得意技は殴打、必殺技も殴打   作:アッパーカット

90 / 90
禁忌

 

 

 

 いくつもの魔法に蹂躙される戦場。

 膨張する魔力光、明滅する熱源、大気を震わせる波濤。

 一人一人がこの時代で言うところの儀式級魔法を操る魔法使いたちが、戦場を動き回る小さな影を狙い撃つ。

 

 もはや視界など効かない。クロウはただ己の勘だけを頼りに魔法の発動を感じ取り、回避に徹する。

 襲いくる魔法の全てが致死性。一度喰らえばもはやその後を回避する術はなく、ただ討ち滅ぼされるだけだ。

 

 クロウは脚に全力を込めてその場を脱出し、ようやく一瞬、魔法が襲って来ない時間を手に入れ、ため息をつく。

 

「うむ、間一髪だった、な……ッ!」

 

 無論、それは狙い撃たれる隙にしかならない。

 横っ飛びに魔法を避け、本能のままに回避を続ける。

 身体中の産毛が逆立ち、生命の危機にあることを否応なく実感する。心臓が熱く鼓動し、血潮の巡る音まで聞こえる。

 

 少年の口角は、それと言わねば分からぬほど小さく、けれど確かに吊り上っていた。

 別にこの状況が楽しいわけではない。この状況を望んだわけでもない。だがそれでも、今この瞬間を捧げ、一瞬の生を勝ち取ること……やはりそれは、酷く愉しい。

 

 

 

 そして降り注ぐ魔法の合間に斬撃を放ちながらクロウの様子を観察するミセルは、内心でツッコんだ。

 

 ────いや、全部普通に当たっとるやんけ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ミセルの目からも、クロウの危機回避が神業めいていることは間違いなかった。

 最も危険の大きい場所から抜け出し、より安全に近い場所に身を寄せる。その判断の全てが的確であり、戦闘者として文句のつけどころがない。

 

 だが────それでも回避できないのが、魔法なのだ。

 

 斬撃のような線の攻撃ではなく、面の攻撃。襲い来る全てが範囲攻撃であり、どれだけ素早く動かれたところで、回避先も含めて攻撃してしまえば関係ない。

 

 無論、それは言葉ほど簡単なことではない。広範囲を狙う魔法であればそれだけ発動にも時間がかかり、クロウほどの動きの速度であれば、それを捉える魔法使いにも相応の熟練が必要となる。

 だが当然、この場に集う魔法使いたちはその全てが一騎当千。魔法が正常に発動した時点で、もはや避けるという選択肢を成立させないレベルの魔法の使い手たちである。

 

 故に、今の状況は必然だった。

 クロウは最善の回避をし、安全地帯に歩を進めるが、そこも当然ながら火力範囲に含まれる。

 

 間一髪もクソもない。明らかに致命の魔法が何十発も入っている。にも関わらず、クロウは平然と宣った。

 

「やれやれ、危なかったな……紙ひ……ひと……? ……。……うむ、危なかった」

 

 ミセルは引き攣った表情でクロウを見た。

 全てとは言わない。だが放たれた魔法の、そのほとんどが────紙一重で、どう見ても命中している。

 

 痩せ我慢しているのか、それとも被弾に気づいてすらいないのか……明らかに避けきれていない。それなのになぜ、この少年は怯みすらせず動き続ける。

 そんなミセルの動揺を知ってか知らずか、クロウは嘯く。

 

「ふむ、そろそろ慣れてきたな」

 

 ミセルは笑えない。

 幾度も被弾し、殺意極まる魔法の奥義をその身に受け続け、なお────当然のように、無傷。

 

 何ならこの少年を殺せるのか、もう分からない。

 

「手は無いのか、フィルバード……ッ!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……やめよっか」

 

 静かなその声は、周囲の幾人かにしか聞こえなかった。

 フィルバードを不思議そうにアルマが見つめる。

 

「やめる? 攻撃を? ……これだけの攻撃だ、まだ効かないと決まったわけでもあるまい」

「いや、このまま彼を殺すのは無理でしょ。たぶん」

 

 フィルバードは魔法の坩堝と化した戦場へと目をやった。

 

「だって彼、燃えないし凍らないし、電撃も毒もなんでか知らないけど効かないじゃん。一瞬ビクって硬直するけど、そのあと普通に動き続けるじゃん。もうなんか効いてるっていうよりびっくりしただけじゃない? アレ」

「ま……まあ」

「周りを真空にするのは流石にイケると思ってたけど、それも効いてないし。よく考えたら彼、土の中で寝てたわけだし効かなくて当然か。……いや当然なわけないでしょ。彼の生態、もう人類じゃなくない? 呼吸くらいしてよ」

 

 だんだんキレ気味になってきたフィルバードに、魔法爆撃に参加せず手持ち無沙汰なザクスが横から声をかけた。

 

「だが、攻撃をやめてどうする?」

「当然、別の攻撃をするんだよ」

「別ぅ? 別って言っても手札が無いだろ。“影”に暗殺でも頼んでみるか? 嫌がるだろうけど」

「いや、ミセルが無理なんだから、流石に彼でも無理だと思うよ。嫌がるだろうし」

「まあそうだよな。……じゃあどうすんだよ」

 

 ダルそうに言ったザクスに、フィルバードは静かな声で答えた。

 

「最大火力を使うしかないでしょ」

「……? ……んっ?」

 

 何それ俺も知らねぇんだけど、という表情をしたザクスにフィルバードは一言で説明した。

 

「魔力核撃だよ」

 

 ザクスの表情は目まぐるしく変わった。

 

「おま……それはお前……えっ、マジで?」

「本気だよ。他に方法があればそれでもいいけど」

「いや……思いつかん、けどよ。でもお前、……それはさあ」

 

 ザクスには珍しく頭を悩ませるその様子に、不思議そうにジャックが問いかけた。

 

「その魔力核撃ってヤツ、使えばいいんじゃないのか? もうそれしか無いだろ?」

「無いんだが……いや、でもな」

「何か懸念があるのですか?」

 

 問いかけるウルに、ザクスが渋面で答えた。

 

「使ったのがバレたら処刑される」

「しょっ……!?」

「誰にだよ!?」

「いやそれ自体は別に、バレなきゃいいっちゃいいんだが……でもお前、やっていいことと悪いことがあるだろ」

「法律上の話なら……」

「いやそれ以前の問題で」

 

 ザクスはため息をつき、ジャックとウルに説明した。

 

「いいか? コイツがやろうって言ってんのは、魔法の禁忌中の禁忌だ。複数人で魔力を重合させて、ぶっ放すんだよ」

「それは、儀式魔法じゃないのか?」

 

 ジャックが疑問を呈する。ザクスは首を振った。

 

「儀式魔法(アレ)は一つの術式に複数人で魔力を流してるだけだろ? そうじゃないんだ。……複数人の魔法を混ぜ合わせて撹拌して、魔力から属性を剥がす。純粋なマナになった魔力は連鎖的に増殖して、周囲の物体を分解しながら、ほとんど完全効率で破壊力に変換される」

「何かよく分からんが……」

「そのくらいの理解でいい。『これ』に関しちゃ使うのはもちろん試すのも研究するのも禁止。バレたら一発で処刑だ」

「な……何だそりゃ? なんでそうなる?」

「発動に失敗して何も起きないならそれはそれでいい。厄介なのが、成功したうえで制御できないパターン────最悪、半径数十kmが丸ごと吹っ飛ぶことになる」

 

 冗談だと思い笑おうとしたジャックは、ザクスの全く笑ってない顔を見て声を引っ込めた。

 ザクスはため息をつく。

 

「いや、失敗の可能性が高いわけじゃないぜ? 基本的に参加する人数が増えれば増えるほど制御が難しくなるから、ウチみたいに一人一人のレベルが高い魔法使いが揃ってるならまあ、十中八九は上手くいくだろ。でも成功は絶対じゃねぇし、失敗したら全滅なのはどうよ?」

「最悪に備えて、ユフィには最初から僕ら全員に蘇生魔法を使い続けてもらう。何秒間か……何十秒間、最悪だと何分間か死んで生き返るのを繰り返すけど、そのくらいなら大して問題ないっていうか、許容範囲じゃない?」

 

 その説明にザクスは驚いた表情をし、やや考え込む。

 そしてぽつりと言った。

 

「……考えてもみなかったが、それなら……確かに、やってみてもいいか……?」

「いいのか!?」

 

 驚愕するジャックにザクスは手を振る。

 

「普通、ありえねぇ判断だがな。蘇生もリスクが無いわけじゃない。単純に失敗する可能性もあるし、繰り返せば寿命も削れてくる。……だが確かに、今は他に手も思いつかない。なら、やってみる価値はある」

「……あの、一つ質問ですが」

 

 ウルが迷いながら疑問を投げかける。

 

「……その蘇生魔法、何人までが対象ですか?」

「君は入るよ。大丈夫」

 

 フィルバードのその言葉を、ウルは聞き流せなかった。

 横で話を聞いていたジャックもまた、表情を青褪めさせる。

 

「つまり、私たち以外、ここにいる人たちは全員死ぬかもしれないということですか?」

「んっ……、まあ、そうか。……そういうことになるわな」

 

 困ったようにザクスが頭を掻く。

 失念していた。

 

 自分達の認識ではここは過去の残響でしかなく、周囲への被害を無視できるからこそ『使える』と判断したが────ウルやジャックにとっては、まさしく今、この瞬間こそが現実なのだ。

 言葉に悩むザクスを差し置いて、フィルバードが平坦な声で言った。

 

「そうだね。もしそうなってしまったら残念だ」

「……!」

「……お前……ッ!」

「ウル、ジャック。悪いけど交渉も譲歩もしない。優先順位がある。……分かるね、アルマ?」

 

 ウルから視線を背けてそう声をかけると、アルマはため息をついてフィルバードに向き直った。

 

「分かるとも。だが、だからといって貴様の言っていることが受け入れ難いことも分かるだろう」

「もちろん。だからこれについては、相談ではなくて、決定だ。受け入れてくれなくていいし、怒ってもいい。けど、邪魔はさせない。失敗したくないんだ」

 

 アルマはフィルバードの予想に反し、激昂しなかった。

 ただ、静かに問いかける。

 

「分かった。では、もう一つ聞きたい」

「何かな」

「手伝うのは勿論、構わないな?」

 

 フィルバードは笑った。

 

「……ふぅん?」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

上位存在のクソデカ師匠に生まれ直しを迫られてる(作者:上位存在って総じてエッチだよね)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

全部がでかい上位存在に、胎内回帰(おかえりなさい)!を迫られるがしない話。▼ひょんなことから上位存在の弟子となった主人公は、いつの間にかにどちゃくそ執着されていた。▼「私の胎で生み直しましょう?」▼こんなことを素面で言うくらいには執着されてしまったのだ。▼もっとも、赤ちゃんプレイみたいな趣味は無い主人公は拒否するものの、上位存在である師匠は頑なに生み直すと聞…


総合評価:1080/評価:8.12/連載:4話/更新日時:2026年09月17日(木) 08:05 小説情報

若返った老騎士、落ちこぼれ公爵令嬢の使い魔になる(作者:ですわお嬢様スキー)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

王国唯一の独立騎士にして、騎士の中の騎士と謳われた男、ラングリッド・ラントブルグ・フォン・エシュタール。▼ 七十年の生涯を祖国に捧げ、最後は王国へ迫る竜を討ち果たした彼は、確かにその人生を終えたはずだった。▼ だが次に目を覚ました時、ラングリッドは最盛期の肉体を取り戻し、見知らぬ世界に立っていた。▼ 彼を喚び出したのは、赤髪赤目の公爵令嬢レティシア。▼ 気位…


総合評価:2716/評価:8.68/連載:16話/更新日時:2026年08月14日(金) 10:37 小説情報

駆け出しハンターは英雄に憧れる ~だけども、どうやら人間は滅んでいるらしい~(作者:木乃実なぎ)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

▼ これは、英雄に憧れた少年が――いつか、誰かにとっての英雄になるまでの物語。▼ 生まれてから十七年。▼ 母と二人、森の奥で暮らしていた少年ルキウスは、物語に登場する英雄へ憧れ、ハンターになるため旅へ出る。▼ 胸が躍るような冒険を夢見て辿り着いた、自由交易都市エルドラン。▼ そこで彼は、この世界の常識を初めて知った。▼「え? 人間は千年前に滅んだ種族?」▼「…


総合評価:1920/評価:8.56/完結:77話/更新日時:2026年09月08日(火) 21:00 小説情報

義務レットは自由に生きてみる(作者:POTROT)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

義務と責務に追われて死んで、転生しても義務と責務に追われる日々。▼そんなある日、全てが嫌になったギムレットは義務を捨て、レットになった。


総合評価:3426/評価:8.43/連載:9話/更新日時:2026年07月26日(日) 15:56 小説情報

しょうもなおじさん、異世界に行く(作者:埴輪庭)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

佐古歳三47歳。▼しょうもないおっさんだ。▼だが歳三はしょうもなくないおっさんになりたかった。▼ダンジョンでならそれが叶う──そう信じて25年。▼少しは真人間に近づいたものの、歳三の望みである「社会に受け入れられる」という願いは叶う事はなかった。▼なにせ──異世界に来てしまったので。▼※▼本作は「しょうもなおじさん、ダンジョンに行く」(https://syo…


総合評価:874/評価:9/連載:5話/更新日時:2026年10月04日(日) 06:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>