俺たちゃ翔陽天空騎士隊~第二次サマイルナ大戦空戦記 作:クワ
「敵爆撃隊っと」
東の空にわずかながら一団が侵入してくるのが確認できた」
「敵は東だ、騎首を向けるぞ」
敵に向け針路を変更しつつ魔探に目をやると爆撃騎の方はバッチリと写っており、赤い部隊が写らないのは故障ではなさそうだ。
スロットを軽く噴かすと、発動機に魔力が伝わって速度が徐々に上がる。
「さあって、今日は一発も撃ってないからなボチボチやりますか」
「そうですね、スカーレットさんやりましょう」
「隊長、私たちも負けてられませんね」
「フッそうだな」
爆撃騎の騎体が数騎おぼろげながら見えてきた。
先行している青電、三式艦戦隊からの会話が耳に入る。
「急降下爆撃機か?」
「見たことねえな、あんな騎体写真にあったか?」
「敵騎一覧表か? 無かったと思うぜ」
「だよなぁ」
「まあ、新型騎じゃねえのか?」
「軍艦狙いに来たか」
「空母に穴ぼこ開けるには急降下が一番命中しやすいからな」
「おお、嫌だ嫌だ、家が潰されるわけにはいかねぇよ」
「まったくだ、全騎落とすっきゃねえな」
「ハハ、数が多いな」
「めんどくせえ」
Hu一三七と呼ばれるHu三七の後続騎体だが、この時は知る由もなく、ただ騎種が分からない爆弾を吊った単発騎が来た位の認識しかなかった。
海たちより先に空母戦闘騎隊が新手のスツーカ達に引導を渡さんと攻撃を仕掛けた。
「下手くそ」
「前のより早えんだよ」
「言い訳すんなって」
愚痴を言っていた面々もエース揃いだけあって、初めのうちはタイミングがわからずにミスショットをしていたが、すぐに修正をして瞬く間にバッタバッタと落とし始めた。
新型騎たちはサッと部隊を
一部隊の上空辺りに到着した海たちは、周囲を警戒しつつ攻撃の機会を伺った。
「周囲に敵はいないな」
魔探にも反応はない。
「総員攻撃に移る」
「はい」
「任せな」
敵の高度は先ほどから比べ少し下がり、おおよそ五〇〇といったところだ。
「俺とダリーは右から、スカーレットと佐那は左から攻撃する」
「了解」
六騎編成の敵にダイブをかけると、こちらに気付いて魔銃が放たれ始め、魔弾が水や氷系の魔法が多いせいかまるで噴水が吹きあがっているかのように見えた。
右の後ろの敵に狙いを定める。
「よし、今だ!」
タタタっと銃口から魔法が放たれると、そのうちの数発が敵の背中に突き刺さり、ガクッと騎が傾くとそのままクルクルと横回転したまま落下していった。
「あっと」
ダリー騎の射撃音が聞こえるも当たらなかったらしくそのまま突き抜けていく。
左の二人も一騎は落としたがもう一騎は失敗したようだ。
「背後に着くぞ」
高度を再び整え、相手の後ろ二十度位下方の丁度旋回銃が回らない位置に着く。
この位置は相手から攻撃はされないが、相手の発動機の噴進で騎体が安定せず操縦が難しいのと、燃焼魔力のガスを吸うことになるので、下手をすると気を失うことがあるので気を付けなければならない。
海は相手の背後に着くと距離を徐々に詰める。
射撃手の恨めしそうな顔が目に映った。
「すまないな」
引き金をゆっくりと握る。
タタタ、弾丸が青い火を噴いている発動機に吸い込まれ、整っている炎が乱れたかと思うと赤い炎に変わり、黒い煙まで出始めて、速度が保てずに徐々に降下してきた。
「アブねえ、当たる」
素早く右に騎体を捻り回避する。
敵の射撃手が攻撃できるようになったようで至近距離から射撃を開始した。
こちらが旋回している最中にダリー騎がとどめを刺して発動機が爆発し、積んでいた爆弾にも引火して敵騎が炎に包まれた。
「ダリー無事か?」
間一髪ダリーの騎が炎から抜け出して旋回をし始めた。
「私のダリーは大丈夫よ」
「よかった」
再び敵の後ろに回ると、スカーレットと佐那が一騎ずつ片付けたのか、残りは一騎だけになっていた。
背後から発動機に向け射撃を開始する。
魔弾が一直線に吸い込まれた直後に、相手の発動機が息継ぎを始めて、炎を出すのを止めてしまった。
「まあ、じきに落ちるだろう」
海はその騎から離れて新たな敵を見つけるために周囲を見回す。
「もう、片付いたみたいですね」
「今回の敵さん、運が悪かったな」
「そうですね、私たちが返ってきた時でしたから」
「迎撃騎多すぎって思ったろうな」
着陸した後、海はダルさを感じて着替えもせずにベッドに横たわった。
疲労が溜まっていたせいなのか、ウトウトとまどろみ始める。
石造りの街並みが見える。
港町なのだろうか、波の音が微かに聞こえる。
「海君、遊ぼう」
誰だ? 海君?
視線がやけに低いことに今更ながら気付いた。
あれ、俺......子供だ。
「海君、海行こう」
「あ、ああ」
「あ、海ばっかりでわからなくなっちゃうよね」
この子は誰だろう? なんだか懐かしい感じだ。
海にとって、なぜか夢を見ていると理解していることがとても不思議な感覚だった。
「どうしたの?」
声からして女の子だろう、声の方に向くも逆光のせいなのか夢だからなのか顔がよく見えない。
「昨日、変わったおさかながいたんだよ」
「おさかな?」
「今日もいるかな」
「......みさん、海さん」
外からの強力な呼びかけで、見ていた風景がフッと消滅し、それに代わりミアの心配そうな顔がぼやけながら浮かんできた。
いや、浮かんだのではなく視線が合っていないだけだと気付いたのはそれからわずかばかり時間がたってからのことだった。
「海さん、大丈夫ですか」
「ああ、大丈夫だ」
心配顔のミアの頭をポンポンと軽く叩き、上半身をゆっくりと起こした。
「ところでミア、どうした?」
「三上さんという方が、海さんに用があるからって」
(三上は何を言ったのだか)
ミアがなぜかオドオドとこちらの顔色を伺うような仕草が多少気にはなったが、三上のことだから悪いことは言っていないだろうと思い直しベッドから立ち上がった。
心配そうなミアに微笑み返して「大丈夫、悪いヤツじゃないから」と目を見ながら語りつつ入り口に目をやると笑いながらひらひらと手のひらを動かしている三上がいた。
「おい、そんな風に監視しているからウチのミアが怖がるんだぞ」
半笑いしながら海がそう答えると、三上も笑いながら「わりぃわりぃそんなつもりじゃなかった」と頭を掻き掻き弁明し「お嬢ちゃん、悪かった、ゴメンな」とミアに向かって優しく語り掛けた。
それを聞いてミアはビクッと反応し、その場で固まりながら首をフルフルと振った。
海はミアの方を振り返り「逆効果だ、完全に怖がっている」と三上に対して笑いながら答えた。
困惑顔のミアを抱きかかえ、三上の所に歩き出す。
「おー、びっくりさせてスマンなぁ」
三上は中腰になりミアと視線を合わせ、優しく微笑んだ。
ミアも三上に接して、幾分緊張も解けたのだろうか、硬いながらも微笑み返した。
「おお、笑ってる、いい子だな」
ヒザを屈め、ミアをゆっくりと床に降ろすと、三上のことを見上げた。
視線に気付いた三上は、先ほどとは打って変わり、海に対し立つことを促してきた。
「どうした?」
「ちょっと話がある、いいか?」
三上の顔から何かしら深刻な話なのだろうことが容易に想像することができた。
「場所を変えるか」
「ああ、わりぃ」
「ミア、すまないがお留守番頼んだよ」
「うん」
真剣なまなざしでコクリと頷くミアを背後に残して三上と部屋を出て歩き出した。
建物を出て、並びながら海岸の方へ歩き出した。
しばらく歩くも、三上はなかなか言葉を切り出さない。
上を見ると、日が随分と傾いて空の色が少しずつ赤色に塗り替えられている。
「......」
もうしばらく歩くと、三上は歩調を緩めて辺りをサッと確認した。
海風が夕刻のほんのり涼しい空気を届けてくれる。
三上はチラチラと海を確認し、話を切り出すタイミングを見計らっていた。
陽気な三上らしくない態度にこちらもどうしていい物かわからずまごついていると、ようやく三上の決心がついたのか、口を動かし始めた。
「なあ、秋川」
「何だ?」
しばらくの間、沈黙が訪れる。
「隊長が、生きていたそうだ」
「隊長? まさか」
驚く海の言葉を制し、淡々と言葉を紡いで行く。
「荻野隊長だ」
「え、今まで......」
「カールのゲリラに匿われていたそうだ」
「それは、良かった」
嬉しそうな声を出す海と対象に三上の表情は重い。
「隊長の所......戦死通知が届いたらしくってな、まあ......それ以前に新聞にも載ったとの事で、葬式を行っちまったとの事だ」
表情から言いたいことを察することができた。
「ちなみに生きているって情報は、どこから聞いた話なんだ」
これから色々問題が起こることを避けたかったのだろうか、純粋に信ぴょう性が気になったのだろうか、何気なくその言葉が口に出た。
「ああ、ハンナからだ、詳しくは聞かないでくれ」
そう言って三上は口ごもった。
(一体ハンナさんとは何者だろう)
ちょっとした疑問が頭をかすめたが、それと同時に三上がここまで信用しているという事実があり、三上にとっては信ぴょう性が高いのだろう。
また三上にとって海は秘密を打ち明けるほど信用してくれているという事に関しては、素直に嬉しかった。
「スチューザンはともかく翔陽は面子を気にする国だから一筋縄ではいきそうにないな」
「ああ、死亡通知を出して、やっぱり生きていましたは厳しいよな」
「ああ、おそらくな......」
海にとっても三上にとっても荻野は恩人だが、軍人である以上は国の命令は基本絶対であり、また国の方針としてはあまり良い方に動く予想が今までの経験上期待ができない所が、二人の上に重い思考を覆いかぶせ、何とも言えない嫌な空気を醸し出していた。
「......三上」
「ん?」
「教えてくれてありがとう」
「いや、すまないな」
三上は海の言葉を聞き流し、視線を遠くに向けてポツリと寂しそうに詫びの言葉を吐きだした。
太陽は地平に半分ほど浸かり、その茜色の光が、まるで雲鳳での最後の直掩時の朝焼けのようで、あの時の荻野隊長の背中を思い出していた。