「あった〜?」
「こっちにはねぇな」
「う、上から見ても無さそうだったよ」
「賢いわたしの推理ではここだったんだが世界が間違っているな」
フォービーストでリリーバイスの頭を探しに来たのだが一向に落下地点と思える場所をくまなく探してもリリーバイスに関する落ち物は髪の毛一本すら見つからなかった。
こんなに探してもないなんて空中で誰かがキャッチでもしたのか?だけど空を飛べる奴で見つけて連絡してこなさそう、というか連絡先しらないのはニヒリスターぐらいだよな?
「ニヒリスターならこっちに交渉しに来そうじゃない?これやるからクイーン弱らせて食わせろーとか」
そうだな、レヴィの言う通りニヒリスターなら自分の都合を通す為の交渉材料にしそうだ、なら一体誰が?そもそもあまり大きいものではないから動物に持って行かれたとかか?
「ね、ねぇあれじゃない?」
ジズが指差した先を皆んなで見るとだいぶ遠くではあるがマザーホエールが本来の巡航速度よりかなり遅く飛んでいるのが見えた、そして色も特徴的だった、ラプチャー特有のコアと同色の赤い光のラインではなく空色の光のラインが走っていた。
………確かにあれっぽいな、あのサイズなら意図せず飲み込んだり上に乗っかったりしそうだ、インディビリアとマリアンとで虫狩りキャンプ行って以来だなあれ見るの。
「このままここ探しても見つかんなそうだし、あれ行くか!」
ベヒモスは言うないなや速攻でジズの羽の中に潜り込んでいった、飽きてたなありゃ。
でも他にめぼしい物もないしそうするか。
揃ってジズの羽に入って、そのままジズは1人飛び立って遠くに僅かに見える青いマザーホエールを追いかけて行った。
ジズが飛び立って少ししたところでフォービーストが先ほどまでいた地点にダークマターが地面から染み出すように湧いて出てそのダークマターからヌゥと人影が二つ現れる。
「やはりクイーンといえど練度にだいぶ差があるのでしょうか、いくらダークマターの支配権を奪おうとしても出来ませんね」
「むしろ、奪われかけてたわね」
「そう言わないでください薔花、これでも才能はあると思いますよ?」
ミラーの言うことは間違っていなかった、新たなクイーンになったことでミラーは簡単な形を作るぐらいしか出来なかったダークマター操作をレヴィアタンとほぼ同等まで引き上げることに成功していた。
そしてその恩恵を誰よりも得ていたのはミラーの対面で話す主人と奴隷という立場でありながら遠慮ない物言いをする薔花であった。
前は何もかもがボロボロで視界など人間を切るわけでもないのにほぼ見えなくなっていたし、NIMPHも殆ど機能しておらずただただ執念で自分という存在を覚えているようなものだった。
しかしミラーによりNIMPHは多少満ち欠けはあるがほぼ機能を取り戻し、記憶もミラーが覗くことで再度NIMPHと脳に記憶を刻み込み、視界も完全に元の視力と同等まで戻った。
この事実だけ見ればミラーはいい奴なのかと思えるがもちろんそれは違う。
薔花を修復するさいにミラーはダークマターで薔花に洗脳を施した、これにより万が一の裏切りの可能性は無くなった。
そして薔花への洗脳は実験も兼ねていた、何処まで洗脳出来るかどれほど強力で洗脳が解けてしまう可能性があるかなど侵食との違いを調べた。
結果は侵食の上位互換、もちろん侵食はウイルスの様に感染や簡単に被爆させれるので完全にではないが個体に対しての性能はまず間違いなく上で侵食のように克服されることはまずありえない。
弱点をあげるならレヴィアタンによってこの洗脳は解除される可能性が高いことだがそもそもフォービースト相手に洗脳なんてする余裕はないので問題は無いだろう。
「フフ、しかしリリーバイスの頭が空を飛んでいるのを見た時は自身の目を疑ってしまいました」
「妖怪になったのかと思ったわね、でも良かったの?フォービーストに獲らせて」
ミラー達は、元クイーンは降下地点からミラーの隠れ家までの何処かでリリーバイスを吐き出したと考え道を辿りながら探している最中にかなりの速度で飛行するリリーバイスの頭を見て2人揃って二度見をしてしまい、反応が遅れてキャッチ出来なかった。
本当にあれがリリーバイスの頭だったのか話していると上空を今度はジズが飛行して、頭が飛んでいった方向へ飛んでいくのを見てミラー達は追跡することにしてこっそり自分とフォービーストのダークマターの支配権の強さを確かめて今に至る。
「地味にわたし達は飛べませんし、2人でフォービーストと正面切って相手するのは無謀ですから」
「ならこれからどうするの?」
「仲間を集めますかね、ラプチャーでは心許ないですし」
幾らでも仲間を作れますし、そう言いながらミラーはダークマターを手の平の上で矢印の形にしてクルクル回し始める。
別段その行為に何か意味があるわけではないどうしようか迷っている時に手持ち無沙汰なのを解消するためにやっているに過ぎない。
そんなことをしながらどうするか悩むミラーを唐突に薔花が引っ張って後ろに半歩ズラす。
「何するんですか!?」
洗脳が解けでもしたのだろうかとコミカルに怒りながら冷静に薔花を見るが薔花はむしろお前が何しているんだという顔で刀を抜いて切先をミラーの右側に向ける。
その先にはヨハン率いるレッドフードを含めたインヘルト部隊がこちらを警戒しながらハランのスナイパーライフルの銃口が先ほどいたミラーの位置に向いていた。
「あぁ助けてくれたのですね、ありがとうございます」
ミラーはお礼を言いながら洗脳は自分が思っているよりさらに強力で優れた物だと喜ぶ、助けてもくれるなんて。
ミラーはますます洗脳で仲間を増やすべきだと、手の平で回していたダークマターがインヘルト部隊を指し示し役目を終えたかのようにスッと崩れ落ちる。
「いきなりですね?対話は進化の礎とフォービーストから教わりませんでした?」
ミラーはインヘルトに正面から向き合いそんなことも教わっていないのですか?と煽っていく。
「お前は何者だ?」
「会話のキャッチボールをお願いしたいのですが………何故そんなにも警戒するのですか?」
「お前は何者だと聞いている、この質問の答え以外聞く耳などない」
ミラーは何故インヘルトがこちらを異様に警戒するのか理解出来なかった。
どうしてかとインヘルトの視線をよく見ると皆わたしの胸を見ていることに気づいた、確かに一般的なサイズよりだいぶ大きいが、それで警戒されたらたまったものではない。
「………!、あぁそう言えばわたしもダークマターを扱えるようになってから服の代わりに纏っていましたね」
さっきも何も気にせずダークマターの矢印なんか出していました、フォービースト以外に扱える存在を彼らは知らない、それは警戒しますね!
「何者………何者ですか、ミラーと言います、こっちは薔花、薔花はただの付き添いなので特別な何かはないのですが、わたしは………フフフ、ちょっと自慢になってしまうのですが」
元から薄ら笑いしているミラーの口角がさらに歪みながら自身の体を抱きしめ始めたことにインヘルトは目の前の存在、ミラーが狂気を宿した存在だと気づく。
「クイーンになったんです!」
バンッ!!
ハランのスナイパーライフルの引き金が再び引かれて、銃口から飛び出した弾丸は再びミラーの顔を吹き飛ばそうと真っ直ぐ飛んでいく。
しかし先ほどと違い、弾丸はダークマターに阻まれ威力を完全に失う。
「何者か聞かれて答えたのにこの対応は酷いではないですか」
「悪い冗談は嫌いだからな、だが遠慮なく殺せる存在ではありそうで助かった、感謝する」
インヘルトが完全に戦闘を始める気でいることにミラーは獣の名は貴方達の方が似合っているのではと思いながら、ミラー達も戦闘の構えをとる、とは言っても薔花が刀を構えるぐらいしかすることは無いが。
「エンカウンター」
ヨハンのその言葉を合図にインヘルトは一斉に攻撃を仕掛ける、現在この場にいるのはイザベル、ドロシーを除いたレッドフード、ハラン、ノア、流石にまたセシルを1人にするのはどうなんだとパピヨンはエデンに残っている。
戦い方は非常にシンプル、ノアが攻撃を防ぎその後方からスナイパーライフルを担ぐレッドフードとハランがひたすら攻撃するというもの、何も捻りもないストレートな攻撃だがだからこそ薔花はノアに攻撃を防がれ、ミラーは弾丸を防ぐことに集中しなければならない。
そして量産型ならここで終わるが彼女達はネームドだ、さらにこの中でハランは唯一攻撃に特化した特異性を持っていた。
ハランのスナイパーライフルから放たれた弾丸をミラーはダークマターで防いでいると突然糸が切れたように倒れ動かなくなる。
何が起きたかた薔花は把握する前に動かなくなったミラーに止めを刺そうと飛んでくる弾丸を刀先で綺麗に真っ二つに切り裂いて当たらないように防ぐ。
しかしその切った弾丸から紫色の何かが空気中に広がり、薔花は毒か何かだと呼吸機能を切って防ごうとするが、このウイルスは直接体を食い荒らす細菌サイズのピラニアのようなウイルスであり、薔花はなす術もなく倒れる。
「クイーンってこんなザコザコだったの?拍子抜け〜」
ノアがあっけなく地に伏した2人を見ながら僅かにだが警戒を緩めて、笑いながらいつもの調子でもう声は届いていないだろう死体を煽る。
「お恥ずかしい限りです、ハランのウイルスがここまでの物だなんて思いませんでした、やはり体験しなければ正確な効果というのは実感できませんね!」
ノアの声に返事したのは目の前の死体になったはずのミラーだった。
ヨハンはハランの方を見る、その意図がハランが死んだと判断してウイルスを解除したのかと意味だと察したハランは軽く冷や汗をかきながらも冷静さを装い答える。
「解除はしていないわ、むしろミラーの周辺はどんどんウイルスの濃度が濃くなっているわ」
それが本当なら、流石にクイーンと自称するだけの何かがあるのだろうと、ヨハンはノアに警戒を緩めるなと指示を出して、どうやってミラー達を倒すか思考し始める。
―――
クイーン、それはラプチャーを生産する存在、命令も可能ではあるが、絶対性がない為、確実に持っている能力をと言うと生産能力だけになるだろう。
しかしそれだけで強いのだとミラーは常々思っていた、だからこそ元クイーンが膜一つあるだけで怯えて降りてこないことに酷くガッカリしていた。
ラプチャーは言わば機械と生物のいいとこ取りをした存在なのだ、機械の劣化という部分を生物で補い生物の老化という部分を機械が補う、そして機械と生物、両方の利点も勿論備わっている。
ハランのウイルスにやられたミラーはすぐさま『適応』を始めた環境に天敵にやられないようにと生物が適応するようにミラーの体内で生み出されたハランのウイルスサイズの細菌ラプチャーがハランのウイルスの弱点を機械的に学習し、母体であるミラーに送り、ミラーは次の世代の適応された細菌ラプチャーを生み出し、ハランのウイルスを完全に除去した。
「ほら、薔花も起きてください」
そしてネオンの完全抗体とは違い、適応は他者に影響を与えることが出来る、ミラーがハランの高濃度のウイルス空間を悠々と歩き、薔花に触れると、薔花にも適応した細菌ラプチャーがボディに侵入していきハランのウイルスが効かない体に一瞬で出来上がる。
「………ズルいわね、切った中にウイルスが仕込んであるなんて刀じゃどうしようもないじゃない」
「ウイルスを切ったら良いじゃないですか」
「………剣士を何だと思ってるのよ」
バンッ!バンッ!バンッ!
呑気に話ししてんじゃねぇと言わんばかりに復活の余韻を味わうことなく、ミラー達に弾丸が飛んでくる。
今度は切ってもダークマターで止めてももちろん何も起きない、ハランのウイルスは完全に無効化されてしまっていた。
―――
「ふざけた力だ」
1番この場にいる戦力で強力でかつ初見殺しであるハランのウイルスに対応されたことにヨハンは舌打ちをしたくなるのを抑えて、次の一手を考えていると、今度はこちらの番と言わんばかりに嬉しそうにミラーは自分の攻撃方法を教えながら動き始める。
「わたし、クイーンになってから天気予報も当たるようになったんですよ」
ミラーはインヘルトの攻撃を防いだりかわしたりしながらダークマターを空へと送りまるで入道雲のような巨大なダークマターを空に作り出す。
「予報の結果はラプチャー大雨警報です」
小型、中型、大型、セルフレス級サーヴァント級マスター級ロード級タイラント級。
全てのラプチャーが網羅されているのではと思える圧倒的質量の機械生物の雨がインヘルトへと降り注ぐ。
「ハランッ!!」
ヨハンの声かけで意図をすぐ理解したハランはとっておきのウイルスグレネードを降ってくるラプチャーの大群に向かって放り投げてスナイパーライフルで撃ち抜いて起爆する。
ウイルスは空いっぱいに広がりラプチャー達を残らず食い尽くす。
本来であればだ。
『適応』は他者にも影響する。
もちろんミラーが生み出した細菌ラプチャーが適応し耐性を得たのだがら通常のラプチャーが得ない通りがない。
「ッ!効かないわ!!」
ハランの残酷な答えにノアは急ぎ上空に向かって盾を展開する質量によるプレス程度なら最強の盾は破られないからの判断、しかしノアはそこからどうやって勝てるかイメージが出来なかった、ダークマターの入道雲から落ちてくるラプチャーはどれも生きている、地面以外の周囲全てにみっちりとラプチャー、生き残れる方がおかしい。
ノアがどうしようとヨハンの指示を仰ごうとする前に強烈な痛みと共に体が吹き飛ぶ、すぐに原因を知ろうと自分が先ほどまで居た位置を確認するとレッドフードが拳を振り抜いている姿が確認出来た。
「ちびガキッ!そのままヨハンを抱えて盾をこっちに向けろ!!」
何でと疑問が頭を埋め尽くしながら、普段の訓練のお陰かノアは吹き飛んだ先で指示をしていたヨハンを空中で抱え込み指示通り盾をレッドフードに向ける。
ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!
盾をレッドフードに向けた瞬間、レッドフードのスナイパーライフル、ウルフスベインの連射を連続で撃ち込まれて空中にいたノアは勢いを殺せずさらに加速する形でラプチャーの雨の落下範囲から抜け出す。
「何をしているレッドフードッ!」
「わかってんだろヨハン!お前達だけでも逃げろ!」
逃げるよう叫びながらレッドフードは落下してくるラプチャーの大群から正確に追跡性能の高いラプチャーを撃ち落とし、ヨハンとノアを追えないようにする。
そうはさせまいと薔花がレッドフードを切り伏せようと刀を振るうが、ハランがすかさずスナイパーライフルを鎌に変形させて薔花の攻撃を防ぐ。
「こんなことしてたらあなたも巻き込まれるわよ?」
「大丈夫ですよ、最初から殺す気などありませんから」
「………どういう意味?」
「そのままの意味ですよ」
薔花の言葉を理解するよりも先にハランの足先に何かが触れるのを感じてそっちに視線を移すといつのまにかダークマターがハランを含めたレッドフードと薔花の足元にも広がっていた。
ラプチャーの雨が地面に到達する前に3人はダークマターの床に沈み、遅れて地面に落ちたラプチャーの衝撃が逃走していたノアとヨハンの所まで届いた。
ヨハンはその衝撃を背中で感じながらも後ろを振り向かずノアと共にエデンまで全力で走る。
必ずミラーを、クイーンを倒すッ!
ヨハンは元から持っていた気持ちを新たにしながら今回の戦闘からどう倒せば良いかの思考をグルグルと回し続けた。
回し続け『た』と途切れてしまうが。
ベチャァ。
ノアの盾に隠れるように蜘蛛ほどのサイズのラプチャーが1匹くっついており、それが弾ける、中には大量のダークマターが入っていてノアの体と地面に撒き散らされる。
すると地面に散ったダークマターから腕が出てきてノアの足を掴みそのまま腕が出てきた場所のダークマターが一気にヨハンの足元まで広がり回避する指示も叫びもする間もなく、ノアとヨハンはダークマターに沈んだ。
ノアとヨハンに入れ替わるようにミラーはスッと現れて、結果に大満足する。
「あぁ早速仲間ができちゃいました!友達作りは不安だったのですが無事出来て一安心ですね!」
ミラーは思わずその場で踊り始める、赤い靴を履いているわけでもないのに。
赤い靴の少女は踊り疲れ反省をしたが、ミラーは疲れないし反省もしない。
死なない限り踊りは続く、周りを巻き込んで。
―――
ヨハンに話しがあると呼び出されたカウンターズは指定されたポイントに向かうとヨハン、レッドフード、ハラン、ノアで待っていることに珍しさを感じながらも話す内容をしっかりと聞いている為別段疑問には思わず話しかける。
『本当に見つけたのか?リリーバイスの頭を』
「あぁ、おまけで探していたのだがまさかこんなあっさりと見つかるとは思いもしなかった」
ヨハンの言葉にカウンターズは何の違和感も感じず会話していく、もちろんヨハン以外の3人にも何も疑問など覚えない。
それもそのはずミラーの行う洗脳は言わばマリアンやラプンツェルがよく読む読み物風に言えば完璧な『常識改変』
自身の行動に違和感を感じず自身の言動にも何も疑問を感じない、本人はいたって問題なく動いているとすら感じず自然にミラーに対して有利に動く。
本来、カウンターズがこの段階でミラー達やヨハン達を同時に相手した場合、勝つのはカウンターズだ、それほどまでにカウンターズは個々で強く連携も優れており、カウンターズの指揮官の指揮でそれはより強く輝く。
だがカウンターズは最大の弱点があった、身内や仲間と呼べる存在にめっぽう甘く疑うことをしないことだ。
ヨハンからリリーバイスの頭を受け取り状態を確かめようと顔を自分側に向けると。
そこに顔のパーツはなくのっぺらとした表面に『ハズレ』と書かれていた。
『ッ!に』
逃げろ、そう言葉にする前にカウンターズはあっさりとダークマターに沈む。
ミラーは順調過ぎる結果にクイーンになった時と同等の快楽を全身に感じずにはいられなかった。
抑えつけようと必死に体を抱き込むが抑えきれずそれならと次の目標である空の彼方に浮かぶ青いマザーホエールを眺める。
これでもまだ勝てるか不安が残ることにミラーはさらに興奮をするのであった。