俺たちゃ翔陽天空騎士隊~第二次サマイルナ大戦空戦記   作:クワ

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小さき複座の仲間

 大佐にきいた自室に行くと、小さな窓がある薄暗い部屋に、緑のスチール製の二段ベッドが四つほど詰めこんである。

 

「えっと俺のベッドはっと」

 

 ベッドには名前が書いてあり、どうやら一番奥の下段ベッドがそうらしい。

 

「色々つかれたな」

 

 荷物を放り込むと、身体をベッドに預けてゆっくりと目を閉じた。

 

「うんしょ、うんしょ」

 

 子供らしき声が上から聞こえ、何者かが上のベッドから降りてきた気配を感じ、目を開いて気配の主を見やった。

 ベッド横には子犬のような眼をした桃色の髪の少女が、興味ありげな顔をしてこちらをのぞき込んでいた。

 

(この()が複座手か)

 慌てて体を起こすも上段のベッドの天井に頭をぶつける。

 

「痛つぅ」

 

「おわ、だ、大丈夫ですか」

 

 心配そうなまなざしに変わった少女の頭を軽く撫でて大丈夫だと伝えた。

 

「こ、こ、こんにちは。私、ミア・ベルンシア。あなたは」

 

「俺は、秋川海」

 

「わあ、隊長さんだ?」

 俺の階級章を見て驚きの声を上げる。

 

「依然組んでいた人は違ったのか」

「うん、二飛曹さん」

「......そうか」

 

 少しばかり不快な感情が湧いてくるも、必死に押さえつけて笑顔を作って話を進める。

 

「その、二飛曹さんはどうしたのかな」

「前の攻撃の時に撃たれてケガしちゃった」

 

 寂しそうな顔をしていることからして悪い関係で無かったのだろうと想像した。

 

「ランスフィッシュだっけ。乗ってたの」

「うん......」

 よく生きて帰れたものだ。

 

 ランスフィッシュは旧式騎で反応はいいのでBボート狩りでは活躍しているが、その一方速度が遅く戦闘騎からしたらカモにしやすい騎体だ。

 

「他の兵隊さんは?」

 この部屋には俺とミアしかいない。

 

 ミアは寂しそうに首を振った。

「みんなやられちゃった」

 

(そういえば、騎種変更の理由は攻撃隊が足りないって参謀が言ってはいたな)

 

「他の人が来るよって話は聞いたことあるかな」

「よく、わからない」

 

 困ったような表情を浮かべ固まるミアの頭を撫でつつ視線を合わせ優しく語りかけた。

 

「パパやママは元気なの」

「パパ、ママいない」

 

 ミアは目に涙を溜めてうつむいた。

 

「ゴメンな。分からないことや話すのが嫌なこと聞いちゃって」

「え、ううん、大丈夫」

 

 ミアは謝られたことに困惑し、感情を隠して返答した。

 

「この船のこと、まだよくわからないから案内してもらっていいかな」

 そう切り出すと、ミアは「うん、いいよ」とはにかんだ笑顔を浮かべた。

 

 それから数日間は、ミアに教えてもらいながら、艦内を歩いてどこに何があるかを把握することに努めた。

 

 その後のある日。

「ん、どうした」

 あの日以来、ミアはヒナが親鳥についてくるかのように後をついてくるようになった。

 

 小さな歩幅でチョコチョコついてくるのは可愛らしいのだが、こちらが歩く速度を上げるとミアは走らなければならず危なっかしいので、そこだけは気を使わなければならず、また移動も必然的にゆっくりとなりそこは閉口(へいこう)した。

 

 魔探に敵影(てきえい)

 

 突然の警報で艦内(かんない)が騒がしくなる。

 

 俺はおろおろしているミアを抱きかかえ、自室に駆け込み靴を履き替えて、整備兵の元へ向かう。

 

「暁星で出るのですか」

「ああ、コイツは戦闘も試せるし、念のためだ」

 

 怪訝(けげん)そうに聞く整備兵から、暁星を受け取り甲板へ向かう。

 

 階段を駆け足で登り甲板に上がると、次々と迎撃隊が離陸していた。

 ミアを床に下ろし、暁星にまたがる。

 

「ミア、後ろに乗って。行くぞ」

 

「うんしょ、うんしょ」

 

 頑張って乗ろうとしてはいるのだが、身長の問題でどうにも乗れないようだ。

 一回床近くまで暁星を降ろす。

 

「届いたぁ。 うんしょ、乗れたぁ」

 

「ベルトを締めろよ」

 

 伝えると同時に後方からカチャカチャとベルトを締める音が聞こえてきた。

 

 戦爆連合(せんばくれんごう)およそ三十。

 発艦のための飛距離を稼ぐために甲板ギリギリまで移動し、周囲を見回す。

 

「秋川騎出ます」

 

 発動機に徐々に魔力を送り込み、出力を上げていく。

 

 速度が徐々に上がり、甲板に引かれたラインを過ぎ去る時間が、どんどんと短くなってゆく。

 騎体に体を預け、ゆっくりと空に浮かぶ。

 

「ミア、飛んだぞ」

 

 緊張したミアに声をかけて安心させながら迎撃に備え高度を稼ぐ。

 

 通信から逐一敵の報告が入る。

 

 敵は陸上騎(りくじょうき)を主体とする部隊らしい。

 

 タカタカタカ

 魔銃の試し撃ちをして故障がないか確認する。

 

 ミアの複座銃から試し打ちの射撃音が聞こえてきた。

 

 時刻は昼前だったろうか。

 天気は悪くないが、空には白くて厚い雲が立ち込めあまり視界は良くなさそうだ。

 

 そろそろ高度七〇〇だ。

 

 雲の合間から味方騎が顔を覗かせている。

 

 敵騎、高度六〇〇。

 

(こちらは単騎だから、無理に突っ込んだら相手に喰われちまうな)

 

 先手をスチューザンの部隊に取らせる事にして、こちらは後をついてゆく形をとる。

 

 予想外にも青電の小隊が先行し、サイクロンの部隊が続く。

 

 青電隊が敵の双発騎(そうはつき)に射撃を加え、炎上して脱落しているのが見える。

 

 敵の護衛騎は、こちらの爆撃騎に群がる戦闘騎を追い払うのに手一杯でアタフタしており、周囲に気をつかっている余裕はなさそうだ。

 

「ミア掴まれ、ダイブをするぞ」

 ミアにそう声をかけると、護衛隊の一騎に的を絞り、急降下する。

 

 敵機を標準器に捉え、素早く射撃する。

 

 敵の天空騎兵は、お前が打ったの? というような不思議そうな顔をしながら落ちていった。

 

 同じように二騎目にも射撃を喰らわせて落とす。

 

 周りを見渡すと、敵に追われているスプライトディーバが目に留まった。

 

 高度を上げつつ少しずつ近づく。

 どうやら敵は攻撃することに夢中になってこちらには気づいていない。

 

 ひょっとして眼下の敵のように背中に敵騎が喰いついているかもと思い、背後を確認する。

 

 ミアが意気込んで銃を構えている。

(そう言えば、後ろにいるんだった)

 

 視線を前に戻し、速度を上げて敵機にジリジリと近づく。

 標準器の真ん中に入れられているにも関わらず、まだ気付く気配すらない。

 

「もらった」

 

 射撃音と共に命中した敵が吹っ飛び、ホウキと一緒にバラバラになって落ちていった。

 

「周りの護衛はあらかた片付いたな」

 

 双発騎を攻撃するために高度をとりつつ確認すると、爆撃隊の双発騎がのこり十騎ほど退避行動を行っており、それを味方が追いすがって攻撃をかけるも射撃角度が足りないのか、なかなか攻撃が当たっていない。

 

 ミアに攻撃すると伝え、十分な角度から垂直にダイブする。

 タカタカタカ

 相手の右の発動機に射撃を加えて火を噴かせた。

 

 通過後、敵を確認するために振り返ると、ミアが必死に炎上した発動機に射撃を加えていた。

 

 と、瞬間。

 バンという爆発音とともに、双発騎の翼がもげてこちらに向かってくる。

 

「やばい」

 騎体を逆方向に一気に切り替えて、風魔法を全力で唱える。

 

 かろうじて落下してきた翼を回避できた。

 

「危なかった」

 ほっと胸をなでおろしミアを見ると、落ちてゆく敵騎を不思議そうに眺めていた。

 

 再び高度を上げてみるも、敵騎は雲に紛れながら必死に退避を続け、やがて見失ってしまった。

 

「見てましたよ。暁星は独特な形をしているからすぐにわかります」

 

 整備所に着いて早々翔陽の整備兵が弾んだ声を発しながら近づいてきた。

 

 それににこやかに手を上げ答える。

 整備を頼んで騎体を引き渡し、ミアと共に自室へ引き上げようと階段を下りたところ、マーガレット侯爵令嬢(こうしゃくれいじょう)がその場で誰かを待っているかのように佇んでいた。

 

 突然の事で驚くも、かつて習った上流の挨拶を記憶の隅から引っ張り出して挨拶を行い通り過ぎようとした刹那(せつな)、緊張した面持ちで声をかけられた。

 

「今日は、私の事を救っていただきありがとうございました」

 

 一瞬理解が追い付かなくなるも、敵に追われていたスプライトディーバの事かと想像を巡らして、丁寧な口調で言葉を返した。

 

「敵に追われていたスプライトディーバは貴方(あなた)だったのですか」

 

「はい、皆を救おうと上がったのはいいものを、足手まといになってしまいました」

 

 そう言って申し訳なさげに(うつむ)いた。

 

(これが貴族の義務というヤツかな)

 

 そう考えると令嬢も大変だ。

「いえ、その慈悲(じひ)と勇気は称賛(しょうさん)されるべきではないでしょうか」

 

 こちらも紳士らしく賛美(さんび)の言葉を送った。

 

 令嬢は驚いたあと、嬉しそうにはにかんだ微笑みを浮かべ見つめてきた。

 

「お嬢様、どちらにおわしますか」

 

「......申し訳ありません」

 

 遠くから令嬢を呼ぶ女性の声が聞こえるやいなや、真顔に返り謝罪の言葉を残して早足に去っていった。

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