第17話『燃え上がれ!灼熱のプラズマ・ナムル・フィールド』   作:夏目陽光

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17話

朝の光が、公園のいつものベンチを白々と照らしていた。天野河リュウセイは、愛機「トムキャット・レッド・ビートル」をハンカチで執拗に磨き上げている。

その横では、松岡勝治が「キャデラック・インペリアル・ナイト」のギヤをピンセットでミリ単位で調整しながら、浅い咳を零している。先週、不治の病で余命幾ばくもない闘病生活を送り、涙の別れを告げたはずの男は、今やピンピンした手つきで精密ドライバーを回している。

さらにその隣で、龍昇ケンは「チャイナ・イン・ザ・ダーク」のボディに特盛炒飯の油、拉麺油純度100パーセントを豪快にぶっかけていた。

「よし、今日のトムキャットも最高に輝いてるぜ! どんな相手が来ても、俺のチャージ3回・フリーエントリーで一撃粉砕だ! ……おい勝治、さっきから何回も咳き込みやがって、お前のその余命3日の『デタラメ不治の病』のウイルスが俺のトムキャットに付着したらどうするんだよ! 弁償しろ!」

「ひどいよリュウセイくん! 病気はデタラメじゃないし、僕が今削っているのはウイルスじゃなくて、メカニカル・ノイズだよ!」 勝治が激しくノートパソコンのキーボードを叩く。画面には膨大な16進数の文字列が走っていた。

「ケッ、データがどうしたってんだよ勝治! ボーグバトルは根性と、美味い飯、そして親父の形見のこの魂で勝つもんだろ!」 ケンは、親父の形見(※親父は健在で実家で元気にラーメンを茹でている)であるチャイナ・イン・ザ・ダークを力強く天に掲げた。生き仏となった親父のソウルを感じているのか、その目には大粒の涙がたまっている。ボーグバトラーたるもの、親の生死などという些細な事実に縛られてはならないのだ。

その時、上空から一台の最高級リムジンが垂直に自由落下してきた。それは公園の中央にある池をドゴォォォンと力任せに押しつぶし、泥水を四方八方に撒き散らしながら着地した。

ベコベコに凹んだドアが内側から蹴り破られ、黒いタキシードに身を包んだ、顔に大きな傷のある大男――ビッグ・バングが姿を現す。

「フハハハハ! 久しぶりだな、リュウセイ!」

「親父!……いや、ビッグ・バング! なぜここに! 悪の組織『ビッグ・バング・オーガニゼーション』は、先週の金曜日に俺たちがマチュピチュの決戦で完全に解体し、資産もすべて凍結したはず!」

ビッグ・バングはフッと鼻で笑い、懐から黄金に輝くカブトボーグを滑らかな手つきで取り出す。 「バカめ、リュウセイ! あれは我が組織のほんの一部、いわば『金曜定休部門』に過ぎん! 我が真の目的は、全世界の『もやし』の流通を完全に支配し、人類の栄養バランスを根底から破壊することにあるのだ! お前が本当のボーグバトラーなら、この私の『ダーク・インフィニティ・ヘラクレス』と戦え! もしお前が負ければ、世界中のもやしは全て、私の手によって『少し根っこが茶色い状態』で出荷されることになる!」

「くっ……! なんて卑劣な人質(野菜)の取り方だ! 受けて立つぜ、ビッグ・バング! だがな、親父! お前は大きな勘違いをしているぞ!」 リュウセイはトムキャット・レッド・ビートルを天高く突き上げ、叫んだ。

「もやしが白いのはな、暗闇の中で必死に『白くあろう』と努力しているからなんだ! つまり、もやしは生まれながらにして暗闇の住人! それを茶色く染めるっていうのは、暗闇に対する裏切りであり、太陽に対する宣戦布告なんだよ! わかるか親父! 根っこが茶色いもやしは、もはや野菜じゃない! それはただの『ちょっと湿った紐』だ!!」

リュウセイの熱弁が響き渡る中、ケンはいつの間にかポケットから取り出した「昇龍軒」の冷やし中華をズズズと音を立ててすすり始めていた。勝治はひっくり返したノートパソコンのネジが一本足りないことに気づき、ベンチの下を四つん這いで必死に探している。

「おい、そこは『きゅうり』じゃなくて『もやし』を乗せるべきだろ、ケン!」 リュウセイが突然キレる。

「うるせえな! 冷やし中華の彩りを無視するんじゃねえよ!」

「フハハハ、相変わらず屁理屈の天才だなリュウセイ! だが、その紐に世界が泣くことになるのだ! チャージ3回・フリーエントリー!」

「望むところだ! チャージ3回・フリーエントリー!」

「「チャージ・イン!」」

駆動音が高らかに鳴り響き、トムキャット・レッド・ビートルとダーク・インフィニティ・ヘラクレスが激突した。激しい衝撃波が走り、周囲のビルのガラスが全て粉々に割れ落ちる。

しかし、買い物袋を下げた通りすがりの主婦たちは、「お、ボーグバトルか」「今日も景気がいいねえ」と、降ってくるガラスの破片を傘で華麗に避けながら普通に歩いていく。

「フハハハ! どうしたリュウセイ! お前のボーグ魂はその程度か!」

「くそっ、なんてパワーだ! だが、俺には仲間がいる! 勝治、ケン!」

「「おう!」」

二人が叫んだその瞬間、スタジアムのすぐ横に、長い黒髪を夜風になびかせたサクラが立っていた。 「リュウセイくん……負けないで。あなたが負けたら、私の病気は治らないの……」

「サクラ! 君がそこにいてくれたのか! よし、燃えてきたぜ!」

「無駄だ! ダーク・インフィニティ・エグゼキューション!」 ビッグ・バングの手元で黄金のオーラが爆発する。彼のボーグが不気味な黒い牙となって、トムキャットを容赦なく弾き飛ばした。トムキャットは綺麗に放物線を描いて空中を舞い、たまたま近くの高速道路を走っていた大型トラックの荷台へ、吸い込まれるように落ちていく。トラックはそのまま夜の闇へと走り去っていった。

「ああっ! トムキャットが!」

「フハハハ! ボーグを見失ったな、リュウセイ! この勝負、私の勝ちだ!」 ビッグ・バングは満足そうに高笑いすると、空から垂れ下がってきたヘリコプターの縄梯子に飛び移り、そのまま去っていった。

残されたのは、悲しげに俯くサクラと、呆然とする三人。

「……リュウセイくん。あのトラックは今から『地下ボーグコロシアム・冥府の門』へ向かっている。そこは、敗北したボーガーの魂がパーツとして削り取られ、秋葉原の裏通りでバルク品として売られるという、恐怖の闇組織さ……」

「よし、行くぞ勝治、ケン! トムキャットを取り戻し、親父のもやしテロを阻止するんだ!」

「待って、リュウセイくん」 サクラがリュウセイの袖を静かに引いた。その瞳には涙が浮かんでいる。 「これを持って行って。私の家系に代々伝わる、呪われたボーグパーツよ……」 彼女が差し出したのは、プラスチック製の安っぽい赤いタイヤだった。

「これは……! サンタクロースが煙突から間違えて落としていったという伝説の『ルビー・コンプレッション・ホイール』!」 リュウセイはそれをひったくるように受け取ると、自分のトムキャットが手元にないにもかかわらず、何もない空間に向かってパーツを力任せにカチッとハメるジェスチャーをした。サクラは満足そうに微笑み、そのまま泥水にまみれた池の中へと歩いて消えていった。

リュウセイたちは、即座に近くにあった放置ママチャリに三人乗りした。

「いくぞおおお!」 リュウセイの足が、人間の限界を超えた速度で回転を始める。ガガガガガとチェーンが悲鳴を上げ、ママチャリは時速120キロに達した。そのまま高速道路へと突入し、前方を走るトラックを追いかけて暗闇の縦穴へとチャリごと飛び込んだ。だが、地下への道は甘くない。突如現れたのは、地球の裏側ブラジルへと直通する悪魔の超特急デス・トンネル! 「ハハハ! 時速が足りないぞリュウセイくん! このままだと重力の歪みで僕たちの三半規管がバターになっちゃうよ!」 「うるせえ! 根性でペダルを回せば、時空なんていくらでもねじ曲がるんだよ!」 リュウセイが叫ぶと同時にママチャリのスポークが真っ赤に烈火し、そのまま音速の壁をぶち破ってマッハ3に到達! 凄まじい衝撃波で地球の地殻をボコボコに削り取りながら、一直線に闇の奥底へと突き進む!

東京の地下500メートル。斜度80度のコンクリート壁を駆け下りた先には、巨大なゴシック調の神殿が広がっていた。

「ここが『冥府の門』か……。相変わらず悪趣味なインテリアだな」

正面の巨大な玉座から、一人の男が現れた。全身を重々しい鎖でがんじがらめに縛り、顔に防毒マスクをつけた大男。彼の名は「デス・チェイン・マスター・死神」。 「ククク……よく来たな、天野河リュウセイ。お前のトムキャット・レッド・ビートルは、すでに我が『冥府の生贄スタジアム』の底で、ドロドロに溶けた鉛のプールに沈みかけているぞ」

死神が指さした先には、不気味に沸き立つ巨大な鍋があり、その上に渡された一本の細いワイヤーの上に、トムキャットが絶妙なバランスで乗っていた。

「待てい! ここを通るには、我が『冥府の門』の特別ルールに従ってもらう! 負けた者は、自分の母親のファーストネームを大声で叫びながら、全力で一発芸を披露しなければならないという、精神的崩壊を伴うデスゲームなのだ!」

「な、何だって……!? 母親のファーストネームを……!?」 勝治が膝をガタガタと震わせ、その場にへたり込んだ。 「なんて残酷なルールだ……。もし僕が負けたら、『美智子ォォォ!』と叫びながら、コウメ太夫のモノマネをしなければならないのか……! そんなの、社会的死と同じじゃないか!」

しかし、リュウセイの瞳には怯えの色など微塵もなかった。不敵な笑みを浮かべる。 「母親の名前を叫ぶのが恥かしいだと? 笑わせるな! 母親っていうのはな、生まれた時から俺たちの名前を何万回も叫んできたんだ! だったら、俺たちがその名前を叫び返すのは、ただの『音のキャッチボール』だろうが! そして一発芸とは、凝縮された人間の生命力の爆発だ! つまりお前がやろうとしていることは、親孝行と生命の賛歌を同時に行う、最高にピースフルな祭典なんだよ! 恥じる要素がどこにある!?」

「おのれ、口先だけの小僧が! ならばこれを使うがいい」 死神が放り投げたのは、全身がドクロの装飾で覆われた闇ボーグ――『ヘルズ・スカル・スコーピオン』。 「そのボーグは呪われている。回せば回すほど、バトラーの『過去の恥ずかしい思い出』が脳内に直接大音量で再生されるのだ!」

リュウセイはヘルズ・スカル・スコーピオンをノータイムで掴み取った。サクラから貰ったルビー・コンプレッション・ホイールの存在など完全に忘れ去り、ポケットに入っていた噛みかけのガムをシャーシの裏にクチャッと貼り付ける。

「俺のボーグ魂は、呪いなんかじゃ負けない! チャージ3回、フリーエントリー!」

「ククク、死ねい! チャージ3回、フリーエントリー!」

「「チャージ・イン!!」」

ふたつのボーグが激突した瞬間、リュウセイの脳内に強烈なフラッシュバックが襲いかかった。それは、彼の記憶の底に眠る、最大の羞恥の瞬間。 『あ、あそこにいるの、天野河くんじゃない?』 『やだ、ズボンの社会の窓が全開だわよ……』

「ぐわあああああああ!!」 リュウセイが両手で頭を抱え、床にのたうち回った。 「これ、これは……小学3年生の時の、あの屈辱の遠足の日の記憶……!! 止めてくれ! 俺の精神的ライフはもうゼロだ!」

死神のボーグが、ヘルズ・スカル・スコーピオンを執拗に突き回し、ステージの端へと追い詰めていく。

「リュウセイ!」 ケンの怒号が響いた。 「思い出せ、リュウセイ! お前がチャックを開けていたあの時、俺も一緒にチャックを開けてただろ!」

「ケン……!?」

勝治も身を乗り出し、喉をかきむしりながら咆哮する。 「そうだよ、リュウセイくん! 人間誰しも、補助輪からスタートするんだ! 恥じることはない、それが進化のプロセスなんだから! ほら、僕を見てよ! 僕は生まれてから一度もズボンのチャックを閉めたことがないんだよ! 常にフルオープン、それが僕のメカニカル・エアフローなんだ!!」

「お前たち……」 リュウセイの脳裏に、かつてないほどの熱い友情のメモリーが鮮烈に蘇る。

 

――あれは、夕暮れ時のグラウンドだった。 「おいリュウセイ、お前また世界の滅亡を阻止するために宿題忘れただろ」 ケンが呆れたように鼻をすする。 「うるせえ! 地球のコアが冷え固まるのを防ぐ方が、算数のドリルより大事なんだよ!」 言い争う二人の前に、勝治が青白い顔でママチャリに乗って現れた。その自転車の左右には、信じられないほど巨大な、直径3メートルの鉄製補助輪が溶接されていた。 「二人とも喧嘩はやめなよ。僕なんて、昨日お医者さんに『明日までの命』って言われたから、今日のうちに全人類の戸籍をカブトボーグのシリアルナンバーに書き換える作業を終えなきゃいけないんだ。そのためには、この超巨大補助輪が必要不可欠なんだよ!」 「勝治……お前ってやつは!」 三人は夕日に向かって固く握手を交わした。

「そうだ……俺は一人じゃない! 仲間が、俺の恥ずかしい過去ごと、巨大な補助輪として受け止めてくれている! ならば、この呪いすらも、俺の新しいエネルギーに変えてみせる!」

リュウセイの全身から、凄まじい黄金のオーラが立ち上った。シャーシの裏に貼ったガムが熱で溶け、謎の発光現象を起こしている! 「見ろ、死神! これが俺たちの、恥の共有、パッション・コネクションだ!」

ズガァァァァン!! ヘルズ・スカル・スコーピオンが、死神のボーグを真っ向から弾き飛ばし、木端微塵に砕き去った。

「バ、バカな……! 我が闇の呪いが、ただの恥の上塗りに負けるとは……!」 死神はその場に膝を突き、涙を流しながら、潔く立ち上がった。 「……チヨコォォォォ!!」 死神はガスマスクを脱ぎ捨て、全力でコマネチのポーズを決めた。

「よし、勝治、ケン! 早く昼飯食いに行こうぜ!」 リュウセイは、天井のワイヤーから落下して鉛のプールで完全にドロドロに溶けて消滅したトムキャット・レッド・ビートルには目もくれず、すたすたと出口へ歩き出した。

「そうだね、お腹空いちゃったな」と勝治が頷く。

「待てや!」とケンが突っ込み、溶けた鉄くずをバケツで回収した。

次の瞬間、三人は何の説明もなくママチャリを猛烈に漕ぎ、神奈川県にある「ビッグ・バング・もやし中央処理工場」の敷地内へと滑り込んでいた。手元には、なぜか完全に元通りになったトムキャット・レッド・ビートルが握られている。

工場の中央では、何千本ものもやしがベルトコンベアで機械的に運ばれ、ビッグ・バングの手によって次々と「少し根っこが茶色い状態」に加工されていた。

「フハハハ! あと5分で、関東圏のすべてのスーパーのもやしは、主婦層から『あら、これ少し古いわね』と敬遠される運命を辿るのだ!」

「そこまでだ、ビッグ・バング! お前の野望もここまでだ!」 工場の天井ガラスをド派手に突き破って、リュウセイ、勝治、ケンがロープ一本で舞い降りた。ガラスの破片がもやしの山に大量に降り注ぐ。この時、飛び散ったガラスの破片が工場の超高熱ダクトに触れ、室温は一瞬で摂氏800度に上昇! もやし工場は、バトラーの魂を焼き尽くす灼熱のデス・サウナと化した! 「ぐおっ、熱い! だが、この熱さこそが、俺たちのパッションを高める天然の着火剤だぜ!」

「ふん、トムキャットを取り戻したところで何ができる! 私はこの5分間で、ボーグの重量を『3グラム』増やした! この圧倒的な質量差の前に、お前はひれ伏すことになる!」

「3グラムだと……!? バカな、公式レギュレーション違反だぞ!」 勝治が指を指して驚愕する。

「ルールなど、勝者が作ればいいのだ! 行くぞ、リュウセイ!」

「「「チャージ3回、フリーエントリー!!」」」 二人の声が響き渡り、もやしの洗浄槽の上へボーグが投入された。

バチィィィィン!! ダーク・インフィニティ・ヘラクレスの3グラム重い一撃が、トムキャットを容赦なく襲う。その破壊力は、周囲に飛び散ったもやしを瞬時にナムルへと変えるほどだった。

「くっ……! 重い、重すぎる! トムキャット・レッド・ビートルのフレームがきしんでいる!」

「ケン! 勝治! 力を貸してくれ!」

「おう! 俺のチャイナ・イン・ザ・ダークのエネルギーを、お前のトムキャットにテレパシーで送るぜ!」 ケンが謎の中国拳法の構えをとると、ケンの体から本当に赤いオーラが放たれ、リュウセイのトムキャットへと吸い込まれていった。

「これが……友情の……オーバーフローだ!!」

リュウセイの目がカッと見開かれた。彼はダーク・インフィニティ・ヘラクレスの3グラムの重みを見つめながら、不敵に笑った。 「親父! お前は3グラムの重さで俺に勝てると思ったようだが、それは大きな間違いだ! なぜなら、本当に重いものは、計りの上には乗らないんだよ!」

「俺たちが背負っているのはな、世界中の一人暮らしの大学生が、給料日前に食べる『もやし炒め』の、あの切なくて温かい涙の重さんだ! その重さはな、何トン、何万トン、いや、無限大んだよ! お前のケチな3グラムなんか、俺たちの『生活感の重み』の前には、ただの羽毛同然だ! いいか親父、もやしはな、宇宙なんだよ! 宇宙の重さを測れる秤がこの世にあると思うか!? 秤が壊れるのが先か、お前の頭が割れるのが先か、ボーグバトルで白黒つけようじゃねえか!!」

「行け、トムキャット! 新必殺技――レッド・ビートル・もやし・ハリケーン!!」

トムキャット・レッド・ビートルが超高速回転を始め、周囲に落ちていたもやしを大量に巻き込んで巨大な白い竜巻を形成した。さらに、もやしの繊維が高速摩擦で超伝導を起こし、工場内の灼熱サウナの熱風と融合して、巨大な「プラズマ・ナムル・フィールド」を展開! 空間そのものが酢醤油の匂いと共に歪み始める! 「これでも喰らいやがれえええ!」 もやしの竜巻をまとったトムキャットは、ダーク・インフィニティ・ヘラクレスの「3グラムの重心の隙」へと正確に突撃した。

ズガガガガガガガガガガガガッ!!!

工場の壁が派手に吹き飛び、夜空が見えるほどの凄まじい爆発が起きた。煙の中から現れたのは、ステージの中央で堂々とタイアを回し続けるトムキャット・レッド・ビートルだった。一方、ダーク・インフィニティ・ヘラクレスは、もやしの山の中に深く埋もれ、完全に沈黙していた。

「ば、馬鹿な……。私の完璧なもやし計画が……3グラムの増量が、逆に仇となったというのか……」 ビッグ・バングは崩れ落ち、もやしを両手で握りしめながら天を仰いだ。

「勝った……俺たちの勝ちだ!」 リュウセイがトムキャットを掲げる。工場のモニターの「茶色化率」は、0%へと巻き戻っていた。

翌朝、いつもの公園の、いつものベンチ。

「いやー、昨日のもやし炒めは美味かったな、ケン!」

「おうよ! やっぱりもやしはシャキシャキの白に限るぜ!」

リュウセイとケンが笑い合っている。勝治がノートパソコンを閉じ、爽やかに言った。 「これで当分は、世界の野菜流通も安泰だね。さあ、今日も絶好のボーグバトル日和だ。リュウセイくん、チャージインの練習をしよう」

「おい勝治、何をのん気なことを言っているんだ。昨日の『もやしバトル』の影響で、僕たちの体内の塩分濃度が逆流して、今や僕たちの血液はすべて『醤油』に入れ替わっているんだよ! 早くチャージインして遠心力で塩分を体外に排出しないと、明日の朝には全員チャーシューの煮汁になって死んでしまうんだ!」 リュウセイが血眼になって叫ぶ。

「何だって!? 醤油の逆流だと……!? それじゃあ僕がさっきから感じていたこの香ばしい匂いは、僕の体から溢れ出る本醸造の旨味だったのか……! なんて恐ろしいボーグバトルの代償なんだ!」 勝治が自分の腕をペロペロと舐めながら、絶望の表情で崩れ落ちる。

「へへっ、ちょうどいいじゃねえか! 俺の特盛炒飯に、お前らの血をふりかけて、最高の『醤油炒飯』を完成させてやるぜ! 覚悟しろ!」 ケンが不敵な笑みを浮かべ、中華包丁をギラつかせて二人に向かってにじり寄ってきた。

「ケン……お前ってやつは、どこまで貪欲な料理人んだ! 受けて立つぜ!」 リュウセイがトムキャットを構える。その背後では、昨日あれほど悲壮感を漂わせていたサクラが、なぜか「たこ焼き屋の売り子」の格好をして、元気に通りを歩いていた。リュウセイたちも、彼女に気づく様子は一切ない。

「いくぜ! チャージ3回、フリーエントリー!」

青空に向かって彼らのチャージ音が響き渡る。その直後、凄まじい爆発音とともに公園の地面が真っ二つに割れ、地球の核(マントル)が噴き出した。だが、リュウセイたちの目はすでに、公園の隅に現れた「謎の巨大カブトムシ型宇宙船」だけを捉えていた。地球の終わりなど、ボーグバトラーにとっては些細な問題に過ぎないのだ。

(第17話・完)

 

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