俺たちゃ翔陽天空騎士隊~第二次サマイルナ大戦空戦記   作:クワ

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新しい僚騎たち

 部屋に戻りベッドに横たわると、どっぷりと疲れに襲われた。

 

「今日は色々あったな」

 

 無性にお酒を体に入れたくなり荷物をまさぐる。

 

 探し当てたスキットルの中身は入っておらず、カランカランと空虚(くうきょ)な音を(かな)でた。

 

(仕方ない、買ってくるか)

 

 財布をポケットに詰めて、売店に行こうと部屋をでる。

 

(この角を曲がると売店だったな)

 

「いらっしゃい」

 店員が愛想よく答える。

 

「ブランデーは置いてあるかな」

「ブランデーは無いな。ラムならあるよ」

「あはは、さすがスチューザンだね」

「おお、そうよ」

 店員が威勢よく胸を叩く。

 

「じゃあ、二本いただこうか」

「毎度あり。そっちのお嬢ちゃんも何か買うかい」

 振り返るといつの間にかミアが付いてきていた。

 

 物欲しそうにチョコレートを見ていたが、買えないのだろうか寂しそうな表情に変わった。

「追加でチョコレート二枚」

「あいよ」

 

 ミアの顔が羨ましいと訴えている。

「支払いは軍票(ぐんぴょう)で」

 財布から数枚の紙幣(しへい)を取り出す。

「あい、毎度あり」

 

「ほら、ミア」

 買ったチョコレートの一つをミアに手渡した。

 驚き顔から満面の笑みに変わり、貰ったチョコレートを眺めては、カバンにしまうか少し食べようか迷っているようだった。

 

 自室への帰路の途中、ミアにふと頭に浮かんだ疑問をぶつけてみた。

「ミアはお金持ってないのか」

「......うん」

 俯きながら途切れ途切れに答える。

 

「前は、天空騎兵さんがお金を貰ってくれてた」

 何となくついてくる理由が想像できた。

 

「その天空騎兵さんはどこで貰ってたの」

 聞いた場所にミアと共に向かうと、経理担当の兵が手持無沙汰(てもちぶさた)そうにまどろんでいた。

 

「すまない、ちょっと聞いていいか」

 先ほどミアから聞いた話を()(つま)んで話した。

 

 男はすぐに事情を察したらしく、申し訳なさげに説明を始めた。

「その子の保護者――まあ先任の天空騎兵だな。酒とギャンブルが好きで......まあ、あれだ、使い込みってやつだ」

 

「どうにかならないのか」

 男はため息をつき答えた。

「今月分はもう渡してあるんでね。申し訳ないが無理ってやつだ」

「わかった......来月の給金の支払い日はいつだ」

「給金は結構ズレたりするから、支給日になったら嫌でも配るよ」

「了解、ありがとう」

 経理の男に礼を述べて、ミアと共にその場を後にした。

 

「ミア、今の話聞こえてた」

「うん」

「来月までは大変だろうが、欲しい物がある時は言ってくれ。ちょっとした物なら買ってあげるから」

 ミアは申し訳なさそうに俯き、「ありがとう」と小声で答えた。

 

 それから数日後、新たに二騎の天空騎士と銃撃手が配属されてきた。

 

 皆、来て早々移動後の整理などそれぞれ作業をしているが、小窓に夕日が注ぎ込む時刻になり、そろそろ頃合かと思い皆に集まってもらった。

 

「初めまして、お互いの事を知るためにもそれぞれ自己紹介をしてもらおうと思う。ちなみに俺は、秋川 海。そしてこっちが......」

 

 緊張してモジモジしているミアを前に押し出した。

「ミ、ミア・ベルンシアです。よ、よろしくお願いします」

 

「ダリー・カーライルです。まだ新兵ですがよろしくお願いします」

 

 まだ十代後半位の少し頼りなげな青年が名乗る。

 

「ケイト・パルティナよ。よっろしくぅ」

 

 明るく元気な機銃手が茶目っ気たっぷりに照れ笑いをした。

 

「あー、スカーレット・ショーン。まあ、よろしく」

 

 二十代半ば位のショートカットの女性が、頭を()きつつ気怠(けだる)そうに話す。

 

山藤 夏子(やまふじ なつこ)です。機銃手を行っております。以後お見知りおきを」

 おかっぱ頭の少女が、微笑を浮かべながらそつなく挨拶をする。

 

「ありがとう、各自解散してそれぞれの作業を行ってください」

 

「お疲れさまでした」

 

 各自解散して各々のやるべき作業に返っていった。

 

 数日後、航行中にもかかわらず各隊が出来る範囲で訓練をすることが決定された。

 我が隊は、秋川騎を先頭にスカーレット騎が左。ダリー騎を右にと決められ、巡行速度(じゅんこうそくど)および戦闘速度での飛行訓練と空中魚雷発射訓練・急降下爆撃訓練を数日にわたり行うこととなった。

 

「この暁星ってヤツ、かなり早いな」

「そうですね、巡航速度でもランスフィッシュの戦闘速度より早いです」

 スカーレットとダリーは驚き、興奮して話し合っている。

 

 空中魚雷発射訓練に移行する。

 空中魚雷とは、魔法で回転するスクリューが付いている水中魚雷と違い、ホウキと同じように魔力を噴出して飛ぶように作られている魚雷だ。

 魔力は内部にある魔導石(まどうせき)から供給され、石の魔力が尽きると止まって落ちてしまう。

 

 魚雷を発射する直前に魔導石を発動させるのが重要で、これは水中魚雷も変わらない。

 また、魚雷は直進しかできず、追尾機能(ついびきのう)などないため、ある程度接近しないと命中は見込めず、接近するからには敵艦の集中砲火を受けることになり、一番先頭の隊長騎に当然火力が集中する。

 

 それほど隊長騎は心臓に悪いポジションだったりする。

 

「隊長、大丈夫か?」

「隊長、次があります」

 

 士官学校時代以来の雷撃訓練はなかなか上手く当たらずに周囲をやきもきさせたが、数日訓練すると多少は様になるようになった。

 

 数日後、雲鳳と別れてスチューザンの王都に向かうために北上を進める艦にちょっとしたアクシデントが襲ってきた。

「凄い雷雨だ!」

 窓を叩きつける雨を見やり、本日の予定の訓練の中止を確認し各隊員に触れて回る。

 

 ――ゴロゴロ――ピカリと雲の合間から雷が光り少しばかりの恐怖心を呼び覚ます。

 室内灯は敵の目を誤魔化すために薄暗く、今日のような天気では、とても読書などできるものではない。

 手持ち無沙汰になり、運動も兼ねて艦内を散策することに決めて懐中魔灯(かいちゅうまとう)片手に廊下に出た。

 

 艦内が暗いためか、人がほとんど出歩いておらず、食堂や売店から帰ってきたであろう人間とすれ違う位である。

 

 ドカーン

「うお、当たったか」

 

 艦に雷が当たったのだろう。室内灯が一斉に消え、一瞬にして漆黒(しっこく)に包まれた。

 

 艦内に現状把握(げんじょうはあく)の騒ぎ声が広がるも、みなが何かを知ろうはずがなく、騒ぎ声が段々と大きくなっていった。

 

 持ち合わせの懐中魔灯に魔力を込め光らせると、幼少期の探検を思い出し、再び歩み始める。

 暗闇で何も見えず、その壁際で顔を引きつらせて座っている見知った顔を見かけた。

 

「あれ? ソフィアさん」

 

 明りをそばに向けると、ソフィアは顔をほころばせてゆっくりと立ち上がった。

 

「秋川さん、助かりました。明りが消えてどうなる事かと考えてしまいました」

 ここでソフィアを置いて素通りという訳にはいかないだろう。

 

「もし、よろしければ部屋まで送りましょうか」

「本当ですか、ありがとうございます」

 

 ソフィアはにこりと微笑み、(かたわ)らに寄ってきた。

 

「ソフィアさんの部屋の場所を存じ上げないので、よろしければ教えていただけますか」

「はい、分かりました、お願いします」

 

「あ、そこ左です」

 

「ところで、秋川さんはなぜあそこにいらっしゃったのですか? 私はベアトリクスに頼まれて配給の洗剤を頂きに倉庫にお伺いするところで、いきなり雷がなったかと思うとそのまま明りが消え――」

 

 ソフィアの道案内を聞きながら廊下を歩きだす。彼女は暗闇がよっぽど怖かったのか、しきりに言葉を紡ぎだし、紡ぎだすだけではなく身振り手振りをしきりに入れるので、前に話した時の彼女とのギャップが面白く思わず笑ってしまった。

 

「今、そんな面白いこと言いましたか?」

 俺の顔を見てきょとんとする彼女がまた小動物のようで可愛らしい。

 

「前に話した時とはちょっと違う印象を受けたもので......」

「あら、ふふふ」

 ソフィアは含み笑いを浮かべて誤魔化す。

 

(あれは......たしか......)

 廊下には、ノワルドの部隊にいた会話をしなかった男が煙草を燻らせていた。

 

「あら」

 ソフィアも気付いたらしく、声をかけようと近づくも、男はその気配を察して早足で去っていった。

 

「あの方は、たしか同じ騎士隊の方でしたよね」

 視線をソフィアの方に向けると、ソフィアは「ホウィットマンさんです」と彼が去った先を眺めながら答えた。

「......あの方は、あまり人と接したがらないですから......」

 ソフィアは誰に言うでもなく呟いた。

 

(ここは、話題を変えた方がいいかな)

 

「俺、ベアトリクスさんから嫌われているみたいなんだけど、何かやったのかな」

 ソフィアは視線をゆっくりとこちらに向ける。

「気にしないでください、あの子はいつもああいう感じですから」

 少しばかりむくれた声とは裏腹に、軽く微笑んだ。

 

(少しは気が紛れたかな)

 

 海は安堵しつつソフィアに部屋の行き方の続きを尋ねた。

「あ、そこを右にお願いします。そこからすぐお部屋に着きます」

 

「ちょっと、ソフィアどこまでって――なんでアンタが一緒なの!」

 廊下を曲がると、そこには天敵ともいえる見知った顔が出てきており、友好的とはとても感じることができない視線で、俺を激しく威嚇(いかく)してきた。

 

「アンタ、ソフィアに何かしてないでしょうね!」

「何もしてないよ。暗くて帰れないようだから送っただけ」

 ウンザリした返答を投げつけ踵を返しその場を後にする。

 

 「お、送っていただきありがとうございました」

 背中からソフィアの声が届いた。

 

「ばからしい、部屋に戻るか」

 

 ポケットからスキットルを取り出し、ラムを口に含む。甘い香りとアルコールの刺激が口に広がる。

 

 外はしこたま雨が降りしきり、雷光が小窓より突き刺さってくる。

 部屋に戻ると、ミアとケイトが小窓から外を眺めており、夏子は不在、スカーレットからは小さな寝息が聞こえ、ダリーは上のベッドに小型のランタンを引掛けて読書をしているようだった。

 

 ベッドに体を預けて懐中魔灯を消す。

 色々考えを巡らせている内に睡魔に襲われて、抵抗せずそのまま目を閉じ、眠りについた。

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