俺たちゃ翔陽天空騎士隊~第二次サマイルナ大戦空戦記 作:クワ
「昨日の爆撃で、蓄魔石の補給が間に合いませんでした」
飛行場に来た海たちに非常な知らせが伝えられた。
「出発は明日か」
「そのようですね」
手持無沙汰になった海たちはピストへと移動し、イスにドカリと腰かけた。
「よお、あんたらがあの雷撃騎のパイロットかい?」
気のよさそうなあんちゃんが声をかけてきた。
「そうだけど?」
「あんたら凄いな~、あんな雨の中、魚雷抱えたままでよく着陸できるもんだ」
そう褒めてくれるものだからダリーとスカーレットは舞い上がってあんちゃんとの話が弾んだ。
「そういやぁ聞いたかい」
「何をだい」
「昨日の昼間出たシロイドンの連中、全部喰われたらしい」
あんちゃんは声を潜めて二人に話かける。
「喰われた?」
「ああ、なんでも奴さんの空母、馬鹿でっかいらしくてさぁ、普通の二倍位乗るらしい」
「そんで、カールの基地から飛んできた連中と一緒になって襲い掛かったんだってよ」
(道理で見つけられなかったわけだ)
海はその会話を聞いて納得したのと同時に、見つからなくてよかったとも思いを巡らした。
「昨日、夜間に来たやつらはどこから来たのか知ってるかい」
「ああ、何でもその空母かららしいよ。来たのがHu一三七とGe二八七だったてよ」
「Ge二八七?」
聞きなれない騎体の名に海は思わず聞き返す。
「ああ、あんたらと同じ艦上雷撃騎だってさ」
「そうか、ありがとう」
「いやいや気にするなって」
海たちは、しばらく気のいいあんちゃんと世間話をしていた。
(あの辺りは……)
三上は愛騎の青電を駆ってポートマル上空に到着すると、爆撃された地域をサッと見回し嫌な予感に囚われた。
急いで着陸しようと近場の飛行場に連絡し、スルスルッと騎を地面に降ろす。
「申し訳ないが、ここに置かせてもらいます」
空港の端に騎体を止めて、心ここにあらずとばかりに走り出す。
「はあ、はあ、はあ」
三上は、足が気持ちについていけないもどかしさを感じながら、必死に走り続ける。
「――」
三上は愕然とした。目の前には焼け焦げたハンナの小さな店。
「いや、ハンナは、ハンナは無事なのか」
頭の中が真っ白になりながらも、必死に現状を手探りで整理しようと試み、そのために店の内部へと足を進めた。
「あ、三上さん」
ハンナと仲が良かった近所のおばちゃんが悄然とした顔で立っていた。
「おばちゃん、ハンナは、ハンナは何処ですか?」
三上の必死な問いに、おばちゃんは涙を流した。
「えっ」
「三上さん、ごめんなさい。ハンナちゃん私と一緒に防空壕まで逃げてきたんだけど、先に行っててって言って急に引き返して……」
「気を付けろ」
「ゆっくり降ろせ」
男たちの掛け声とともに黒焦げになった遺体が降ろされてきた。
瞳孔の開いた三上の目は、運ばれる遺体の左手の薬指を捉えていた。
「指輪……そうか、着けてくれたんだな……そっか……それで……取りに戻ったんだな」
おばちゃんは三上の独り言の内容から状況を察し涙を流した。
「指輪なんていくらでも買えるだろうがぁ、何で取りに戻ったんだよ」
三上はかぶりを振り「死んだら元も子もないだろうが……」と呟き天井を仰ぎ見た。
焼けただれた天井に残された壁紙が滲んでよく見えない。
「おばちゃん、ハンナは何処に連れていかれるのかな?」
涙を見せるのは男らしくないと必死に涙を見せないように首を上げ続ける三上を見ながらおばちゃんは「霊安所」と短く言った。
「ありがとう、後でいかないと……」
「三上さん」
「おばちゃん、生前、ハンナに色々と気を使ってくれてありがとう」
そう呟き、崩れた階段を上り二階へ上がった。
「こんなわかりやすい場所に俺が隠さなければ」
自分に対して怒りを隠そうとせずに壁を殴り続けた。
「ちくしょう、ちくしょう」
拳から流れる血をそのままに、ハンナが倒れていただろう場所に移動する。そこだけ床があまり焦げていなかった。
「きっと、ここだな……」
三上は謝りながら愛おしそうに床を撫でて、その場に腰かけてはまた撫でているうちに小さな箱がその手にぶつかった。
奏でることを止めたオルゴールの箱を持ち上げると、最後に触ったであろうハンナのぬくもりが伝わって来るよう感じられた。
「ハンナゴメンな」
「俺、一回ロケットでハンナに命救われたのに……俺は助けられなかった」
「返さないといけないよなぁ……」
そう言うと三上は天に向かって嗚咽をまき散らした。
日が傾くまで……ずっと……。
三上飛行場に現れたのは、日が落ちてしばらくしてからだった。
「……ハンナ」
うつろな目で愛騎に目を向けると、その視線の途中ある四騎の暁星に目を止めた。
「……秋川たち、来てるのか?」
とぼとぼとおぼつかない足で暁星に歩み寄る。
「発動機が名誉じゃないから、ハハッ秋川たちのだな」
「魚雷まで積んどる。噴進だから浮遊空母用……か」
ふらふらっと自騎にまで歩み、騎体に魔力を注入すると発動機にその魔力が伝わると同時に各計器・設備にもエネルギーが伝わって薄暗く光がともった。
「敵浮遊空母見ゆ、方角南南東――」
「!!」
三上の見開かれた眼は無線機に注がれた。
「今晩も、爆撃の恐れあり……」
「秋川に手紙書いとくか」
ポケットからハンカチを取り出し短い釈明を書き、愛騎だった青電に括りつけた。
「これでよしっと」
青電を二度ほど優しくさすると「今までありがとう」と呟き、三上は元来た道を全力で戻る。
「秋川……スマンな……借りるぞ……返せないけどなぁ」
三上は海の暁星に飛び乗り、緊急の発動機始動スイッチを押す。
「動いてくれ」
二度三度押すうちに、魔力が供給され始めた。
「よし、いけるいける」
スロットルを開くと、ゆっくり、そして着実に騎体が前に出て、どんどんと速度を増してゆく。
「流石に重いなぁ」
滑走路ギリギリのところで騎首を持ち上げると、スゥっと騎体が上昇し天空の人となった。
「……ハンナ……仇、討ってやるからな」
三上は地図と懐中魔灯を取り出し敵空母のおおよその位置を割り出す。
「夜間なら見つからずに近づける」
通常ならそうなっていただろうが、この日の幸運の女神は三上に向いてくれなかった。
「こちら、ツェッペリン航空隊。所属不明騎が一騎魔探に写っている」
「ツェッペリンより、偵察騎等当艦より出したる記録なし、そちらで対処されたし」
「了解」
爆装したFM一九九が三騎、爆撃隊より離れ魔探を頼りに三上騎に近づく。
「真っ暗で何も見えないが、私がそれらしい場所へ威嚇の銃撃を加える」
「我らは?」
「まあ、聞け。もし味方なら、撃たれたと気付いた時に味方だと合図を出すだろう」
「合図を出さなかった場合は?」
「落とせ」
三上の方も、自分以外の発動機の音を見逃さず、見つからないように騎体の高度を下げる。
高度計と睨めっこをしギリギリの高さまで下げてゆく。
(たのむ、見逃してくれ、神様仏様)
その願いも空しく、周囲に魔銃が降り注ぐ。
「ばれたか……」
速度を目いっぱい上げ、振り切らんと試みるも。
敵戦闘騎が空中戦をするために捨てた爆弾の爆発音が後方より響き、周囲が一瞬だけ薄暗く照らされた。
「……いた」
敵機は次々と三上騎を上から攻撃するも、三上は暗闇を巧みに利用し敵の攻撃を避け続けた。
「しつこい、いい加減にしろ」
FM一九九は、頭を円を描くように動かして、広い範囲に弾をばら撒き始めた。
「敵はあてずっぽうで撃ってるな、騎体をずらしてどうにかするしか……」
と、その時、暁星の魔力枯渇を示すランプが
「あそこだ」
FM一九九は、小さく点灯したランプ目掛けて魔銃を叩きこむ。
「うっ……」
そのうちの一発が、三上の体を貫いた。
「ちくしょう、あんな奴ら、青電ならすべて叩き落とせるのに!」
三上の目には、どうにもならない現状に対する憤りが溢れ出てきた。
その後も敵騎は容赦なくランプに魔銃を叩きこむ。
「ハハッ、ザマァねえな」
操縦席は血で染まり、三上は意識をもうろうとさせながらも首から下がるロケットを取り出した。
パカッ
すでに感覚の失われた指でロケットを開けると、そこにはいつもと変わらずに嬉しそうに笑った姿で収まっているハンナがいた。
「……ハンナ……ゴメンな……仇……討てな……かっ……」
ドゴーン
激しい衝撃音と共に水面に一本の柱が上がった。
まるで、墓標のように……。