TS転生見習い浄化師は過保護に愛される――――なお、仲間は曇る模様――――   作:カヨウ

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第10話 王都を出る日

 

 翌朝、予定は減った。

 

 本当に減った。

 

 王都の書類文化を少しだけ疑っていたが、机の上に置かれた予定表には、簡潔にこう書かれていた。

 

『午前:休養。

 午後:今後の移動予定確認。

 追加予定なし。』

 

「短い」

 

 ボクは紙を持ったまま、思わず言った。

 

「書類なのに短い」

 

 セレスが横から覗き込む。

 

「分かりやすくていいわね」

 

「クラウスさん、やればできる」

 

「本人に言う?」

 

「言うと困りそうだから言う」

 

「ほどほどにね」

 

 窓の外は薄曇りだった。

 

 王都の空を覆う結界は、昨日より少し白っぽく見える。

 曇り空越しの結界は、まるで水の膜みたいだった。

 

 見ていると、少しだけ手の奥が反応する。

 

 強くはない。

 

 ただ、遠くで誰かが呼んでいるような気配。

 

 ボクはすぐに胸元の雨雫を押さえた。

 

「本日休業」

 

 小さく呟く。

 

 手の奥の熱は、それ以上強くならなかった。

 

「今のところ、効果あるわね」

 

 セレスが言う。

 

「蒼銀への勤務管理」

 

「勤務管理」

 

「働きすぎ防止」

 

「大事ね」

 

「大事」

 

 自分で言っておいて、少し変な気分だった。

 

 蒼銀は力だ。

 

 浄化師として必要なものだ。

 

 でも、勝手に動くなら、止まってもらう必要がある。

 

 力があることと、いつでも使うことは違う。

 

 たぶん。

 

     ◇

 

 午前は、本当に何もなかった。

 

 何もないというのは、意外と難しい。

 

 忙しい時は、目の前のことをこなせばいい。

 

 でも、何もない時間は、頭の中が勝手に動く。

 

 王都。

 結界。

 蒼銀。

 市場。

 木彫りの猫。

 見られた疲れ。

 助かった子供。

 

 それから、これからのこと。

 

「王都にずっといるわけじゃないんだよね」

 

 昼前、部屋で雨雫を転がしながら言った。

 

 ころん、と音がする。

 

 レオンは椅子で剣の手入れをしていた。

 

「その予定はない」

 

「登録が終わったら?」

 

「いくつか選択肢がある」

 

「選択肢」

 

 その言葉に少し身構えた。

 

 選択肢は便利だ。

 

 でも、多いと疲れる。

 

 レオンは布で剣を拭きながら続けた。

 

「一つは、しばらく王都に滞在して訓練を受ける」

 

「王都滞在」

 

「もう一つは、近郊の浄化地を回りながら実地経験を積む」

 

「旅続行?」

 

「そうだ」

 

「ノア浄化院に戻る選択肢は?」

 

「ある。ただ、王都側の登録手続きが完全に終わるまでは少し時間がかかる」

 

「つまり、書類がまだ追ってくる」

 

「そうなる」

 

「書類、追尾性能高い」

 

 レオンは少しだけ笑った。

 

 笑う頻度が増えてきた気がする。

 

 いい傾向なのか、ボクの変な言葉に慣れすぎているのかは分からない。

 

「ルシェルはどうしたい」

 

 レオンが聞いた。

 

 軽い声ではなかった。

 

 でも、重くしすぎてもいなかった。

 

 ボクは雨雫を指で止める。

 

「どうしたい、か」

 

 すぐには出ない。

 

 王都に残る。

 

 訓練を受ける。

 

 近郊を回る。

 

 浄化院に戻る。

 

 どれもあり得る。

 

 王都は大きくて疲れる。

 でも、学べるものは多い。

 結界塔も気になる。

 

 旅は疲れる。

 馬車は敵寄り。

 でも、市や宿場や街道の景色は嫌いではない。

 

 浄化院に戻るのは安心するかもしれない。

 でも、戻ったら全部元通りになるかというと、たぶんならない。

 

 前の記憶を思い出した後のボクは、もう前と同じではない。

 

「……王都にずっとは、しんどい」

 

 まず、それだけ言った。

 

 レオンは頷く。

 

「そうか」

 

「でも、何も分からないまま戻るのも、ちょっと落ち着かない」

 

「蒼銀のことか」

 

「うん。あと、自分のこと」

 

 言ってから、少し恥ずかしくなる。

 

 自分のこと。

 

 何だその大きすぎる主語は。

 

 でも、言ってしまったものは仕方ない。

 

「王都で全部調べる、は嫌?」

 

 セレスが本を閉じて聞いた。

 

「嫌というか、たぶん疲れる。王都は人が多いし、空も管理されてるし、書類も多い」

 

「書類は確かに多いわね」

 

「でも、王都の外で少しずつなら、やれそうな気がする」

 

「近郊の浄化地を回る方?」

 

「たぶん」

 

 たぶん。

 

 まただ。

 

 でも、今はそれ以上はっきり言えない。

 

 ガルドが部屋の隅で腕を組んだまま言った。

 

「旅なら、歩く」

 

「当たり前だけど重い」

 

「馬車も使う」

 

「馬車との再戦が決定してしまった」

 

「休みながら行けばいい」

 

「ガルド、意外と休みを認める」

 

「動けなくなれば進めない」

 

「理由が現実的」

 

「現実だからな」

 

 ガルドはいつも通りだった。

 

 それが少し落ち着く。

 

「近郊の浄化地って、どんなところ?」

 

 ボクが聞くと、レオンは机の上に地図を広げた。

 

 いつの間に用意していたのか。

 

 王都周辺の地図。

 

 街道。

 村。

 森。

 小川。

 古い祠。

 結界石。

 

 その中に、いくつか印がつけられている。

 

「小規模な瘴気溜まりがいくつかある。正式浄化師が対応予定だったが、急ぎではないものだ」

 

「急ぎじゃない」

 

「そうだ。見て、無理なら戻る。必要なら同行者つきで短く浄化する」

 

「手のひら営業?」

 

「その範囲で」

 

「レオン、営業概念を受け入れてきた」

 

「説明しやすい」

 

「便利だよね」

 

 セレスが地図を指差す。

 

「この辺りなら、王都から半日。宿場も近いわ。最初なら無理が少ないと思う」

 

 指先の先には、小さな村の名前があった。

 

 丘の村。

 

 王都の東、なだらかな丘陵地にある小さな村。

 近くに古い境界石があり、最近少し濁りが出ているらしい。

 

「境界石」

 

 ボクは地図の文字を見る。

 

「結界塔の小さい版?」

 

「かなり古いものだけれど、役割は似ているわ。村や畑の周りを守る石ね」

 

「見るだけでも勉強になりそう」

 

「ええ」

 

 見るだけ。

 

 その言葉は、もう少し信用できるようになってきた。

 

 昨日の結界塔は、本当に見るだけで終わった。

 

 予定通りに終わることがある。

 

 それを少し覚えた。

 

「そこ、行ってみたいかも」

 

 言ってから、心臓が少しだけ跳ねた。

 

 自分で言った。

 

 行ってみたい。

 

 必要だからではなく。

 呼ばれたからでもなく。

 役目だからでもなく。

 

 見てみたい。

 

 蒼銀がどう反応するのか知りたい。

 

 自分がどう感じるのか知りたい。

 

 それくらいなら、言ってもいい気がした。

 

 レオンはすぐに決めなかった。

 

「今日の午後、クラウスと確認する。出発するなら明後日以降だ」

 

「明日じゃないんだ」

 

「準備がいる」

 

「真面目」

 

「無計画に出る方が危ない」

 

「正論」

 

 ガルドが頷く。

 

「食料もいる」

 

「ガルドはそこ」

 

「重要だ」

 

「重要です」

 

 セレスが微笑む。

 

「じゃあ、午後に相談ね。行くかどうかは、それから決めましょう」

 

「仮予定」

 

 ボクが言うと、三人とも自然に頷いた。

 

 仮予定。

 

 ボクの言葉が、少しずつパーティの共通語になっている。

 

 それが少しおかしかった。

 

     ◇

 

 午後、クラウスが来た。

 

 今日も扉の前で名乗り、入っていいか確認してから入る。

 

 もう少し雑に入ってきてもよさそうなものだが、毎回きちんとしている。

 

 書類の人は、手順の人でもあるらしい。

 

「近郊浄化地への同行希望が出たと聞いた」

 

「情報が早い」

 

「レオン殿から事前連絡があった」

 

「レオンも早い」

 

「護衛なので」

 

 レオンが淡々と答える。

 

 クラウスは地図を机に広げた。

 

「候補は三つある」

 

「三つ」

 

「一つ目、東の丘の村。古い境界石の濁り。危険度は低い。水場から遠い。人家からも少し離れている」

 

「水場から遠い」

 

 昨日の水鏡のことを思い出す。

 

 水面は、まだ少し見たくない。

 

 だから、その条件はありがたかった。

 

「二つ目、南街道の小祠。通行人が多い。見学には向かない」

 

「市場と似た感じになりそう」

 

「そう判断した」

 

「判断済みだった」

 

「三つ目、西の古井戸。濁りは小さいが、水場だ。今回は推奨しない」

 

「書類の人、かなり分かってる」

 

「記録を読んだ」

 

 クラウスは淡々とそう言った。

 

 記録。

 

 水鏡の件。

 市場で人目が多かった件。

 結界塔で手が反応した件。

 

 それらがちゃんと次の予定に反映されている。

 

 王都の書類が、初めて少し頼もしく見えた。

 

「じゃあ、東の丘の村?」

 

 ボクが言うと、クラウスは頷いた。

 

「行く場合は、半日移動。到着日は観察のみ。翌日に浄化するか判断」

 

「観察のみ」

 

「そうだ」

 

「到着日にやりたくなったら?」

 

「やらない」

 

 即答だった。

 

「強い」

 

「到着日は疲労がある。場所を見るだけで十分だ」

 

「ボクができそうって言っても?」

 

「予定にない」

 

「書類の壁」

 

「必要なら壁になる」

 

 クラウスが真顔で言った。

 

 書類の壁。

 

 少し笑いそうになったが、たぶん本人は本気だ。

 

「それ、ちょっといいね」

 

「そうか」

 

「王都の書類、初めて防御力を感じた」

 

「本来、手続きには防御力があるべきだ」

 

「名言っぽい」

 

「ただの事実だ」

 

 クラウスは続ける。

 

「同行者はレオン殿、セレス殿、ガルド殿。現地の村長には、見学であり、見世物ではないと伝える」

 

「見世物ではない」

 

「必要事項だ」

 

「それも書く?」

 

「書く」

 

「強い」

 

 セレスが地図を見ながら言う。

 

「宿泊は村の宿ですか?」

 

「村長宅の離れを用意できるとのことだ。水場から離れている。出入り口は一つ。窓は丘側」

 

「配慮が細かい」

 

「昨日の市場後に手配条件を足した」

 

「書類の人、仕事が早い」

 

「褒めるなら普通に褒めろ」

 

「すごい」

 

 クラウスが少し黙った。

 

「……評価として受け取る」

 

「困ってる」

 

「少しな」

 

 やっぱり困るらしい。

 

     ◇

 

 話は思ったより早く進んだ。

 

 出発は二日後。

 

 明日は準備と休養。

 

 王都を完全に離れるわけではない。

 近郊の短い実地見学。

 

 期間は三日予定。

 

 一日目、移動と観察。

 二日目、体調次第で短時間浄化。

 三日目、帰還。

 

 浄化できなければ、そのまま戻る。

 

 見ただけで終わっても記録上は問題なし。

 

「見ただけで終わってもいいんだ」

 

 ボクが確認すると、クラウスは頷いた。

 

「今回の目的は、実地環境での反応確認と、本人の負荷把握だ。浄化完了ではない」

 

「実地環境での反応確認」

 

「言い方が硬いか」

 

「かなり」

 

「なら、見に行って、無理なら戻る」

 

「分かりやすい」

 

「書類には硬い方で書く」

 

「二重言語」

 

「王都なので」

 

 ボクは地図を見る。

 

 東の丘の村。

 

 知らない場所。

 

 でも、王都より小さそうだ。

 

 空も、たぶん結界の膜が薄いか、ない。

 人も少ない。

 市場ほど騒がしくもない。

 

 古い境界石。

 

 それが少し気になる。

 

 蒼銀がどう反応するのか。

 

 そして、ボクはその時、止まれるのか。

 

「行ってみる」

 

 ボクは言った。

 

 部屋が少し静かになる。

 

 言ったあとで、胸が少し高鳴った。

 

 怖い。

 

 でも、嫌ではない。

 

「仮じゃないのか」

 

 レオンが聞いた。

 

「仮だけど、今のところ行く」

 

「分かった」

 

「明日になって無理そうなら?」

 

 セレスが確認する。

 

「延期」

 

「ええ」

 

「当日、着いて無理そうなら?」

 

「観察だけ」

 

 ボクが答えると、ガルドが頷いた。

 

「戻る道もある」

 

「ガルド、そこ大事にするね」

 

「大事だ」

 

「うん。大事」

 

 クラウスはそのやり取りを記録していた。

 

「本人、東の丘の村への短期同行を希望。ただし体調不良時は延期、到着後の判断により観察のみも可」

 

「そのまま書くと真面目な感じになる」

 

「真面目な話だ」

 

「そうだった」

 

 少し笑う。

 

 でも、胸の奥は静かだった。

 

 自分で言った。

 

 行ってみる。

 

 それは小さいけれど、はっきりした言葉だった。

 

     ◇

 

 クラウスが帰ったあと、部屋の空気が少し変わった。

 

 旅の前の空気だ。

 

 荷物を確認する音。

 セレスが薬草袋を開く音。

 レオンが地図を折りたたむ音。

 ガルドが携帯食の袋を点検する音。

 

 王都に来てから、ずっと建物の中にいた気がする。

 

 もちろん市場や結界塔には行った。

 でも、王都の内側だった。

 

 今度は外へ出る。

 

 近郊とはいえ、旅だ。

 

「馬車、また乗るのか」

 

 ボクが言うと、レオンが答えた。

 

「半日だ」

 

「半日も馬車」

 

「歩くより早い」

 

「便利な敵」

 

「まだ敵なのか」

 

「最近、少し和解しつつある」

 

「それはよかった」

 

 ガルドが携帯食を見ながら言う。

 

「酔うなら食いすぎるな」

 

「でも食べないと酔う」

 

「少し食え」

 

「実用的助言」

 

「旅では大事だ」

 

「ガルド、旅の生活知識が強い」

 

「戦士だからな」

 

「盾職じゃなくて?」

 

「戦士だ」

 

「はい」

 

「はいは一回」

 

「今の一回」

 

 セレスが笑った。

 

 このやり取りも、だいぶ定番になってきた。

 

     ◇

 

 夕方、少しだけ館の庭に出た。

 

 噴水からは離れた、木陰のベンチ。

 

 王都の結界は、夕焼けを受けて淡い紫に見える。

 

 綺麗だ。

 

 でも、やはり空が一枚遠い。

 

 レオンが隣ではなく、少し離れた位置に立っている。

 

 セレスは花壇を見ている。

 ガルドは庭の入口にいる。

 

 自然に、でも過剰ではない距離。

 

 この数日で、少しずつ決まってきた距離だった。

 

「王都、出るんだね」

 

 ボクが言うと、レオンが答えた。

 

「ああ」

 

「ちょっと安心してる」

 

「王都が嫌か」

 

「嫌というより、大きすぎる」

 

「そうか」

 

「でも、クラウスさんとかリーネさんとか、食堂の人とか、見習いの子とか、悪くない人もいた」

 

「ああ」

 

「王都全部が嫌、ではない」

 

「それでいいんじゃないか」

 

「雑にまとめた」

 

「悪いか」

 

「悪くない」

 

 雨雫を胸元から出して、手のひらに乗せる。

 

 夕方の光を受けて、灰青色の石が少しだけ柔らかく見えた。

 

「雨雫、旅に出るよ」

 

 言ってから、レオンの視線に気づいた。

 

「聞いてた?」

 

「ああ」

 

「石に話しかけるの、定着してきた」

 

「いいんじゃないか」

 

「いいの?」

 

「君の石だろう」

 

 君の石。

 

 その言い方に、指先が少し止まる。

 

 ボクの石。

 

 レオンが買ってくれた。

 ボクが受け取った。

 ボクが名前をつけた。

 

 だから、ボクの石。

 

 当たり前なのに、少し嬉しい。

 

「レオン」

 

「何だ」

 

「これ、買ってくれてありがと」

 

 初めて、ちゃんと言った気がする。

 

 レオンは少しだけ驚いた顔をした。

 

 それから、いつもの真面目な顔に戻る。

 

「気に入ったならよかった」

 

「仮採用から本採用になりつつある」

 

「石がか?」

 

「石も。レオンも」

 

「俺もか」

 

「まだ審査中」

 

「厳しいな」

 

「長期審査なので」

 

 レオンは少し笑った。

 

 夕焼けの中で見ると、その笑い方は少し穏やかだった。

 

     ◇

 

 夜。

 

 出発前々日なのに、少し落ち着かなかった。

 

 荷物はまだ完全にはまとめていない。

 明日は準備の日だ。

 

 でも、気持ちはもう少しだけ外へ向いている。

 

 枕元に雨雫を置く。

 

 ころん。

 

「おやすみ、雨雫。二日後、出張」

 

 セレスが灯りを落としながら笑った。

 

「石も出張するのね」

 

「同行必須なので」

 

「大事な装備?」

 

「装備ではない」

 

「じゃあ?」

 

 少し考える。

 

 雨雫は、装備ではない。

 道具でもない。

 お守りと言えば近いけれど、それだけでもない。

 

「同行者」

 

 言ってから、自分で少し笑った。

 

「石だけど」

 

「いいんじゃない?」

 

「いいのかな」

 

「ルシェルがそう思うなら」

 

 セレスの言い方は、いつも少しずるい。

 

 ボクがそう思うなら。

 

 それを肯定するのは、まだ慣れない。

 

 でも、少しずつなら受け取れる。

 

 隣室からガルドの声がした。

 

「早く寝ろ」

 

「壁越しはい指導?」

 

「寝ろ」

 

「はい」

 

「一回でいい」

 

「一回だった」

 

 レオンが扉の近くで低く笑った気がした。

 

 部屋の空気が、少し柔らかい。

 

 王都に来た初日とは違う。

 

 まだ怖いものはある。

 

 蒼銀を見たい人たちもいる。

 書類もまだ追ってくる。

 結界塔を見ると手が反応する。

 

 でも、行き先が決まった。

 

 東の丘の村。

 

 古い境界石。

 

 見るだけかもしれない。

 

 少しだけ浄化するかもしれない。

 

 何もできずに戻るかもしれない。

 

 それでも、ボクが「行ってみる」と言った。

 

 今日はそれで十分だった。

 

 目を閉じる。

 

 王都の夜の音が遠くなる。

 

 枕元で、雨雫が小さく光を返していた。

 

 旅は、また始まる。

 

 王都の外へ。

 

 少しだけ、自分の方へ。

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