所用で出かけた私は、思わず小学生時代の自分に出会っていた。

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第1話

 

 所用で、日の照る中を少々歩き、喉の渇きを感じていた。雨の多かった1週間ではあったが、それを巻き返さんという陽光が、熱したバターのように額へ塗りたくられて感じる。

 涼感を心身共に渇望していた。

 

 車道沿いの細い歩道を、アスファルトに熱された空気の中を、せかせかと早歩く。呼吸は少し乱れている。喉の渇きは無視できないまでになり、一刻も早く口内の高まりつつある粘性を吹き散らしたかった。

 そんな訳で、足は家路への最短経路からやや逸れた方へ向かい、確か大きなスーパーのあった方へと私を引きずって行くのだった。小学生の頃はよく利用した記憶があるが、それ以来まるで来ることのない場所ではあったが、身体の記憶とでも言うべきものは、頭の不安には斟酌せずに、衒いなく私を運ぶ。

 次第に頭も今歩く道に自信を宿し始め、揚々と腕を振って歩調に合わせた。

 

 で、スーパーは消えていた。

 入店による寒暖差に備え、心待ちにしていた肌がゲンナリと萎びた気がした。

 目はスーパーではなく、その広大な解体現場を覆う、仮設の、真っ白い鋼板に眩んだ。

 

 とんでもなく眩しい。真夏の入道雲よりなお強く、鋭く、暴力的な白の光沢。痛みに目蓋を閉ざす。仕事でPC画面を眺め過ぎたときのような、じんわりと染みる感覚が涙を誘う。

 

 自然と五感は影を探し、これまた真っ白な自販機を見つけ出す。記憶には無いものだったが、最後にここへ足を運んでからの歳月を思えば、記憶にあるものの方が少なくあるべきにも思える。

 

 品揃えは……あまり好ましくない。派手派手しい色のゲテモノじみた飲料が陳列されている。それでも今の私には渇望した水分であったし、炭酸の誘惑は抗いがたいものがあり、財布から手っ取り早く100円硬貨を2枚出して、素早く投下した。

 小銭が増えないようにちょうどを入れるなんて、まるで考えなかった。焦れていた。

 

 この純白の箱に唯一、明らかに炭酸飲料であることが表記された缶を選び、急かされるように屈んで引ったくった。冷たさに、一瞬心臓が驚いた。結露によるものか、薄く張った水の層が掌を濡らし、私はそれを肌に塗って涼んだ。

 さっさと飲み干したいが、それを9回の落下音がこれまた焦らす。全て10円硬貨だった。財布が閉じれなくなった。ポケットがさっきより膨らんだのがイヤだった。

 

 真っ黄色の缶を、中身が噴き出すのを警戒して慎重に扱う。「プシッ」という爽快な音を聞いて、「カコッ」と開けた。口元に運ぶとなんとなく懐かしさを覚えたが、記憶を手繰るよりも先にとっとと口をつけた。

 口内に一瞬で痛いほどの冷たさと刺激が広がり、無防備な舌を刺し貫いた。それもすぐに温くなり、嚥下するとしつこいエグさを伴う甘ったるさが残される。

 それを洗い流すためにまた口をつけ、今度はすぐに喉奥へ流し込む。清涼感の濁流にくらりとした。鼻腔をケミカルな匂いが抜けて行く。

 

 咽せた。手がベタベタになった。

 結局水を買い、ベタつく手とペタつく缶を洗い流した。

 

 鼻の奥に、まだシュワシュワを感じる。それと匂いも。

 暑さと、慣れない匂いと、鼻奥の痛み。不思議と懐かしさが込み上げる。私はこの状況で、小学生時代の学校のプールを思い出したのだ。似ても似つかぬこの黄色い匂いから、なぜだかあの塩素の匂いを見つけ出したのだ。

 

 まだ缶には半分くらいの重みが残っている。

 膨満感はこれ以上はイヤだと告げている。

 しかし買った以上は飲み切るべきだと、小学生の私が口を尖らせる。

 

 私は水を数口分、頭から浴びた。頭髪に絡め取られ蓄えられていた熱が、水に溶け込みアスファルトを色濃くする。

 シャワーが冷たすぎて泣いた女の子は、なんといっただろう。そんなことを思った。

 

 濡れたアスファルトはすぐに元の濃淡に戻り、私はさっぱりとした思いで寄り道から帰り道へと戻るのだった。

 

 はや夏である。

 

 


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