TS転生見習い浄化師は過保護に愛される――――なお、仲間は曇る模様―――― 作:カヨウ
出発の朝、王都の空は少し白かった。
薄い雲。
淡く光る外郭結界。
遠くで鳴る鐘。
いつも通りの王都の朝だ。
でも、今日は少しだけ違って見えた。
出るからだと思う。
「王都、今日は見送り顔してる」
窓辺でそう言うと、セレスが荷物の紐を結びながら首を傾げた。
「見送り顔?」
「出発する日にだけ、ちょっと名残惜しそうに見える感じ」
「王都が?」
「王都が」
「昨日は大きすぎるって言っていたのに」
「大きすぎる王都にも情緒があるかもしれない」
「あるかしら」
「たぶん」
机の上の雨雫を手に取る。
灰青色の石は、朝の光を少しだけ吸ったように見えた。
「おはよう、雨雫。出張日です」
当然、返事はない。
返事がなくていい。
働かない石なので。
紐を首にかけ、外套の内側へしまう。
胸元に小さな重みが戻った。
よし。
「体調は?」
セレスが聞く。
「悪くない。馬車前なので、まだ人類側が優勢」
「朝食は食べられそう?」
「軽めに」
「リーネさんの香草は?」
「持った」
小さな布包みを鞄に入れる。
爽やかな香りがほんの少し漏れた。
馬車に効くかどうかは分からない。
でも、対抗手段があるというだけで、少し心強い。
馬車対策は大事だ。
◇
玄関前には、すでに馬車が用意されていた。
大きすぎない、四人と荷物が乗れる程度の馬車。
昨日まで乗っていたものより少しだけ座席が柔らかそうに見える。
気のせいかもしれない。
でも、気のせいでも希望は大事だ。
「今日の馬車、少し優しそう」
ボクが言うと、レオンが馬具を確認しながら答えた。
「揺れの少ないものを選んでもらった」
「本当に?」
「ああ」
「レオン、馬車方面でも評価上げてきた」
「馬車方面とは何だ」
「重要部門」
「そうか」
ガルドは荷物を積んでいる。
携帯食の袋がやはり大きい。
「ガルド、その量は三日分?」
「予備込みだ」
「予備の存在感が強い」
「食料は余るくらいでいい」
「ガルド理論、今日も安定」
ガルドは頷いた。
セレスが薬草袋と水筒を確認している。
全員、出発の準備ができていた。
そこへ、クラウスが現れた。
手には紙。
やはり紙。
「出発前の最終確認だ」
「紙が来た」
「予定表だ」
「昨日ももらった」
「これは門で見せる用だ」
「用途別書類」
「王都なので」
クラウスはレオンへ通達書を渡した。
「東門で手続きが済むようにしてある。丘の村には先触れを出した。村長宅の離れを用意済み。到着後の予定は休養」
「承知した」
レオンが受け取る。
クラウスは次にボクを見た。
「ルシェル・ノア氏」
「はい」
「今日の目的は移動だ」
「浄化ではなく」
「移動だ」
「境界石でもなく」
「移動だ」
「山羊は?」
クラウスは一瞬止まった。
「……移動後、体調がよければ見ることは妨げない」
「書類に山羊が入った」
「入れていない」
「でも口頭確認された」
「そうだな」
クラウスは少しだけ諦めた顔をした。
王都の書類の人に山羊の確認をさせている。
少し申し訳ない。
でも、少し楽しい。
「疲れた場合は、村へ着く前に戻っても構わない」
クラウスが続ける。
「そこまで?」
「そうだ。行くこと自体が目的ではない」
「でも、今日の目的は移動って言った」
「移動できないなら、戻るのも移動だ」
「強い解釈」
「必要な解釈だ」
クラウスは真面目に言った。
その真面目さが、今は少しありがたい。
「分かった。戻るのも移動」
「そう記録してもよい」
「それは書類が強引すぎる」
「では書かない」
セレスが笑った。
レオンも少し口元を緩めている。
ガルドは荷物を積み終え、御者台の横に立った。
出発の時間だ。
◇
王都東門へ向かう道は、朝の人で賑わっていた。
商人の馬車。
通勤らしき役人。
荷を運ぶ職人。
まだ眠そうな見習い兵。
王都は朝から忙しい。
馬車の窓からそれを見ていると、自分だけ別の流れに乗っているような気がした。
昨日まで、ボクは王都の中にいた。
今日は、王都の外へ出る。
門が近づく。
高い城壁。
その上に淡く光る結界。
門の前に立つ兵士。
レオンが通達書を出すと、手続きは驚くほど早かった。
「確認しました。道中お気をつけて」
兵士が礼をする。
ボクは少し身構えた。
浄化師様、と呼ばれるかと思ったからだ。
でも、兵士は何も余計なことを言わなかった。
たぶんクラウスの通達が効いている。
書類の壁、強い。
「ルシェル」
レオンが馬車の外から声をかけた。
「何?」
「出るぞ」
「うん」
馬車が動き出す。
城門の影を抜ける。
一瞬、空気が変わった。
王都の内側の、石と人と結界の匂い。
そこから、外の土と草の匂いへ。
頭上の大きな膜が少し遠のく。
完全になくなったわけではない。
王都周辺にも結界の影響はある。
でも、空が少し広くなった。
「……空、広い」
ボクが呟くと、セレスが窓の外を見た。
「そうね」
「王都、空にも天井あったんだね」
「そう感じていたの?」
「うん。悪い天井ではないけど、天井は天井」
セレスは少しだけ考えて、頷いた。
「出られてよかった?」
「今のところ」
「今のところ」
「馬車がまだ本気を出してない」
「今日は道がいいから、きっと大丈夫よ」
「セレス、馬車を信じすぎてる」
「そうかしら」
馬車は城門を離れ、東へ向かう街道へ入った。
道の両側には畑が広がっている。
王都近郊の畑は整っていた。
低い石垣。
畝の並び。
遠くに見える農家。
風に揺れる麦。
王都の外なのに、まだどこか王都の秩序が残っている。
でも、人の声は減った。
それだけで、少し楽だった。
◇
馬車は、思ったより優しかった。
少なくとも最初の一時間は。
「今日の馬車、かなり善良」
ボクが座席にもたれながら言うと、レオンが御者台から振り返った。
「香草は効いているか」
「香草も効いてるかも。あと座席が柔らかい」
「選んだと言っただろう」
「レオン、馬車部門の評価が高い」
「それはよかった」
「本採用に近づいた」
「まだ近づいただけか」
「長期審査なので」
セレスが笑う。
ガルドは御者台の隣で周囲を見ている。
旅に出ると、三人の雰囲気が少し変わる。
王都の館では、レオンは護衛というより調整役だった。
セレスは体調確認と説明役。
ガルドは扉と人混み担当。
でも街道に出ると、全員が旅人の顔になる。
レオンは道の先を見る。
ガルドは森や草むらを確認する。
セレスは天気やボクの顔色を見る。
こういう姿の方が、三人には似合っている気がした。
「三人とも、王都より外の方が自然」
ボクが言うと、セレスが聞き返した。
「そう見える?」
「うん。王都だと室内用装備って感じだった」
「装備?」
「街道だと本来フォーム」
セレスは少し笑った。
「ルシェルも、少し表情が楽ね」
「そう?」
「ええ」
「顔色プライバシー」
「今日は表情よ」
「範囲が広がった」
「観察対象が増えました」
「魔術師、こわい」
セレスは悪びれずに笑った。
◇
昼前、石橋の近くで休憩を取った。
小川が流れていたが、橋の下の水面は見えすぎない場所に馬車を止めた。
たぶん、配慮だ。
言われなくても分かる。
ボクはそれに気づいて、少しだけ胸元の雨雫を押さえた。
「ここなら平気そう?」
セレスが聞く。
「うん。水音はするけど、水面を覗かなければ大丈夫」
「よかった」
ガルドが携帯食を取り出す。
「食え」
「出た、旅の基本」
「食え」
「二回言った」
「大事だ」
硬めのパンと干し肉。
それから、ガルドが選んだ干し果物。
地味においしい。
「ガルド、干し果物の選定も上手い」
「そうか」
「菓子部門だけでなく携帯食部門も本採用」
「戦士だ」
「兼任が増えてる」
レオンが水筒を渡してくる。
「飲めるか」
「飲める」
水筒の中は覗かない。
普通に飲む分には大丈夫だ。
冷たい水が喉を通る。
少し落ち着く。
休憩中、レオンは周囲を軽く見て回った。
セレスは薬草の匂い袋を確認し、ガルドは馬の様子を見ている。
ボクは石橋の手前に座り、遠くの丘を見た。
丘の村は、あの向こうらしい。
なだらかな緑の斜面。
石垣。
白い小さな家の屋根。
王都の塔とはまるで違う。
大きくない。
でも、ちゃんとそこにある。
「山羊いるかな」
小さく言うと、レオンが戻ってきながら答えた。
「いれば見る」
「覚えてた」
「覚えている」
「重要事項?」
「君が楽しみにしている」
「……うん」
否定しなかった。
楽しみにしている。
山羊を。
境界石ではなく。
いや、境界石も気になる。
でも、山羊も気になる。
それでいい気がした。
◇
午後になると、道は少しずつ丘陵へ入った。
馬車の揺れが増える。
馬車がついに本性を見せ始めた。
「来たね」
ボクが座席の縁を握ると、セレスがすぐに香草の包みを出した。
「使う?」
「使う」
包みを鼻の近くに持っていく。
爽やかな匂い。
少しだけ、胃のあたりが落ち着く。
「リーネさんに感謝」
「戻ったら伝えましょう」
「馬車対策部門で表彰したい」
「きっと困るわ」
「王都の人、困らせがち」
「ほどほどにね」
馬車は坂を上がる。
窓の外に、丘の村が少しずつ近づいてきた。
畑。
低い石垣。
風車。
白い壁の家。
そして、遠くの丘の上に、小さな石柱のようなものが見えた。
古い境界石だろうか。
その瞬間、手のひらの奥が少しだけ反応した。
強くはない。
王都の結界塔ほどではない。
でも、確かに何かがある。
古くて、低くて、静かなもの。
「見えた?」
セレスが聞いた。
「たぶん。丘の上の石」
「あれが境界石かもしれないわ」
「遠いのに、少し分かる」
「嫌な感じ?」
「嫌ではない。古い感じ」
「古い」
「うん。寝起きの石みたい」
「石が寝起き」
「雨雫はたぶん昼寝派」
「違いがあるのね」
「ある」
自分でも何を言っているのか分からない。
でも、感覚としてはそうだった。
王都の結界塔は、大きくて起きていて、働いている感じだった。
丘の上の石は、古くて、少し眠たそうで、それでも役目を忘れていない感じ。
胸元の雨雫を触る。
働かない石。
でも、そこにある石。
石にもいろいろある。
◇
村の入口では、村長らしき老人と、数人の村人が待っていた。
ただし、近づきすぎてはいない。
馬車が止まると、レオンが先に降りた。
続いてガルド。
セレスが降りてから、ボクもゆっくり外へ出る。
足元は土。
王都の石畳とは違う柔らかさ。
風が吹いた。
草の匂い。
畑の匂い。
遠くで動物の声。
王都より、ずっと軽い空気だった。
「ようこそ、丘の村へ」
村長が深く頭を下げた。
「王都から話は聞いております。今日はお疲れでしょうから、まずは離れへご案内します」
すごい。
本当に話が通っている。
誰もいきなり境界石へ連れて行こうとしない。
誰も蒼銀を見せてくれと言わない。
クラウスの書類、強い。
「ルシェル・ノアです。見習いです」
ボクが言うと、村長はもう一度頷いた。
「はい。見習い浄化師のルシェルさん」
様ではなかった。
少し驚く。
たぶん、これも事前に伝わっている。
レオンが村長へ通達書を渡す。
「今日は移動のみ。境界石の確認は明日以降だ」
「承知しております」
村長は真面目に頷いた。
「境界石は丘の上にありますが、村からも見えます。今日は近づかずとも構いません」
助かる。
とても助かる。
「ありがとうございます」
ボクが言うと、村長は少しだけ表情を緩めた。
「それと、山羊もおります」
ボクは顔を上げた。
「山羊」
村長が笑った。
「王都の方から、体調がよければ見たいと」
「そこまで伝わってる」
クラウス。
書いたのか。
書類には入れないと言っていたのに。
いや、口頭かもしれない。
どちらにしても、山羊が正式に配慮されている。
王都、たまにすごい。
レオンが少し横を向いて笑いをこらえている。
セレスは普通に笑っている。
ガルドは真面目な顔で言った。
「乳酪はあるか」
村長は一瞬きょとんとしたあと、笑った。
「ございます。夕食にお出ししましょう」
「助かる」
「ガルド、山羊より乳酪」
「食料は大事だ」
「村長さんの前でもぶれない」
村長は楽しそうに笑った。
村の人たちの緊張も、少しだけほどけた気がした。
◇
用意された離れは、村長宅の裏手にあった。
小さな木造の建物。
窓からは丘が見える。
水場からは離れている。
入口は一つ。
部屋は二つ。
王都の館ほど立派ではない。
でも、静かだった。
「ここ、いいね」
ボクが言うと、セレスが頷いた。
「落ち着くわね」
「王都より小さい」
「それがいい?」
「うん。小さいの、助かる」
荷物を置く。
雨雫を首から外すか迷ったが、まだつけておくことにした。
窓から、丘の上の境界石が見える。
遠い。
小さい。
でも、そこにある。
手のひらの奥が少しだけ温かい。
「近づきたくなる?」
セレスが聞いた。
「ちょっと。でも、今日はいい」
「今日は移動の日」
「うん。クラウスさんの紙に書いてある」
紙を取り出して見る。
『三、到着後は休む。
四、境界石は見なくてもよい。』
見るな、ではない。
見なくてもよい。
その言い方が、少し効いている。
「今日は休む」
自分で言う。
レオンが頷いた。
「ああ」
ガルドも荷袋を置いた。
「夕食まで寝ろ」
「早い」
「疲れている」
「顔色?」
「動きだ」
「観察範囲が増えてる」
「見える」
「はい」
「一回でいい」
「今のは一回」
少し笑う。
笑ったら、身体の力が抜けた。
思っていたより疲れていたらしい。
◇
夕方。
少し眠ったあと、セレスに起こされた。
「山羊、見られそう?」
最初に聞かれたのがそれだった。
境界石ではなく、山羊。
かなり重要事項になっている。
「見る」
即答した。
離れの外へ出ると、村長の孫らしい少年が待っていた。
十歳くらいだろうか。
手には細い枝を持っている。
「山羊、こっちです」
「案内人」
「はい?」
「よろしく」
少年は少し緊張していたが、ボクがそう言うと小さく笑った。
村の裏手に、小さな柵があった。
その中に、山羊が三頭。
白いのが一頭。
灰色が一頭。
茶色の斑が一頭。
思っていたより目が四角い。
「山羊だ」
ボクは感動した。
「山羊ね」
セレスが言う。
「思ったより山羊」
「そうね」
白い山羊がこちらを見た。
もぐもぐしている。
何を食べているのか分からないが、ずっともぐもぐしている。
「働かない石とは別方向で、マイペース」
レオンが後ろで言う。
「山羊も本採用?」
「山羊部門は即日採用」
「早いな」
「山羊なので」
「理由になっているのか」
「たぶん」
少年が草を差し出す。
「食べますか?」
「食べるの?」
「山羊が」
「ボクがじゃなくてよかった」
少年が笑った。
草を受け取り、柵越しに白い山羊へ差し出す。
山羊は迷いなく食べた。
もしゃ、と。
「容赦ない」
指まで食べられないように慌てて引っ込める。
ガルドが真面目に言う。
「指を出すな」
「山羊にも指導された」
「噛まれる」
「現実的」
山羊は何事もなかったようにもぐもぐしている。
この子は、ボクが蒼銀だとか、見習い浄化師だとか、王都から来たとか、たぶん何も知らない。
草をくれる人間。
それくらいの認識だろう。
それが、とてもよかった。
「山羊、いいね」
ボクが言うと、セレスが頷いた。
「よかったわね」
「うん。今日の目的達成」
丘の上を見る。
夕焼けの中、境界石が小さく立っている。
近づいてはいない。
浄化もしていない。
ただ、遠くから見た。
それで十分だった。
今日は移動の日。
そして山羊の日。
それでいい。
◇
夕食には、本当に乳酪が出た。
焼いたパンに乗せて食べると、少し酸味があって、濃い。
「うま」
思わず言う。
ガルドが深く頷いた。
「いい」
「ガルドが満足している」
「保存できるか」
村長が笑った。
「少しならお分けできます」
「買う」
「即決」
「食料は大事だ」
「本日何度目かの名言」
村長の家の食事は素朴だった。
野菜のスープ。
焼きパン。
乳酪。
干し肉を少し戻した煮込み。
王都の食事より豪華ではない。
でも、身体に入ってくる感じがした。
食事中、村人たちは境界石の話を急かさなかった。
ただ、最近少し畑の端が重いこと。
丘に近づくと家畜が嫌がること。
夜に石の周りが暗く見えること。
それだけを、ぽつぽつ話した。
ボクは聞いた。
答えすぎないようにした。
できるとも、任せてとも言わない。
「明日、見てみます」
それだけ。
村長は深く頷いた。
「お願いいたします。無理のない範囲で」
無理のない範囲。
王都からちゃんと伝わっている。
その言葉が、今日は少しだけ信じられた。
◇
夜、離れの部屋。
窓から丘が見える。
月明かりの中、境界石は黒い小さな影になっていた。
遠い。
でも、手の奥はかすかに温かい。
「明日だね」
ボクは雨雫を枕元に置きながら言った。
ころん。
小さな音。
セレスが灯りを落とす。
「ええ。明日、見に行きましょう」
「見るだけかも」
「見るだけでも」
「山羊は見た」
「今日の成果ね」
「山羊、即日採用」
「本当に気に入ったのね」
「うん。山羊はいい。蒼銀を見ない」
言ってから、少しだけ部屋が静かになった。
でも、重くはならなかった。
レオンが扉の近くで言う。
「山羊は草を見る」
「草の人として認識された」
「悪くないだろう」
「悪くない」
ガルドが隣室から言う。
「指は出すな」
「はい」
「一回でいい」
「一回だった」
いつものやり取り。
丘の村の夜は、王都よりずっと静かだった。
虫の声。
風の音。
遠くで山羊が鳴く声。
境界石は丘の上にある。
明日、そこへ行く。
怖くないわけではない。
でも、今日はちゃんと移動して、休んで、山羊を見て、乳酪を食べた。
予定通り。
それで十分。
「おやすみ、雨雫。明日は石の先輩に会うよ」
セレスが小さく笑った。
「石の先輩?」
「境界石、たぶん大先輩」
「雨雫は?」
「新人だけど、働かない優秀枠」
「そう」
目を閉じる。
王都の結界の天井はここにはない。
空は広い。
丘の上には、古い石。
枕元には、小さな石。
どちらもまだ、何も言わない。
それが少し、よかった。