かぐや姫に会いに月に行く   作:蛍もがな

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第2話

 「ヤチヨーーーーーー!!」

 

 抑えきれなくなった思いを推しに叫ぶ。

 

 今日のライブも最高すぎた。

 ライブの演出やパフォーマンスもさることながら、ヤチヨの感情が込められた歌に包み込まれて溺れてしまう。

 

 「頑張れ」「大丈夫」「無理しないで」「1人じゃないよ」

 

 そう言ってくれているみたいで涙が溢れて止まらない。

 

 もっとライブの余韻に浸っていたいけど今日はそうもいかない。

 何と言っても念願の握手券付きのライブなのだ。

 

 あぁ……何度この日を夢見たことか。

 何度も何度も、数えきれないくらい抽選に応募をしては落選を繰り返しようやく当選した握手券。

 今日、この日のために毎日を頑張ってきたと言っても過言ではないぐらい楽しみにしてきたのだ。

 私の全神経を総動員しなければならない。

 

 ……って、気付いたらヤチヨがもう目の前にいる!

 ついにヤチヨと握手できる!

 大丈夫、話したいこともまとめてきたし焦らないで私、この一瞬を最高のものにするんでしょ!

 

 「────────────」

 

 あれ?ヤチヨが何か話してくれてるのに何も聞こえない?

 こんな時にラグ?もしくは不具合?

 

 ……え?……え?え?……

 

 嘘でしょ!?最初で最後かもしれない握手券なんですけど!?

 今までこんなこと無かったじゃん!?

 ヤチヨに報告してどうにかしてもらわないと!?って、目の前のヤチヨがそうじゃん!?

 落ち着け!?落ち着くんだ私!?

 目の前にヤチヨがいるんだから言えば大丈夫!?っていうかさっきからたまに鳴るインターホンの音は何!?こっちはそれどころじゃないんですけどっ!?

 あっ!ヤチヨが気づいてくれたかも!また何か話してくれてる!

 

 「───彩葉、そろそろ起きなくて大丈夫?竹中さんとの約束の時間じゃない?」

 

 ピンポーン

 

 チャイムの音が部屋の中に響き渡る。

 さっきまでの最高の時間が夢だったのだと気付いて慌てて布団から飛び起きた。

 

 肉体的に限界ギリギリだったことと、張り詰めていた心が落ち着いたことで熟睡してしまった酒寄彩葉なのでありました。

 

 

 

 「そんなに落ち込まなくていいよ。酒寄」

 

 あの後竹中さんには一度自分の部屋に戻って貰い、身支度を急いで済ましてから部屋にもう一度来て貰った。

 

 「申し訳ないです。私からこの時間でお願いしたのに寝ていたなんて……」

 

 「昨日は大変だったからしょうがないよ。泣いてる声は聞こえなかったけど夜泣きとか大変だった?」

 

 「いえ……そんなことはなかったです」

 

 「ならしっかりと熟睡できたってことだ。逆に安心するよ」

 

 そう言って笑う竹中さんに申し訳なさがまた溢れてさらに落ち込みそうになるけど、首を振って次はしないようにと気持ちを切り替える。

 

 落ち着いてくると竹中さんが持ってきた大きな袋が目についた。

 

 「あの、竹中さん。その大きな袋は何ですか?」

 

 「これね。おむつとかのベビー用品。必要な物は買ってきたから使って」

 

 おむつや服、哺乳瓶などが入った大きな袋を渡してくる。

 

 「え!?そんな悪いですよ!幾らだったんすか?払います!」

 

 慌ててふじゅ~payを出そうとするも手で遮られる。

 

 「高校生からお金は受け取れないな~。これぐらい大人に甘えなさんな」

 

 払います。受け取れません。半分だけでも。気にしなくていいからとお互いに譲らず言い合っていたが結局は私が折れることとなった。

 

 「わかりました。その代わりいつか別の形でお返しさせてくださいね!」

 

 「……なら楽しみにしてようかな」

 

 

 

 その後はおねしょをしていた赤ちゃんのおむつを変えて、ミルクと自分達の朝食を食べながら今後について話していく。

 

 「赤ちゃんをこれかはどうするかなんですど。三連休が終わった後も育てたいと思ってます」

 

 竹中さんはどこか意外そうな顔をして続きを促してくる。

 

 「それはかなり大変な道だと思うけどどうして?」

 

 軽く深呼吸をして不安と緊張を隠す。

 

 「この子はたぶん地球人じゃないと思うんです。電柱から出てきた時点で普通の赤ちゃんだとは考えられないですし、昨日に比べて見て分かるぐらい大きくなっているんです」

 

 成長スピードも普通じゃありません、と一呼吸。

 竹中さんもまぁそうだろうねと同じ考えみたい。

 

 「このままこの子をどこかの施設とかに預けたら研究対象になってしまって、実験とかで最悪の場合解剖されてしまうんじゃないかと思ってしまって」

 

 「素性もどんな目的でここに来たのかは分からないですけど、泣いて笑って今を精一杯生きているこの子にそんな思いはしてほしくないと思ったんです」

 

 私の思いを聞いた竹中さんの表情は肯定的というよりどこかこちらを試すような顔。

 

 「なるほどね。酒寄の考えはよく分かった。その気持ちは尊重してあげたい。ただ、現実問題として三連休が終わった後の具体的なプランは?」

 

 自分を犠牲にしてまで面倒を見るつもりなら反対するよと続ける。

 

 それはそうだろう。

 今は休みだから1日赤ちゃんを見ていることができる。

 学校が始まれば連れていくことはできない。

 家で赤ちゃんを1人にすることもできない。

 

 でもそれは私1人で赤ちゃんの面倒を見る場合の話し。

 これから話す内容に隠したはずの不安と緊張が顔を出す。

 

 「……竹中さんって在宅ワークで基本的に家にいるんですよね?」

 

 「私が高校にいっている間は竹中さんに見て貰いたいです。……一緒に赤ちゃんを育ててくれませんか?」

 

 言った。言ったぞ。竹中さんに頼ることができた!

 ……断られたらどうしよう。でも昨日は頼られて嬉しいって言ってくれたし。うん。断られる何てないよね。うんうん。今までだってたくさん気にかけてくれてたし。昨日の帰り際だって赤ちゃんを預かるって言ってくれてたし。大丈夫。大丈夫。でも私から竹中さんに改まってお願いするのって初めてかも?大丈夫……だよね?あんなに大それたことを言ったのに最終的には人任せなのかなんて思われないよね?失望されないよね?竹中さんまでいなくなったらどうしたら……

 

 不安と緊張でどうにかなりそうになりながら竹中さんを見るとどこか嬉しそうな顔していた。

 

 「もちろんいいよ」

 

 「最初から手伝うつもりだったし、また酒寄が1人でどうにかするって言ったら説教だったけどね」

 

 その言葉に体から力が抜けてホッとするが、竹中さんには呆れた顔をされてしまった。

 

 「もしかして断られるかもって思ってた?それは心外だな~。酒寄にそんな薄情なやつだと思われてたなんて傷ついちゃうな~」

 

 「そんなこと思ってないです!……思ってないんですけど……竹中さんの方が負担が大きいですし、仕事の都合とか忙しいのに頼んでも良かったのかとか色々と考えてしまって……本当にいいんですか?」

 

 「普段人に頼り慣れてない弊害だね~。昨日も言ったけど大人にドンと頼りなさい」

 

 「……ありがとうございます。赤ちゃんのことだけじゃなくて今まで気にかけてくれたこと、凄く嬉しかったです。これからもよろしくお願いします」

 

 「任せなさい。赤ちゃんのお世話も一緒に頑張ろうな」

 

 私の不安なんて考えるだけ意味ないよというように助けてくれる。

 でも私だって助けて貰うばかりじゃなくて、竹中さんに頼って貰える対等な関係になりたいのだ。

 今はまだ竹中さんにとって守られる子供かもしれないし、赤ちゃんのことでこれからも迷惑をかけると思う。

 だからこそ、これまでに貰った恩を返していきたい。

 竹中さん、これからも私を見ていてくださいね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 酒寄にかぐやを育てて貰うために色々と考えてはきたけどいい意味で無駄になったな。

 元々責任感が強くて優しいから最終的には育てることになるとは思ってたけど酒寄から提案されるとは。

 それも、1人でどうにか無茶して頑張るって考えじゃなくて、人に頼ることができたのはかなり良い感じ。

 人にお願いするのに慣れてないのと自己評価が低いのが今後の課題だけど、精神的には余裕がでてきてるかな。

 

 「竹中さん聞いてますか?」

 

 「おっと、すまん。ちょっと考え事してた」

 

 「一緒に育てる赤ちゃんのことなんですからちゃんとしてくださいよ」

 

 少しムスっとした顔を見て酒寄に向き直る。

 

 「ごめんごめん。酒寄が慣れないながらも人を頼ってくれたのが嬉しくてさ。会ったばかりと比べて成長したなって」

 

 「そんなこと言ったって誤魔化されませんよ。それに、今までの私を変えたのは竹中さん何ですから責任とってくださいね!」

 

 ならほど?責任?責任って何だ?酒寄が人を頼れるように成長したことの責任?

 

 「もちろん。赤ちゃんのことは途中で投げ出したりしないから安心していいよ」

 

 「それは今さら全く疑ってないんですけど……」

 

 何か間違えたっぽいな。酒寄の成長の責任だから誉めて欲しいってことか?

 

 「素直に人に頼れるようになって偉いな。慣れてなくて不安になるかもしれないけど、酒寄の頑張りをしってる人は余程のことがない限り断らないから安心して良いと思うぞ」

 

 「誉めて欲しいって催促したわけじゃないんですけど!?いや誉められるのは嬉しいけど……って、そんなことより赤ちゃんですよ!」

 

 軽く咳払いをして気持ちを切り替えから酒寄は話し始める。

 

 「今度はちゃんと聞いてくださいね」

 

 「どちらがメインで赤ちゃんの面倒を見るかですけど、この三連休はアルバイトなどの予定をいれてないので私が見ます」

 

 「夏休みに入るまでは竹中さんにお願いしたくて、夏休みに入ってからは私が。バイトとかの予定があるときは竹中さんに見ていただきたいです」

 

 「後は臨機応変に2人で協力しながら面倒を見ていけたらと思うんですけど、どうでしょうか」

 

 たしか三連休明けには大きくなるんだっけか……

 

 「いいんじゃないかな。夏休みまでにこの子がどのくらい大きくなるかは分からないけど、基本はその形でいこうか」

 

 「でも、三連休はどっちがメインとかじゃなくて2人体制のがいいかな」

 

 「酒寄も疲れが抜けてないだろうし、赤ちゃんのお世話なんてしたことないだろうから手探りになるだろ?」

 

 「俺は昔にお世話したことがあるからやりながら教えてあげれるからさ」

 

 「それはありがたいですけど、竹中さんは予定とかよかったんですか?」

 

 「これといった予定はなかったから大丈夫。それに酒寄だってバイトはなくても友達との付き合いとか休む時間も必要だろ」

 

 慣れてない赤ちゃんのお世話はかなり大変だぞと言うと少し悩んだ末に酒寄はわかりました、よろしくお願いしますと返す。

 

 「よし!じゃあ早速やっていきますか。赤ちゃんの持ち方は大丈夫そうだからミルクの作り方とあげる時間とかからな」

 

 三連休が終われば自分の役目は一先ず終わりかな。

 ヤチヨからもこの先の展開を知って動いてもらうよりオキの思うようにした方がいいって言われたし、緊急時以外は酒寄とがくやの2人で問題ないってことだろうな。

 コラボライブまでほどほどに様子を見つつの方針でいきますか。

 

 

 かくしてそれぞれの思いを胸に酒寄彩葉と竹中陽悕の三連休が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んふーー!凄い!何これ!!おきー!これ何!!凄いよ!」

 

 目を見開いて、全身で嬉しさを爆発させて竹中さんに抱きつく少女。

 いつも以上に優しい顔で、いつも以上に優しい手つきで少女を撫でる竹中さん。

 そんな二人の正面に座る私。

 

 あぁ……何がどうしてこんなことに……

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

初めての執筆なのに多くの人に読んでいただき、評価や感想までいただいて驚きと嬉しさを感じつつ超かぐや姫!パワーすげー状態です。
今後もゆっくりと更新する予定なのでよろしくお願いします。
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