剣豪の英雄譚 作:二天一流
「──全く、予想通りだな」
そう言って、西京寧音との"暇つぶし"を止めた女性は咥えたタバコに火をつけた。
現在、グラウンドの隅に設置されたベンチに破軍学園理事長、新宮寺黒乃を俺と西京寧音が挟む形で座っている。
俺は空を眺め、西京寧音はそっぽを向きながら口笛を吹き、理事長は口から紫煙を吐き出しつつため息をつく。
「嫌な予感が的中したから来てみれば案の定だな。寧音に話せば宮本に会いに行くのも予想できたし、宮本も誘われれば寧音が相手なら喧嘩を買うのも予想できた。私の判断ミスだ」
「そんなくーちゃんが心配しなくても程度は弁えてるつもりだっての。暇つぶしだよ暇つぶし」
「別にお互い全力を出してた訳じゃないからそんなに心配しなくても」
「よく言う。あのまま止めなければ互いにヒートアップしていたのは明白だろう。お前らが能力全開で戦えばここら一体は更地だぞ」
「「いやーそんなこと無かった思うけどなあ」」
西京寧音と言葉がハモる。
まあ楽しくなってたのも事実。
せっかく"門の前"まで来てたから開けたくなる気持ちもあった。とはいえ流石にやり過ぎないようには気をつけていた……と思う。
「はいはーい!話はおしまーい!腹減った、飯行こうぜー!」
「おい、勝手に終わらすな」
「わーわー、うるさいうるさーい。おいタケ」
「………………ん?あ、タケって俺の事?」
「おう、宮本武だからタケ。お前も飯食いに行くよな?」
ほんとに自由な人だな。理事長の顔見てみ?怒りと呆れと疲れを1つの表情で表してるぞ。器用な表情筋だな。
それにしても飯か。まあ昼時だしな。
「……ラーメンの気分、だな」
「ラーメンか。ここらで美味いとこってどこだ?」
「俺オススメありますぜ」
「おっしゃそこ行こか。くーちゃんも来ない?」
「はぁ……」
頭を抑える理事長。
なんだか大変そう。西京寧音とは昔からの知り合いっぽいしよくこうして振り回されていたのだろうか。合掌。
「行くわけないだろ。私は仕事がある」
「ちぇー。んじゃうちらだけで行くか」
「はあ、まあいいですけどね」
そんな返事をすると、俺の腕を掴んだ西京寧音ははね起きるようにベンチから飛び出した。
当然、俺も手を引かれる形で無理やり立ち上がらせられる。バランスを崩しそうになるが何とか耐えた。
「うし!道案内よろ」
そう言うと能力を発動した西京寧音は俺の手を引き空へと飛び上がった。
下を向けば呆れ顔でタバコを咥える理事長が。なんだか、"頑張れよ"と言われた気がした。あー、なんか"西京寧音係"に選ばれた感じするぞこれ。
「──ネギ味噌、ネギ追加で。あとギョーザ2枚」
「んじゃうちは味噌とんこつのチャーシューと味たま追加、半チャーハンも」
注文を終えると店員は厨房へと下がって行った。
コップの水を一口。冷たくて美味い。たかが水とはいえ、冷えていて尚且つ体を動かしたあとはどうしてこうも美味いのか。体の神秘だね。
視線を前に向ければ、ボケーッとスマホをいじる西京寧音が居る。
こう見るとほんとに中高生って感じの見た目だな。まあ、着崩した着物っていう中々独特な私服ではあるけど。
「あん?なんだそんな見つめて。
ニヤニヤとした顔で着物を指でズラし肌を見せてくるそんな彼女にため息をこぼしながら口を開いた。
「真昼間の真っ只中でそんなんだったら節操無さすぎでしょう。今は西京寧音さんの肌よりラーメンの方が魅力的」
「お?表出るか?喧嘩ならいいぞ?おら、おら」
テーブル下。足をブラブラさせて一本下駄で脛を蹴ってくる西京寧音。地味に痛い。
それを無視して取り出すスマホ。学園生専用のアプリを開き、本日の選抜戦の勝敗を確認する。
お、黒鉄とヴァーミリオンは順調に勝ってるな。
……ん?黒鉄がもう1人……ああ、妹だっけか。今年入学だとかなんだとか言ってたっけ?まあいずれ見に行ってみるか。
「……なあ、タケー」
「んー?なんすかねー」
「お前さー、"寂しくなったり"しねーの?」
「………………はい?」
何だこの人。いきなりすぎるだろその質問。
友達少ない俺に対しての嫌味かな?別に少ないけど友達いるし。黒鉄とか黒鉄とか黒鉄とか。
「あーっと……意図がよくわかんねんですけど…」
「……はっきり言うがお前の剣技、体術、魔力操作……全部ひっくるめた実力は学生で収まるレベルじゃねーのよ。リーグ選手にいてもおかしくないレベルだ。ぶっちゃけ敵無しだろ?」
「んー、まあ」
「だから寂しくねーのかなーって」
ふむ、なるほどな。
要は方を並べられる存在が俺にはいないってことか。その評価は普通に嬉しいな。今の時点でもリーグに通用することがわかってよかった。
それにしても寂しいか。
「……考えたこと無かったですねー」
「なに?孤高気取ってたりすんの?」
「うーん……俺は有名になりたいんですよ」
「……はあ?」
「強いヤツと戦って名前を売って。売って売って売りまくって、その果てに誰も俺を放っておかない存在になりたいんですよ。チヤホヤされたいし褒められたいし道も歩けないほどに集られたいんですよね。だから他はどうでもいいって言うか」
「とんでもねー承認欲求の塊だなオイ……」
呆れ顔の西京寧音。
なんて言うかこの話を他の人にするとみんな同じ反応するなあ。俺の考えってそんなに特殊か?
「それに……俺は誰にも負けるつもりは無いけどそれでも俺には持ってないものをみんなはそれぞれ持ってる。それを見るのは意外と楽しいですよ」
「見るっつーか盗んでるだろ」
「んーまあ、必要とあらば」
「けっ、ちゃっかりしてんなあ」
そう言って西京寧音は微笑み混じりの顔でコップの水を飲んだ。
納得して貰えたのか?
「お前は"楽しみ方"を見つけてんだなあ」
「………?」
「別に知る必要はねえよ。こっちの話だから」
しみじみと呟く顔に首を傾げる。が、答える気は無さそうだ。
まあいいや。教えたくないことを根掘り葉掘り聞く気もない。
「あ、あと」
「なんです?」
「西京寧音さんって呼び方やめろよ。なんかむず痒いわ。気軽に呼べ……あと敬語とかも要らねえよ。慣れてねえだろその口調」
「……そういうことなら遠慮なく」
西京寧音、もとい西京との距離は縮まったっぽい。
そんな中、運ばれてくるラーメン。
2人仲良く口に運びましたとさ。めでたしめでたし。
「ネギちょっとくれね?」
「やだよ。店員に言えばいいだろ」
「ちぇ、けちんぼ」
「ぷはあー食った食ったー」
「食った食った」
腹を満たし、あとは学園へ帰るだけ。
帰りは空の旅ではなく地面を2人仲良く並んで帰る。食後の軽い運動だな。
「あそこなかなか美味かったなあ」
「でしょ?オススメだ。常連になるといいぞ」
「なっちまいそーだな……太るかな?」
「毎日じゃなきゃいいんじゃね?」
会話がもはや友達だ。
食事中の会話で打ち解けられたってことだろう。やったね、友達増えた。
「新鮮だな。こういう時間は」
「なに?友達と遊んだことないの?」
「……まあな」
「………」
こっちの問いかけに少し寂しそうな顔をする西京。
ラーメン食ってる時にちょろっと話してたけど……なるほど、俺と似てるのかもしれんな。
「ま、察しの通りだ。家の友達ってくーちゃんしかいねーから」
「くーちゃん……理事長か」
「そ。学生の頃からの知り合いでライバル関係みてーなもん。でも…!考えてみりゃ一緒にこうした時間って過ごしたこと無かったなーって」
「ふーん」
「ふーんって……興味無さそうだなオイ」
「まあ、ぶっちゃけ」
「人間関係捨てすぎじゃね?」
そんなこと言われても。
まあ、実際こうして西京と過ごした時間は悪くはなかった。
たまには誰かと遊ぶのもいいか。
「ま、うちが言えた義理じゃねえか。うちもお前みたいに強さにしか興味なかったし、強いやつと戦うことが楽しみの学生時代だった。でも、時間が過ぎば思うが、友達との時間はもっと大事にすべきだ。お前だってまだ学生なんだしよ。青春ってやつだよ」
「おお、なんか先生っぽいな」
「先生だよ、これでもな」
そう言われ、思わず手で自分と西京の身長を比べてみる。
頭ひとつ分くらいは俺の方が高い。
胸だってぺちゃだ。ロリっ子教師?
さらに着崩した着物。肩も出してもはや痴女。花魁かな?
「おいテメエ、何が言いてえんだ?」
「痴女ロリでも教師になれるこの国の未来に不安を感じます」
「喧嘩か?喧嘩だな?よし買った」
そう言われ、すぐさま走り出す。
それを見てすぐに追いかけてくる西京。
喧嘩はいいけど街中だと理事長に怒られる。それに街の被害を考えたら理事長の胃が可哀想だ。
さっさと学園に戻って遊ぼう。
「ほーら、鬼さーんこっちよー」
「ははは……ぜってー殺す」
はー、怖い怖い。くわばらくわばら。
主人公のキャラが定まってない感じがする…?