第17話『燃え上がれ!灼熱のプラズマ・ナムル・フィールド』   作:夏目陽光

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人造昆虫カブトボーグVxV 第88話 『脳汁チャージ!乞食アルゴリズムと未練のイカ焼き!』

 

灼熱の太陽が西の彼方に沈み、代わりに街を包み込んだのは、ねっとりとした夜の熱気と、どこからか漂うソースの焦げる匂い。そして――数千、数万の精神が同時に駆動させる、不穏なモーター音だった。

「おいリュウセイ、勝治! あっちの屋台、ものすごい熱気だぜ! まさか伝説のレアパーツが景品に入ってるんじゃねえだろうな!? おい聞いてんのかよリュウセイ! 見ろよあの射的の看板!『夏祭りサマーフェスティバルチャージイン』って書いてあんだろ! 絶対にレアパーツがある! 俺のボーガーとしての勘がそう叫んでるんだよ!」

龍昇ケンが大声を上げ、お面や綿あめが並ぶ夜店の雑踏を指差した。

「フッ、ケン。お前は相変わらず視野が狭いな。レアパーツがそんな簡単に祭りの屋台で手に入るわけがないだろう。だいたい、僕たちが今見据えるべきなのは、この祭りの裏に潜む、さらなる高みだ。たとえば、あの金魚すくいのポイが、実は最新のハイドロ・サスペンション・システムだとしたらどうする? ということは、あのすくわれている金魚たちは全員、オイルダンパーの役割を果たしている高度なサイボーグ生物だったんだよ!」

「そうだ。祭りは、ただ楽しむためにあるんじゃない。己の魂を、限界までチャージするためにあるんだ! つまり、型抜きで綺麗な城を抜けなかった奴は、ボーガーとして一生、冷や奴のネギだけを貪る資格しかねえってことだ!」

天野河リュウセイが拳を握りしめ、夜空に向かって言い放った。彼の腰には、いつもの相棒、トムキャット・レッド・ビートルが誇らしげに陣取っている。

三人が歩みを進めると、広場の中央に、何やら異様な人だかりができているのが見えた。通常、夏祭りの中心にあるのは風情ある盆踊りの櫓(やぐら)だ。しかし、そこに鎮座していたのは、巨大な、あまりにも巨大な、鉄製のチャージイン・スタンドだった。

「な、何だありゃあ……!? 盆踊りの櫓が、全部ボーグバトル仕様になってやがる! おい見ろよ、周りの奴ら全員チャージインのモーションを繰り返してやがるぞ! おい! しっかりしろよ勝治! リュウセイ、これ完全にやべえって! 誰も盆踊り踊ってねえじゃねえか! みんな目が死んでるぜ! おいってば!」

櫓の周囲を取り囲む群衆は、一様にトランス状態に陥っていた。彼らは手に手にカブトボーグを持ち、虚空を見つめながら、一糸乱れぬ動きでチャージインのモーションを繰り返している。無数のボーグの駆動音がお祭りのBGMと完全に同調し、目に見えるほどの陽炎となって立ち上っている。

「これは……ただの祭りじゃない。街のボーガーたちのエネルギーを吸収し、何らかの巨大なパワーへと変換しようとする、暗黒組織の陰謀……いや、あるいは世界の意志が『たこ焼きの爪楊枝は2本刺すのが正義か否か』を問いかけているのかもしれないね。僕の計算によると、爪楊枝が1本の場合の強度は――」

「へっ、面白ぇ。世界の意志だろうが、たこ焼きの爪楊枝だろうが、俺たちのパッションを止めることはできねえぜ! 行くぞ、勝治、ケン!」

「おう!」

「待ってました!」

三人が群衆を掻き分けて前へ出ると、櫓の上から、一人の男がゆっくりと姿を現した。

「親父……保存状態が良いな……! だが、その不自然な若々しさは、きっとどこかの闇病院で、体内の血液をすべてボーグの潤滑油(オイル)と入れ替えたに違いねえ!」

そこに立っていたのは、天野河大河。リュウセイの父親であり、かつて世界を滅ぼしかけた男である。彼はなぜか、金ピカの法被(はっぴ)を羽織り、頭には巨大なカブトボーグの角を模したヘッドギアを装着していた。

「フハハハハ! よく来たな、リュウセイ! そして若きボーガー諸君!」

大河の声が、祭りのスピーカーを通して全域に響き渡る。

「親父! ここで一体何をやっているんだ! せっかくの夏祭りを、こんな不気味なボーグ信者の集会みたいにしやがって!」

「無知なるかな、我が息子よ! お前は夏祭りの本当の意味を知らない。古来より、祭りとは神仏への感謝であり、魂の浄化である! ならば、現代における魂の浄化とは空間認知能力の拡大に他ならない! つまり、焼きそばのキャベツの芯の硬さこそが、今この宇宙を支える唯一の超ひも理論なのだ!」

「何だって!? キャベツの芯が宇宙の超ひも理論だということは、僕たちが普段食べているお好み焼きは、多次元宇宙のコラーゲン膜そのものだったんだね! だからソースを塗ると、次元の壁が歪んでマヨネーズが綺麗に格子状になるんだ!」

勝治が鼻血を出しながら狂喜した。

「そうだ! 手で持ってチャージインする時代は終わった! これからは、己の脳波とボーグのモーターをダイレクトにリンクさせ、精神の咆哮をそのままホイールへと伝える! それこそが、この天野河大河が開発した最新にして最終のバトルスタイル、頭カブトボーグなのだ!」

大河がスイッチを押すと、彼の頭のヘッドギアに固定された巨大なボーグのホイールが、猛烈な勢いで回転を始めた。ブォォォォン!!という、鼓膜を破らんばかりの爆音が響き渡る。

「さあ、リュウセイ! お前たちの頭を私に差し出せ! 空間認知能力を極限まで高めたその脳髄に、この神聖なるカブトボーグを直にチャージインするのだ!」

「親父、お前の言ってることは最初からどうでもいい! だが、俺の頭をチャージインスタンド代わりに使おうなんて、その傲慢な態度が気に入らねえ! 今日の俺の髪型は、30分もかけてセットしたんだぞ! 特にこの左側のハネ具合は、昨日の晩飯のサバの塩焼きの角度を完全再現した芸術品んだ!」

大河は腕を組み、仁王立ちのまま、鋭い眼光を放った。

「リュウセイよ、よく聞け。『リンゴが木から落ちるのは、地球がリンゴを愛しているからではない。リンゴが地球の重さに耐えかねて、自ら頭を垂れた結果なのだ』。つまり! 人間が頭にボーグを乗せるのではない! ボーグの持つ絶対的な重量と誇りが、人間の頭を自らのチャージイン・スタンドとして選んだのだ! これに抗うことは、宇宙の法則に逆らうことと同じだぞ!」

「な……何だって!?」

「なるほど……。地球の重力すらもボーグの意思だとすれば、僕たちが頭にボーグを乗せるのは、むしろ自然の摂理。というか、よく考えたらリンゴの皮を剥くときに螺旋状に剥くのは、あれはボーグのホイールの回転数を暗示していたんですね! つまり、アップルパイは実質的にボーグの集合体! 道理でアップルパイを食べると、僕の持病の不整脈が、毎分16万回転の爆音を奏でるわけだ!」

「なるほど、リンゴか……深いぜ。重力に逆らうなんて、男のすることじゃねえ! それに、ニュートンが万有引力を発見できたのも、彼が当時としては珍しい、頭カブトボーグのプロフェッショナルだったからに違いねえんだ! イギリスの教科書に載ってねえだけで、あの落ちたリンゴは、実はニュートンの頭にチャージインされたボーグの発射衝撃で叩き落とされたんだよ! つまり、最高のアップルパイを作るには、まずニュートンの頭を180度の油でカラッと揚げる必要があるってことだ!」

激しい太鼓の音がリュウセイの脳内を駆け巡る。

去年の秋のことだった。

リュウセイ、勝治、ケンの三人は、南米の広大なサバンナの真ん中にいた。どこまでも続く乾いた大地。遮るもののない太陽。

三人の前には、一本の巨大なバオバブの木がそびえ立っており、その木の枝には無数の焼きそばパンが実っていた。

『おいリュウセイ、見てみろよ! あの焼きそばパン、今がちょうど食べ頃だぜ! マヨネーズの焦げ具合が、まるで俺の将来の夢みたいにキラキラ光ってやがる!』

『待つんだケン。あの焼きそばパンの実は、まだ十分にチャージされていない。僕の計算によると、あの実が完全に熟すするには紅生姜の繊維が地球の自転と交差する必要があるんだ。つまり、熟していない焼きそばパンを食べると、僕の余命が三日に縮まる! 残りの二日は、一生ロボット掃除機と会話するだけの虚しい人生だ!』

『へっ、だったら俺は昨日食べたカレーの福神漬けの数を奇数にしてやるぜ!』

『待てよリュウセイ! 福神漬けを奇数にしたら、明日のお前のラッキーアイテムが「中型免許」になっちまうぞ! 10代前半で中型免許を携帯するのは、校則違反どころか法律のバグだ!』

そこへ、黄金の法被を着た巨大な天野河大河が、雲の間から顔を覗かせた。

『愚かなるリュウセイよ! その焼きそばパンに触れてはならん!』

『親父!?んでこんなサバンナの木から生えてるんだよ!』

『よく聞け! 「カマキリが自らの鎌を研ぐのは、獲物を狩るためではない。いつか訪れる、世界を二分するネギマとの最終決戦に備えるためなのだ」! お前が今その焼きそばパンを食べれば、南半球の小麦粉のバランスが崩れ、全人類は一生、紅生姜スウェットの刑に処されることになる! さらに言えば、土星の輪っかが消滅して、全部ちくわぶになる!』

『何だって!? 土星がちくわぶになったら、俺の明日の遠足のおやつが300円以内に収まらねえじゃねえか! ちくわぶは重いから、それだけでリュックサックの総重量が15キロを超えちまう!』

三人は、叫びながら頭をサバンナの荒野に叩きつけ始めた。

『うおおお! 小麦粉のバランスと俺の300円は守る!』

『僕の命も守る!』

『お好み焼きの鉄板、最高だぜーー!』

ズドン! ズドン! と頭を荒野に打ち付けるたびに、大自然のパワーが三人の脳髄へと流れ込んでいく。そして、限界まで頭を打ち付けた瞬間、バオバブの木からすべての焼きそばパンが一斉に弾け飛び、夜空に大きな花火となって消えていったのだった。三人はツルツルの頭で夕日を見つめながら、固い握手を交わした――。

「はっ……!?」

リュウセイは我に返った。

「思い出したぜ……! 俺たちはあの時、頭を地面にぶつけることで、宇宙の小麦粉のバランスを支配したんだ! 頭カブトボーグなんて、あのサバンナの試練に比べれば、ただのウォーミングアップに過ぎねえ!」

「頭を擦り付けるだと!? そんな生ぬるいことやってられるか! 俺のチャージを見ろ! ファーストチャージ、完了だぜぇぇぇ! 脳みそが沸騰していく感覚がたまらねえ! これが男の頭突き瓦割りチャージだ!」

ケンは近くに積まれていた夜店の瓦の束に向かって猛ダッシュし、自らの頭頂部で瓦を叩き割り始めた。

「僕の計算によれば、摩擦係数を最大にするには、この神社の石垣が最適です! セカンドチャージ、完了! ああ、石垣の苔が僕の頭皮と一体化して、緑のカーテンを作っています! これで僕も地球温暖化防止に貢献できます! 二酸化炭素の排出を抑えるボーグバトル、素晴らしい!」

勝治も境内の石垣に向かって頭突きをぶちかました。

「へっ、二人ともいいチャージインじゃねえか。なら俺はこうだ! チャージ、ワォォォォン!! サードチャージ完了!! 砂利が耳の穴に15個くらい入ったが、これが俺の新しい追加パーツだ! これで聴覚が完全にアナログ仕様になったぜ!」

リュウセイはトムキャット・レッド・ビートルを自分の額に力強く押し当てると、そのまま砂利の地面に向かってヘッドスライディングを敢行した。三人の頭の上で、ボーグのホイールが限界を超えて回転し、光と爆音を放つ。

「フハハハ、素晴らしい! これぞ男の、これぞ祭りのソウルだ! さあ、いくぞ! 夏祭りサマーフェスティバルチャージイン!!!」

四人は同時に、己の頭を激しく前方へと突き出した。頭の上に固定されたボーグたちが、まるで弾丸のように、櫓の中央に設置された巨大ステージへと飛び出していく。

「行けぇぇ! トムキャット・レッド・ビートル!!」

「唸れ! エレクトリカル・スピード・イーグル!」

「砕け! チャイナ・バロック!!」

ステージ上で、四体のボーグが激しく激突する。

「フハハハ! リュウセイ、勝治、ケン! この勝負に負けた者は、全財産を没収され、明日からこの夏祭り会場の裏で本当にただの乞食として生活してもらう! さらに、勝治! お前の家の大病院は不渡りを出して倒産、一家離散だ!」

「な、何だって……!? 僕が……僕の家が倒産して、僕がグレて夜の街を徘徊することになるなんて……そんなの計算外です! でも、もし乞食になったら、毎日ゴミ箱を漁るための新しいアルゴリズムを開発して、誰よりも効率よく残飯を手に入れてみせます! ピンセットを使って、フライドポテトの塩分濃度まで完璧に仕分ける乞食王に、僕はなる!」

「それだけではない! 負けた者は一生、屋台の焼きそばの『紅生姜』しか食べられない体に改造してやらあ!」

「何だと!? 一生紅生姜生活だと!? ってことは、俺の体内の水分が全部紅生姜の汁になって、俺が歩くたびに酸っぱい匂いが周囲に漂うってことか! そんなの、女子にモテなくなるじゃねえか! でも、もしお好み焼き屋の娘に限定すれば、俺は白馬の王子様同然だぜ! 毎日がソースと紅生姜のハネムーンだ!」

「フッ、ケン。お前は紅生姜のポテンシャルを舐めているな。世界中の紅生姜をすり潰せば、いつか金星の地表と同じ気圧を再現できるんだ! そうなれば、全人類は等しく潰れてタコ焼きの具になるしかない!」

「なるほど! 金星と同じ気圧なら、俺のパンチ力も3万倍だ! よし、受けて立つぜ!」

ステージ中央では、大河の持つ謎のボーグ『ダーク・マエストロ・インペリアル』が、三人のボーグを圧倒的な力で押さえつけていた。

「マシニカルトッピングパレード!」

大河がそう叫んだ瞬間、街中の電気が一斉に消え、すべての電力が櫓へと流れ込んだ。大河の頭のボーグが、まばゆいばかりの電撃を放ち始める。

「親父……お前は間違っている! お前がこの街の電力をどうしようが知ったこっちゃないが、俺のトムキャット・レッド・ビートルが、お前みたいな悪趣味な金ピカ法被に負けること自体が許せねえんだよ! だいたい、そんな金ピカの法被を着ていたら、夜道でカブトムシが間違って威嚇してくるだろ! カブトムシのプライドを傷つけた罪は、お前の命100万回分でも足りねえ!」

大河が腕を組み、冷酷に言い放つ。

「リュウセイよ、またしてもお前は本質を見見誤っている。『焼きそばの紅生姜が赤いのは、それが生姜だからではない。焼きそばという名の宇宙に、情熱という名の血を流すためなのだ』! 日常という名の白い麺に、私は今、終わらない情熱の血を注ぎ込んでいるのだ! ちなみに、イカ焼きのイカが丸まっているのは、彼らは現世の未練を抱いたまま、ボーグの車輪になりたいと切望した結果なのだ!」

「相変わらず意味不明だぜ、親父! だがな……その紅生姜もイカ焼きも、俺が全部食い尽くしてやらあ! おい、勝治、ケン! お前たちのボーグを俺の盾にしろ! お前たちが身代わりになれば、俺のトムキャットが奴を粉砕できる!」

「ふざけるなリュウセイ! 僕の家が倒産する前に、お前のボーグを僕の踏み台にして、僕が病院の新しい理事長になります!」

「俺が一番に決まってんだろ! 二人とも俺のチャイナ・バロックのクッションになりやがれ! ついでに俺の明日の分の宿題も代わりにやれ! 漢字ドリルを3回ずつな!」

大河の放つ圧倒的な電撃の奔流の中で、三人のハンマーが激しく交錯。お互いがお互いのボーグを現地調達した特大のハンマーで叩き壊そうとする、凄まじい火花とエネルギーの暴走! だがそのめちゃくちゃな内ゲバの衝撃と電撃が完全に混ざり合い、なぜか大河のダーク・マエストロ・インペリアルだけが、脈絡なく大爆発を起こした。

櫓のステージが、凄まじい光とともに完全に吹き飛んだ。

数分後。

煙が晴れると、そこには疲れ果てて大の字に寝転がるリュウセイ、勝治、ケンの姿があった。その時、勝治が唐突にガタガタと震えだし、血の涙を流しながら立ち上がった。

「う、うわああああ! 僕の脳細胞の、僕の紅生姜の繊維が……計算の限界を……! リュウセイ、ケン……僕は一足お先に、アップルパイの向こう側へ行くよ……!」

勝治はそう言い残すと、激しい光に包まれてその場で唐突に絶命し、灰になって風に消えた。

「勝治ーーーーーーーーーーーッ!!!!! 嘘だろおい! 死ぬな、死んじまうなんて計算外だぞ勝治ィィィッ!! お前が死んだら、誰が俺のチャーハンのグリーンピースを代わりに食ってくれるんだよ勝治ィィィッ!!」

ケンが天を仰ぎ、声を限りに絶叫して男泣きに暮れた。――が、その涙が地面に落ちるよりも早く、リュウセイの胸の奥で、圧倒的に熱いパッションが点火した。

「勝治の奴、勝手に灰になりやがって……! だが好都合だ! 奴の分の乞食生活の枠が空いたってことは、俺が負けても、残飯を漁るアルゴリズムは全部俺一人のものになるってことじゃねえか!! 勝治! お前の死は無駄にはしねえ! 俺の利己主義の燃料にしてやるぜぇぇぇ!!」

「リュウセイ……お前、最高に最低で、最高に熱い男だぜ!!」

ケンが涙を拭い、感動のあまり拳を握りしめる。

しかし、爆発の余波はそれだけでは収まらなかった。地響きとともに、彼らが立っている地面――いや、地球そのものが、轟音を立てて変形を始めた。宇宙の闇の中で、青いチャージイン・スタンドとなった地球が怪しく駆動し始める。

そこへ、煙の向こうから、屋台で焼きそばを焼いていたはずの親父――山田タカシ、42歳、住宅ローン残高3200万円が、怒りに震えながらゆっくりと歩み寄ってきた。その手には、禍々しいオーラを放つ漆黒のカブトボーグが握られている。

「お前たちが櫓をめちゃくちゃに壊したせいで、今年の俺のテキヤとしてのあがりが完全にゼロになった。許さねえ……! お前たち、今すぐここで俺の損失分を全額弁償するか、さもなければその頭を焼きそばの鉄板代わりに使わせろ!」

「へっ、面白ぇ! 相手が誰だろうが、俺のトムキャット・レッド・ビートルがブッ潰すだけだぜ!」

あまりにも世俗的でスケールの小さい怨恨を剥き出しにする山田タカシに対し、リュウセイは一切動じることなく、いつものスタイリッシュなイケメンスマイルを浮かべて立ち上がった。その頭頂部は毛根が1本も残らずツルツルにハゲ散らかしていたが、本人はお気に入りの髪型が完璧にキマっているかのように、前髪をかきあげる仕草をしてみせる。

「その通りです。僕の計算によると、この住宅ローン男の攻撃を凌げば、僕の新しい預金口座の利息が年利180%に跳ね上がります。ついでにタカシのローンをさらに増額してやりましょう」

何事もなかったかのように完全に生き返り、同じくツルツルのハゲ頭を月夜に輝かせている勝治。爆発でツルツルになった顔の、かつて激しい闘志を宿していた眉間のあたりを指先で鋭くクイと押し上げる。

「よっしゃあ! 俺も混ぜろ! ハゲ頭のパッションが無限にチャージされていくぜ! 見てろよタカシ、俺の頭皮の輝きで、お前の住宅ローンの明細書を真っ白に燃やし尽くしてやらあ! なにが鉄板代わりだ! 一晩で仕込みからやり直して、お前の頭を秘伝のソースに2週間じっくり漬け込んで極上の自家製チャーシューにしてやんよ!!」

ケンもまた、完全に禿げあがった頭皮に手を当て、爽やかなスポーツマンの顔で頷いた。彼らはただ、いつも通りの涼しい顔で、何事もなかったかのように佇んでいる。

その背後、崩壊した櫓の瓦礫の隙間から、消え入るような天野河大河の声が響いた。

「リュウセイよ……忘れるな。綿あめの袋がパンパンに膨らんでいるのは、中に夢が詰まっているからではない。お前の頭が、いつかまたチャージインを求める時のための、予備のクッションなのだ……」

「親父……あんたって人は、どこまで先を見据えてるんだ……! 予備のクッションが綿あめだったなんて、やっぱり親父のボーグ哲学は宇宙一だぜ! よし、俺たちも負けてられねえ!」

その言葉を聞いたリュウセイは、深く感銘を受けた表情で涙を流し、力強く頷いた。勝治もケンも、至高の真理に到達したかのような崇高な表情で深く感動している。

ツルツルのハゲ頭になった三人の少年たちは、いつものように並んでカメラ目線で力強く親指を立てた。その表情には、一点の曇りもない。

「みんな、来週もチャージイン!!」

画面中央に、巨大な「終」の文字が叩きつけられた。




やあ、みんな!
夏祭りを楽しんだ俺たちに待ち受けてたのはまさかのタイムトラベル!?
おいおい、勝治の奴が勝手に灰になったと思ったら、今度は本能寺が180度の油でカラッと揚がっちまうなんて、歴史の小麦粉のバランスも大暴走だぜ! だがな信長、お前が天下を統一しようが知ったこっちゃないが、お前の着てるその悪趣味な南蛮胴のせいで、夜道でカメムシが間違って威嚇してくるんだよ!
俺のプライドを傷つけた罪は、お前の住宅ローン100万回分でも足りねえ!

次回、人造昆虫カブトボーグVxV! 『凱旋門からチャージイン!迷子のケンがエッフェル塔を15キロのちくわぶで大改造!?マカロンのサバ塩焼き角度にリュウセイ大興奮のフランス海外旅行編!』

お前もお好み焼きの鉄板代わりにしてやんよ! 来週も、チャージイン!!
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