「無理せずこのままのペースを維持できるように頑張ろう。それで、進路希望だった法学部を迷ってるってことでいいんだよね?」
「はい、前までは法学部を考えていたんですが、三連休で色々と思うところができて一度自分の中で考え直したいんです」
そういうと立花先生は笑顔でどこか安心したような顔をしていた。
「気になってる大学や学部は?」
「それが何も決まっていなくて……」
「大丈夫。期限までまだ時間はあるからゆっくり考えよう」
「ありがとうございます」
「何か困ったことがあったら夏休み中でもいいから相談しにくること」
いいね?と最後に立花先生と約束をして職員室を後にする。
高校2年生の夏休み、進路に向けて勉強を頑張らないといけない時期になにやってるんだろう。
先生から受け取った進路希望調査票と東大のパンフレットを抱えながら一人心の中で愚痴る。
今のうちに進路を具体的に決めて夏休みを最大限に使って勉強する。
それがお母さんに認めてもらうための最善の道のはずだった。
東大に首席で合格して、大学院にも行って、一流企業に就職して……。
私にとってそれが全てだったのに……。
『ハッピーエンドまで彩葉とおきの二人も連れてく、一緒に!』
「私にとっての、ハッピーエンドってなんなんだろう……」
漠然とした不安を抱えながら待ってくれていた友達の芦花と真実の二人と一緒に他愛もない話をしながら帰る。
二人は進路とかもう決めてるのかな?
こういうのって気軽に聞いてもいいものなんだろうか。
「彩葉って進路どうするの?」
「音楽系だよねー。それかeスポーツ?」
「私にそんな才能ないよー」
よかった。気軽に聞いても大丈夫そう。
「芦花と真実はもう進路とか決めてるの?」
そう聞くと二人はお互いに顔を見合わせて少し驚いた表情をしていた。
「私は美容関係の大学か専門学校かな。インフルエンサーも続けていきたいし、就職するならそっち方面で考えてるよ」
「私はまだ決めてないかな~。インフルエンサーは続けていきたいけど、それを職業にするのは何か違う気がしてて。大学に行ってインフルエンサーの活動を続けながら考えようかな~」
彼氏と結婚して専業主婦とインフルエンサーもいいよね。なんて照れ笑いをしながら話す真実にお熱いねーと肘で小突きながら話す芦花。
そっか。二人はずっと好きなことを続けているけど考え方は違うんだ。
私が好きで続けてきたもの、わたしがこれからやりたいこと……。
お母さんに認めてもらいたい。お母さんともう一度昔みたいに話したい。
そのために今まで頑張ってきた。この気持ちは嘘じゃない。けど、法学部に行ってお母さんと同じ道に進むのが私の本当にやりたいこと?
仮にお母さんが高校の間に私を認めてくれて、自慢の娘だって笑ってくれたとして私もお母さんと同じように弁護士になりたいの?お母さんが私を認めてくれることと、お母さんと同じ道を辿るのは本当にあってるの?
私の本当にやりたいことって何?
「でも、彩葉から進路の話しとかするの珍しいね。何かあった?」
お父さんとの思い出やお母さんの言葉を思い出していた私を二人が心配そうに見つめていた。
「いや!何にもないよ!二人は高校卒業してからどうするのか気になっただけで……」
心配をかけたくなくて、私のことで時間を使ってほしくなくてとっさに何でもないと誤魔化してしまった。
何でもないなんて、二人なら絶対分かるような嘘をそれでも表情は変えずにそう?何でも相談に乗るからね。と踏み込まずに悲しそうな顔で笑ってくれた。
「……ごめん。本当は進路について悩んでて」
そんな芦花と真実の二人の顔を見たら泣きそうになった。
芦花と真実にそんな顔をして欲しかったわけじゃないのに。そんな顔をして欲しくなくて、私は大丈夫だって弱いところを見せないようにしていたはずなのに。これまでもそんな顔をさせちゃってたの?
今まで私は二人の思いに気付かないフリをして独りで生きているって本気で思っていたんだ。
自分のことで精一杯で二人のことを見てなくて、優しさにどれだけ甘えてきたんだろう。
「でもまだ上手く言葉にはできなくて……また今度相談にのってくれる?」
「「もちろん!」」
「芦花、真実、いつもありがとう」
二人はやっぱり驚いた顔をして凄く嬉しそうに微笑んでくれた。
「何でも相談に乗るから遠慮しなくていいからね」
「そーそー。私たちを頼れー」
なんて泣きそうになりながらも三人で笑っていればいつもと帰る道が違うことに今更ながら気が付いた。
「新しくできたカフェってこっちだよね?」
「この階段を登ったところ」
「新しくできたカフェ?」
急な真実の話しについていけない。
「彩葉忘れたの?食べに行こうって約束したじゃーん」
「彩葉のお掛けで赤点回避できたからね。ご馳走させて」
れっちごー。と私の手を引いて歩く二人にしまった!色々あって忘れてたと思い出す。
どうする?事情を説明して断る?二人なら分かってくれるし、別日にしてもらって……
いや、かぐやのことは心配だけど竹中さんが見てくれてる。
何よりも二人に甘えるだけじゃなくて思いにちゃんと向き合える私になりたい。
「ちょ、ちょっと待って!先に竹中さんに電話してもいい?」
「竹中さん?確か隣に住んでる気にかけてくれる人だっけ?」
「えー?もう予定いれてるのー?」
「予定ではないんだけどね……。家出してきた従姉妹が家に来てるんだけど、箱入り娘で世間に疎くて危なっかしいから学校のときだけ竹中さんに様子を見てもらってるの」
「それは……大丈夫?彩葉にとってはお隣の知ってる人だけどその子にとっては全く知らない人たがら不安なんじゃない?パンケーキは今日じゃなくてもいいんだよ?」
「三連休の時にも一緒に面倒を見てくれて竹中さんに凄く懐いてるから大丈夫。竹中さんも何故かかぐやには甘いし。……遅くなる連絡だけしときたくて」
なんて話していると私のスマホから着信音が鳴り響く。
二人に断りをいれてから確認すると竹中さんからだ。
竹中さんから?もしかしてかぐやに何かあったとか?
「もしもし?竹中さん、何かありまs───「彩葉ーーーー!」」
うるさっ!っと反射的にスマホを耳から遠ざけて鼓膜を破る勢いで話すかぐやの、もう学校は終わった?パンケーキが凄い美味しいってお店にきてるの!彩葉も来て一緒に食べよう!などを聞き流しながら落ち着くのを待つ。
しばらくして竹中さんから何か言われたのかまだ彩葉と話したい!と不満気ながらもしぶしぶ竹中さんに代わってくれた。
「もしもし?酒寄、耳大丈夫か?」
「大丈夫ですけど、何かあったんですか?パンケーキがどうのってかぐやが何か話してましたけど」
突然の大きな声で耳がキーンとなったことに少し思うところがありながらも要件を聞くと、かぐやとパンケーキを食べるから学校が終わっていて予定がなければ食べにこないかというお誘いだった。
しかも食べる場所はさっき二人と話していた新しくできたカフェときた。
「今ちょうどそのお店に行こうって友達と話していたところで連絡しようと思っていたんです。よければ友達を竹中さん達に紹介したいので一緒にお邪魔してもいいですか?」
「いいよいいよ。嫌じゃなければ皆で食べよう」
芦花と真実の方を見ればいいよいう風にジェスチャーをしてくれていた。
「ありがとうございます!今からそちらに向かいますね」
竹中さんとの通話を終えた後に芦花と真実の二人と一緒にカフェに向かうのでした。
「彩葉ーー!!」
カフェの店内に入って二人を探していれば奥の方から大きな声で呼ぶ声が聞こえてきた。
かぐやは席から立ってこっちに突撃しようとしていたところを竹中さんがたしなめられてえへへとした顔をして座りなおしていた。
そんなかぐやを微笑ましく思いながら二人を連れて近くまで行けばかぐやの日用品やら興味のあるものやらを買ってきたのか、大量の荷物が置いているではありませんか。
「……竹中さん。それ全部かぐやのですか?」
「ん?そうだね。かぐやの日用品とかかな」
へ~。かぐやの日用品ねぇ。
明らかに日用品ではないぬいぐるみやらが入った袋を指さす。
「このペンギンのぬいぐるみとかの袋は日用品ではないので全部竹中さんの何ですね?可愛らしい趣味ですね。部屋にはぬいぐるみなんてなかったと思いますけど初めて知りました」
「これは……かぐやのだな」
「じゃあこのパーティーグッズとかが入った袋は竹中さんのですよね?」
「……これも……かぐやのですね」
「……かぐやのこと甘やかしすぎじゃないですか!?」
これだけかぐやに買っていくらかかったのか考えるのも恐ろしい。
全額は無理でもせめて半分は出そうと竹中さんに詰めよろうとすると竹中さんが私の後ろを促していた。
そこにはこれまた驚いて苦笑いしながら私を見る芦花と真実。
しまった。かぐやを甘やかしすぎる竹中さんに気を取られて二人のことがすっかり抜けていた。
それとかぐやは座らないの~?早くパンケーキ食べよ~!じゃないのよ。
あなたの我儘と竹中さんの甘さについて話しているのよ。
竹中さんとかぐやは後でしっかりと詰めると決意し、芦花と真実に謝ってから席に着いてパンケーキを注文。
「芦花と真実にはさっきも少し話したと思うけど、従姉妹のかぐやと隣の部屋に住んでる竹中さん」
かぐやだよー!と元気なかぐやと対照的に竹中陽悕ですと落ち着いた返事をする二人に芦花と真実のことも紹介をする。
その後はかぐやが月から来たとヒヤヒヤすることを言ったり、竹中さんと出かけたかぐやの話にモヤモヤしたりしながらも5人で他愛のない話をしてパンケーキに舌鼓を打つ。
四人とも初めましてとは思えないほどすっかりと打ち解け……いや、あの、お二方?かぐやにパンケーキをあげて甘やかしたりとか、竹中さんのこととかそんな根掘り葉掘り聞かないで欲しいんですけど!?かぐやも何でもかんでも話さないで!竹中さんも微笑ましい顔で見てるんじゃない!
そんなこんなで心が休まるような休まらないような楽しい時間を過ごしていると竹中さんから声がかかる。
「そろそろ自分とかぐやは先に帰るよ。3人は良ければゆっくりしていって」
友達だけで話したいこともあるだろうしね。といってかぐやを連れて帰ろうとする。
「え?」
もう帰るんですか?しかも私を置いてかぐやと二人で?まだパンケーキも食べ終わったばかりだし、もう少し飲み物を飲んでゆっくりとか、まだ時間も早いから私とも買い物に行ったりしてもう少しくらい一緒にいてくれても……もしかして、元々三人で行こうと思ってたって話をしたから気を使って三人の時間を作ろうとしてるのかな。
「いえ、そんな。かぐやちゃんや竹中さんと話すの楽しいので気を遣って頂かなくても大丈夫ですよ?」
芦花がそういって真実も頷く、私も同じ気持で竹中さんを見る。
かぐやも帰りたくない、一緒にいたいと言っていたけど、竹中さんがかぐやに耳打ちで何かを言うと思い出したようにそうだった!と私の方を向く。
「かぐや、先に帰って美味しいご飯作ってくるね!それと彩葉にお帰りって言う!」
「サプライズで今度は喜んでもらうんじゃなかった?」
「……あっ!?」
彩葉忘れて~!聞いてないよね~!と言われるけど流石にそれは無理でしょう。
そんなかぐやに呆れつつも私のために考えて準備してくれているのが凄く嬉しい。
……待てよ?ここにこれだけ買い物した袋があるのに食材も買ったということか?
これは通販でも色々買ってるな?
「……私のために嬉しいですけど、今日だけでいったいいくら使ったんですか!?これだけ買い物の袋があって食材も買って、絶対他にも買ってますよね!?」
ちゃんと迷惑かけないでねって、甘やかさないでねって言ったよね!?
「まぁまぁ、その話は後にして。そんなわけで僕ら二人は先に帰るから二人がよければもう少し酒寄と一緒にいてもらってもいいかな?」
なんて逃げるように芦花と真実にお願いをする竹中さん。
そういうことならこの後予定もないので。彩葉にまだまだききたいこともあるし、この後買い物にも行こ~。と芦花と真実も乗り気になれば私が断れないのを分かって二人に言ったな。
というかこれ以上私に何を聞くつもりなのだ。さっきも散々恥ずかしい思いをしたんだぞ!
会計も済んでるから後は三人でごゆっくりと言ってこちらが何か言う前にかぐやを連れて行ってしまう。
かぐや、ピッてやるやつやってみたい!もうお金払ったからまた今度な。え~今やりたいのに~と話しながらお店を後にした。
やっぱりかぐやに甘すぎないか?
ピってやるやつってカードかふじゅーPayのことだよね?
こんなに買ったのにまだ何かかぐやには買うつもりですか?
いや私だって?今まで色々と?気にかけてもらったり?差し入れとかいっぱい貰ったり?ヤチヨのことで盛り上がったり?とかあるんだから!
いや、誰と張り合ってるんだ私。
あれ?……会計も済んでる?お金払ったから?
慌てて伝票を確認すれば見当たらない。
そんな私を見て気づいたのかここのお支払は竹中さんがしてくれてたみたいだよと芦花が教えてくれた。
「竹中さんが注文してくれたときにそのままお会計もしてくれてたみたい」
ちょっと困ったようにスマホ注文の会計済みの画面を見せてくれる。
「彩葉ノートで赤点回避記念はまたの機会だね」
「この後の買い物とかはどう~?」
なんて二人が話しているので慌てて遠慮しようとするけどそれよりも早く笑顔で詰めれらる。
「でも今は彩葉にいろいろと話してもらおうかな」
「かぐやちゃんのことも竹中さんとのことも聞きたこといっぱいあるからね~」
そんな興味津々の二人から逃れる術などあるはずもなく、後生ですから~~ということしかできない私なのでした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
評価や感想ありがとうございます。
前回の更新からかなり時間があいてしまいましたが、その間にBDの発売や復活上映、コラボやフィギュアなどのグッズ展開もたくさんあって嬉しい悲鳴が止まりませんね。
BD特典のキャラクターコメンタリーでは新情報に喜びつつも殴られていました。
元々考えていた展開に矛盾するか?解釈のしかたによってはこの作品にも落とし込めるか?今回は無視するか?と悩んでましたが、その場面にはまだ大分先なので今は深く考えずその時の自分に任せようと思います。
設定と矛盾していても二次創作なんてそんなもんと暖かい目でお付き合いいただけると嬉しいです。