TS転生見習い浄化師は過保護に愛される――――なお、仲間は曇る模様――――   作:カヨウ

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第37話 白い回廊の朝

 

 王都館の朝は、少しだけ落ち着きを取り戻していた。

 

 保留回答欄。

 呼称基準。

 本人同意なき直接聴取不可。

 記録照会は王都館と浄化師団を通すこと。

 

 貴族院記録局が、形式上、味方になった。

 

 形式上。

 

 ルシェルはその言葉を、茶杯の中で転がしていた。

 

「形式上って、強いのか弱いのか分からない」

 

 セレスが向かいで微笑む。

 

「どちらでもあるわ」

 

「便利な回答」

 

「本当にそうなの」

 

 ガルドはパンを割った。

 

「壁にはなる」

 

「昨日も聞いた」

 

「壁は何度あってもいい」

 

「ガルド、壁への信頼が厚い」

 

 レオンは窓際で静かに外を見ていた。

 

「紙の壁なら、増やせる」

 

「レオンまで壁派」

 

 クラウスは書類を閉じる。

 

「形式は、運用されて初めて意味を持つ」

 

 ルシェルは顔を上げた。

 

「運用」

 

「そうだ」

 

「嫌な予感がする」

 

「今日から、その運用が始まる」

 

 食堂の空気が、少しだけ変わった。

 

 ルシェルは半目になる。

 

「ほら。嫌な予感、当たった」

 

     ◇

 

 行き先は、貴族院ではなかった。

 

 王都中央区の北側。

 

 白い石で造られた、古い行政棟。

 

 名前は、白環記録庫。

 

 王都の結界、浄化師、境界石、地方支援、予算、通達。

 

 そういったものの写しが集められている場所らしい。

 

 ルシェルは説明を聞いて、少しだけ顔をしかめた。

 

「書類の巣?」

 

 クラウスが訂正する。

 

「記録庫だ」

 

「紙の森?」

 

「記録庫だ」

 

「貴族院の親戚?」

 

「管轄は貴族院記録局と王都結界局の共同だ」

 

「親戚より面倒だった」

 

 セレスが苦笑する。

 

「でも、貴族院の本棟よりは人が少ないわ」

 

「そこは助かる」

 

 レオンが言う。

 

「俺も同行する」

 

「でしょうね」

 

 ガルドが言う。

 

「俺も行く」

 

「でしょうね本家」

 

 リーネも静かに頷いた。

 

「私は記録照合に必要です」

 

「でしょうね浄化師団」

 

 クラウスが最後に言った。

 

「私も行く」

 

「でしょうね書類の人」

 

 ルシェルは周囲を見回した。

 

「……結局、いつもの過保護遠征では?」

 

 ガルドが首を傾げる。

 

「いつもより少ない」

 

「人数じゃなくて圧の話」

 

 レオンが真面目に言う。

 

「圧は下げる」

 

「声がもう重い」

 

「難しい」

 

     ◇

 

 白環記録庫は、王都館とも貴族院とも違っていた。

 

 貴族院ほど威圧的ではない。

 

 王都館ほど柔らかくもない。

 

 白い石の壁。

 高い窓。

 冷たい廊下。

 整然と並ぶ扉。

 奥から聞こえる紙をめくる音。

 

 ルシェルは入口で足を止めた。

 

「紙の匂いがする」

 

 クラウスが頷く。

 

「記録庫だからな」

 

「クラウスさんの実家?」

 

「違う」

 

「でも親戚感はある」

 

「ない」

 

 受付には、貴族院記録局の印をつけた若い書記が立っていた。

 

 ミーナではない。

 

 以前、ミーナの下書きを手伝った若い書記だった。

 

 彼はルシェルを見ると、少し緊張した顔で頭を下げた。

 

「見習い浄化師ルシェル・ノア氏。ご来訪ありがとうございます」

 

 ルシェルは、ぴたりと止まった。

 

 蒼銀ではない。

 

 対象でもない。

 

 ルシェル・ノア氏。

 

 名前が先だった。

 

「……呼称基準、運用されてる」

 

 クラウスが静かに言う。

 

「そうだ」

 

 若い書記は少し焦ったように続ける。

 

「本日は記録照合です。直接聴取ではありません。質問は、事前提出済みの三項目のみ。回答は、口頭、筆記、保留、沈黙、いずれも可能です」

 

 ルシェルは目を瞬いた。

 

「全部言った」

 

 セレスが小声で言う。

 

「頑張って覚えたのね」

 

 若い書記の耳が少し赤くなった。

 

「ミーナ書記官から、最初が肝心だと」

 

「ミーナさん、教官みたい」

 

 ガルドが低く言う。

 

「悪くない」

 

 レオンも頷いた。

 

「線を引いている」

 

 ルシェルは少しだけ息を吐く。

 

「……怖さ、少し減った」

 

 若い書記は、ほっとした顔をした。

 

 ルシェルはすぐ半目になる。

 

「今、安心した」

 

「しました」

 

「正直」

 

     ◇

 

 案内されたのは、小さな照合室だった。

 

 広すぎない。

 

 椅子は五つ。

 

 窓は高い位置に一つ。

 

 扉は開けたままにできる。

 

 机の上には、資料束。

 

 そして、中央に一枚の紙。

 

 上部に印字されていた。

 

『回答欄:回答/保留/沈黙/後日回答』

 

 ルシェルはその紙をじっと見た。

 

「保留、出世してる」

 

 クラウスが言う。

 

「正式様式の試験版だ」

 

「試験版」

 

 セレスが椅子の位置を見て、軽く頷く。

 

「座れそう?」

 

「座る。椅子が敵っぽくない」

 

「椅子評価があるのね」

 

「今日は中立椅子」

 

 レオンは扉側に立つ。

 

 ガルドは入口の外。

 

 リーネは机の向かい。

 

 クラウスは横。

 

 若い書記は一番遠い席に座り、筆を持った。

 

「では、照合を開始します」

 

 ルシェルは紙を見た。

 

「開始される」

 

「中止もできます」

 

「言い方が丁寧」

 

「そう教わりました」

 

「ミーナ教官」

 

     ◇

 

 一つ目の照合は、境界石の記録だった。

 

 丘の村。

 

 寝不足の大先輩。

 

 何もしない成功。

 

 夜の淡い光。

 

 ミルの毛。

 

 雨雫に似た音。

 

 若い書記は、確認用の紙を差し出した。

 

「昨日までの情報をまとめると、発光は瘴気悪化ではなく、安定化後の残響反応と仮定できます」

 

 ルシェルは手を上げる。

 

「寝返り説は?」

 

 若い書記は一瞬止まった。

 

 クラウスが小さく息を吐く。

 

「正式には使わない」

 

 若い書記は真面目に答えた。

 

「補助比喩として、欄外に残すことは可能です」

 

 ルシェルは目を見開いた。

 

「欄外に残るの?」

 

「ミーナ書記官が、本人比喩は判断過程を理解する補助になる場合がある、と」

 

「ミーナさん、王都書類を柔らかくしてる」

 

 セレスが微笑む。

 

「いい変化ね」

 

 レオンは静かに言う。

 

「君の言葉が残る」

 

 ルシェルは顔を赤くした。

 

「レオン、そこで重くしない」

 

「事実だ」

 

「事実でも重い」

 

     ◇

 

 二つ目の照合は、貴族院側の予算資料だった。

 

 若い書記が一枚の表を置く。

 

「地方境界石の維持予算です。今回の記録により、過剰浄化ではなく観察と待機による安定確認が有効な場合、浄化師への負担を減らす予算配分案が出ています」

 

 ルシェルは固まった。

 

「予算?」

 

「はい」

 

「ボクの何もしない成功が、予算に?」

 

「可能性として」

 

 ルシェルはセレスを見る。

 

 セレスも少し驚いている。

 

 リーネは表を確認しながら言った。

 

「これは大きいですね。浄化師を呼んだら必ず力を使わせる、という慣例が弱まるかもしれません」

 

 ルシェルは口を開けた。

 

 閉じた。

 

 もう一度開いた。

 

「……つまり、他の浄化師も、出さないで済む日が増える?」

 

「そうなります」

 

 若い書記が頷く。

 

「まだ案ですが」

 

 ルシェルは表を見る。

 

 細かい数字はよく分からない。

 

 けれど、一つだけ分かる。

 

 自分が怖がりながら書いたこと。

 

 保留したこと。

 

 出さないで済んだこと。

 

 それが、誰か別の人を少し楽にするかもしれない。

 

「……情報量が多い」

 

 ガルドが入口から言った。

 

「食うか」

 

「処理落ち対策の本家」

 

 若い書記が真面目に聞く。

 

「休憩を入れますか」

 

 ルシェルは若い書記を見た。

 

「今のは、ガルド式休憩提案です」

 

「有効ですか」

 

「だいたい有効」

 

「では、五分休憩を」

 

「貴族院がガルド式を採用した」

 

     ◇

 

 休憩中。

 

 若い書記は、少し緊張した顔で小さな包みを出した。

 

「これは、記録局からではなく、私個人からです」

 

 ルシェルは警戒した。

 

「個人」

 

「はい。もし不要なら受け取らなくて構いません」

 

「逃げ道あり」

 

「必要だと教わりました」

 

 包みの中には、小さな栞が入っていた。

 

 白い紙を重ねた、簡素なもの。

 

 端に、小さく文字が書かれている。

 

『後日回答』

 

 ルシェルは栞を見た。

 

「……保留の親戚」

 

 若い書記は少し照れた。

 

「保留だと重い時、後日回答でもいいかと思いまして」

 

 セレスが目を細める。

 

「いいですね」

 

 クラウスも頷く。

 

「実務上、有効だ」

 

「クラウスさんが合格を出した」

 

 ルシェルは栞を指先で持った。

 

「後日回答」

 

 今すぐ答えなくていい。

 

 でも、永久に閉じるわけでもない。

 

 戻ってきてもいい。

 

 戻ってこなくても、責められないかもしれない。

 

「……紙、増える」

 

 若い書記が少し不安そうにする。

 

「不要でしたか」

 

「違う」

 

 ルシェルは首を横に振った。

 

「増えるのが、ちょっと怖くて、ちょっと助かる」

 

 若い書記は、胸に手を当てるようにして頭を下げた。

 

「それなら、よかったです」

 

 ルシェルは半目になった。

 

「今、すごく安心した」

 

「しました」

 

「貴族院記録局、正直者が増えてる」

 

     ◇

 

 三つ目の照合に入る直前。

 

 事件が起きた。

 

 廊下の向こうから、硬い足音が近づいてきた。

 

 若い書記の顔が変わる。

 

 クラウスの視線が扉へ向く。

 

 レオンが、音もなく半歩前へ出る。

 

 ガルドは入口を塞いだ。

 

 ルシェルは紙を握った。

 

「誰」

 

 若い書記が小さく答える。

 

「エルヴィン補佐官です」

 

 保留紙を燃やした人。

 

 形式上、貴族院側が味方になった事件の原因。

 

 ルシェルの背中が冷える。

 

 扉の前で足音が止まった。

 

「照合中と聞いた」

 

 低い声。

 

 ガルドが答える。

 

「照合中だ」

 

「通してもらおう」

 

「断る」

 

 即答だった。

 

 ルシェルは思わず顔を上げた。

 

「ガルド、早い」

 

「必要だ」

 

 廊下の向こうで、エルヴィンの声が少し硬くなる。

 

「私は貴族院記録局上級補佐官だ」

 

 レオンが静かに言う。

 

「本照合は、事前条件に基づく立ち会い者のみ」

 

「君は護衛か」

 

「そうだ」

 

「ならば記録の場に口を出す権限はない」

 

 ルシェルの指が、紙を握る。

 

 怖い。

 

 でも、若い書記が立ち上がった。

 

 声は震えていた。

 

 けれど、言った。

 

「エルヴィン補佐官。本照合は、局長承認済みの試験運用です。立ち会い者の追加は、本人同意が必要です」

 

 沈黙。

 

 エルヴィンの声が冷たくなる。

 

「本人同意?」

 

「はい」

 

 若い書記は続けた。

 

「見習い浄化師ルシェル・ノア氏の同意が必要です」

 

 その呼称を、彼は噛まなかった。

 

 蒼銀ではなく。

 

 ルシェル・ノア氏。

 

 ルシェルは、その声を聞いていた。

 

 エルヴィンが言う。

 

「では、本人に確認せよ」

 

 部屋の中が静かになる。

 

 全員の視線が、ルシェルに集まりすぎないように外れる。

 

 でも、待っている。

 

 ルシェルは、紙を見た。

 

 回答欄。

 

 回答。

 保留。

 沈黙。

 後日回答。

 

 使える。

 

 今ここで。

 

 ルシェルは、ゆっくり筆を取った。

 

 手が少し震える。

 

 でも、書いた。

 

『立ち会い追加について:保留』

 

 少し考えて、下に続ける。

 

『理由:怖いので、今は決めません』

 

 その紙を、若い書記へ差し出す。

 

 若い書記は受け取り、深く頷いた。

 

 そして廊下へ向けて言った。

 

「本人回答は、保留です。理由は、怖いので今は決めない、とのことです」

 

 廊下が静まった。

 

 エルヴィンは何も言わなかった。

 

 しばらくして、低く返る。

 

「……試験運用、ということか」

 

 クラウスが答えた。

 

「そうです」

 

「正式通知に基づく、と」

 

「そうです」

 

 長い沈黙。

 

 やがて、足音が一歩引いた。

 

「本件は、記録局に持ち帰る」

 

 足音が遠ざかる。

 

 扉は開かなかった。

 

 部屋の中で、誰かが息を吐いた。

 

 若い書記だった。

 

 ルシェルも、遅れて息を吐いた。

 

「……紙、使えた」

 

 セレスが、泣きそうな顔で笑った。

 

「使えたわ」

 

 レオンが静かに言う。

 

「通った」

 

 ガルドが入口から言った。

 

「よし」

 

 ルシェルは紙を見た。

 

 怖いので、今は決めません。

 

 そんな弱そうな文が、扉を開けさせなかった。

 

 自分の震える字が、壁になった。

 

「……紙、強い」

 

 クラウスが答える。

 

「今日は、かなり強い」

 

     ◇

 

 照合はそこで中断された。

 

 三つ目は後日回答。

 

 栞がさっそく使われた。

 

 ルシェルは小さな栞を見て言った。

 

「初仕事が早い」

 

 若い書記は深々と頭を下げた。

 

「本日は、ありがとうございました」

 

「こっちが言うやつ?」

 

「いえ。保留回答が実地で有効だと示されました」

 

「実地試験になった」

 

「はい」

 

 若い書記は、少しだけ笑った。

 

「とても重要な記録です」

 

 ルシェルは赤くなった。

 

「貴族院の真面目褒め、増えてる」

 

 セレスが言う。

 

「受け取りは?」

 

「保留」

 

「上手に使えたわね」

 

「セレスの褒めは保留を貫通してくる」

 

     ◇

 

 その日の夕方。

 

 王都館へ戻る馬車の中で、ルシェルは後日回答の栞を手にしていた。

 

 窓の外は夕色。

 

 王都の白い壁が、少し橙に染まっている。

 

 レオンは向かいに座り、静かに外を見ている。

 

 セレスは隣。

 

 ガルドは御者席近く。

 

 クラウスは資料を膝に置いている。

 

「……新しい場所、疲れた」

 

 セレスが頷く。

 

「よく頑張ったわ」

 

「褒めが直球」

 

「今日は直球でもいいと思って」

 

「だめ」

 

「じゃあ少し曲げるわ。よく紙を使えました」

 

「曲げ方が書類寄り」

 

 レオンが静かに言った。

 

「怖いと言えたのがよかった」

 

 ルシェルは栞で顔を隠した。

 

「レオン、今日の重さは白環記録庫級」

 

「級があるのか」

 

「ある」

 

 ガルドが前から言う。

 

「戻ったら食え」

 

「ガルドは通常運転」

 

「食って寝ろ」

 

「展開をまとめるな」

 

     ◇

 

 夜。

 

 ルシェルの部屋には、セレスだけがいた。

 

 レオンは扉の外ではなく、廊下の少し離れた位置。

 

 ガルドは食堂。

 

 クラウスは記録庫への返答整理。

 

 今日くらいは、その距離で足りた。

 

 ルシェルは小箱の前に、後日回答の栞を置いた。

 

「今日の報告」

 

 保留猫は無反応。

 

「白環記録庫に行きました」

 

 無反応。

 

「名前が先に呼ばれました」

 

 無反応。

 

「出さない成功が、予算の話になりました」

 

 セレスが静かに聞いている。

 

「エルヴィン補佐官が来ました」

 

 ルシェルの指が、少し止まる。

 

「怖かった」

 

 セレスが頷く。

 

「うん」

 

「でも、保留って書いたら、扉が開かなかった」

 

「うん」

 

「怖いので、今は決めません、で、通った」

 

「通ったわ」

 

 ルシェルは栞を見た。

 

「後日回答、初仕事」

 

 セレスが微笑む。

 

「いい仕事だったわね」

 

「紙なのに」

 

「紙なのに」

 

 ルシェルは布団に入った。

 

「セレス」

 

「なあに」

 

「貴族院、怖い」

 

「うん」

 

「でも、紙を使えば、少し戦える」

 

「うん」

 

「戦うっていうより……扉を閉められる」

 

「それも大事ね」

 

 ルシェルは保留猫を抱いた。

 

 小箱の中に、また一つ新しいものが増えた。

 

 保留。

 後日回答。

 名前が先。

 出さない成功。

 怖いので今は決めない。

 

 それは剣ではない。

 

 蒼銀でもない。

 

 でも、今日、確かに扉を止めた。

 

「……明日、何か来そう」

 

 セレスが灯りを落とす。

 

「来たら、その時考えましょう」

 

「後日回答?」

 

「そう」

 

 ルシェルは少し笑った。

 

「便利」

 

「便利ね」

 

 眠りに落ちる直前、ルシェルは小さく呟いた。

 

「白い回廊、敵だけじゃなかった」

 

 セレスは返事をしなかった。

 

 ただ、静かにその言葉を受け取った。

 

     ◇

 

 同じ頃。

 

 白環記録庫の一室で、若い書記は今日の照合記録を書いていた。

 

『立ち会い追加要求に対し、本人は保留を選択。

 理由:怖いので、今は決めません。

 結果:追加立ち会いは行われず。照合室の条件は維持された。』

 

 彼は筆を止め、少しだけ笑った。

 

「……通った」

 

 その隣で、ミーナが記録を確認する。

 

「はい。通りました」

 

「エルヴィン補佐官は納得しないでしょうね」

 

「でしょうね」

 

「それでも?」

 

 ミーナは紙を整えた。

 

「それでも、記録は残ります」

 

 若い書記は頷いた。

 

 今日、保留は初めて扉を止めた。

 

 その記録は、白い回廊の奥に収められる。

 

 次に同じ扉が開かれそうになった時、誰かがこの紙を見つけるかもしれない。

 

 そして言うかもしれない。

 

 怖いので、今は決めません。

 

 その一文が、王都のどこかで、また誰かの壁になる。

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