原因は綾小路の父親、パパ小路が綾小路を退学させようとしていることらしい。
それを知った茶柱先生が綾小路に対し、退学を回避したかったら自分の言うことを聞けと脅迫したそうだが……妙な話だ。
生徒の保護者が退学を求めているのに、学校がそれを突っぱねる権利があるのか?とか。
なんで校長でも理事長でもない、ただの担任教師の茶柱先生が口を挟んでくるんだ?とか。
あまりに意味不明な状況だったので逆に判断に困ってしまった。
ただ、綾小路自身は茶柱の命令に従わないと退学になると本気で思い込んでいるらしい。
つまり軽井沢さんを追い詰めた実行犯は綾小路だが、一連の事件の元凶は茶柱先生ということになる。
あの人、少しはまともに仕事をしてくれないかな……。
Dクラスの生徒を不良品だと言って露骨に見下したり、中間試験の時は試験範囲が変更されたことをクラスに伝え忘れたりと教師の仕事に対して熱意も誠意も感じられない。
その上でこれだ。退学を盾に生徒を脅迫するなんて教師の風上にも置けない。
「茶柱先生と真鍋さんの対処は俺がしておく。綾小路はこれ以上何もしないでくれ」
「……できるのか?」
「さあね。まあ、綾小路よりは上手くやれると思うよ」
「……わかった」
最初は一発くらいぶん殴ってやろうかと思ったが、なんだかそんな気もなくなってしまった。
茶柱先生への失望がそれくらい大きかったというのもあるだろう。こんな人間が教師として教壇でふんぞり返っているのだから、学校に対する評価も俺の中でガタ落ちだ。
結局、真鍋さんたちが軽井沢さんに暴行を働いている映像だけ貰って綾小路を解放した。
綾小路ならもっと上手く立ち回れそうな気もしたけど……俺の買い被りだったのかもしれない。
□綾小路清隆
晴柀の襲撃をなんとか凌ぐことができた。怒りの矛先を茶柱に逸らすことに成功した。
事情を説明するために少しだけ父親のことを話してしまったが、WRについては説明していないので問題ない。
それに軽井沢を手駒にするのは失敗したが、オレを脅迫していた茶柱について晴柀が対処すると言っていた。
上手くいけばオレが何も手を下さなくても問題が解決するだろう。
これでいい。
晴柀を利用して茶柱を止める。オレの平穏を取り戻す。
過程は関係ない。
誰を利用と構わない。
この世は『勝つ』ことが全てだ。
最後にオレが勝ってさえいればそれでいい。
――そのはずなのに。
「どうしてオレは、敗北感を感じているんだ……?」
軽井沢を手駒にするのを邪魔されたから? ――いいや、違う。
俺の考えた言い訳を見破られたから? ――それも違う。
「オレは……悔しいのか」
『綾小路よりは上手くやれると思うよ』
晴柀の言葉が耳を離れない。
オレより上手くやる?
WRで悪夢のようなカリキュラムをこなし、唯一最後まで残った『WRの最高傑作』であるこのオレよりも、晴柀のほうが上手くやる?
そんなはずがない。できるわけがない。
晴柀は知らないのだ。オレの父親がどういう人間なのか。自分の敵に回った人間をどうやって排除してきたのか。
その危険性を正しく認識していないからあんな言葉を言えたに過ぎない。現実を知らない幼子が夢想を口にするようなものだ。晴柀が茶柱を止めることなどできるわけがない。
絶対に不可能なはずなのに。
オレが解決できなかった問題を晴柀が対処すると言ったあの時、確かにオレの胸に『敗北感』が刻み込まれていた。
『最後にオレが勝ってさえいればそれでいい』
WRで俺が学んだ真理。この世は『勝つ』ことが全て。
だが。
「オレは……本当に勝者なのか……?」
綾小路が解決できない問題をもしも晴柀が解決してしまったら、両者の間に明確な優劣があるという証明になってしまう。
その時、真の勝者は誰なのだろうか?