第17話『燃え上がれ!灼熱のプラズマ・ナムル・フィールド』   作:夏目陽光

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カブトボーグ V×V 第96話「デス・マキシマム・ローリング!マグマを越えたブラジル魂!」

「熱い……熱すぎるぜ、この山はよォッ!」

天野河リュウセイは、燃え盛る太陽に向かって声を絞り出していた。標高三千メートルを超える険峰、デス・マキシマム・マウンテン。突風が少年の肌を容赦なく削っていく。

「リュウセイ、無駄に大声を出すな. 気圧が低い。ただでさえ僕たちの手持ちの携帯食料は、この高級激辛タラコ風味羊羹が三本しかないんだ」

松岡勝治は眼鏡のブリッジを激しく押し上げながら、完全に圏外のスマートフォンの画面を見つめていた。その青白い頬は異様な薄桃色に染まっている。

「ふん、勝治はビビってんのか? 男なら、山に入ったら山のルールに従うまでよ! なあ、ケン!」

「おいリュウセイ、見てみろよ! この落ちてた石、すげえチャーハンに似てねえか? 俺、将来はこの石を白米の代わりに炊飯器に入れて、二晩ほどじっくり寝かせることで、究極のストーン・ライス・パラダイスを完成させる予定んだ」

龍昇ケンは自らの分厚い胸毛をガシガシとわしづかみにし、乾いた泥まみれの石を本格的にかじり始めていた。

その時、ズゴゴゴゴ……と崖の上から大量 of 土砂が崩れ落ちてきた。砂煙の向こうから、黒いロングコートの男が姿を現した。

「……フハハハハ! 久しぶりだな、天野河リュウセイ! そしてその横にいる有象無象の小魚ども!」

「お前は……マンソン!」

ロイド安藤の店の前で、ただそこに立っていて目障りだったというだけで激突した男が、そこに立っていた。

「マンソン! なぜこんな山の頂に!? まさか、お前も幻の天然温泉・ボーガーの湯を探しに……!? あそこの温泉は、湯上がりに冷えた潤滑油をダイレクトに胃壁に流し込むことで、体内のボーグ・ソウルを急速に冷却・安定させる効能があると聞く!」

勝治が驚愕の声をあげる。その興奮が引き金となったのか、彼は突如として激しく咳き込み、地面に膝をついた。

「うっ……ゲホッ、ゴホッ! 忘れていた、僕はかつて、週に一度は特製のボーグ血清を打たなければ、全身の赤血球がカブトムシの形に変形して血管を突き破るという、名もなき奇病に侵されていたんだ……! この標高三千メートルの希薄な酸素が、僕の体内のプロトタイプ赤血球を刺激している……!」

「勝治! しっかりしろ! 誰だってな、生きているうちは死なないもんだ! お前が病気なら、俺はその病気ごと、この山をチャージインして予備の親指に変えてやるぜ!」

リュウセイの視線はすでに、目の前の敵だけを真っ直ぐに射抜いていた。

「俺は……己を鍛え直すために、この山で三日三晩チャージインを繰り返していたのだ! 今日こそ貴様を叩き潰し、俺が最強の座を手に入れてみせる! いざ、勝負だッ!」

「望むところだぜ! ボーグバトルをやるのに、理由なんて必要ない! 行くぜ、マンソン!」

二人は同時に愛機をチャージベースにセットした。足元には直径二メートルのバトルフィールドの光が正確に出現した。

「チャァァァァァジッ! インッ!!」

ギガワァァァァン!

リュウセイのトムキャット・レッド・ビートルと、マンソンのディザスター・クロー・スコーピオンが激突した。

カチ、カチ、カチカチカチカチ!

「フハハハ! 見るがいい、これぞ我が血と汗の結晶! マウンテン・ローリング・クラッシュだ!」

マンソンのスコーピオンが、フィールド内を真円状に回転し始めた。その速度は時速約二キロメートル。大人が歩くよりも明らかに遅い。しかし、マンソンのロングコートは激しい風圧に煽られるかのように後方へと激しく跳ね上がり、顔面は宇宙飛行士のように歪んでいた。

「くっ……速い! 速すぎて見えないぜ!」

リュウセイが歯を食いしばり、必死にマシンの軌道を追う。

ドンッ!

トムキャット・レッド・ビートルは綺麗な放物線を描き、崖の遥か下、谷底へと真っ逆さまに落ちていった。

「ト, トムキャットォォォォォーッ!!」

「フハハハハ! この勝負、俺の勝ちだ! 俺はこれから麓に降りて、マクドナルドでテリヤキバーガーのセットを頼む! フハハハハ!」

マンソンは去っていった。

「ちくしょう……ちくしょうッ!」

リュウセイは地面に両拳を打ち付けた。

「……あの、もしよろしければ、これを使ってください」

振り返ると、そこにはチロリアン衣装を身にまとった見知らぬ美少女が佇んでいた。エプロンのポケットからは、なぜかぎっしりと新品の単三乾電池が覗いている。

「私はフランソワーズ・マキシマムです。これ、お父様が遺してくれた、我が家に伝わる秘伝のボーグ。あなたが本当にボーグを愛するバトラーなら、きっとこの子も応えてくれます」

フランソワーズが両手で差し出したのは、燦然と輝く黄金色のクワガタ型マシンだった。

「ありがたく使わせてもらうぜ、フランソワーズ! お前と、お前のお父様のソウル、この俺が引き受けた!」

「はい! 頑張ってください、リュウセイさん!」

「よし、やろう! 特訓だ!」

滝だ。

マイナス四度の激流。

リュウセイはトランクス一丁で座る。

ひたすら右手の親指を回す。皮膚が爆ぜる。

「チャージが軽い! もっと回せ! 摩擦熱で滝そのものを液体燃料に変えて爆破炎上させるんだよ!」

岸辺。高級ダウンジャケットの勝治が拡声器で狂ったように唾を飛ばす。

フランソワーズは虚ろな目で泥を捏ねておにぎりを作っている。

ケンの姿はない。滝の裏で全裸になり、野生の巨大サンショウウオの粘液を自分の眼球と歯茎に直接こすりつけて快楽に震えている。このサンショウウオは実は昨日ケンが川で拾ったもので、名前をおすしという。ケンはおすしの腹をなでる。おすしは鳴かない。ただドロドロとした汁をケンの口内に排出し続ける。ケンはそれを飲む。うまい。世界の全てがどうでもよくなる味だ。もう特訓なんかやめて、おすしと一生この滝の裏で、ぬめぬめした影として生きていきたい。ケンは胸毛を一本引き抜き、おすしの耳の穴らしき場所に突き刺した。

「うお完全に逆流しやがったァァァッ! マイナス・グラビティ・チャァァァァァジッ!!」

臨界突破!

頭上から降る数トンの水流が、リュウセイの異常な親指にビビったのか、重力をぶん投げて空へ向かって大逆流を開始した!

夜。キャンプファイヤー。

鍋には勝治のタラコ羊羹と、そのへんに生えていた正体不明の紫色のキノコが煮え立っている。強烈な異臭。

「……時々、脳が裏返りそうになるんだ。塾の月謝。安定。公務員。そんな概念より、この手の中にある中国製のチープなプラスチック塊の方が重いなんて。衣服だってそうだ。なぜ僕たちは布を纏う? これは社会の家畜であることの証明であり、ただの汚物入れじゃないのか?」

勝治は白目を剥いて天を仰いだ。

「それにさ、僕のこの余命。あと二時間半だ。体内の免疫細胞がタラコ羊羹の毒素に脳を焼かれ、お互いの首を絞め合っている。なぜ誰も僕を病院に運ばないんだい?」

「勝治、うるせえ! 命なんてな、ある時はあるし、無い時は無いんだよ! それより、男が一度決めた親指の回転を止めるのは、親の遺骨にウスターソースをぶっかけるくらいにギルティなことんだぜ!」

リュウセイは親友の死のカウントダウンを無視し、拳を握りしめた。

フランソワーズが泥おにぎりを差し出したが、リュウセイはそれを無言でひったくると、キャンプファイヤーの中に投げ入れた。おにぎりは硫黄のような青い炎を上げて爆発した。

「ノ〜ウ! ボ〜イズ、それはオ〜オ〜きな間〜違〜いデ〜ス!」

茂みが弾け、ロイド安藤が跳び出してきた。

全身にクリスマス用の100V電飾を直に皮膚にタッカーで打ち付けている。パチパチと火花が散り、肉の焦げる臭いがする。

「ミ〜はネ〜、新しいボーグを裏ルートで密輸するためにヘリを盗んで墜落させてきたのデ〜ス! 自由落下してきたのデ〜ス! ボ〜イズ、宇宙の始まりはビッグバンではない、大宇宙のチャージインデ〜ス! 最初の回転があり、その余波で星々が回っているに過ぎないのデ〜ス! つまり、ミ〜たちが今食べているこの毒キノコとタラコ羊羹のヘドロもまた、星間物質のスープそのものなのデ〜ス!」

リュウセイは立ち上がり、黒い夜空に向かって中指を突き上げた。

「宇宙の……チャージイン……。そうか、俺たちが指を回している時、俺たちは銀河系の暴力とシンクロしていたんだ……! 勝治、ケンの言っていることは正しいぜ!」

「ケンはさっきからサンショウウオを口にくわえて気絶しているよ、リュウセイ」

「いや、俺にも分からん!」

「なるほど、それなら仕方が無いね」

三日目の夕暮れ。ゴッド・フィンガー・ピーク。

そこは、死んだバトラーたちの剥製が等間隔に突き刺さる地獄の頂だった。

「終わったな、リュウセイ……」

ケンが、野生のサンショウウオを首に生きたまま巻き付け、全身の毛穴から黄色い汁を流しながら言った。

反対側の崖からマンソンが再び姿を現した。下半身はなぜか競泳水着一丁という奇怪な出で立ちである。

「決着をつけようじゃねえか、天野河リュウセイ!」

「マンソン……! 俺には、フランソワーズから託されたこのゴールド・マキシマム・ビートルがある!」

「ほう、女に貢がれたボーグで俺に勝てると思っているのか!」

バリバリバリバリッ!!

おいおい、天空の雲が本当に物理的に引きちぎれやがった!

一条の光の中から、超高速で大気圏を再突入してきた、ドロドロに溶けた謎のプラスチック塊が降ってくる!

ガシィッ!

リュウセイはそれを右手で完璧にキャッチ! 手のひらの肉がジュウウウと音を立てて消し炭になり、白い骨が剥き出しになったが、そんなもんリュウセイにとってはかすり傷だ!

「こ、これは……トムキャット・レッド・ビートル!」

勝治がどこからか盗んできた軍用端末を凄まじい速度で叩く。吐血がキーボードを赤く染める。

「信じられない! 三日前に崖下に落ちたトムキャットは、マッハ五十で地球の地殻を貫通、マントルの対流に巻き込まれてブラジルのスラム街の裏路地から噴出! そこでサンバの波動を吸収し、地球の自転遠心力によって再びこの座標へとピンポイントで射出されたんだ! 確率はマイナス一兆パーセント以下だ!」

「なるほど、ブラジル経由か! 確かにあそこはコーヒーの国だからな、カフェインの覚醒度が違ったんだろうぜ! 納得だ!」

ケンが納得の表情で、サンショウウオの頭を自分の歯で噛み砕いた。

リュウセイは、手の中にあったフランソワーズのゴールド・マキシマム・ビートルを、全力のオーバースローで崖下へとブン投げた。

「えっ」

フランソワーズが絶望の声を漏らした。

「悪りぃなフランソワーズ! だけど俺の相棒は、やっぱりこのブラジル帰りのトムキャット・レッド・ビートルだけなんだよ!」

黄金マシンはそのまま奈落へと消えた。リュウセイは、拾ったトムキャットのタイヤがマグマで完全に四角形に変形しているのを見て、「まあいいか、力ずくではめ込めば回るだろ!」と叫んでチャージベースに無理やり叩き込んだ。バキバキとプラスチックの悲鳴が響く。

「ふざけるな天野河リュウセイ! 貴様、命の恩人のマシンをそんな雑に扱うとは、ボーガーとしてのプライドが泣くぞ!」

「うるせえ! 俺のプライドはトムキャットと共にある! それよりマンソン, お前そのコートの襟についてるボタン、よく見たらただの干し椎茸じゃねえか!」

「な、何だと!?」

マンソンが己の襟を見る。

「これは我が一族に伝わる漆黒の魔石……ハッ! 本当にシイタケだ! ど、どうして俺のコートに乾燥椎茸が直留めされているんだァァァッ!?」

マンソンは激しく動揺し、自分の襟をむしり取って地面に叩きつけた。

その干し椎茸が岩肌に激突して粉砕された瞬間、リュウセイの脳裏に、全く身に覚えのないセピア色の記憶が鮮烈に蘇った。

――それは、今から三十年前。暗黒ボーグ組織シャドウ・マッシュルームの総帥、ドクター・ナメコと、若き日のリュウセイの親父、天野河大志が、月面で激突した時のことだった。

当然、宇宙空間なので二人は生身だ。真空の圧力で大志の眼球は外側に飛び出し、剥き出しの口から宇宙の暗黒に向かって大量の鮮血をブチ撒けていた。

「フハハハ大志! このデヴィル・エリンギ・クラッシュの前にひれ伏すがいい!」

大志は飛び出した眼球を無理やり指で眼窩に押し戻しながら、ニヤリと笑った。

「ナメコ……お前は間違っている。ボーグは菌類じゃない、魂だ! 喰らえ! 親父の形見のこのレバー!!」

大志が叫んだ。大志が叫ぶと同時に、なぜかフィールドの横にいた少年時代のマンソン、当時五歳・生身で宇宙空間に浮いているが、耳から血を流しながら叫んだ。

「ドクター! 諦めないで! 乾いた椎茸にこそ、未来の旨味が凝縮されているわ!」

「おのれ、よく分からんが泣かせるぜ坊主!この借りを貴様に託す!」

ドクター・ナメコは宇宙の塵に変わる寸前、自らのコートから引きちぎった一本の干し椎茸を、五歳のマンソンの襟元へと光速のタコ殴りで叩き込んだのだった――

「ハッ……! そうか、俺はこの椎茸の旨味成分の因縁のために、今日まで断食修行を……!」

マンソンは涙を流しながら地面の椎茸の粉末を見つめた。しかし、リュウセイはすでにそんな謎の回想など一秒で脳内からデリートし、完全にバトルモードに入っていた。

「これが本当の、ラスト・バトルだッ!」

二人はフィールドを挟んで対峙した。

「行くぞ、リュウセイ! チャァァァァァジッ! インッ!!」

ギガワァァァァン!

対するリュウセイの足元には、渦巻く銀河系のグラフィックが地面を覆い尽くしていた。

「俺のチャージは、もう俺だけのものじゃない。この山、この滝、この大岩、精度を欠いた勝治の眼鏡、ケンが拾ったチャーハン石、すべてを巻き込んだ、銀河系の一大ローリングだ! チャァァァァァジッ! インッ!!」

ドゴァァァァァンッ!!

二つのボーグが激突した瞬間、大気圏が物理的に揺れ、雲海が一瞬で一文字に割れる。

「チィィィィ! なんというチャージ量だ! スコーピオンが押し負けているだと!?」

「強い者が勝つんじゃない、勝った者が強いんだッ! 喰らえ! ギャラクシー・マウンテン・ハイパー・マグナム・ブレイカーだァァァァァーッ!!」

トムキャットは銀河の渦を纏いながらスコーピオンの懐へと飛び込んだ。

「バ, バカな……! 俺の情熱がァァァァッ!」

ズガガガガガガギィィィン!!

激しい火花とともに、ディザスター・クロー・スコーピオンは粉々に砕け散った。

「……見事だ、天野河リュウセイ……」

マンソンはそう言い残すと、自らの意思で崖の後ろへと倒れ込み、真っ逆さまに落ちていった。誰も助けに行かなかった。

「やったな、リュウセイ!」

勝治が叫んだ瞬間、その口から再び一筋の血が流れ落ちた。

「うっ……素晴らしいバトルだったよ。でも、僕の命の炎も燃え尽きてしまったようだ。最後に僕の眼鏡を、君のトムキャットの予備のネジとして使ってくれ……」

勝治は目を閉じ、その場に倒れ込んだ。

「勝治ォォォッ! よく頑張ったな! お前のその死に様、俺は一生忘れないぜ! 三日くらいはな!」

リュウセイはただ一言、深く頷いた。

「ああ、最高のバトルだったぜ、勝治、ケン!」

三人は夕日に向かって固い握手を交わした。勝治はなぜか普通に立ち上がって一緒に手を重ねていたが、誰も触れなかった。その背後で、フランソワーズが涙を流しながら、山肌を猛スピードで滑り落ちていく自分のボーグを追いかけて崖下へと消えていった。さらにその下からは「ウワーッ! 落ちてきたクワガタが目に入ったァッ!」というマンソンの悲鳴が遠く響いてきたが、誰一人として振り返る者はいなかった。

「さあ、帰ろう、僕たちの街へ」

勝治が提案する。先ほどまでの吐血が嘘のように、その顔色は土気色だったが、誰も気にしない。

「おう! 腹も減ったし、一走り行くか!」

ケンが爽やかに笑う。

「気にするな! 帰るぞ!」

リュウセイが満面の笑みで親指を立て、三人は歩き出した。

画面がホワイトアウトする。

ドゴァァァァァンッ!!

凄まじい轟音とともに画面が切り替わると、そこはなぜか漆黒の宇宙空間だった。三人は、宇宙服も着ずに生身で宇宙空間に直に立ち、猛烈な勢いで迫り来る巨大な天体を睨みつけていた。

「あ、あ、あああ! 土星だ! 土星が僕の眼鏡のフレームを狙って時速五十万キロで滑り込んできている! 宇宙の法律が全部有給を取ってハワイに行っちゃったんだ! リュウセイ、助けてくれ、僕の不治の病の細胞が宇宙線と混ざって、さっきから肺の中でプチビッグバンが三秒に一回起きている! お医者さんが言っていたんだ、生身で土星にドロップキックされると、僕の余命はマイナス十五分になって、過去の僕が死ぬって!!」

勝治は真空の宇宙空間であるにもかかわらず、鼓膜を直接破るような超音波で絶していた。

「うるせえ勝治! ボーガーが本気で家に帰ろうとしたら、土星の一座や二座、軌道を外れて正面衝突してくるのが宇宙の基本ルールだろ! お前が病気なら、その病気ごと土星をぶっ飛ばせば、差し引きゼロで健康優良児に元通りだ!」

リュウセイが叫ぶ。その独自の医療ロジックには、一点の曇りもなかった。

「そうだぜ勝治! それより見てみろ、あそこで土星のリングの氷の隙間に挟まってカチコチに凍りつきながら宇宙のチリになってるフランソワーズ、さっきのチャーハン石にめちゃくちゃ似てねえか!? ああっ、俺のチャーハンがフリーズドライになっていく! 噛みてえ! あのフランソワーズの形をした石を今すぐ炊飯器に入れて二晩寝かせたいぜ!」

ケンは凍結してカチコチになった首のサンショウウオをヌンチャクのように振り回しながらケラケラと笑った。フランソワーズはそのままタイタンの重力に捕らわれて彼方へとパージされていった。誰も助けに行かなかった。

「いくぜ! チャージ3回、フリーエントリー!」

唐突にリュウセイが叫び、大気のない宇宙空間に向かって凄まじい駆動音が響き渡る。トムキャットのタイヤが高速回転を始めると、周囲の真空がなぜか激しく燃え上がり、極大のエネルギーが膨れ上がった。

見ろよ、空間そのものがグニャグニャに歪んでやがる!

親指の回転が速すぎて、時間の流れがおかしくなってきたぞ!

土星の輪がドロドロに溶けて、勝治の伊達眼鏡のレンズにこびりつく!

全宇宙の知的生命体の文明が、リュウセイの親指の回転から生じた未知の超重力波によって一つの小さなプラスチック球へと凝縮されていく!

時空がベリベリに裂け、その裂け目から全長三光年の謎の巨大カブトムシ型宇宙船がヌッと現れた!

「おいリュウセイ、あれ完全にクワガタじゃねえか! さっきパージしたフランソワーズの執念か何かか!局面的に!」

「何言ってるんだケン、あれはどう見てもヘラクレスオオカブト型宇宙船だよ!」

「それよりリュウセイ、昨日お前が貸してくれたあの習字の半紙、やっぱり味が薄くて醤油をつけないと食えたもんじゃないよ」

「当たり前だろケン! 男なら四つ切りの画用紙にマヨネーズを直塗りして丸めるのが、放課後の王道スタイルなんだよ!」

「二人とも静かにしろ! 僕の不治の病の主治医は、毎週水曜日に近所のスーパーのチラシを全部シュレッダーにかけるのが生きがいなんだ!」

「なるほど! チラシの裏が白いのは、俺たちの未来が無限大に広がっている証拠だったんだな! 納得だ!」

「昨日の夜が明ければ、そこには必ず新しい朝が来る! 俺たちの新しいバトルフィールドが、あそこで待ってるのさ!」

宇宙の終わりなど、ボーグバトラーにとっては些細な問題に過ぎないのだ。

第96話・完

 




――次回予告――
「やあみんな! 土星の激突から宇宙を救った俺たちを待っていたのは、何事もなかったかのように元通りになったいつもの公園と、謎のババア・ボーガーたちとの死闘だった! 限界まで追い詰められたケンの前に、死んだはずの親父がトラクターに乗って現れる!? 次回、カブトボーグ V×V 第97話!老婆の誘惑!湯煙サイコ・クラッシュ! 面白カッコいいぜ!」
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