 

 頭を動かして体を見回してみるも異常は見当たらなかった」

「まあ、大丈夫じゃないかな」

「本当か?」

「ああ、いい弾除けになっただろ」

「隊長さん、本当に無理しないでください」

 海が冗談めかして言った言葉に佐那が怒り気味に反応した。

「ごめん、気を付ける」

 

 地上からの高角魔砲(こうかくまほう)が敵爆撃隊の周囲でドカンドカンと雄たけびを上げると、一騎、二騎と落ちてゆく。

 敵の直掩隊の粘りで攻撃を免れたHu三七隊の群れは工場を見定めてゆっくりと下降していった。

 

「あ、工場が......」

 地上から多量の対空魔銃が撃ち上がって来るも、まるでひるむ気配もなく、群れの一団が悠々と工場上空に到着するやいなや黒い塊を一斉に投下をし、その数秒後には轟音(ごうおん)と共にもうもうと砂煙が立ち上り、工場に多大な損害が出たであろうことが容易に想像することができた。

 その光景を唇を噛み殺して見守った面々はその思いを胸にサウスプシャーを後にした。

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