二つ名が恥ずかしくなって新大陸へ逃げたオジサン、師匠ムーブしていたら再び有名になり始める 作:おじさん
始まりの港町にある【終焉を刻む者(エンドカーヴァー)】のクランハウス。
その奥に設けられた、分厚い防音扉で仕切られた食堂兼会議室に、クランの中核を担うメンバーたちが集まり、真剣な顔つきで密かな議論を重ねていた。
「本国からも、『あのスギの伐採場の近くに、目的の遺跡が存在する可能性が極めて高い』と連絡が来ています」
卓上に広げられた新大陸の地図を指差し、眼鏡をかけた事務員風の男が淡々と情報を加える。
「やはり、そうか。あのメタルアラクネは、古代文明の遺物の影響を受けてあのような強固な姿へと進化した……。俺達の推測と完全に一致しているな」
銀髪に浅黒い肌の男、ガーランドが、腕を組みながらひどく得意気に呟く。円卓を囲む取り巻きの冒険者達は、彼の言葉に同調するようにこくこくと頷いた。
「どうしますか、ガーランドさん。冒険者ギルドからの一般依頼を受けるのは一旦中断し、クランの総力を挙げて遺跡調査に注力しますか?」
「うーん……」
ガーランドは顎を触りながら、思案するように目を細めた。
「いや、冒険者ギルドへの影響力拡大と名声稼ぎは、このまま続けるべきだ。遺跡の本格的な調査は、選抜した精鋭メンバーだけで極秘に行う。それ以外のメンバーは引き続き、ギルドの依頼をこなしてくれ。目ぼしい冒険者がいれば、勧誘も頼むぞ」
ガーランドの冷徹な決定に、エンドカーヴァーのメンバーは誰も異論を挟むことなく素直に従った。
あのアラクネ討伐という圧倒的な功績により、エンドカーヴァー内でのガーランドの発言権と地位は、もはや確固たるものになっていたからだ。
「ガーランドさん。その遺跡調査のリーダーは?」
「もちろん、俺が直々にやる。選抜メンバーの発表は今日の午後だ。選ばれた者は、今日中に野営と探索の準備を完璧に済ませておけ。……明日、早朝に出発する」
彼らは野心を燃やし、己の勝利を微塵も疑っていなかった。
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「うわぁ、凄いツルツルですねぇ」
暗闇の中、ミリアが魔石ランプの光を壁に向けながら、驚きの声を上げた。
大断裂の底から続く横穴を進んでいるうちに、周囲の景色は一変していた。
最初はゴツゴツとした自然の岩肌だった壁面が、いつの間にか精緻な直線と滑らかな曲線で設計された、継ぎ目の一切ない奇妙な通路になっていたのだ。
自然の力で出来たものではない。 高度な技術力によって造られた、明らかな人工物だ。
この先に、いやすでに俺たちは、古代遺跡の内部に足を踏み入れていることは間違いない。
「やべぇ……なんだか、無性に興奮してきた」
アレンが滑らかな金属質の壁を撫でながら、熱に浮かされたように呟く。
「えっ……? アレン、このツルツルの壁を触って興奮してるの……!?」
「違う! そういう意味じゃない! 誰も知らない未知の古代遺跡を見つけたことに興奮してるんだよ!」
ミリアがわざとらしく揶揄うと、アレンは顔を真っ赤にして慌てて反論した。
「二人とも、静かに」
ゼノスが前方に円周状の魔力波を絶え間なく打ち出しながら、二人の軽口を低く鋭い声で注意する。
ただ、振り返ったゼノスの端正な表情にも、隠しきれない高揚と興奮が見て取れた。彼もまた、まだ見ぬ未知の遺物を想像して心が躍っているのだろう。
「どうだ、何か反応はあるか?」
「……いえ。まだモンスターの気配はありません。このまま進んで大丈夫です」
「油断はするな。生きているモンスターはいなくても、侵入者を排除するための古代のトラップが設置されている可能性がある。ここから先は、床の継ぎ目一つにも注意を払って、さらに慎重に進むぞ」
俺の忠告に、三人は顔を引き締めて深く頷き、再び静かに歩き始めた。
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どれくらい歩いただろうか。
冷たく湿っていた「大断裂」の空気が、さらに一段と冷たくなり、そしてひどく乾いたものに変わった。
ダンジョンにおいて、肌に触れる空気が変わるとき、それは地形が大きく変わる明確なサインだ。
「師匠。……このすぐ先に、途方もなく開けた巨大な空間があります」
すっかり斥候の技術が身に付いたゼノスからの、緊張を孕んだ報告。それを聞いて、アレンとミリアが武器を握る手に力を込める。
俺たちは足音を殺し、壁沿いに張り付くようにして、精緻な通路の出口へと慎重に歩みを進めた。
やがて、通路の先から、淡い青色の光が漏れ見えてくる。
「これは……」
俺たちは通路を抜け、開けた空間へと躍り出た。
そして、眼下に広がるその常軌を逸した光景に、全員が言葉を失って立ち尽くした。
地下の巨大な空洞。
そこには、朽ち果てながらも荘厳な姿を保つ、巨大な『都市』がそのままの形で広がっていたのだ。
天を突くような幾つもの尖塔、幾何学的な模様が刻まれた巨大なドーム状の建築物。
それらが、天井に群生する発光苔の淡い青白い光に照らされ、静寂の底で眠りについている。
俺たちが立っているのは、その地下都市を一望できる、高い崖の上のテラスのような場所だった。
まるで、世界の終わりに残された幻の街を、特等席から見下ろしているかのような錯覚に陥る。
「本当に、地下に街があるなんて……」
ミリアが震える声で呟いた。誰も、その圧倒的なスケールから目を離すことができない。
俺だって長く生きてきたが、これは見たことがない。
「行くぞ。まずはあそこへ降りるための道を探そう」
「「「はいっ!」」」
旧大陸の常識が一切通用しない、失われた古代のロマンと危険が眠る街。
俺たちは未知なる都市への第一歩を踏み出した。