シュラを起こしたのは、居間の方から聞こえて来る炊事の音だった。
突っ伏していた机から、むくりと身体を起こす。右手には粉筆を握りっぱなしで、起こした上体の下には何かを書きかけた石板。
何を書こうとしていたのかさっぱりと思い出せない。寝る直前になってから頭が冴えるのはなぜなのだろうか。そんなことを考えながら洗面し、居間の方に向かう。踏み入ると、そこには3人が揃っていた。
「おはよう」
「あ、おはようございます。今、スープを持ってきますので、座っててください」
「すまないな」
「いえいえ」
クロウたちがシュラの家に居着いてから、既に1週間ほどが経過している。三人はいつのまにか、家の中まで普通に入り込んでくるようになっていた。
三人の図々しさも去ることながら、警戒するのが面倒くさくなって許容したシュラの怠慢さもあいまり、ほとんど共同生活の様相を呈している。
機嫌良さげに働くミューを尻目に、隣り合って席についている……いや、これは席についているとは言わない。席に立て掛けられているクロウとクーは、まだ意識がはっきりしないようだった。ぐらんぐらんと頭をよろめかせている。
「お待たせしました。……二人ともまだ寝てます?」
「起きないなあ……」
シュラからすれば、この二人は日中もよく寝ているのに、なぜそんなに眠れるのかと不思議に思うほどだ。
ミューが二人の耳元で何かを囁くと、二人は同時にビクッ! と身体を震わせ目を覚まし、周囲を見渡した。シュラが胡乱なものを見る目を向けると、ミューは少しばかりの邪悪さを滲ませて笑った。
「ふふふ。調きょ……もといトレーニングの成果が出てます」
この3人の中で行動の主導権を握っているのがクロウではなく、このミューという少女であることをシュラは既に理解していた。
二人の世話を焼き始めるミューに一声かけてから、持ってきてくれたスープを口に含む。美味かった。少しだけ塩気があり、身体に染み入るようだ。
実際のところ、食事を作ってもらえるのはありがたい。
シュラがこの家でひとり暮らすようになってから……つまり、師匠が家を出て行ってしまってからのここ1ヶ月ほど、朝食など食べていなかった。それに比べれば三食をきっちりと食べているここ数日のシュラの生活環境は、著しい改善を見せていた。
「ふー……ごちそうさま。今日はお前たちはどうするんだ?」
朝食を腹に収めたシュラがクロウたちに聞く。ようやく寝ぼけ眼ながら朝食に手を伸ばしだしたクロウは、ぼやっとした声で返答した。
「うむ……そうだな……。なにもすることがないな……」
言葉を返すクロウには覇気も生気も感じられない。例えるならば、夏の昼下がりに路地裏の陰で寝転がっている野良犬のような気配を漂わせている。
シュラは心なしか、不憫な気分になった。
初対面のときのクロウはこうではなかったはずなのだ。無表情ながらにわくわくと、何やら好奇心のようなものを雰囲気から滲ませていた。
しかし仕事も目的もなく、ただ家に篭って寝転がる時間がクロウを腐らせてしまった。肉体的には健康なはずの少年が時間経過とともにどんどんと精気を無くしていくその様子は、見ていてなんとなく哀れですらあった。
「かわいそうに……。魔物と戦えないときのクロウさんはお仕事レスですから、前の階層とのギャップで脳が呆けちゃってますね……」
『同情しています……』とばかりにそんなことを言うミューの表情はすこぶるご機嫌である。暴力を奪われて何もすることがなくなり、ひたすら駄目人間しているクロウを世話するのが楽しいらしい。シュラにはついていけない趣味だ。
朝食などで恩恵に預かってはいるのだが、ミューから本格的にお世話される立場にはなりたくないというのがシュラの正直な感想だった。
「……」
そしてクーはすんっとした表情で席に座って魔晶を齧り、我関せずといった様子である。シュラの目からは、クロウの昼寝に付き合ったりミューの手伝いをしていたりとちょこまか好きなように過ごしている、この無口な少女が一番健全なように見えた。
シュラは少し思案して、クロウに声をかける。
「クロウ、用事が何も無いなら手伝って欲しいことがあるんだが」
クロウが濁った目でシュラを見た。
「……おれになにができるというんだ」
「買い出しに行くから荷物持ちをしてくれないか?」
「……うむ。そうか、荷物持ちか。それならおれにもできる気がする。……いや、ちがうな」
クロウはぐいっとスープの椀を傾けると、一息で中身を飲み切った。そして無表情ながら決然と言う。
「むしろおれはこれまで魔鉱石を掘って運んでいたから、荷物持ちはむしろ得意な気がする。……まちがいない、得意だ。おれにまかせろ」
やる気を出したクロウはすっくと立ち上がった。
暴力以外に己の居場所を見出したその姿は鬱々とした先ほどまでの気配を払拭していた。クーも復活したその姿に、ぱちぱちと拍手をしている。
……ただ少し外に連れ出そうとしただけなのだが。
荷物持ちという役割にそこまでの使命感を求めてはいなかったシュラは、息巻くクロウに少しでもエキサイティングな荷物持ち体験を提供するため、予定を日用品の買い込みから変更し、少し遠出することに決めた。
◇◇◇
「ほかにおれの持つ荷物はないのか」
「既に人の持つ量じゃないんだが。本当に家まで運べるのか?」
二人が出かけたのは都市の北にあたる商業街である。
貴重な素材のやり取りのほか、魔法使いたちの交流の場でもあるため、周囲は賑わっていた。
しかしその人波も、大人一人分ほどの体積を背負うクロウを前にして割れる。『荷車というものの存在をご存知でない?』とばかりの周囲からの視線が痛かった。そしてさらに言えば、自分よりも年下の少年にそんなものを担がせて自分は何も持たず歩いているシュラへの視線も痛い。
「なかみが軽い……全然持っている気がしない」
「それでもお前の体重よりよほど重いはずだが……」
シュラは憮然とするクロウに呆れて言葉を返す。
籠に満載の魔鉱石という数百キロ単位のものを運び慣れているクロウにとっては、それは本当に荷物とも言えない重量だ。だがそんなことがシュラに理解できようはずもない。
シュラはクロウが高い身体能力を持っていることは理解していたが、その認識はせいぜいが『人並外れた』膂力といったところに留まり、クロウのそれが『人外』と表現すべきものであるとは未だ理解していなかった。
てくてくと、何らの重量感も感じさせずに歩くクロウが口を開く。
「なあ、さっき買っていたこれ、なかみはなんなんだ」
「金属や樹脂だ」
「そんなもの、何に使うんだ?」
「触媒だな。自分で用意できないこともないが、買った方が手っ取り早いんだよ。値が張るのは確かだが……」
「高いのか?」
「供給が少ないんだ。……そうだな、どうせだから説明してやろう」
ちょうどよく、人通りの多い広場に掲示されている巨大な都市図に差し掛かる。シュラはクロウを呼び止めて説明した。
「ほら、見てみろ。この都市の周囲は全方位が砂漠で、外に出れば魔物が襲ってくる。外から資源を補給できないから、いくつかを除いてほとんどの資源を都市内で使い回す必要があるわけだ」
図の上のラインを指でなぞる。
「ほとんどのものが中央に回収され、再精錬され、市場に分配される。今回買った素材も、元は他の何かに使われていたものだ。外から補給のある素材といえば……」
シュラは少し考え込んで言った。
「……水や鉱石くらいだ。水は雨や都市内の湧水から採取できるし、砂漠の砂からは鉱物を精製できる」
「ふむ?」
「それらと比べると、特に有機物は外からの補給が難しい。基本的に都市内の限られた土地で賄うほかないから、貴重品だ。ほら、さっき購入した触媒も、金属より樹脂の方が高価だっただろ? 需要に対する供給の差だ」
「なるほど。そういうことか」
クロウは重々しく頷いた。数ヶ月前よりも遥かに高まったクロウの傾聴力を持ってすれば、シュラの話を高確率で理解できている可能性がなきにしもあらずと言っても過言ではない。とりあえず、自分の持っている荷物が貴重っぽいことはなんとなく理解した。
「おーい、クロウ」
「む……?」
背後から声が聞こえたのはそんな時のことだった。振り返ると、そこにはこちらに呼びかける少女の姿。
久方ぶりのエウーリアの姿だった。
◇◇◇
「エウーリアか。久しぶりだな」
「おう、しばらくぶりだな!」
広場中央に陣取っているエウーリアに近づく。と、その周囲だけ涼を感じることに気づいた。細かい氷の破片が宙に舞い、空気を冷やしているのだ。
湿気が少ないため体感温度自体はそこまで極端に高くならないが、それでも強い日差しは容赦なく人々の体力を奪う。その中でエウーリアたちの周囲のみがオアシスのようだった。
「なんだ、私への挨拶はないのか」
「ああ、久しぶりだな、ミセ……。……久しぶりだ」
「ミセルだ。……ラかリかルで迷ったぐらいは構わん。名前を思い出そうと頑張ったんだな? ならいい。適当なことを言わなかった分だけ偉い」
諦めと慈愛の混じった表情を浮かべるミセルが、クロウに細かい氷に赤い色の何かがかかったものを差し出した。
「ミセル、ありがとうな。……なんだこれは」
若干の警戒心を滲ませるクロウに、エウーリアが答える。
「かき氷だ。見たことないのか?」
「ないな。食べ物か?」
「まあ食べていけ」
その辺の日陰に座り、しゃくしゃくとかき氷を食べる。冷たくて甘い。美味かった。
気づけばシュラもかき氷を持って隣に座り、男二人、無言でしゃくしゃくとかき氷を食べる。
ほぼ同時に食べ終わると、シュラが言った。
「……彼女らはなんだ、知り合いか?」
「よくわかったな」
「いや、そりゃ話を聞いていたらな……」
シュラが少女たちをまじまじと見つめる。
エウーリアと呼ばれた少女が氷を作り出し、ミセルがそれを剣で刻み、もう一人の桃色の髪の少女がそれにシロップをかけて売り子をしている。まごうことなきイロモノかき氷屋だった。
見目麗しい剣士による無駄に派手な剣舞は客の目を惹きつけている。
だがそれ以上にシュラに感じ取れるのは、『そこに異物がいる』というどこか不安な感覚。彼女たちのいったい何が……と具体的には明言できない。纏う空気、雰囲気……そうとしか呼べない、けれども確かな異物感。
それはまさしく、隣に座る少年に感じるものと同様のものだった。シュラはクロウに聞いた。
「彼女らは何……何をやっているんだ?」
何なんだ、と聞こうとして流石にどうかと思い、結果的に違うことを聞いていた。クロウは答える。
「かき氷を売っている……かき氷屋だな。おれは金が無くて困っていたが、エウーリアたちはああやって金を稼ぐことにしたんだな。うむ、かしこい」
「クロウとあの子らは同じとこから来たのか?」
その問いにクロウは首を傾げた。
「同じところ……でもないな」
「そうなのか?」
「ちょっと前に会ったばかりだ」
敢えて曖昧に話しているのか……いや、クロウのことだから素のような気もするが、聞いてみてもよくわからない。
シュラはそこで話を切り上げることにした。何を聞こうにも、ただの好奇心でしかないことは自覚している。必要以上に詮索するものではない。
「そうか。……ところでこれからどうする?」
「ふむ……」
クロウは即答せず、何か悩みながら広場の中央に視線を遣った。
その先を見たシュラが問いかける。
「なんだ、あの子……エウーリアに用事があるのか?」
「そうともいえる。でも荷物持ちがあるからな……」
「気にしなくていいぞ。最終的に運んでくれるなら、別にいつでも構わない」
「いや、でも、おれがエウーリアたちと話している間に盗まれるかもしれないからな……」
「重すぎて無理だろ」
「いやでも」
「本当にあの子に用事が無いなら立ち去るか?」
「それはよくない。次、いつ会えるかわからないんだ」
シュラは可哀想なものを見るような気分で聞いた。
「……話すことが無いのか?」
クロウは深刻そうに頷いた。
「よく考えると……何も無い……」
「そうか……」
シュラはなんとなく察していた。
おそらく話題が無いのではない。話しかけ方がわからないのである。向こうから話しかけられる分には意気揚々と応じるが、自分からはどうすれば良いかわからない。
一応は元少年であった身として、シュラはクロウの懊悩をなんとなく看破していた。そして同時に、その解決方法も理解している。要するに、きっかけを作ってやればいいだけである。
「なあ、エウーリア……でいいのか?」
「ん、なんだ?」
エウーリアに近づくと、怪訝な表情で少女はこちらを見上げる。
これまで意識していなかったが、改めて見つめてみると顔貌の整った少女だ。気後れするほど繊細な外見に、『これは苦労するだろうな……』とシュラはクロウに内心同情した。
「クロウを遊びに連れて行ってやってくれないか? コイツここ数日、家に篭りきりでな……」
「……ほー?」
少女の視線がシュラからクロウに移る。エウーリアがじとりとした目で見つめると、少年は気まずげに視線を逸らした。
「なんだクロウ、冒険してないのか? せっかく来たってのに」
「だって殴っていいやつがそのへんに見当たらないからな……冒険のやり方がわからない」
「ああ、なるほどなー。その気持ちはよくわかる……」
エウーリアは深く頷いている。
シュラは先ほどの意見を素早く撤回した。この少女は外見はともかくとして、おそらく中身はクロウの同類である。
そんなことを思っていると、エウーリアは何かを決めたように頷いた。
「よし、なら私がいいところに連れて行ってやろう。ミセル、ユフィ、今日は店じまいなー」
「まあいいが」
「どうぞー」
「じゃあ行くか、クロウ。……あ、おにーさんも一緒にどうだ?」
「え? いや……」
俺は邪魔だろ、と思ったシュラがクロウを見る。
「……?」
クロウは怪訝そうに首を傾げた。シュラが何を戸惑っているのかわからない様子だ。……まあいいか、と思ったシュラはついていくことにした。本当に邪魔になりそうなら適当に消えればいいのだ。
◇◇◇
エウーリアに連れられてきたのは巨大な建造物の前だった。都市の運動施設である。
だが、その威容以上に目を惹くのは人混みだ。これまでとは明らかに違う人口密度。喧騒が立ち込め、誰もが興奮したように浮き足立っている。
「……なぜこんなに人が集まっている?」
その様子にシュラが怪訝な声をあげる。市民の運動の場として利用されているこの建物は、シュラも利用したことがある。だが、今日の人だかりは異常だ。祭りの日でもない平日の盛り上がりようでは無い。
「ほら、中に入るぞ」
人混みを掻き分けるエウーリアに先導され、建造物の中に入る。
中に入ると、上の観客席から響いてくる振動や重なり合った人の声の存在から、尋常でない人数がこの建物に詰めかけていることがわかった。
「なあエウーリア、ここはなんなんだ」
ロビーのような場所から客席へ、暗い通路を進みつつクロウが問いかける。対するエウーリアの返答は胡乱だった。
「いや、改めてそう聞かれると、私にも何とも言えないな」
「何か興行でもやっているのか?」
「まあ、そういうことになるのか? どうやらアイツらが勝手にやっていると、自然に人が集まってきたらしいんだが……」
シュラの問いにも歯切れが悪い。さらに問いを重ねようとしたところで、暗い通路に日光が差し込んできた。同時に、これまで籠って聞こえてきていた歓声がダイレクトに飛び込んでくる。
「まあ、見るのが早いだろ」
客席まで出てきたシュラの目に映ったのは、全て人で埋まる観客席。
そして直径数十メートルの闘技場で繰り広げられる、常識からはあり得ない戦闘だった。
二つの人影が地を踏みしめ、駆ける。
秒を経ずに発生した両者の交錯は、ぎぃぃん、という硬質な音と周囲数メートルで地の砂を巻き上げるほどの衝撃波を伴った。それも道理、相対する二人が振るう武器は人の身の丈を越そうというあり得ないサイズ。鈍く光るそれを、両者はそれをまるで重量など感じさせないように振り回している。
そもそも、速度が異常だ。一足の踏み込みで数メートルを移動して間合いを詰め、火花を散らして武器を叩きつけ合う。そして次の瞬間には離れる。間合いの狭まりと広まりの速度が尋常ではない。
そんな超人たちの戦闘を目の当たりにして、観客たちは熱狂の声をあげていた。
「こ、これは……」
シュラの喉から呻き声のような音が漏れる。
それはどう見ても、人間の身体能力で再現可能な挙動ではなかった。
「ま、不満はみんな同じってことだ。ここじゃ魔物と戦えないし戦闘なんて起きないから、相当ヒマだったんだろうな。仲間内同士で模擬戦してたら市民に見つかって、見に来るやつも増えてこの有様ってわけだ」
エウーリアの言葉にクロウが尋ねる。
「あいつらはエウーリアの仲間ということか?」
「この階層に入る前に顔合わせしたろ。覚えてないか? 一回しか挨拶してないから仕方ないっちゃあ仕方ないが」
「……?」
「あ、本当に覚えてないなこりゃ……。人の顔と名前ってのは覚えるもんだぞ? コミュニケーションの第一歩だ。……と、そうだ」
そこでエウーリアはシュラに向き直った。
「すまん、まだちゃんと自己紹介してなかったな。私はエウーリア、冒険者だ。おにーさん、あんたは?」
「……シュラ。しがない魔法使いだ」
……だから冒険者って何? と思いながらシュラはエウーリアと握手を交わす。
エウーリアは二人に向き直って声を潜めた。
「……よし。ところで、どっちが行くんだ?」
「は?」
シュラは思わず素で声を出した。
行くって、何がだ。
エウーリアの視線の先を見る。闘技場である。
戦闘がひと段落したようで、周囲の観客は狂ったように戦士たちの名前を連呼している。
「……まさか乱入する気か?」
「当たり前だろ。何しにここに来たんだ?」
「少なくとも戦うためじゃあないな……」
シュラは自分のこめかみを揉みながらそう答えた。
「クロウが連れてるくらいだ、あんたも強いんだろ? 見せてくれよ」
「俺は本当に、その辺にいるただの魔法使いだ。何か誤解があるかもしれないが、戦ったことなんてない」
「え? あ、そうなのか? そりゃすまなかった。クロウといるもんだからてっきりな」
エウーリアは手を合わせて詫びる。
少なくともあの蛮人どもの戦いに放り込まれることは無さそうだとシュラがほっとしたところで、エウーリアはクロウに話を向けた。
「よし、じゃあクロウが行くか」
「よしじゃない」
クロウを庇うように背に回す。
「そのために来たんだろ?」
「うむ」
「黙ってろ! ……いいかエウーリア。クロウは確かに身体能力が高い。それは知っている。そしてあそこで戦っている男たちはお前の知り合いなんだな? それも理解した。……が、それとこれは特に関係がない。せめて、なぜクロウが行かなければならないのか、理解できるように説明してやれ」
エウーリアはシュラを見て、腕を組んだ。
「そうだな。どう言えばいいか……」
数秒沈黙したエウーリアは頷いて言った。
「とりあえずクロウ、荷物を下ろせ」
「うむ」
「よし。行ってこい!」
クロウは射出された。シュラが止める暇も無かった。
足元から立ち上がった氷柱が、予備動作もなくクロウを宙空に向けて打ち上げたのだ。文字通り飛んでいくクロウを横目に見ながらシュラはエウーリアをガクガクと揺すぶった。
「おい! おい!」
「まあまあまあまあ。心配はもっともだがクロウなら大丈夫だ。私が保証する、問題ない」
「何が!? どこがだ……!?」
詰め寄るシュラに、エウーリアは薄く笑った。
「心配すべきはクロウじゃないさ。それにだ、万一があったとして……」
シュラは条件反射的にエウーリアから手を離した。目の前の華奢で小柄な少女が一瞬だけ、怖気が走るほどに濃密な魔力の気配を露わにしたからだ。
エウーリアは悪戯っ子のように笑って言った。
「……ほら、ここで私も見てるしな。問題ないだろ?」