俺たちゃ翔陽天空騎士隊~第二次サマイルナ大戦空戦記 作:クワ
我らワイド航空隊
窓から熱気を帯びた日差しが入り込む。
「何だかんだと荷物が増えたな」
迎撃の合間を縫って荷物の整理を行っている。
移動の日取りはそう遠いことではない。
「これは」
三上から預かった置時計を手に取る。
「魔力が切れているな」
針が止まっている。
「三上から受け取った時は動いていたんだけどな」
雲鳳に乗っていたことが遥か昔の事のように感じられた。
「いつの間に止まったことやら」
時計を両手で包み込んで魔力注入の呪文を
「ア・ダープ・タ......」
時計が鈍く光った瞬間、コチコチと再び時を刻み始めた。
「うん、まだ動く」
時計を合わせるために部屋の壁時計を見やる。
「午後四時三十七分っと」
時刻を合わせると、突然目覚ましのオルゴールがなり始めた。
「うおっと、びっくりした」
余りに突然なりだしだしたので、海は驚きの声を出した。
「海さん、オルゴール?」
ミアが背中越しに手の中にある音の元を覗き込んできた。
「時計だよ。預かりものなんだ」
鳴り響くオルゴールの止め方が分からずにスイッチを探していると、ミアが時計に手を伸ばしオルゴールを止めてくれた。
「ミア、ありがとう」
後ろに顔を傾けちょうど目の前にある横顔にそう伝えると、ミアもこちらに顔を向けはにかみの笑顔を見せた。
「止め方、全然分からなかったから助かったよ」
そう海が安堵の笑みを浮かべると、ミアが懐かしいものを見るような目で時計を眺めている。
「この時計、どうかしたのか」
視線に気付いた海が声をかけると、ミアは無言で時計をしばらくの間眺め、寂しそうな笑顔をした後海から離れた。
何か訳があると気付きつつもそれには触れることなしに、背後のミアの気配を意識しつつ片付けを再開した。
「これはいらねえっと」
「こっちはまだ使うかな」
「あっと移動日をメモしなきゃっと......そうだ、無いんだった」
色々書き留めたいことがあっても、昔から使っているノートが無くなってしまったために書き留めることができない。
頭の中にゆっくりとマーガレットの姿を思い起こした。
「仕方ないよな」
海は視線を天井に移し軽い溜息をついた。
「いつまでこれを見れることやら」
そのままぼぅと天井を眺めていた。
「新しいノートを買わなきゃな......」
そう呟きながら。
「さてと」
飛行場には我が隊がそろっている......とはいっても四騎だが......」
「もうそろそろ時間なので出発する」
「大丈夫です」
「りょうかーい」
「準備OKです」
それぞれから声が返ってくる。
「途中で青電隊と合流するそうだ」
「わかりました」
「間違えないように」
「アハハ、まさか」
「隊長、他の暁星隊は」
佐那が髪を整えながら問いかける。
「準備の関係で明日だそうだ」
後ろを振り返りながら海が答えた。
「総員、発進」
合図とともにヒッポグリフに魔動力を送り込む。
発動機は発熱を増してその熱を地表に叩きつけている。
「よし、ミア出るぞ」
「うん」
元気な返答が来ると同時に騎体を前に屈めてより一層出力を上げていく。
「先に行っててくれよー」
整備の人たちの声が聞こえる。
「ああ、待ってるよ」
「バイバイ」
整備の人たちは、我らが出た後に
軽く手を振った後、足のタイヤブレーキを外して、安定のために腰を落とす。
スルスルと騎体が滑り出し、段々とスピードを増してゆく。
「この飛行場ともお別れだな」
べトンの地面からの感覚が失われると、柔らかな草の感覚を受けながら、徐々にスピードが上がっていくと共に高度もゆっくりと上がっていった。
「正直魚雷より重い」
下を見やると騎体の整備道具やら交換部品やらが賑やかに音を奏でながらまとめて懸吊されていた。
「でもさぁ、ごーりゅーってどこでするの」
「適当だろ? 目印があるわけじゃないんだから」
「スカーレットは適当すぎるんだよ」
「それは、同意しますわ」
「何で子供二人から攻撃されなきゃなんないのよ」
「正論に年齢は関係ないですわ」
「そうだ! 子ども扱いして逃げるな」
「チッ、めんどくせーな」
「めんどくさい言うな」
「おおっ、ずいぶんと賑やかな通信だな」
「誰?」
スカーレット、ケイト、夏子の賑やかな通信に急に外部から割り込みが入った。
「こちら秋川隊、あなたは?」
「これは失礼、第十一航空艦隊所属の
(丁寧な人だな)
敬礼のために腕を動かした音が通信機から聞こえてきた。
「荷物を積んでいるとのことを伺っておりますので、お迎えに上がりました」
「これは、直掩感謝いたします」
お互い階級、年齢が分からないので敬語を使いつつ現状のやり取りを話し出した。
「暁星では青電のように格闘戦は難しいですね」
「やはり、
尾張とは翔陽のホウキの製造会社尾張航空騎のことで他に
「一撃離脱なら問題ないですよ」
「ほうほう」
「ヒッポグリフの出力が凄いのと魔銃は三式艦戦や青電と変わりませんから」
「
水冷に関しては翔陽が遅れている技術の一つであり、空気で冷却する空冷に対し水冷は水や冷却魔水によって冷却する違いがあるのだが、高度が上がると空気が薄くなるので、空冷では高高度の冷却能力が落ちるという弱点がある。
「水冷もさることながらスーパーチャージャーの技術に差がかなりあります」
「やはり、そうなるかぁ」
過給機にはターボとスーパーチャージャーがあり、ターボは飛行の魔力出力のエネルギーを回転軸に変えるのに対し、スーパーチャージャーは発動機に入れる魔力を回転軸に変えて使用するのだが、吐き出す魔力のターボに比べてスーパーチャージャーは作動させるための魔力を多少使用するため無駄があり、その分出力が落ちるという弱点があるが、それでも燃焼には圧縮した空気の方が出力を稼げるのと同時に高度が上がると酸素の量が減るので、高度が上がる程に過給機が必須になってくる。
また、ターボは魔法出力を使用する性質上ある程度出力が無いと回転せず力が稼げないため、両方を組み合わせたり、高圧力の酸素を得るために二つ三つと多段にする技術が開発されている。
笹西氏と話している内にクィーンエレインに移動した青電隊が合流してきた。
青電隊にも爆弾の代わりに色々な荷物が懸吊されておりこちらに負けずに賑やかな音を立てていた。
しばらく南下するとサウスプシャーの町が見えてくる。
「前見たときより酷いな」
前回攻撃されていたのは主に工場のみだったが、その後、港も爆撃されたらしく建物が焼き払われているのと、
そこからしばらく飛ぶと大きな島が少しずつ姿を現す。
「えっ! ええ――嘘だろ」
海は驚き、素っ頓狂な声を上げた。
島の港には、
「......これは......」
「......すごいな」
スカーレットとダリーが呆気にとられ、言葉少なく感想を漏らした。
島には三つほど滑走路が見え、これまた多数の戦闘騎が離陸しようとホウキから炎を噴いているのが見え、周りにはピストや魔銃の陣地が確認できた。
「すぐには着陸できなさそうだ」
島の西側に目をやると、水上騎隊が軒を連ねて待機しており、その横に止めてある輸送船の周りをカッターがせわしなく移動して、荷の積み下ろしをしているのが分かった。
島の中央にある頂にはスチューザンの魔探がドンと存在を主張しており、周囲には高角砲や魔銃の陣地が見え、そこだけは辛うじてスチューザン領であることを主張していた。
「魔探より敵影、高度七〇〇、サウスプシャ―方向に進んでいる模様」
その一報が地上にももたらされたのだろうか、にわかに慌ただしく動き出し、魔銃陣地に走りこむもの、防空壕らしき所に逃げ込むもの、そして余り広いとは言えない滑走路を曲芸のように並んで
これだけで、離陸してくる部隊の技術の高さが伺い知れた。
「笹西さん、我々は吊っている荷物のこともありますので、しばらく退避しています」
「秋川さんわかりました、どうぞご無事で」
「ご武運を」
「ありがとう」
そう伝えると、各騎に「退避のため島の西側に行く」と伝えて騎首を西へ向けた。
先ほど合流した青電隊は、吊っている荷物を気にしてか積極的に攻撃をするつもりはないようでもあり、しかしながら退避するつもりもさらさらなさそうで、その場で高度を上げ始めた。
「空の特等席ですね」
「さて、翔陽の飛行騎乗りの実力を
「大丈夫ですよ、
「一航戦?」
佐那の自信ありげに言い切った言葉にケイトが疑問符をぶつけてくる。
「空母妙義、能登の艦載騎が第一航空戦隊といって一航戦は略称だよ」
ケイトの問いに答えるも、再びケイトは問いを発する。
「その部隊は強いの?」
「翔陽海軍最強の航空隊ですよ」
海が返答するよりも早く、佐那が興奮気味に答えを返した。
「......ただ、あまり油断して欲しくはない」
「海さん?」
海の苦虫を噛み潰したような言葉にミアが心配そうに声をかけてきた。
「雲鳳の艦載騎――
「......そうですね」
「いやいや、大丈夫ですって、魔探で優位な位置から攻撃できますし」
佐那の先ほどとは打って変わった声に、ダリーがすかさずフォローをいれる。
「うふふ、そうですね」
「敵騎がきたみたいだ」
スカーレットが短く魔銃を発した先には、米粒より小さな点が、数個確認できた。
「お手並み拝見といきますかぁ」
スカーレットの声と同時ともいえるタイミングで、戦闘騎群がダイブを始めた。
「これは、すごい」
優位な高度から攻撃した一群は、赤や黒といった曳航を真っ青なキャンバスに書き描きそのまま突き抜けたかと思うと、すぐにもう一群が突っ込み同じように書き描き、次は背後からもう一群が襲い掛かって一方的に
第二派が到着するころには、離陸が遅れた部隊が先頭になり、第一波と同じようにプロイデンベルグの爆撃騎隊を海中に叩き込んでいた。
「四発騎だ」
恐らくはHu一八九と思われる発動機を四つ積んだ大型の爆撃機が二十騎ほど侵入してきた。
東から来た敵は軍艦を狙おうと、一度針路を南に取り、そこから北上して進入角度が垂直になるように調整を試みていた。
Hu一八九の周囲に地上から打ち上げられた高角魔砲がまるで花火大会のようにバンバンと炸裂すると、数騎遅れが出始めて隊形が乱れた。
「おっ突っ込んだ」
その隙を見逃さぬとばかりに、上から次々と戦闘騎がダイブをし、一騎、二騎と血祭にあげるも、何騎かは旋回魔銃に撃たれ墜落していくのが見えた。
半分ほど落とされた敵は爆弾をその場で廃棄して遁走を始めた。
ドンドン――ドーン
投下された爆弾の破裂音と共に土埃がブワッと舞い上がり、もあもあと地上を覆う。
最後尾の敵に六式戦が二騎突っ込み最右の発動機から火の手が上がった。
次いで二騎が突っ込み、隣の発動機からも黒い煙が上がり始めた。
突っ込んだ陸軍騎は土埃に消え、視線を上げるとHu一八九はかなり群れから遅れだして、それにとどめを刺すようにまた二騎突入していく。
子供のころに本で読んだ水牛の群れを襲うライオンを見ているような錯覚を受けた。
「あっ」
後ろからミアの声が上がった。
一八九の右翼が吹っ飛び、直進できなくなったのか、クルクルと回りながら土埃の中へゆっくりと降下していった。
新たに最後尾になった騎に攻撃が集中し、逃げるのを諦めたのか、搭乗員たちが騎を捨て飛び降りたかと思うと、数秒後ぱっと真っ白いパラシュートが四つ開いた。
パラシュートは風に流されながらゆらゆらと降下していって、落下地点とおぼしき場所に魔動車とそれを追いかける兵隊たちが移動しているのが確認できた。
「敵とはいえ、ホウキ乗りが脱出して助かるのを見るのは、ホントいいものね」
「そうだね」
ケイトとダリーのやり取りに、周りも色々なアクションで同意する。
その後も追いすがる戦闘騎を必死に振り払い一八九の群れは太陽の光を背に浴びながら速度を上げて離脱していった。
「秋川隊四騎着陸許可願います」
「了解です」
吊っている道具を傷つけないよう、速度を十分に落とし飛行場へ侵入する。
「くっ」
足が車輪越しに大地を掴むと、急ごしらえの飛行場のためなのか、なかなかの振動が足へ伝わってきた。
ガランガランと荷物が暴れる音が耳を刺激する。
ゆっくりとブレーキをかけて速度を殺してゆくと、足からの刺激も徐々に和らぎ、しまいには刺激を感じなくなった。
「おっ、みんな上手くなったな」
海が振り返ると、荷物を抱えているにもかかわらず、皆オーバーランなどせずにきっちりと止まっていた。
どうやら騎付の整備員の一部は既に到着しているようで、急ぎ足で駆け寄ってきた。
「ミア、降りれるか?」
ミアがベルトを開放した後、視線を上げて海の顔を真っすぐ見つめ、両手を海に向け差し出した。
「よし、まかせろ」
ミアを持ち上げてそのまま数歩進み、ヒザを降ろして地面にミアを立たせた。
吊ってある荷物の中から、海自身とミアの荷物を取り外してミアの荷物を本人に手渡して整備員が到着するのを待った。
整備員の後ろから見慣れぬ人たちが数人同じように急ぎ足で駆け寄ってきているのに気付いた。
(やけに人数が多いが、見習いか?)
一人の薄汚れたツナギから僅かに出ている工具には、会社のロゴが入っているのが目に入った。
(
「やあ、お疲れ様、早かったね」
「あ、いや、先にこちらに向かう組と残る組とを分けていたんですよ」
「ああ、どうりで」
はにかんだ整備員に騎体を預け、皆と一緒にピストへ向かう。
「おう、どうだった」
「一騎喰ったぜ」
「俺は爆撃騎を共同撃墜だ」
先ほどの初戦の戦果からか、みな心持ち明るい気がした。