全国にいる子育て中のお父さんとお母さん、いかがお過ごしでしょうか。
私も17歳の若輩ながらも赤ちゃんの子育てに奮闘しております。
赤ちゃんのお世話は想像を超える忙しさで皆様に尊敬の念を禁じ得ません。
一人で赤ちゃんのお世話をしていたらどこかで倒れていたことは確実でしょう。
だいたい2時間おきにミルクをあげておむつの交換、夕方には沐浴にいれてスキンケアを行う。
言葉にすればこれだけのことがどれだけ神経を使い、自分の時間など無いに等しくなるとは思っていませんでした。
泣いていれば子守唄と縦揺れ、背中をポンポンと叩きます。
誤飲をしないように手の届くところや床には小さいものを置かないで部屋は清潔にします。
ハイハイがすぐにできるようになるかもしれないからと物の角に柔らかい布を当てて怪我の防止も行います。
1日目は説明を受けながら行いましたがなかなか慣れなくて悪戦苦闘。
竹中さんがいなかったらと思うとゾッとします。
2日目は少しずつですが手際がよくなりました。
赤ちゃんが泣いてる理由も少しずつ掴めるようになりました。
3日目はようやく一日の流れを掴めたことで慣れてきましたが、赤ちゃんがハイハイできるようになったことでさらに目が離せなくなります。
好奇心旺盛で動き回る姿は可愛いですがもう少し落ち着きを持って欲しいです。
忙しくてあっという間の三連休でした。
竹中さんに見て貰ってる間にする予定だった勉強もせずに寝てしまうほど大変でした。
でも赤ちゃんの笑顔を見るだけでそんな気持ちも吹き飛び、もっと笑顔を見たいと思いました。
これが母性なのかな?
明日からは学校も始まり、夏休みに入るまでは私が竹中さんを支えるぞと考えていました。
考えていたんです。そう……寝る前までは……
「オムライス!んまっ!オムライス大好き!!んぐっ!」
目の前で竹中さんに口元を拭かれて笑顔を浮かべている少女。
生まれて3日でハイハイですらあり得ない成長スピードなのに一晩で少女になるのは早すぎやしませんかね。
赤ちゃんの頃の写真とか撮っておけばよかったかも……
いやいやそうじゃなくて!
「それで、あなたはどこから来たの?地球人ではないよね?」
「ん~~!ん?ん!」
食べるのに夢中で聞いてなかったのか竹中さんに促されながらコテンと首を横に倒しながら月を指差す。
可愛い……じゃなくて……月、月か~
「じゃあ月から来たあなたは何しに来たの?侵略?……は流石にないと思うけど」
侵略目的なら赤ちゃんの状態で地球に送るなんてしないよね?地球の誰かに育ててもらわないと達成できないことなんてしないよね?
「ん~~。あんまりよく覚えてないんだけど。とにかく毎日超つまんなくて楽しいところに逃げた~いって思った気がする」
話し的には退屈な月から逃げ出して地球に来た家出少女?
よく覚えてないってことは記憶喪失?
勝手に逃げ出してきた感じだけど親とか心配してないのか?いや、親とかがいるのかも分からないけど。
「?彩葉?」
考え事に集中しすぎちゃってたか……って私は名前教えてないよね?
竹中さんも名前で呼んでくれないし……って今は置いといて
「ごめんね。ちなみにこれに心当たりはある?竹取物語って話なんだけど」
竹取物語の絵本をタブレットで見せながら物語を話す。
月からやってきた姫が竹の中から出てきたのを翁が拾い、媼と
輝夜姫と名付けられた姫はすぐに大きくなり、結婚を迫られ……って
「ちゃんと話聞いてる?」
オムライスを食べ終わってもまだお腹がすいているのか、竹中さんの食べているものを貰っている。
「んーー!これも美味しいー!」
目を輝けせながら食べる少女は私の視線に気づいたのか聞いてたよと言わんばかりに話す。
「彩葉がこのおじいさんで、おきがおばあさんってことだよね!」
「80年後の未来でも見えちゃってるのかな~~。違うし、そこは逆だろ。」
どうしてそうなる。竹中さんも笑ってないで何とか言ってくださいよ!
「それで?けっこん?っていうのを迫れられてその後どうなるの?」
「あぁ、えっと、迫られた結婚は無理難題で全部断るんだけど……」
仲睦まじく暮らしていた三人のもとに月からの迎えがやってきてしまいました。
翁たちは連れて行かせまいと抵抗しますが、輝夜姫は羽衣を着せられてしまい、地球でのことは忘れて月に帰ってしまいます。
「めでたしめでたし」
「……え?終わり?輝夜姫が月に帰って終わり?その後は?」
「この物語はここでおしまい。続きはないよ」
少女の顔はみるみると不満げになる。
「超バッドエンド!どこがめでたしなの!?」
輝夜姫絶対不幸じゃん!おじいちゃんたちかわいそう!と騒いで暴れだす。
「ちょっと暴れないで。こういうお話なんだから仕方ないでしょ」
「仕方なくない~~!バッドエンドや~~だ~~!ハッピーなのがい~~い~~!」
そうしてしまいには歌いだすしまつ。
バッドエンドは嫌だ、ハッピーエンドがいい。そうね。そうかもね。その方がみんないいのかもしれない。
でもさ……
「どうしようもないじゃん。暴れたって、歌ったって、決まってることが変わるわけじゃないし」
決まってしまったものは覆らない。……どんなに願ってもお父さんは帰ってこなかったよ。
「受け入れて覚悟するしか、ない」
部屋の中から音がなくなってシンとなった。
黙って私の顔をじっと見てくる少女に我に返る。
強く言ったつもりはなかったけど、生まれて3日の子にいうことじゃなかったな。
どうやってフォローしたものか考えていると。
「決めた!自分でハッピーエンドにする!」
ビシッとポーズを決める少女。
「そんでハッピーエンドまで彩葉とおきの二人も連れてく、一緒に!」
三人でハッピーエンドにしよー!と笑顔を見せる少女。
……ハッピーエンドなんていらない、フツーのエンドで結構です。喉からでかかった言葉……本当に?
赤ちゃんの彼女を育てていこうと決めたのは私だ。
この子に笑っていてほしい、悲しい思いをしてほしくないと思ったのも私。
そんなフツーのエンドとは程遠いことを決めた私がそれを理由に三人でハッピーエンドにしたいと笑う彼女を否定するの?
私がハッピーエンドにするよって言わないといけなかったんじゃないの?
「彩葉もおきもハッピーエンドがいいよね!」
無邪気に、ハッピーエンドにできると信じて疑ってない少女に何も言えない私とは違って竹中さんは返す。
「まぁ、誰だってバットエンドよりハッピーエンドがいいよな」
「だよね!おき分かってるね!!」
嬉しそうに竹中さんに抱き着く少女に竹中さんはでも、と続ける。
「誰にとってもハッピーエンドっていうのは簡単じゃないからこれから頑張らないといけないな」
微笑みながら頭を撫でる竹中さんとよく分かってないのか、そうなの?と返す少女。
「さっきの竹取物語のおじいさんたちも月に帰らせないように頑張ったけど月には勝てなくて輝夜姫は帰ってしまう話だったよな。どうしたら三人でハッピーエンドになれたと思う?」
そう聞かれた少女は少し悩んでから名案が浮かんだとばかりに話す。
「三人で逃げる!」
「おじいさんとおばあさんに月から逃げ続けるだけの体力もなくて、輝夜姫もそんな2人に無理はしてほしくない。お別れは決まっていたことだから最後まで笑顔で過ごしていたいって思っていたら?」
「そんなのおかしい!輝夜姫だって別れたくないって思ってるはずなのにどうして諦めるの!!」
「輝夜姫も一緒にいたいとは思っていただろうね。でも、おじいさんたちに怪我をして欲しくなくて最後まで三人で笑っていたいって思う気持ちは間違ってると思う?」
「……間違ってないと思う。でも、お別れなんてやだ。三人でハッピーじゃないとやだ」
「そうだね。俺もそう思う。本当に。ここに残ってほしいと願うおじいさんたちと、輝夜姫がそのおじいさんたちに怪我をして無理をしてほしくない、三人で最後まで笑顔で過ごしたいっていう願いはどっちかが間違ってるわけじゃない」
竹中さんはどこか儚げで悲しそうな
「おじいさんたちも輝夜姫もお互いがとっても大切で、これからも一緒にいたい、悲しいお別れにしたくない、幸せになってほしいって思っていて、それでもみんなが望む結果にはできなくて、そんなどうしようもないこともあるんだ」
でも、大切な人のことを思う
竹中さんにもそんな経験があったのかな。
私と同じで大切な人との別れが。
「だからどんなことがあってもハッピーエンドにできるように、少しでも近づけるようにこれからいろんなことを経験していこう」
「……分かんないけど……分かった!」
「みんなでハッピーエンドに行けるように頑張る!」
竹中さんは最後にもう一度少女の頭を撫でて立ち上がる。
「じゃあ自分は部屋に戻るよ。明日からどうするかは朝に話そうか」
そう言って、どこ行くのー!一緒にいてよー!と騒ぐ少女に明日また来るから外に買い物と美味しいものを食べに一緒に行こうと約束をして帰っていく。
はぁ?赤ちゃんからお世話してたからってこの子にだけ甘くない?私のことは一度も誘ったことないくせに……。いやね?分かりますよ。世間体が悪いだろうし、私の学校の立場を気にしてくれてのことなんだろうなとも思いますけどね。だからって1年以上の付き合いのある私を差し置いてこの子が先に竹中さんと二人でお出掛けなんておかしくない?生後3日のこの子に嫉妬してるわけじゃないけど!全くもって嫉妬ではないけど!私に不義理ではないですかね!?
「彩葉!明日楽しみだね!早く寝よ!」
思考の渦に飲まれていると屈託のない笑顔で言われて冷静になる。
これから夏休みだし、チャンスはいくらでもあるか。
予定だけ見直さないとな。なんて思いながら布団に入ると一緒になって隣に入ってくる少女。
この子の名前も考えないとな……月からやってきた女の子だからやっぱり“かぐや”かな。
なんてことを考えながら私の意識は眠りの中に落ちていった。
ワクワクする気持ちが眠気を吹き飛ばして目が覚めちゃった。
今までずっと一緒にいたおきと離ればなれになっちゃってモヤモヤしたけど今日は外にお出かけしてずっと三人一緒にいられる!
地球はどんなところなんだろう?退屈な月と違ってちょ~面白そうなのがいっぱいあって早く行きたい!
彩葉まだ寝てるから起こして、おきにもすぐ来て貰って出掛けに……隠れて彩葉を驚かした方が面白いかも!
どこか隠れれる場所はっと、ここいいじゃ~ん!
後は彩葉が起きるまで待ってよー!
彩葉なかなか起きないな~、じっとしてるの飽きてきちゃった。
今から起こしにいこうかなー。
!彩葉起きた!んふふ!彩葉ビックリするだろうな~!
「ん、ん~~。ん?あれ?……いない?」
探し始めてる!近くに来たらココダヨーって驚かしちゃうもんね!
「……え?嘘!?かぐや!?どこにもいない!?もしかしかて1人で外にいっちゃった!?どうしよう!?竹中さんに連絡して……」
「わ~~!ごめん!ここだよー!っわぷ!」
思ってた反応と違って焦って出たらぎゅっと抱きしめられちゃった。
「は~~。よかった。心配したんだよ。どうしてこんなことしたの?」
彩葉の顔を見て胸がキュッとするのに心配してもらえたことが嬉しくてポカポカする。
「彩葉を驚かせようと思って……ごめんなさい」
シュンとした私の頭を撫でてからそっかと言って真剣な顔で話す。やっぱりその顔好きだな。
「1人で外に出ていっちゃってかぐやに何かあったらと思うと凄い怖かった。興味があって楽しいことをしたいのは分かるけど相手がどんな気持ちになるかも考えてね」
かぐや?探してたときも呼んでたけどもしかして私の名前!?
「かぐや!私の名前!?彩葉が考えてくれたの!?」
「え?……あっ。昨日寝る前に思ってたっていうか、違わないけど今は名前のことじゃなくてね」
「かぐや!かぐやかあ~~!」
嬉しい!嬉しい嬉しい!
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてる!かぐや、相手の気持ちも考える!」
かぐや!彩葉から貰った宝物!嬉しすぎてじっとしてられない!
「おきにも会いたい!どこにいるの!?」
「ちょいちょいちょい。そんなに喜んでくれるのは嬉しいけど落ち着いて、もう少ししたら来てくれると思うから」
「もう少しってどれくらい!?」
「落ち着け!たふん30分後ぐらいだと思うから先に朝ご飯とお昼も準備するからおとなしく待ってなさい」
「ぶー」
早くおきにも名前を呼んで貰いたいのに~~。
……えへへ。かぐや……かぐや。私の名前。
ありがとう。彩葉。かぐやとっても嬉しい!
かぐや、彩葉とおきを絶対ハッピーエンドに連れてくね!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
評価や感想ありがとうございます。
お気に入りも100を超えて嬉しい限りです。
今後もゆっくりと更新する予定なのでよろしくお願いします。