2030年
人類は世界のほとんどを植物に奪われた。
寒星彩は大抵の物は持っていた。
富豪とは言わずとも、それなりに裕福な家庭。愛してくれる親、16歳とは思えない頭脳に加えて様々な分野に精通しており、
飛び級し海外の学校を卒業していた。しかし少女の目に映るのは白と黒の世界。身体的な病気などではない。
一種の心の病とは言えるかもしれない。
ただ、少女の生活はつまらないものだった。
それが、彼女の目を濁らせていた。
生まれたときから何にも困らなかったから。
生きていても、ぶつかるものが何もない。面白いことなんて、何もない日々だった。
親を愛していないわけでも、世界が嫌いなわけでもない。
ただ、何かが足りないだけだった。
少女の目に見える世界はあまりにも色がなく、
まるで白黒テレビのようだった。好きなものは本当に好きなのか。美味しいはずの食事も、ただの作業のように口に運ぶだけだった。
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「これは、世界の鮮やかさを知らない少女の物語。
そして――荒廃してしまった世界で、世界の鮮やかさを知っていく物語。」
世界は一瞬にして崩壊してしまった。
——あの日、私は空の上でそれを見ていた。
なのに私はまだ息をしている。
私の名前は、……寒星彩。
海外の学校を卒業し、帰国のため飛行機に乗っていた。
そのとき、窓の外から轟音が聞こえた。
何事かと周りを見ると泣き出す赤ちゃん、
焦りを隠せずにいる乗務員、
窓の外を青ざめた顔で見る人々。
私もつられて窓の外を覗くと街にある建物という建物が何かに突き破られ瞬時にして崩れ去るところを見た。
その中にはこの街のランドマークとも言えた、大きなビルがあった。高さで言えば中腹あたりにある大きな展望台を先ほど見た何かが突き破り隣の建物まで伸びている。
既にランドマークと言える状態ではなくなっているのが空からでも分かる。
空港の近くの高速道路は既に倒れており、
コンクリートの下からは何かが見えていた。
——世界は、一瞬にして変わり果てた。
辛うじて飛行機は着陸できたものの地上は完全に植物に支配されている。
こんなことになったのは、とある国の調査隊のせいだという話を偶然乗り合わせた人が持っていたラジオから少しだけ聞いた。
運よく植物に潰されなかった者。
地上にいなかったものが残ったこの世界で
私は何をするべきだろう。
〜数日後〜
この事態を調べ、生きるために試行錯誤しているうちに数日が経ってしまった。
この世界に降り立ってまず最初に考えたのは両親のことだった…。
「ここから家までは歩いてたら少なくとも数ヶ月はかかるだろうな…」
私は両親が生きていることを祈り、まずは自分のことを考えることにした。
この事態にまだ適応できてない人も多い中、私は
食料を探していた。
「…、この大きくなった植物たちは食べられないのかな」
私はそんなことを考えながらスーパーを漁っていた。
ふと隣に目をやるとそこには倒壊した建物に押しつぶされ下半身が潰れた死体があった。
私の目に映る世界はいつも通り白黒のはずだった。でもこの異様な光景はそんな世界でもはっきりと見えてしまった。
いや、違う。正確には私が見ようとしなかっただけだ。見ようと思えば色だって分かる。
それでも私が世界を白黒にして生きてきただけだ。
吐き気がこみ上げる。
それでも私はこの事実から目を逸らさなかった。
いや、逸らしたら、何かを捨ててしまう気がした。世界をどんな風に見るのかは勝手だ。
だが人の死を軽んじて良いわけではない。
一通り吐いた後、フラフラとした足取りで戻ろうとした時何かを踏んでしまった。
足元の感触に、一瞬だけ息が止まる。
——でも、それは違った。
落ちていたのは、一冊の本とペンだった。
どうやら目の前の人の物のようだった。
「………」少し安心感を覚えつつ。
本とペンを手に取り店を出て仮拠点としているところへ向かった。
「……これ、どうしようかな、」拾った本とペンを手にそう口にした。残念ながらあの本はただの本ではなく中が真っ白。本のような見た目のメモ帳だったのだ。
「ってことはあの人は何かを遺したくてこれを、」
色んな考えが浮かんだ。
誰に諭された訳でもなくただ本を開きペンを手にした。
「本を書きたかった訳でもないこの人の為に書きたい訳でもない…」
私はこの世界でたまたま生き残ったに過ぎない。
こんな世界で老衰だなんて無謀にも程がある。
こんな私でも、どうせなら世界に"私がいた証"を遺したい。
未来の誰かに私の存在を見つけさせたい。
そう思ったのかもしれない。
だから書くことにした。
拾ったこの本に、日本に帰ってきたときからのことを書き始めた。