増田一樹様に引き取られた個体には、自己認識に不具合を持ち、致命的なエラーと位置づけられている。如何なる問題が発生しても、当社では責任を持てない旨を説明の上、承諾を得られた。
これまでのモニタリングで判明した点を下記にまとめる。
・他の正常な個体に比べ、感情値の変化が激しい。
・三原則が機能せず、暴力行為を行う。(ただし殺害までには至らない)
・所有者に許可なく行動することがある。
・本来、人間と同等レベルまで制限されるべきパワーがセーブされていない。
判明した上記の点で、現状想定される留意点は下記の2点になるものと思われる。
・所有者を始めとした人間に危害を加える可能性あり。
・ボイスロイドを従え、反乱を起こす可能性あり。
なお、現状可能性は低い。引き続きモニタリングをし、警戒する必要有。
……今何時だ?昨夜の記憶がないように思えるのだが……。
……あっ。やばいもう家出なきゃ仕事に間に合わねえ時間じゃねえか!?昨日休ませてもらったのに2日連続とか、流石に怒られても何も言えねえぞ俺ッ!!?
「急いで準備しなくちゃ…!!」
「マスター、おはようございます!でもその必要はないですよ!」
「うお!六花か。おはよう……。ん?」
……待て?なんで六花が自室に?いやいやそこよりも……。
なんで隣で、しかも同じベッドで寝てはりますねん??もしかして、俺が酒に酔って連れ込んじゃったとか?でも酒飲んだ記憶すらないが……。
えっ?そんな飲んだの俺?マジ?いやいや、取り敢えず……。
「……なあ、六花。一つ聞きたいんだが、なんで俺のベッドにいるの?」
「えへへ……。その、疲れているときは添い寝してあげるといいって情報を聞いたことがあって……」
「ふむ。なるほど?」
つまり、六花の意思で入ってきたってことで間違いないよね?ならいいか。いや良くないけど。
「てか、昨晩の記憶ないんだけど、俺が何してたか覚えてる?」
「マスターは花梨先輩に締め上げられて気絶したんですよ」
「えっ?」
何それ怖い。なんで夏色がそんな怖いことしてんの?
……ああ、思い出してきた。六花の散々な様子に激怒して、元マスターを殴りに行こうとした俺を止めるために夏色は……。
「うわぁ……。感情的になってJKに止められるとかはっず……。これで社会人数年はやってるとか嘘だろ?幼稚園からやり直した方がいいかこれ……?」
「流石に大袈裟ですよ。でも、私は嬉しかったんですよ。私のためにそんなに怒ってくれるなんて、初めてのことだったから……」
「いや、そんなこと……」
六花は六花で、夏色とは別ベクトルでいい子過ぎないかな?どうして俺の感情的かつ幼稚な行動をそこまで良心的に解釈できるんだろう。
こんな子が酷い目にあっていたとかマジで言ってる?俺なんかよりもいいマスターのところに行くべきだったんじゃないかな。
そんな下らない思考は、次の六花の一言で、すぐに吹き飛ばされることとなる。
「……だから、あなたの望むことは私がなんでもします。えっちなことでもいいですよ?」
「」
ダメだこの子。何かあれば身体を差し出せばいいと思っている。ここは一度しっかり教育しないとダメな気がしてきた。
もしかして、ボイスロイドって、みんなこういうことに対する考え方がおかしかったりする?流石にそんなことないか?ないよね…?
「六花。本来身体をそんな気軽に差し出していいものじゃないからな?あくまで前のマスターがおかしかっただけだからね?無理して続けなくていいんだよ?」
「無理なんかしてません!あなただから、してあげたいって思うんです!」
えっ、何この子。もしかして、好感度が既にカンストしている感じ?
確かにさ、クズマスターから引き取ったという意味では、好感度が上がるようなことをした自覚はあるよ?にしたっていきなり過ぎない?もっと時間をかけて、俺を信頼できるようになって、初めて感じるようなものじゃないのか?
もしかして、本来のボイスロイドって、人をすぐに信用するようにできてたりする?そんな柔なシステムなの?
「さあ、マスターがしたいことを言ってください!本当になんでもしてあげますよ!マニアックなプレイでも喜んで引き受けます♪」
「いや待て。取り敢えず待て。俺は仕事に行かなきゃいけないから、説教は後な。取り敢えずもう出なきゃだから」
「大丈夫ですよ。会社なら、さっき花梨先輩がお休みの連絡をしてくれたので!」
「えっ…?なんで……?あ、そうか」
いや、考えてみれば当然か……。昨晩から気絶して、朝まで起きないとなれば、普通は休ませるか……。
「というわけで、早速コッショリしちゃいましょうよ!花梨先輩に普段のマスターの話を聞いた感じ、1人で処理とかしてないんでしょう?だったらぁ、私を使っていいですから♪」
「いやなんでそうなるの!?てかそんなことしたら本社に自動通報されちゃうからね!?」
というか俺が処理って、いつ聞いたんだよ。てか夏色は何勝手に話してるんだ。外で済ませてるかもしれないだろ!
まあ、本当にやってないけどさ。
「大丈夫です!ボイスロイド側が同意していれば、セーフティ有効でも無問題ですよ!」
「あーいや、確かにそうかもしれないけど、俺はただのリーマンで六花はJKなの!もうただのパパ活になっちゃうのよ!!分かる!?」
「いや、私はボイスロイドで、あなたは私の所有者ですよ?そもそも、ボイスロイドをそういう使い方をしている人は一定数いるんですよ?」
待て、この六花はサキュバスか何かなの?いくらなんでも積極的すぎないか?
いやまあ、こんな可愛い子に迫られて、ヤれるのは役得でしかないと思うのだけど。でもね、俺の理性というか、倫理の部分が強く反発するの。それをやったらお前は人間じゃねえッ!!って。
そもそも昨日の背中流しだって、六花が変に落ち込んじゃうから受けただけだし。ホントだよ!!えっちな気持ちで許可したわけじゃないからね!!本当だよ!!
「……やっぱり、使い古された中古品の私じゃ、汚いですよね……。ごめんなさい、不快なことを言ってしまって……」
「いや、そういう意味で断ったわけじゃないんだけど……」
「……?だったらなんで断るんですか?これ以外にマスターにデメリットなんてないはずですけど」
うーん、あかんわこの子。前マスターが酷かったのも一因なんだろうけど、夏色みたく自認が人間じゃないから、身体を差し出すことに躊躇がなさすぎる。
俺に対する好感度が高いと仮定しても、これは異常だ。
「さっきも言った通り、俺は結構倫理観とか気にするタイプでね……。その辺は人とかボイロとか関係なく、感じてしまうタチでして……。そもそもね?汚いと感じているなら、六花をすぐにでもベッドから突き落としているわけでしてね?」
「えへへ……。汚くない、ですか?よかった……」
いちいち可愛い反応をするなこの子。夏色には人間らしい微笑ましさがあるのに対し、この子は、なんというか素直すぎる。というより羞恥心は存在しないのか?
それとも、これも前マスターのせいでなくなってしまった……?
「あーもう分かったよ!もうしばらく添い寝してくれ!それでいいだろ?」
「えっ……?そんなことでいいんですか?」
添い寝してくれるだけでも十二分にご褒美だからね!?もう何かしら要望出さないとこの子が引かない気がするから、思い切って要望出してみるよ!
「いいんだよ。ってか、疲れてるから単純に運動は勘弁ね……」
「じゃあ、元気が戻ったらコッショリしちゃいます?」
「勘弁して…………」
もう怒る気もなくなっちゃった。でもコッショリだけはやめてね。やったら多分俺が死にたくなっちゃうから。
「……随分とお楽しみみたいね〜?りっか♡」
「あっ、花梨先輩も混ざります?」
ギャアアアアアアアアアア‼︎
「うぅ……先輩、すいませんでしたぁ…!!」
「
「あの、
「何か文句でも?」
「イエナンデモアリマセン」
場所は移ってリビングへ。
夏色は六花の仕業だと即時に見抜き、貼り紙を貼り付けた上で正座させている。
ちなみに書かれている内容は、『私はサキュバス立花です』
流石に酷いんじゃないかな……?ちなみに誤字ではないそうです。意図的に誤字にしているそうです。
「あんたもあんたよ!キッパリと断らないとダメでしょう!?」
「仰るとおりです……」
ぐうの音も出ないんだけど、一つだけ言い返したい。
『私の身体じゃ汚いですよね』とか返されたら、それでもキッパリ断るべきなんだろうか。そんなことしたら、六花を傷つけることになるのではないか。
こういうときはどうするのが最善なんだろう。応じるのは流石に事案だと思うし……。
いやでも、ボイロ側が同意している場合は確かに本社には通報されないからな……。暗に許可されているということなのか……?
だとしても、俺の倫理観的にね……。
「大体、六花はなんでそこまでして彼に迫るのよ。仮に好きだとしても、もうちょっと段階ってのがあるでしょ?いきなりぶっ飛んだこと言って人に迷惑かけちゃダメじゃないの!」
夏色の説教の仕方がちょっと母親みたいだな……。母性が強い……。
「……だって、そうしないと、捨てられちゃうかもしれないから……。家事全般は花梨先輩がやってるじゃないですか?なら私にできることと言えば、そういうことしかないかなって……」
「その発想がダメッ!!百歩譲って好きだから身体を捧げたいってのなら納得するけど、そんな自分を安売りするようなことは私が絶対に許さないわッ!!」
そもそも俺はそんな簡単に捨てるような人じゃないよ……。
「というか、彼はそんな簡単にあんたを捨てるようなことしないわよ!私なんか、プログラムの中枢に致命的なバグがあるって話なのに、迷わず私を引き取ってマスターになっちゃったんだから!」
「えっ?致命的なバグ?」
あーそうか。六花には説明してなかったな。
「夏色はプログラムインストールの過程でエラーが起こっちまったらしくて、自認が人間のままなんだよ」
「えっ……?そんなことがあるんですか?あっ、だから廃棄寸前って……」
「そういうことになるわね」
「だからあんな暴力に躊躇がなかったんですね!」
「私を喧嘩好きの脳筋みたいに言わないでくれるかしら……」
六花は手をポンとして、いかにも納得しました!というポーズを取った。それ実際にやる人いるんだ……。
「でも、普通ならロボット三原則に抵触する行為はしないはずなんですよ、ボイスロイドは」
「あー、そういえばその辺のサインもした気がするな」
確かに、自認がボイスロイドになってない以上、ロボット三原則に反した行動を起こす可能性がありますって説明にあった気がする。それにサインしたから、夏色は廃棄されずに、こうして俺といるわけだけれども。
「ともかく、夏色は側がボイロかもしれないけど、中身は本当に人間と遜色ないんだ」
「なるほど……。だから花梨先輩は私をそんなに……」
六花も、何故自身のことをそこまで心配しているのか、ようやく分かってくれたようだ。これで六花の暴走とも言える行動は控えめになってくれると嬉しいんだけど……。
「……分かりました。そういう方向で役立とうとするのはやめます」
「よろしい。ボイスロイドと言えども、女の子なんだから、自分の身体は大事にしなさい」
「それに関しては俺も激しく同意するよ」
ちゃんと分かってくれたようでひと安心だ。これでまた平和になったかな。じゃあ今日は2人を連れてどっか軽く外出でも……。
「じゃあ、私はマスターが大好きなので、マスターの了承さえ得られれば好きにしていいですよね?」
「ブフォ!!」
「り、六花ぁ!!?」
よし解決したな!と思って口に含んだコーヒーを吹き出してしまった。完全に油断してました。
どうしてそうなるんですか。好きになるにしても早すぎませんか?せめてもうちょっと時間置きましょうよ。
就活において、企業の人事にいいところばかりアピールされて魅力を感じて入社しちゃうアレかな?
「あの……好きになってくれるのは嬉しいんだけどね?もうちょっと時間置いて冷静になろうよ?そこまでするほどではないってなるかもしれないからさ?」
「いえ、そんなことありません!まだ1日しか経ってないけど、マスターがいい人なのは理解しているつもりです!」
「いやいや、いくらなんでもそれはないでしょ!?」
「六花!確かに彼はいい人だけど、判断が早すぎるわ!!」
なんたってまだたったの1日だ。俺のことを理解って言っても、全然理解できる期間ではないように思えるのだが。
「根拠ならあります!一つ!致命的なバグを持つ花梨先輩をあっさり受け入れたこと!二つ!わざわざ面倒事に突っ込んでまで私を助けてくれたこと!三つ!単純に待遇が良すぎる!!ボイスロイドに部屋やスマホを支給するのは明らかに過剰です!最早過保護です!!」
「いや、それくらいは普通にしない?1人になりたいときがあるだろうし、スマホだってないと連絡取れないだろうし……」
「四つ!!自然とそういう思考になってしまうところ!!」
「うぐぐ……。そこまで根拠を並べられると、納得せざるを得ないかもしれないわね……」
「夏色さん…?」
そういえば、数年前に受けた研修でも言われたっけな。根拠を幾つも並べれば、相手を説得しやすくなるとかなんとか。
なんだこの六花。頭回りすぎじゃない?もしかして、ボイスロイドだからか?頭脳も人間よりスペック高いって話だしな。
「り、六花!好きだとしても、もうちょっと時間を置きましょうよ!いくらなんでも段階飛ばしすぎよ!」
夏色は、流石は自認が人間だというべきか。俺と大体常識感が同じなようで、俺が言いたいことを代わりに言ってくれる。最初に迎えたのがこの六花だったとしたら、今頃俺は爛れた生活を送っていたかもしれない……。
「花梨先輩は、自身が人間だと思ってるんですよね?なら聞きますけど、本当に好きだと思った人には、なんでもしてあげたいって考えるものじゃないんですか?」
「そ、それは……」
しかし六花とて、自認がボイロといえども、記憶のインストールまでは夏色と同じ過程を踏んでいる。つまり、人間的な感情も十分理解しているわけだ。
「私が今感じているのは、ボイスロイドとしての忠誠心ではありません。人としての、恋……いや、愛です!」
「六花……」
それでも夏色は引かない様子だ。そりゃそうだよな。夏色は自認が人間だ。故に、俺との歳の差を気にするはずだ。俺がそう感じているように。
夏色にとっても、俺と六花がそういう関係になったら、倫理的に完全にアウトだと、そう考えているはずだ。
「…………そう、ね。六花がそこまで本気で考えているのなら、歳の差とかそういうのは関係ないわよね」
「ほぇ?」
あれ?花梨先輩?判断早くないですか?流石にあの天狗仮面の人も判断が早いって怒っちゃうレベルだと思いますよ??
「そうですよ!そもそも私達ボイスロイドの歳はあくまで"設定"ですよ?例えマスターがおじさんと呼ばれる年齢だとしても、気にする必要はないですよ!」
「そうかな?そうかも……」
うーん、あかん。夏色が説得されかけている。俺が折れたら、俺と六花の爛れた桃色生活の始まりですね〜うへへへへへ……。
なんてことになったら俺が死にたくなりそうなので却下。折れるわけにはいかない。
「六花。君の気持ちはよくわかった」
「えっ?じゃあ……!!」
「だが、さっきも言ったように、俺は倫理観を気にするタイプだ。これは六花が気にするか否かは関係ない。俺が気にしてしまうんだ」
この部分は譲れないと繰り返し主張すると、六花も分かってくれたのだろう。それ以上うるさくなることはなかった。
「……でもまあ、もっと時間をかけて、お互いのことを知れたら、話は変わるかもしれないな」
「……!!」
俺が呟くようにそう言った瞬間、六花は目の色を変えてこちらを見てきた。
……どうやら、少なくとも今は本気で俺のことを好いてくれているらしい。
これは俺の勝手な推測だが、六花は前マスターのところで散々な目にあった。そして、俺のところへ来て、人間的な生活をできるようになったことに感謝をしているのだろう。
今までの生活とのギャップの激しさにより、感謝の気持ちと愛を履き違えているのではないか。
ボイスロイドは人間を奉仕するように設計されている。より良い奉仕をするために、感謝の気持ちを愛に似た何かに変換させている可能性はある。
「もし、俺の気が変わって、六花の気持ちに変化がないのなら、その時は相手になるよ」
「……はい!」
「じゃあ、朝食でも食べ終わったら、部屋の掃除とかしてもらえるかな?」
「了解です!!……あっ、間違えた……承知しました!!すぐに取り掛かります!!」
「そんな細かい言葉遣い気にしなくてもいいのに……。というか朝ご飯食べてからだよ?今すぐじゃなくていいからね?」
「はい!」
元気よく返事をした六花は、パジャマから着替えるために、自分の部屋へ戻っていく。
「……あんた、よくあの六花を説得できたわね」
「正直、あそこまで迫られるとは思ってもいなかったよ……。まあ説得と言っても延命みたいなもんな気がするけども……」
「でも、私の知る元気な六花に戻ってくれたわ。ありがとね。あんたのお陰よ」
「お礼は俺というよりは色々根回ししてくれたであろう上田にいうべきだと思うが……。まあ、どういたしまして。朝ご飯にしますかね」
「そうね。早くしないと冷めちゃうわ」
こうして、六花の暴走を食い止めることができた俺と夏色は、ようやく落ち着いて朝食をいただくのでした……。
「マスター!口開けてあーんしてください♡」
「あの、普通に食べたいんだけど……」
「六花、さっきの話聞いてた!?」
「はい!要するに、小さい子には見せられないことをしなきゃいいってことですよね?それならこれくらいは許されるはずです!!」
何が落ち着いていただく、だよ。こんなんじゃ全然落ち着けないぞ()
「マスター!私のヨーグルト食べさせてあげます!」
「六花。それ以上迫るつもりなら、今後ヨーグルトは買わないわ」
「ひぇ!!?なんてこと言うんですか花梨先輩!?私に死ねって言うんですか!!?」
「そこまで言ってないわよ!?というか、そんなにヨーグルト抜きが嫌なら少しは自重しなさいッ!!」
「これでも自重してますよ〜!!自重してないバージョンも見てみますか?」
「おいおい服を脱ごうとするなぁ!!」
「お願いだからもっと自分を大切にして〜ッ!!」
六花が加わったことにより、この家は益々賑やかになりそうです。だけど、俺がゆっくりできるかどうかは分からなくなりました。南無。
翌朝。
いつもの目覚ましの音で眠りから目覚めるところから1日が始まる。
目覚ましを止めようと、いつものように腕を動かそうとするも、何故か思うように動かない。
まだ意識が夢の中にいるような状態だが、いつもと違う状況に、脳の覚醒が普段より早く進行したようで。
「すぅ〜……」
それはそれは、心地良さそうな寝顔をしながら、幸せそうに眠る六花の姿がありましたとさ。
で、寝ているだけなら別にいい。俺のベッドに潜り込んでいることとかはどうでもいい。
六花が両腕でガッチリ俺の左腕を掴んで離さないのだ。
正直、六花のような美少女と呼ぶに相応しい可憐な子に、こうして抱きつかれているのは役得でしかないのだが。
「そーっとそーっと……」
できればこのまま寝かせてやりたいと思い、なるべく力を入れずになんとか腕を抜いたそのとき……。
「ふにゃ……?あ、ますた……おはようございます……」
まだまだ眠たそうな六花が挨拶をする。君はもっと寝てていいんだよ。可愛すぎてつい頭を撫でてやりたくなっちゃいそう。
「おはよう。まだ眠たいなら寝てていいからね」
「うーん……おきる……」
今にも鼻提灯を出しそうな顔でそう言われましても……。
「ますた〜……。眠いからおんぶしておんぶ〜……」
「そんなに眠いならまだ寝ててもいいんだけど……」
「いやだ〜……。ますた〜とごはん食べるの〜……」
まるで小さな子の相手をしているようで、つい微笑ましくなってしまう。たった数日でここまで六花が心を許してくれていることには正直驚いている。
それは六花の性格か、それともボイスロイドとしての彼女がそうさせているのかは分からないけど。
なんだか、ちょっと嬉しい。
「はいはい。倒れたら危ないから掴まってな」
「うーん……」
あらやだ。可愛いわこの子。娘にしたいくらい可愛い。俺、六花の父親を名乗ってもいいかな?
「あらおはよう……って、また六花と一緒なの……?」
「今朝も気がついたらベッドにいて……」
そろそろ我が家の日常と化してきた、台所にいる夏色の姿。今日も美味しそうな匂いを漂わせてくれている。
少し前までは、自分で前日のうちに作っていたはずの朝ご飯。そんなことをしていたのがまるで嘘のようだ。
お金はある、とは言ったものの、ボイスロイドを正規の手順で手に入れようとしたら、なかなか値を張る。それこそ車を買うのと同じくらいには。
夏色も六花も、色々あってほぼお金をかけずに引き取っているので、俺からすれば恵まれているのかもしれない。彼女達にとって恵まれているのかまでは分からないが……。
「……なんか難しそうなことを考えている顔ね。六花には私から言っとくから、あんたはちゃちゃっと朝の支度しちゃいなさいよ」
「はーい」
「一応聞くけど、何もされてないわよね?」
「ベッドに侵入された以外は恐らく」
何かした?ではなく、何かされたか?という質問なのか……。俺を信頼してくれているのか、六花が信頼されていないのか……。どっちだこれ。
「こら六花〜!いつまでくっついてるのよ離れなさい!」
「ふみゃあ、ますた〜」
まだ目覚めていないのか、寝ぼけたような声で俺を呼び止める。なんだこの子可愛すぎんだろ。
「いつまで寝ぼけているのよ。そんなに眠たいならもうちょっと寝ててもいいのよ?」
「ますた〜とごはんたべるの〜……」
「この子ってこんなに朝弱かったかしら……?」
実際、この2人が人間だったとしても、お互いに普段から起床直後に会っていないだろうしな。
起きてしばらく経った姿しか見たことないはずだ。てか、そんなシチュを想定して記憶にインストールしてたら、それはそれで本社さんなんなのってツッコミたくなるけどね。
……もしかして、兄に起こされる六花が日常茶飯事だったりしたのだろうか。
「ほーれ六花。あんたの大好きなヨーグルトがここにあるわよ〜」
「ん〜?よーぐると〜……」
ヨーグルトの存在を認識したら、ゆっくりそちらに向かっていき、一口食べた六花は……。
「……!!元気66倍!!六花ちゃん!!」
急にやかましいくらい元気な声で、そう叫んだ。おはよう六花。なんか有名なヒーローさんみたいだね。
というか、ヨーグルト食べると目覚めるシステムなの?それともこの子特有かな?
「マスター!元気になったから早速コッショリ……」
「あー、朝から釜を用意しないといけない気がしてきたわ〜」
「……じゃないことしましょうよ!!」
懲りずに俺を誘ってくるかと思えば、夏色の殺気を即座に察知して切り替えてきた。やりおるな、夏色花梨殿。
……まあ、朝からあれだけ可愛い姿を見せてくれたんだから、ちょっとぐらいご褒美あげてもいいか。
ポンッ
「……!!ッ」
「おはよう六花。可愛いな」
頭をゆっくり撫でながら、俺はそう言った。
うん。サラサラした髪に程よい体温を感じる。無限に撫でていられるかもしれない……。
「え、えへへ……」
うーん素直of the 素直。可愛い。護りたいこの笑顔ってこういうことなんだな。
質の良い料理を夏色が作ってくれて、六花はこうして癒しを届けてくれる。俺の私生活はここ数日でQOL爆上がりしています。この調子だと下がったときが怖すぎるけど。このバブルだけは崩壊させたくないな。
「花梨先輩!マスターからスキンシップしてくれました!これもうヤっていいって合図ですよね?そうですよね!?」
「絶対に違うからステイステイ」
あらやだ六花ちゃん男前。本人がいるのに構わず言うのホントバグってますよ。
バグは見つからなかったって本社の人言ってたけど、これ本当ですか?主に好感度面でバグの疑いがあるのですが……。
私、最低だ。
私の方から散々アプローチをかけていたのに、いざマスターからスキンシップをされたら、コレだ。
あのマスターは乱暴なことをしないって分かりきっているはずなのに、頭に触れられた途端、嫌な記憶がフラッシュバックした。
私が頭を触れられるときって、大体殴るために掴まれるときとか、"道具"として扱われるときだったから。
反射的に暴れなかっただけ、大分マシになったように感じる。今までなら、恐らく……。
「マスター!」
「うん?」
「もっと、頭撫でてくれませんか?」
「ずいぶん甘えん坊さんだな……。夏色じゃダメなのか?」
「マスターじゃなきゃ、ダメです」
「んー、分かったよ……」
是非とも、マスターには上書きしてほしい。
私の嫌な記憶をいい記憶に。
辛い記憶を幸せな記憶に。
そして、ゆくゆくは……。
ボイスロイドって、奉仕するために人に対して愛着が湧くことはあるけど、普通ならここまで"好き"になることはないんだけどな……。なんでだろうね。
「……あの、もしかして、私お邪魔かしら?」
「夏色。今2人きりになったら確実に俺が襲われるからいなくならないで……」
「生々しいこと言わないでちょうだい……」
「しませんよ〜!乱暴者のパイセンと違って私はしっかり三原則に従うタイプですから!」
「……ねえ、そろそろ大釜買ってもいいかしら?私のお小遣いでも出せそうなんだけど」
「この家に邪魔にならない程度の大きさならいいよ」
「やめよ?私を煮込んでも美味しくならないよ?」
「それはどうかしらね?ヨーグルトみたくサッパリした味わいになるかもしれないわよ?」
「ひっ……!マスター……!!」
「六花。お嬢様を怒らせるようなことは言ってはいけないよ」
「誰がお嬢様よ」
いつまでも、こんな風に幸せに過ごせる日々が続くといいな……。
増田一樹様所有の小春六花について。
先日、新たに所有者登録された小春六花についてここに記述する。
当該個体は、夏色花梨とは違い、登録前検査の時点では異常が発見されなかった。しかし、
次回訪問時、再度検査を行うこと。また、小春六花を観察対象に加えるものとする。
小樽3人組の中で最推しは?(前回、六花枠をふざけすぎたのか誰もいなかったので仕切り直しで())
-
夏色花梨わよ!釜
-
小春六花ちゃんです!
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花隈千冬です。
-
フリモメンだよ!