俺たちゃ翔陽天空騎士隊~第二次サマイルナ大戦空戦記   作:クワ

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三上との再会

「秋川さんですよね」

 ピストに着くと先ほど直掩に迎えにきた笹西が明るく声をかけてきた。

 

「はい、その声は笹西さんですよね」

 お互い階級章を目で追う。

「はは、お互いに大尉のようですな」

「本当に偶然で」

 ハンモックナンバーの関係で向こうの方が出世は早かったが、学年はこちらの方が上の様だった。

 

 久々に大いに話に花を咲かせたが、ダリーたちを待たせていることを思い出し、我ながら申し訳ない気持ちになった。

「笹西大尉、我が隊のものです、この男性がダリー・カーライル、そしてこちらの女性がスカーレット・ショーンと中岡 佐那、そしてこの子たちがミア・ベルンシア、ケイト・パルティナに山藤 夏子、そして北添 潤太郎」

 

 笹西は紹介された相手をニコニコと愛想よく覗き込み、よろしくと挨拶をしていった。

「では、こちらも」

 

 笹西が後ろに視線をやり目配せをすると、ダルそうな者、興味深々な者など数人がこちらに歩いてきた。

「こちらはエースの芹沢、そして坂田、武双そしてこっちが石本に北崎に横川......」

 海も笹西のようににこやかに挨拶を返す。

 

(それにしても、こいつらかなりの猛者ぞろいだぞ)

 微笑んでいる者や笑っている者、不愛想な者と色々いるが、目の奥が笑っていない。

 

「ここから指令室までどれくらいかかる?」

「それでしたら、ここからあそこに見える、魔銃の陣地を超えてしばらくしたらカモフラージュされた指令室が見えてきますよ」

 先ほど芹沢と呼ばれたものが説明してくれた。

「笹西大尉、隊の部下を泊まる部屋に連れて行かなきゃならないので、また次の機会に話そう」

「そうですね、お待ちしております」

 

 指令室に着任の挨拶も兼ねて足を運ぶ。

 ピストから指令室までは先ほどの説明では歩いて十分ほどの距離があるようだ。

「みんなは木陰で休んでいて、俺が行ってくるよ」

 部下、特に子供たちを連れまわすのは酷だと考えそう言ったつもりだったのだが......。

 

「一緒に行きますよ」

「残されても視線が気になりますし」

「そうそう」

 お互い色々と事情があるものだ。

「わかったよ、みんなで行こう」

 

 先ほどの案内の通りに魔銃陣地を目指す。

「今日はそこまで熱くないね」

「そうねぇ、だけど涼しいってほどでもないわ」

「うん、ちょっと熱い」

 

 魔銃陣地の周りには土嚢(どのう)が積み上げてありその中央に三台の銃が天空に向けてそびえ立っていた。

「魔銃陣地の兵隊たちは、カーキ色の軍服にヘルメットをかぶり煙草をくゆらせながらこちらを眺めていた。

「私たちが珍しいのでしょうか」

 ダリーが怪訝そうに眉をひそめる。

 

「翔陽の人たち、特に地方に住んでいる方はあまり外国旅行など行わないんですよ」

「佐那さんは、スチューザンへ来たのは初めてなのですか」

 ダリーが上ずった声で話しかける。

「そういうことを聞くのはレディーにしつれいなのでは」

 ケイトが不満顔で口をはさむ。

「いえ、大丈夫ですよ――あっダリーさん、スチューザンは初めてです」

 

 恥ずかし気に頬を赤める佐那を見てダリーはさらに言葉を畳みかける。

「ならば、次の休みなど......」

「あの二人ってまだその段階なのか」

 海が小声でスカーレットに尋ねた。

 

「やめい!」

 ケイトが佐那とダリーの間に割って入り、左右の手で二人を押して引き離す。

「ホントにダリーは見境ないんだから」

「ケイト、私たちはそんなんじゃ......」

「おだまり!」

「まーた始まった」

「ああ、あれじゃ」

「無理ね」

 

 ダリーは兵隊たちの押し殺した笑いに気付くと「みんな、早くいくよ」と早足で先に行ってしまった。

「はぁ、本当に団体行動が出来ない人たちですわ」

 夏子のため息に海は小さく同意した。

 

「ここかな」

 しばらく進むと、一見すると大地と見分けがつかない偽装(ぎそう)された半地下の建物が見えてきた。

 

「隊長、まず入ってくださいよ」

 ダリーたちに促されて細い入り口を下っていく。

 グレーに緑のまだらが入ったトビラをノックし中の反応を確かめる。

 

 反応が無い。

「開けてみるか」

 右手をドアノブにかけて押し開けた。

 ガチャン

 金属のトビラ特有の音が室内に響き渡るも中にいる初老の男はこちらを顧みることなしに書類を書く手を動かし続けていた。

 

「秋川大尉以下八名、ただいま着任いたしました」

 こちらの声が終わるやいなや、ペンをゆっくりと置いて「ご苦労」と言葉を発し、スッと顔をあげた。

 

「司令の塚河(つかがわ)です」

 なかなか気難しそうに感じた海は上手く言葉を流すように構えたが、すぐにそれが杞憂(きゆう)だと気付かされた。

 

「秋川大尉、あなたが知っての通り翔陽は先ほどの航空戦を見ての通り練度は他国に劣ってはおらんのだが、如何せん全体的に技術の方がまだまだである」

「閣下......」

「この度は、スチューザンの出兵要請もあったのだが、魔探を使った制空戦など我が方が学ばなければいけないことが多数ある」

 

 塚河は一息入れると両手を組み、視線を我が隊員に向け、言葉を紡いだ。

「スチューザンの方々も我々が連合国になった事もありますが、なにかと協力をお願いします」

 塚河はダリーを始め一人一人の視線を捉えて微笑んだ。

 

(連合国とはいえ、それぞれの思惑があるんだろうな)

 海が思案を巡らしていると、トビラが開く音が聞こえてきた。

「おお、源口君お帰り、秋川大尉が来たところだ」

「指令、遅くなりました」

 源口は小さな足音を立てて塚河の隣まで行くと、クルリと体を回してこちらに向き直った」

 

「今しがた、秋川君に魔探の話を出したところだ」

 塚河は源口に顔を向けて話を促した。

「秋川大尉、魔探は素晴らしいな、プロイデンベルクの天空騎兵たちの高度から進入路、おおよその数、編成等教えてくれる」

「はっ」

「畏まらなくていい、みな驚いていたよ、ただ我々の通信機が悪くてな、伝達しきれなかった所はあったのでな、そこを何とかせねばならん」

 

 源口は先ほどの戦果で浮かれる事なしに次を見ているようだった。

(思い出した! 源口曲芸飛行隊と言われた源口 忍だ)

 

「閣下、それにしてもわが軍は随分と大所帯で来たようですが、本国の方は大丈夫なのでしょうか」

 源口が海をじっと見つめると、突然破顔して答えた。

 

「流石にビックリしただろう」

「うむ、我らすらここまで出すのかと驚いたよ」

「それは、海軍が従ではなく主でやれる戦場を求めてのことでしょうか」

 北と西の戦場において主は陸軍であり、海軍ではない。

 

「それもある......が、魔探を取り付けて貰う約束になっておるのでな」

 そのような条件を出すくらいスチューザンはBボートに追い詰められているのか。

 しかしながら物資を輸送する商船の護衛のことを考えると魔探は必須なのだろう。

 

「高射魔砲など結構な部隊が来ておるように見えましたが」

 海が恐る恐る尋ねると、塚河は少し困ったような口調で答えた。

 

「プロイデンベルクが上陸作戦を取るやもしれぬという話があって、陸軍が一個師団、海軍も陸戦隊を二個部隊連れてきている」

 このそれほど大きくない島に二万ほど兵がいるとは海はにわかに信じがたかった。

 

「艦隊は魔探を取り付け次第出航なさるのでしょうか」

「商船の護衛がある、一部は出るが具体的なことは言えぬしまだ決まっておらん」

 

「ははは、空母を五隻も連れてきたんだから当然出るだろう」

 少しばかり言いにくそうな塚河を(おもんかば)って源口が笑いながら助け舟を出した。

 

 ただ、この塚河と源口の魔探に対する感想は海をいくばくか安心させた部分はある。

 以前の海軍では、魔探は闇夜の提灯と呼ばれ、使ったら相手に居場所を教えるようなものだという扱いを受けていた。

 陸軍の方が、基地は移動するものでないため魔探に対する認識は海軍よりはよかったとはいえ優先順位はどちらかと言えば低かったといえる。

 今回の迎撃は六式戦闘騎も加わっていたことも考えると、陸軍もその有効性に気付いたに違いなく、それが姉の所に届いてくれればと海は切に願った。

 

「すでにスチューザンは中型機に魔探を乗せて、夜間に来る爆撃騎の迎撃に使っております」

 源口の眉が鋭く動いた。

「君の騎に着いているあれか」

「はい、小型ですのでおおよそ二キロほどしか魔法波(まほうぱ)は届きませんが、夜間でも昼間と同じように映るためにあたりをつけて攻撃しています」

 

「それで落とせるのか?」

「目視できる昼間の様には全然行きません」

「だろうな」

「しかしながら大佐......」

「あ~みなまでいうな、わかっている、技術というものは試行錯誤(しこうさくご)の連続であるし、夜間爆撃に対応する手段が今は魔灯で敵を照らしだしたり照明魔法を使う以外にはないが、魔灯では発見が難しく、照明魔法は連続して使えるものではないし、その眩しさから目に対して負担が大きい」

 

(頭が切れる人だな)

「大尉、お疲れだろう、今宿舎への案内をつけるので下がりなさい」

「は、閣下ありがとうございます」

 お互いに敬礼をすますと、海は二人に背中を見せ、部屋を後にした。

 

「たいちょ~はなしがなが~い~」

「ケイト、ゴメンな」

「私、疲れちゃった」

(今の話をダリーやスカーレットに聞かれてよかったものか)

 外に出ると、一台のトラックが横付けされており、海たちが出てきたのを見るや否や発動機のスイッチを動かして、運転席の窓から顔をヒョコッとのぞかせた。

 

「やったぁ車だ」

「歩かなくて済むよ」

 ケイトとダリーから喜びの声が上がった。

 魔動車や魔列車の動作は、昔は炎の魔法で水を沸騰させその蒸気の圧力で動かしていたが、速度や手軽さの問題があり、近年は発動機内のシリンダーといった複数連なった筒状のものに時間差でピストンと呼ばれるシリンダーにピッタリはまる棒状のものが奥まで入る跳ね上げ式が一般的ではあるが、蒸気式は魔力が無くても木や燃える石や水などでも代用出来るため一部の魔列車などで今だに稼働している。

 跳ね上げ式のピストンが一番奥まで行くと直接爆発の魔法で跳ね上げるものと、可燃霧の魔法を入れて火花で爆発させて、その爆発の力で跳ね上げるものとがあるが、ピストンを跳ね上げる力を横回転に変えて推進力を得ていることは同じである。

 ちなみに爆発場所を決め打ちしなければならない爆発式よりもタンクの中に可燃霧を発生させて、それを空気と一緒にシリンダーに送り込む可燃霧方式の方が初心者でも扱いやすいため、こちらが主流となっている。

 

 魔動車の荷台に乗り、ゆるりゆるりと走って入るのだが......。

「うゎ」

「揺れるなぁ」

「砂利道だからな」

 前の飛行場のように、道路が整備されておらず、あらゆることが急に決まったので対応が追い付いていないのだと思われた。

 

「やっと着いた」

「フーしんどい」

「大尉、これが部屋の見取り図です」

 運転手から数枚の紙を手渡された。

 

「ありがとう」

 運転手に手を上げると、軽い敬礼で返答を返してきて、そのまま走り去った。

 魔動車の荷台から降りると、これまた半地下の小さな建物が目の前に佇んでいた。

 その作りはかなり簡素で洒落た飾りどころか窓すら殆どなく、傍らにあるポッカリと開いた防空壕が、否が応でも戦争中だということを知らしめていた。

 

「とりあえず部屋まで行こう」

 ガタガタ

「トビラの建付けが悪いな」

「これ、建てたばかりよね」

 スカーレットが心配そうな声を上げた。

「そのはずだけど」

 

 トビラが床に擦れた音を出して開くと、廊下は何も敷いていない剥き出しの床となっており、雨が降ったことを考えると気分が沈んだ。

「こりゃ、前途多難(ぜんとたなん)だな」

「ですね」

 

 割り当てられた部屋に着くと、トビラはすでに開いており、部屋の床には建築時の端材を組み合わせたような床の上に小さなカーペットが敷いてあった。

「まあ、床があるだけマシね」

「うん」

 ケイトと潤太郎が顔を見合わせて呟いた。

 

 二十畳ばかりの部屋には、二段ベッドが十個ほど詰め込まれており、入り口から向かいにある窓は、爆撃時の避難のためか低い場所にあり、人がらくらく通れる位の大きさがあった。

 その外は半地下のため一面壁で、上の五分の一ほどから青空を見ることができた。

 

「この図によると、あの右端の四つが俺らの割り当てみたいだ」

「床で寝るよりはマシね」

 スカーレットのつぶやきを合図に場所取りがスタートした。

 

「ダリー、一番奥にしましょう」

「うーん、ケイト......」

 ダリーは佐那をチラリと一瞥した。

「む! 一番奥」

「うーん......わかったよ」

 

「ふふっ、じゃあ私達は一番手前、隊長さんはその隣でいいんじゃない」

「俺たちはいいけど、佐那たちはどうかな」

 スカーレットの狙いを薄々察した海は、その順番でもいいと感じはしたのだが、佐那の意見を無視するわけにもいかないので、彼女に声をかけた。

 

「私たちも異存はありません」

「じゃあ決まりね」

「よし、移動だぁ」

 ダリーのテンションが上がる。

 

「スカーレット......」

「夏子、なに」

「ちょっと......さ、ウザくない、あれ」

「うーん、失敗だったかもなぁ」

 

 ミアにベッドの上下どちらがいいか尋ねると「上がいい」との事だったので、必然的に下のベッドが海になった。

 ベッドに荷物を投げ入れて、軽く一伸びすると、そのまま部屋を後にする。

「さて、貰った紙に書いてある施設の場所を確認するか」

 廊下を左折し目的地に向かう。

「ここがトイレか」

 一応水洗ではあるようだが、トイレの周囲は地面の上に板張りがしてあるだけで逸れてしまったら大変なことになりそうではある。

 

 トイレを出て真っすぐに進むと、途中左手に小さな食堂があり、売店もある事にはなっているが、売り子がいない。

(誰かに聞いてみるか)

 厨房の中で忙しそうに動いているスチューザンの女性がいることに気付いた。

 

(よし、彼女に聞いてみよう)

 厨房のカウンターにゆっくりと近づき、女性に声をかけた。

「すみません、ちょっといいですか」

 女性は横目でチラッとこちらを素早く確認すると、手を休める事なしに顔だけこちらに向け「なんでしょうか」と答えた。

 

「こちらに売店があるとお伺いしたのですが店員がいらっしゃらないようですので、営業時間などあるのかと思いまして、ご存じでしたら教えていただけないかなと」

 そこまで言うと通じたのか、黄金色の長い髪を左右に振った。

「いらっしゃらないですか」

 真意を確かめるために追加で問いを発すると女性はそうじゃないという仕草をした。

 

「え?」

「特にいつやっているとかないですけど、しいて言うならば、食事の時間前後なら人がいるかな」

「食事の時間?」

「ああ、人が来ないときに開いていてもしょうがないからみたいだよ」

「ああ、なるほど」

「ああ、それと、ここ自体がまだ作られたばかりだからルールが決まっていないので、今後また変わるかもしれない」

「これは、親切にどうもありがとう」

 海が軽く頭を下げると、その女性は驚いたらしく目を丸くした。

 

「どうしました?」

「いや、あなた士官さんだろ、珍しいなって思って」

 言い終わると女性はにっこりとほほ笑む。

「そうでしょうか?」

「ああ、何処の国もコックなんて見下す奴が多いからねって――今のは聞かなかったことにしておくれよ」

 ちょこっと焦る女性に微笑みかけ、「大丈夫言いませんから」と答えた。

 

「やさしいねぇ、ここに来て二人目だよ」

「二人目」

 二人目と言われると、一人目が気になるのは人間のサガなのだろうか。

「ああ、とてもハンサムな士官さんでね」

「へえ」

「物腰も柔らかくて、私みたいなのにもとてもやさしいの」

 

(恋する乙女の目になっているな)

 話を聞いた限りすごくモテそうなやつだなと話を聞き流しながらボンヤリと思い浮かべる。

「あ、あの人よ」

 テンションが上がった女性の視線の先を見ると......。

 

「三上?」

「海?」

 

 こちらの驚いた声に気付いた視線の先の主はすぐにこちらの正体を割り出した。

 

「おまえ......大丈夫なのか?」

 足のけがのことを思い出す。

「ああ、どうにか歩けるくらいには回復したよ」

 そう言って微笑む。

「けがはちゃんと治した方がいいんじゃないか」

 

「けがをなさったんですか?」

 先ほどの食堂の女性が心配顔で割り込んできた。

 

「ああ、そうなんですよ、コイツプロイデンベルクとの戦いで足を撃たれまして......」

「まあ、だいじょうぶですの」

 女性はとても心配そうな声色をだすも、三上は大丈夫と言わんばかりに笑い飛ばした。

 

「あの時足を引きずってたろ、まだ二カ月ほどだぞ」

「まだ若いから回復が早いんだよ」

 三上はおどけて海と女性を安心させようとした。

 

「おまえは本当にいいやつだな」

「え? 何が?」

「そういうところだ」

 昔馴染みに偶然出会うのは心踊らされるものだ。

 不思議顔の三上の肩を叩く。

 

「また今度飲もうや」

「ああ、そうだな」

「部屋の片づけあるからまたな」

「ああ、海またな」

 湧き上がる喜びを抑えながら自室へ戻っていった。

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