リアルゲーム 作:くろばす
火神と初めて練習をした日からさらに1年半が経過した。
僕と葉山は三年になり、火神は二年となった。
あの試合をしてから火神から憧憬の眼差しで見られることが多くなった気がする。原作でもトップクラスの実力を持つキャラに憧れられるのは正直むずがゆいが、葉山同様原作より強くなってもらえるように鍛えてやりたいところだ。
最近では火神は放課後、柳と福留と毎日のように放課後練習しているらしい。そんなにバスケが好きならミニバスに来るように勧誘してみたが、ご両親の都合で難しいらしい。柳と福留もそのときに勧誘してみたが、ご両親の許可がまだ下りないらしい。
僕と葉山が通っているミニバスは僕たちの小学校だけでなく、近くの小学校の子達も一緒に練習している。特筆すべき人物はいないと思っていたが、二年の二学期後半でで伊月俊という人物が入部してきた。
確かに原作では小学校二年からミニバスを始め、誠凛高校で一番キャリアが長いと記されていたが、まさかここだとは思わず、名前を呼ばれた瞬間、「マジで!?」と声を上げてしまったのは記憶に新しい。
入ったばっかりだから身体能力は低いが、持ち前の
同じ学年だからそれなりに話も合うため、最近では葉山とよく練習をしている。ポジションは伊月がPGで葉山がSF、僕がPFを務めている。いずれ伊月から
来年からは公式戦に出られることから、早くもワクワクが止められないな。監督から四年にあがったタイミングで僕と葉山のスタメンは確定している聞いているし、伊月もレギュラーではないものの、その腕を買われ正PGの控えとしての打診が来ている。この一年でどこまで実力を上げられるかが胆になりそうだね。
そんな俺達はこのミニバスの中でも中々特別な存在らしく、四年生以上しか参加できない紅白戦では特例で、僕と葉山だけ出させてもらっている。児童にこのような特別扱いは良いのかと監督に聞いてみたが、強さこそが全てという何とも教育者とは思えない回答で思わず笑ってしまった。
しかし実際不満の声は全くというほど無く、この状況もこっちとしては能力が上げやすくなるため都合が良く利用させてもらっている。
公式戦には出られないが、練習試合では何度か使ってもらうことも三年になってからは増えてきたし、葉山と組めばほとんどの選手には勝てるようになってきたので監督もご満悦である。次期ダブルエースと呼び声もあるため、ここ最近の葉山はモチベーションがめちゃくちゃ高い。
こいつを止められるのは今じゃレギュラーと僕だけかもしれない。強くなりすぎだぜ葉山くん。
そんな充実した日々を送っているが、今日はおよそ二か月ぶりの紅白戦である。
上級生やスタメンと本気でやりあえる唯一の機会のため、今日は気合たっぷりだ。葉山は当然として、今回は伊月も特別に紅白戦にでることを許可された。
「楽しみだな二人とも。準備は万全か?」
「問題ない。正直どこまでやれるかわからないけど、チームの力を引き出せるように精一杯頑張るよ」
「やっぱりスタメンと戦う紅白戦は最高だな~! みんな強くてやりがいがあるし、何より最近負けてばっかだから今回は勝つぞー!!」
葉山が天才といっても小学校六年生と三年生の身体格差を覆すのは難しい。それでもスタメン相手にあと一歩のところまで追い縋る葉山にはやはり舌を巻く。
「伊月は紅白戦は初めてだろ? あまり気負い過ぎるな。何かあれば俺と葉山がフォローするし、君の目を十全に使いこなせれば勝てるさ」
「簡単に言ってくれるよ…。この目の使い方だって君が教えてくれたものじゃないか」
「それは違うぞ伊月。僕はあくまで使い方に迷っていた君に少しアドバイスをしただけだ。バスケにどうやってその能力を使うかは、このミニバスに入ったタイミングで既に決めていたんだろ?」
「
「はははっ! 理屈が通じるやつはかわいいもんだ。中には、理屈の通じない
「君も十分そっち側だよ。まったく」
「どうでもいいけどさー。早く試合しよーよ。待ちくたびれたよー」
葉山が頬を膨らませてリスのようになっている。
「そういえば
「完成したよ。昨日な」
「え、そうなのか? 完成した瞬間見たかったな」
「お前が昨日早上がりしたのが悪いんじゃんか! もうすぐで掴めそうだって気づいてたくせに!」
「いや~すまんすまん。昨日は野暮用があってな」
「まあその辺にしとこう。そろそろ始まりそうだ」
伊月の言葉で口論を辞め、センターラインにそれぞれ集合する。
今回のチーム編成は、僕と葉山と伊月、そしてベンチ2人。対する相手はレギュラー5人。
戦力的には難しいが勝てないこともない。それに加え、今回は紅白戦を数試合するため2
お互い整列し審判の合図を待つ。
「それではこれより紅白戦を始めます。礼っ!」
「「「「「よろしくおねがいしますっ!」」」」」
ジャンプボールはベンチの人がやってくれたが、さすがにレギュラーに勝つことはできず相手ボールになってしまった。
「よし、まずは一本止めましょう! 僕はエースの篠宮さんにつきます! 彼は任せてください!」
「おう! 頼むぞ次期エース!」
「ここで勝てたら
「はい! お任せを!」
眼前のエースの篠宮さんにボールが回る。彼はスタメンの中でも全ての能力が一回り高く、完全に止めるの難しい。
「以前の僕だったらね」
「なんだ?」
白縫の様子がおかしいことに気づいた篠宮は、すぐにドリブルで仕掛けるのをやめ様子を見ることにした。
「なんだその構えは? 止める気があるのか?」
「もちろんあります。これが僕のスタイルです」
手を下げ脱力したような構えを不気味に思いつつも、野生の獣を相手にしているような緊張感に思わず冷や汗をかく。
「どうやらその構え、舐めてかかるものではないらしい」
篠宮は白縫の実力を認め、自分のできる最速のフルドライブで白縫を抜きにかかるが、どういうわけか白縫はあっさりとついてくる。どんなに揺さぶりをかけても獣のような反射速度と速度で行く手を阻んでくる。
「ちっ!」
痺れを切らした篠宮はファウルぎりぎりの極限の肉弾戦を仕掛け、強引にドリブル突破を図ろうとした。狙うは右。相手の懐の最深部。強引に、肉体をねじ込むようにしてトップスピードで突っ込む。
「……くっ!」
ファウルを誘うほどの激しいコンタクトに、白縫の重心が一瞬だけ、ほんの数センチ後ろへ流れた。審判のホイッスルは鳴らない。
その刹那の隙を見逃す篠宮ではない。激突の反動をそのまま前進するバネに変え、篠宮は踊るようにして、その横を鋭くすり抜けた。
(――勝った!)
視界が開け、無防備なリングが目の前に迫ったその瞬間、脳内で確信が弾けた。
勝利の全能感が全身の細胞を突き抜け、ゴールへ向かって身体がふわりと浮き上がる――。
あとは、このままボールをリングへ叩き込むだけ。
――あれ?
奇妙な違和感が、思考の針を止めた。
手にしたはずのボールが、消えている。
掌に残るはずの、あの硬質な革の感触がない。掴んでいたはずのオレンジ色の球体が、まるで最初から幻だったかのように、どこにも存在しないのだ。
「――しまっ……!」
背筋を凍らせたのは、その直後だった。死角から伸びてきた影の、あまりにも正確な軌道。
相手は弾き飛ばされたのではなかった。俺の突進をあえて肉体で受け止め、重心が流れたと見せかけることで、俺が勝利を確信したまさにその瞬間を、底深くで凝視していたのだ。
背後から執念深く伸びた長い腕が、鋭く空を切る。背後からの電撃めいた一撃によるバックチップによってボールが弾き出される。
俺の視覚が現実を認識したときには、すでに全てが終わっていた。指先をかすめて床へと転がっていくボールが、スローモーションのように視界を流れていく。
(誘い込まれた……!)
睨みつけるように白縫の顔を見やると、計画がうまくいって安堵しているような表情をしていた。
「ふう、そう簡単に主導権は渡しませんよ。試合はまだ始まったばかりだ」
「舐めるなよ天才。このままで終わらせるか」
ラインを割りコート外に弾かれたボールを見て、審判のホイッスルが鳴る。
今の、ファウルぎりぎりの迫真の突進。
それを体で受けて、死角からボールだけを綺麗に消し去った神速のバックチップ。
「……うわ、何だ今の……!」
「マジかよ、小学生の動きじゃねえって……」
体育館のギャラリーが一瞬で静まり返り、次の瞬間、ざわざわと驚きが広がった。
ベンチで見守るコーチも、思わず手に持ったバインダーを握りしめている。
ただの紅白戦。だけど、このコートの熱量は間違いなく全国レベルだ。
次はこちらのスローイン。
「一本、落ち着いていこう!」
仕切り直しの笛とともに、ボールがコートへ戻される。
白縫と葉山以外のメンバーは対抗できる手段はなく、実力差を見せつけるような鋭いカッティングで、控えのDFをあっさりと躱しノーマークでパスを呼び込む。
パスが通った瞬間、誰もDFにいない状況で外すレギュラーではない。あまりにもイージーな教科書通りのレイアップシュート。綺麗な放物線を描いたボールが、パサリとネットを揺らす。
「――しゃあ!先制!!」
ベンチメンバーの間に落胆の空気が漂う。レギュラー陣との、あまりにも残酷な実力差。
「……どんまいどんまい! 切り替えよう!」
天才がパンッと手を叩き、その高い声を響かせた。
あっさりとシュートを決められ、普通なら心が折れてもおかしくない場面。だが、あいつの瞳の奥にある炎は、消えるどころかさらに激しく燃え上がっている。
ゆっくりとボールを拾い上げ、エンドラインの後ろに立つ天才が、ニヤリと不敵に笑った。
「さて……反撃と行こうか」
その一言で、ベンチメンバーの目に生気が戻る。
そうだ、まだ最初の1ゴール。実力差なんて、最初から百も承知の上だ。
天才からのインバウンズパスが、コートを滑る。
今度は俺たちが仕掛ける番だ。体育館の熱気が、再び臨界点へと向かって跳ね上がっていく。