魔術に灼かれた転生者、やがて世界の脳を灼き尽くす 作:マジュツスキー
俺は魔術に灼かれてしまった。
魔術は前世に存在しなかった技術体系である。
魔力を操作し、呪文を詠唱し、魔法陣を描き、魔道具を用い、現象を起こす。
前世においても、創作の中でならありふれた概念の一つだった。
だから最初のうちは、そんな架空の概念が現実になったことへの興味しか俺にはなかったのだ。
しかし実際に目にした魔術は、俺の想像を遥かに上回る興奮を俺に与えたのである。
俺の前で放たれた魔術は、今にも命を奪われそうだった俺とその家族の前で、一筋の閃光を空に向けて放った。
迫りくる数メートルを優に超えた魔物を、たった一撃で灼き尽くしたのだ。
格好良かった。
心躍るようだった。
それが俺の始まりだったんだ。
以来、俺は魔術の深淵を目指すべく研鑽を続けている。
俺と家族を救ってくれた師匠に頼み込み、師匠がくれた本を擦り切れるほど読み込んだ。
魔術に関する本は非常に貴重で、俺が手に入れられた本はそれだけ。
後は独学で学ぶしか無かったが、俺には前世の記憶がある。
魔術に対する想像力は、きっと人一倍強かっただろう。
何より、少しずつ……本当に少しずつではあるけれど、魔術を解き明かしていくその時間は――本当に楽しかったんだ。
そして十五になった俺は、魔術学院への入学を決める。
理由は色々あるけれど、やはり一番の理由はそこに知識があるから。
これまでは、師匠の本をもとに独学で進めるしかなかった。
だけどこれからは、学院の知識を使ってもっともっと多くのことを学べる。
そのことが俺にとっては楽しみで楽しみで仕方がなかった。
――それが、いずれ世界を灼き尽くす選択であることなど、知る由もなく。
○
俺は入学以来、ずっと――ずっとこの日を待ちわびていた。
それは初めての”実習”授業。
実際に魔術を使ってみようという授業だ。
ここに至るまで受けてきた座学も非常に興味深かった。
内容のほとんどは、師匠がくれた本のおさらいではあったけれど、俺にとっては未知の情報も普通に含まれている。
中には俺が独学で立てた仮説が、実際に合っていたときもあった。
その時は、内心めちゃくちゃ嬉しかったな。
まぁ、本当に初歩の初歩みたいな内容ではあるんだけど。
――俺の歩んできた道は、間違いじゃなかったんだ。
まあそりゃ、間違ってたらそもそも入学できてないし、特待生にも選ばれてないだろうけどさ。
「――では次に、実際に魔術を発動してもらおう」
――来た。
俺は内側から溢れそうになる笑みを必死に噛み殺した。
ついに、魔術を使える時が来たのだ。
故郷と違って魔術学院は建物や人が多い、試し打ちとかそうそうできないからな。
あああるいは、他人が発動する魔術を観察するのもいい。
俺の魔術と、一体どんな違いがあるだろう。
どっちでもきっと楽しいぞ、とても、とても楽しいぞ!
「――特待生のレイスとリナリ、二人に実演してもらおう」
嘘だろ、そんなことが許されていいのか!?
どっちかだけでも垂涎なのに、両方とかあまりに約得過ぎる。
もしかして俺、明日には死んでしまうんじゃないか?
「はい!」
「あ、はい!」
とか考えていると、同じ特待生のリナリが声を張り上げて返事をしたので、俺も続く。
周囲の反応はまちまちだ。
リナリに対して期待の眼差しを向けるものも入れば、俺に嫉妬の眼差しを向けるものもいる。
違いは何だ、顔か?
まぁ別にどうでもいいけど。
何にしても俺は、ワクワクしながらクラスメイト達の前に立つ。
隣にリナリも並び立った。
長い栗色の髪で、背丈は多分女子の平均くらい、気の強そうな少女だ。
俺に対して、どこか挑戦的な視線を向けてくる。
同じ特待生だからか、と思っていると――教師が不意にあることを俺達に告げてきた。
「では二人とも、”ライトブラスト”を発動してみてくれ」
俺はその言葉に目を見開く。
何故なら――
俺の魔術の教本は、子供に読ませるような初歩的なものだった。
乗っている魔術も種火を生み出す「ドットファイア」、水を生み出す「ウォータークリエイト」、そして回復魔術の「ヒーリング」だけ。
だから俺は、全く未知の魔術に興奮しきりなのだ。
おそらくこの場で他の学生に見せるものであるから、魔術の難易度はそこまで低くない。しかし、同時に何かしら癖の強い魔術なのではないか? ライトブラストの名前からしておそらく光系の魔術。光は物質ではない分、具体的な現象のイメージが難しい。だとすればおそらく、この魔術は初歩的でこの場にいる俺以外の全員が知っているけれど使い手は限られる魔術――
「……さん……レイスさん!」
「え、ああ、はい?」
「さっきから話しかけているのにどうして答えないのよ! 私とあなた、どちらから先に魔術を披露するかって話!」
「あ、じゃあ……そちらからどうぞ」
「もう、早く答えてよね、まったく!」
俺にとってこの魔術は未知の魔術。
ぶっちゃけ使えないので、実際の効果を確かめて
「行きます」
堂々とした様子で、リナリが杖を構える。
魔術の行使に杖は必要ないのだが、愛用する人間もいる……というのは最初の方の授業で聞いた話だ。
色々とこれには理由があるんだが――今はやめておこう、リナリの魔術に集中だ。
「――――」
リナリが、小声で幾つか単語を並べ立てる。
詠唱だ。
なんと口にしているかはわからないが、おそらくは短縮詠唱。
単語を口にするたび、魔力がリナリの中で練り上げられていくのが感じ取れた。
すごい、あまりにも練り上げ方がキレイで、見入ってしまいそうだ。
「――ライトブラスト!」
そうして放たれた魔術は、鋭い閃光となり魔術を当てるための的へ一直線に着弾した。
おお……おお! 魔術、新しい魔術だ! そうか純粋なビーム攻撃の魔術なのか。見た目はシンプルながらも、魔術の構築に独特な”癖”のようなものがある。威力を絞れば事故が起きにくいから、実演に向いている魔術なのか――
「――では次、レイス!」
「あ、はい!」
分析していたら、すぐに俺の番になってしまった。
その間の記憶が他の生徒に合わせてリナリに拍手したくらいしかない。
いや、まぁいい。
だいたい
これなら実演で赤っ恥を晒すこともないだろう。
まだ最適化ができていないので、フル詠唱になってしまうのはいささか恥ずかしいが――
「――――光、直線、燃焼、射出」
「……?」
俺は詠唱を重ねる。
魔力を練り上げて、先程起きた現象を再現するべく、術式を構築するのだ。
この時俺は、隣でリナリや教師が訝しむような顔で俺を見ていることに、気づいていない。
「威力減少、非殺傷――――ライトブラスト!」
最後に事故が起きないよう威力を下げて、射出。
よし、こんなものかな?
周囲からまばらに拍手が聞こえてくる。
なんとなくリナリの時より少ない気がするが、まぁ顔が原因なので仕方ないだろう。
超絶美人とモブ顔の男を比べてはいけない。
そんな時だった。
「――――ちょっと、レイスさん! 貴方今一体何をしたのよ!」
他者を呼ぶ時は常にさん付けなリナリが、突如として俺にそう問いかけてきた。
その顔には、焦りと疑問が綯い交ぜになったような感情が刻まれている。
どうしたことか、疑問に思いながらも俺は答えた。
「いや、何って。ライトブラストを発動しただけだけど」
「
「……それって何かおかしいか?」
「な――」
――俺は独学で魔術を学んだ。
だから、正直他の人がどうやって魔術を使っているのかなんて、さっぱりわからない。
リナリの結果を真似してライトブラストを放ったが、”真似をする”という行為そのものがおかしいのだろう。
一体なにがおかしいのだろう、どうしておかしいのだろう、――ああ、
俺はまだまだ、魔術に対して無知なことが多すぎる!
そんな俺の興奮はさておき、リナリが俺に向かって叫ぶ。
「それじゃあまるで、
「そうだけど」
その叫びに、俺は端的に返す。
すると――
「――――は?」
――と零しながら、ありえないものを見るような目で、
え? 何か……そんなにまずいこと、俺はやったのか?