俺たちゃ翔陽天空騎士隊~第二次サマイルナ大戦空戦記   作:クワ

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別れ

 甲板に出ると、日はとっくに落ち、整備兵たちがカンテラだよりにホウキの整備をしている。

 

「お疲れ様。夜は冷えるね」

 

 愛騎(あいき)の整備をしている兵に優しく声をかけ反応を伺う。

 

 整備兵はチラリとこちらを一瞥(いちべつ)し、再び機械に視線をもどす。

 

「中尉、お疲れ様です。他の方々の事はお伺いしております。無事で何よりです」

 

 整備用のマシンオイルのにおいが漂っており、風が吹くと刺激臭が漂う。

 

「かなり攻撃を食らったが大丈夫そうか」

 

 視線を遠くに向ける。

「とりあえず問題ないですよ。騎体に被弾はありませんでしたし」

 

「それは助かった」

 艦橋(かんきょう)の方で身分の高い人間が来たのだろうか、士官の人たちが頭を深々と下げている。

 

「あれ、誰かきたのか」

 整備兵は横目で艦橋を見て答える。

 

「ああ、先ほどクィーンエレインからお偉いさんが来てましたよ」

「お偉いさん?」

「会議か何かじゃないですか」

 

 関心がないのか投げやりな言葉を返して、再び工具を動かし始めた。

 

(あれは)

 煌々(こうこう)と明りのついた艦橋から現れたのは、クィーンエレインの艦長ジェームズ・マナンプトン公とお付きの参謀が数名それに雲鳳の艦長の山木中将だ。

 

 しばらく興味本位で眺めていると、若い少女が出てきた。

(あれは......ジェームズ公の愛娘マーガレット――だったかな)

 

 今日は何の会議だったのだろうか。

 場合によっては明日の朝一に新たな作戦の指令があるかも知れない。

 

「寝るか」

 

 ゆっくりとした足取りで寝室に向かって歩き出した。

 

「また、いつものように朝は来る」

 

 まぶたの上に降り注ぐ光に催促され、少しばかり名残惜しそうに眼を開ける。

 

「ふあぁ」

 両腕を上げ力強く伸びていると、集合のラッパが鳴り響いた。

 

「そら来たぞ」

 

 昨日の甲板の一連を思い出し、ベッドから跳ね起き、足早に支度をして、集合場所へと急ぐ。

 

「なあ、聞いたか?」

「何を」

「昨日の被害が思いの外多かったから、補充のため戻るらしいぞ」

「それはいいな」

「このまま減った人数で他の作戦をすれば被害が余計増えるからな」

「ああ、数は正義だ」

 数歩先行している天空騎士達がそのような取り留めもない話をしていた。

 

(......)

 

 甲板に出るとすでに大多数の兵は並んで待っている。

 

 最後尾の兵がバタバタと定位置に並ぶのを確認すると、参謀の一人がおもむろに口を開いた。

「この度の作戦は勇敢なる我が軍の天空騎士団が敵港及び敵艦隊に多大なる被害を与えることに成功した。しかしながら我が軍も少なくない被害を出し、連続の作戦続行は難しいとの結論に至った」

 

 ざわざわと周囲が喧騒に包まれる。

 

「ウォッホン」

 

 周囲が再び静寂に包まれる。

 

 参謀は言葉を続ける。

旗艦(きかん)のクィーンエレインに戦闘可能な部隊を集め、戦闘不可部隊は雲鳳に集める」

 

 再び周囲から小声での会話が始まる。

 

「割り振りは昼までに出す。以上」

 言い終わると参謀達は早足に艦橋へ去っていった。

 

 解散後、みな思い思いで話し合っている面々を横目に、医療室へ向かう。

 

「よう、三上」

「おう、秋川」

 

 白い部屋の中はベッドが所狭しと並べてあり、三上は奥の方のそれに寝かされていた。

 

「三上、今参謀から話があってな......」

「知ってる。艦内掲示があったよ」

 

 三上は愛おしそうにロケットの写真を眺めている。

「その人がハンナ?」

「ああ、まあな」

 

 三上は素早くロケットの蓋を閉めて、顔を上げて照れ笑いをした。

「ロケット無くさないでよかったな」

「ハンナが助けてくれたんだ」

 

 三上は視線をロケットに移し、優しく微笑む。

「このロケットがな、弾を防いでくれたんだとよ。無かったら心臓に弾が当たっていただろうって」

 

 三上の声が、少しばかり涙声に変わる。

 

「秋川、奇跡ってものは必ずある」

 三上は目をつむり、まるで独り言を言っているかの如く語りかけてきた。

 

「恋人の写真が入ったロケットは幸運の御守りとは聞いたことがあったが、まさかこんな事があるとはな......」

 

「三上......」

「秋川、俺は戻ることになるだろう。そうなったらハンナにお礼を言うつもりだ。お前も何らかの心の支えを持った方がいい」

 言い終わると、三上は海の目を見て軽く微笑んだ。

 

 日が傾き始めた頃、移動組の割り当てが発表された。

 再び三上の元を訪れる。

 

「三上......俺はクィーンエレインに移動になった」

「出発は明日の一〇時だ」

 

 部屋の壁が、徐々にオレンジ色に染まってゆく。

 

「俺たちの分まで頑張ってくれよ」

「ああ、また一緒に戦おうな」

「任せろ。待っていろよ」

「ああ、待ってるぜ」

 

「あっ、海ちょっと待ってくれ」

「どうした」

 部屋を出ようとしたところ三上に呼び止められた。

 

「隊長からの預かりものだ。持って行ってくれ」

 携帯用の所々メッキの剥がれた置時計。

 時をゆっくりと進めている。

 

「時々寝坊をするもんだから借りてたんだ」

 そう言って三上は時計を差し出した。

 

「いいのか?」

「ああ、結局形見分けになっちまった」

「ありがとう」

「またな」

 

 三上に別れの挨拶を済ませ、医務室を後にして自室へ戻る。

 空母移動のため、これから荷物をまとめなければならない。

 

「さらばだ」

「お前もがんばれよ」

 

 そんな挨拶が至る所で聞こえる中、思い出の荷物をカバンに詰めていく。

 

 一冊のノートを何気なく手に取り、パラパラとめくった。

 

 そのノートは海が幼少期より祖父から聞いたこと質問したことなどをつづっていったもので、今となっては何を書いたのかよく分からないページもある。

「おっといけない。片付けないと」

 

 整理作業を再開する。

 その日は、深夜まで喧騒が尽きることは無かった。

 

 日が変わりバタバタと忙しい一日が始まった。

 

 食堂で朝食を取っている合間にも色々思い出が沸き上がる。

 荻野隊長の事、三上の事、他の仲間の事。

 

 食事を終えると、いったん部屋に戻り、航空靴に履き替える。

 

 この靴は裏にタイヤとブレーキが付いており、離着陸(りちゃくりく)の際はこの靴を履き裏のタイヤで滑走(かっそう)をする。

 

 止まる時にはブレーキをゆっくりかけて徐々に止める。

 

 急ブレーキをかけると前のめりに倒れ瀕死(ひんし)の重傷を負うことになる。

 

 履き替えると、荷物片手に甲板へ向かった。

 

 今日は天気が悪く、重い雲が天を塞ぎ、しかも雨がしとしとと降り注いでいる。

 甲板にはクィーンエレインの負傷兵たちの一団が到着していた。

 

「結構いるな」

 

 向こうにどれだけの天空騎兵が残っているのだろう。

 

 彼らを横目で見やりながら整備兵の所へ愛騎を取りに行く。

 

「中尉、お疲れ様です」

 

 別れなどまるで無いような様子で、いつもと変わらずに淡々と作業をしている。

「こちらですね」

 俺の愛騎ではないホウキを差し出された。

 

「これじゃないだろう」

「いいえ、中尉はこちら暁星(ぎょうせい)に変更になっております」

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