たとえば家の中にラスダンが生えてしまった場合の対処法。 作:埃の山。
絶望しかない状況だが、生き延びるためには兎にも角にも動かなければならない。
数分ほどの致命的な停止だったが、運よくモンスターには見つかることなく。
正気を取り戻してからは、すぐに腰の中級回復薬で止血を試みた。
傷口を塞ぐため、血が出続ける左腕跡に中級回復薬を流した。
これで上級を使おうとも欠損が治ることはなくなった……けど、この際もう仕方ないだろう。
「……ふぅ、痛みがだいぶ楽になった」
効果が出るのは早いもので、あっという間に傷口が塞がり閉じた。
痛みが急速に消えていくのを感じながら、その場で一旦大の字になる。
……まぁ、左腕がないから正確には違うのかもだが。
「やらかしたなぁ」
危険度Ex、舐めていたつもりはなかったけど舐めていたんだろうな。
できる限り響かないように、小さくため息を吐いた。
とりあえず、一度安心できる場所に行きたいが……。
「
モンスターの寄り付かない特殊エリアがあれば生き残るのもだいぶ楽になるが、まぁないだろうなぁ。
今回は運良く生き残れたが、今後生き残れるかと言われればかなり怪しいと言わざるを得ない。
だから、俺の拙い迷宮知識でどうにか生存の道筋を探さなきゃいけない……が。
「……ふぅ、とりあえず。スキル確認するか」
そのためにも、さっきシステム音声で聞こえた獲得可能スキル……あとついでにステータスも見ておかないと。
……というか、よく考えたらこの場所で声を出すのって危険だよな。
できるだけ声は出さないようにするか。今更だけど。
横たわったままステータスと心の中で念じ、ステータスウィンドウを出現させた。
【新堂イズナ Lv2
ステータス
HP:31/78 MP:99/99
筋力:50(40) 防御:47(38)
魔力:55(44) 耐性:56(45)
敏捷:45(36) 幸運:36(71)
スキル
『迷宮鑑定Lv1』】
【獲得可能スキルは以下の通りです。
・『隠密Lv1』
・『生存Lv1』
・『トレインLv1』
・『敗者』≪ユニークスキル≫
※警告※
獲得可能スキルを獲得しない場合、経験値は返還されません
※注意※
ステータスに影響を及ぼすスキルが存在します:該当スキル『敗者』
該当スキルの影響を受けた場合の数値を()内に表示しています】
「待ってステータス下がるのかよこのユニーク」
思わず声を上げてしまい、思わず右手で口を押える。
静かにするってさっき決めたばっかだってのに……。
周囲を見渡して、なにも来ないことを確認して安心する。
しかし、ステータスが下がるユニークスキル聞いたことが無いぞ。
……ああいや、それこそ今更か。
このダンジョン自体、前代未聞の危険度Exなんだし。
……明らかに性能も特殊そうだし、最後に確認した方が良さそうだ。
(つっても他の三つについては答えなんて分かり切ってるんだが)
まず、隠密は名前通りの隠密行動に対する補正。
上位の探索者も結構の人が持っているスキルだし、それでなくてもテンプレスキル。
本当に名前通りのスキルだな。
次に生存、こっちは言ってしまえば「ダメージを受けても動きやすくなる」というスキルだ。
レベルが上がるごとに効果が上がるのも実証済み、父さんも持っている超有能スキルだ。
最後に、トレイン。これはどちらかというと犯罪的なニュアンスが多いスキル。
ヘイトを集めて他者へ擦り付ける、そういうスキルになるな。
ゲームで言うMPKができるということで、黎明期に色々悪用されていたらしい。
(隠密と生存は絶対取得、トレインに関しても……まぁ見栄えは悪いけど、モンスターの同士討ちとかに使えるから絶対取得だな)
まぁ、だからこの三つは特に問題はない。
全部有名なスキルだし、ここまでは別にいい。
【『隠密Lv1』『生存Lv1』『トレインLv1』を獲得しました
残りの獲得可能スキルは『敗者』です】
だから問題は、これだ。
(どういう効果だよこのスキル。なんでステータス下がる……まぁ幸運は上がるっぽいけど)
そう思いながら『敗者』のスキル効果を確認する。
ステータスウィンドウってこういうところは親切だよな。
スキルの効果とか、獲得前に一応調べられるんだから。
まぁ、最も効果はだいぶあやふやな記載になる──
【『敗者』≪ユニークスキル≫
完膚なきまで敗北した者のスキル。その者は勝つことを諦めた。
・幸運以外の基礎ステータスが2割減少
・幸運の基礎ステータスが2倍
・格上からのヘイト減少量上昇(大)
・経験値獲得量増
・??? 】
──いやめっちゃ詳しく書かれてる!
驚いて起き上がる……が、左腕が無いので態勢を崩す。
……腕がないって思った以上に不便かこれ?
なんにしても、ここまで詳しくスキル効果が書かれているなんて……。
ユニークスキルは全部こういう風に詳しく書かれているものなのか?
調べる方法なんてないんだけどさ。
(……しかし。幸運以外のステータスが下がるのは痛いけど、よく考えたらこのダンジョンで俺のステータスが多少変わってもさして変わんないんだよな)
だってここ俺の遥か格上しかいないもん。
どんな攻撃喰らっても大抵即死だし、どうせ攻撃だって通らないからな。
となると、獲得一択か?
なんか、「???」とかいう欄があるのが怖いけどな。
(実際、ヘイト減少効果があるのはデカい。これがあれば、敵をやり過ごすことも──)
「カカカカカカ」
【『敗者』を取得しました
残りの獲得可能スキルはありません】
反射的に『敗者』を取得し、息を殺す。
この音絶対オースだろ! しかも別個体!
察してはいたけどやっぱただの雑魚モンスターかあれ!
お願いだから気付かれ……いや最悪気付かれてもいいから見逃してくれ……!
「カカカカカカ」
心臓の音がバクバクと鳴る中、その骨の音は一度だけ鳴った。
しかし、その後音が鳴ることはなく。
恐る恐る周囲を見渡すが、どこにも先程俺を殺そうとした牛骨は見当たらない。
それから十秒、二十秒と経過して。
オースがネタばらしの如く現れることは、ない。
「っ──ふぅ」
多分、大丈夫だな。うん。
いつのまにか止まっていた息に未だ心臓がうるさいが、まぁいいだろう。
焦った、マジで焦った。死ぬかと思った。
……あーでも、これで図らずとも検証は成功か。
隠密+敗者……いや敗者だけかもしれないが、これでオースの悪意を逸らせることはわかった。
深く考え込む前に取ったけど、結果的には成功だったか。
よかった、本当に。
……ふぅ、と心の中で一息。
(なんにせよ、やることは決まってる)
なんとか逃げて、入り口を探す。
入り組んだ洞窟だから、探すのには時間もかかるかもしれないが……。
まずは探索、話はそれからだな。
ゆっくりと、音をたてないように壁を支えに起き上がった。
心の奥底で、恐怖と言う名の暴れ馬を必死に鎮めながら。