TS転生見習い浄化師は過保護に愛される――――なお、仲間は曇る模様―――― 作:カヨウ
翌朝、王都は晴れていた。
窓の外には、青い空。
その空を薄く覆う、外郭結界の淡い光。
晴れているのに、空の奥にもう一枚、透明な膜があるように見える。
綺麗だ。
けれど、ずっと見ていると少し目が疲れる。
「王都、空まで管理してる」
窓辺でそう言うと、セレスが髪を結びながら笑った。
「管理というより、守っているのよ」
「守るための管理」
「そうとも言えるわね」
「言い方で印象が変わるやつ」
「今日はよく寝られた?」
「そこそこ」
「夢は?」
「馬車と水鏡と書類が会議してた」
「……疲れているわね」
「議題はたぶん、ボクの三半規管について」
「休んだ方がいい?」
「いや、結界塔を見るだけなら行く」
「本当に見るだけよ」
「昨日から全員それ言う」
「大事だから」
机の上の雨雫を手に取る。
灰青色の小さな石。
紐を首にかけ、外套の内側へしまう。
胸元に軽い重みが戻る。
それを確認してから、ボクは立ち上がった。
「よし。見学業務開始」
「見学は業務なの?」
「王都の施設見学なので、半分業務」
「半分は?」
「観光」
セレスは少しだけ肩を震わせた。
◇
結界塔へ向かう道は、昨日通った大通りよりさらに広かった。
王都の中心へ向かう道らしい。
道の両側には、石造りの高い建物。
役所。
商館。
祈祷所。
浄化師団の関連施設。
看板に刻まれた文字を読むたびに、ルシェルの記憶が意味を教えてくれる。
同時に、前の記憶の自分が「官庁街っぽい」と感想を述べる。
脳内の感想欄が二重になっている。
便利ではあるけれど、やっぱり疲れる。
「歩けるか」
レオンが隣で聞いた。
「歩ける。王都の道、馬車より優しい」
「道は裏切らないか」
「今のところね。石畳の段差は信用してない」
「気をつけろ」
「はいはい」
「はいは一回」
「レオンまで」
「昨日、ガルドが何度も言っていたからな」
「感染拡大」
前を歩くガルドが振り返らずに言った。
「いいことだ」
「ガルド本人が言うならそうなのかも」
セレスが横で笑う。
笑い声は小さい。
でも、昨日より少し自然だった。
まだ王都は慣れない。
通りを歩く人の視線も感じる。
銀髪。
見習い浄化師の外套。
護衛つき。
目立たない方が難しい。
けれど、今日はレオンたちがいるから、視線が全部こちらに刺さる感じではなかった。
ガルドが前方の人の流れを自然に割る。
レオンが横に立つ。
セレスが通行人とぶつからないよう、さりげなく誘導する。
護衛というより、移動用の人間インフラ。
「三人とも、街中の歩き方うまいね」
ボクが言うと、レオンが少し首を傾げた。
「そうか?」
「ボクが人に流されない」
「それはよかった」
「初期パーティ、歩行補助機能あり」
「何の話だ」
「褒めてる」
「半分か?」
「今日は七割」
「増えたな」
レオンが少しだけ笑った。
こういう返しを覚え始めている。
成長が早い。
◇
結界塔は、遠くからでも見えていた。
王都の中心近くにそびえる白い塔。
塔と言っても、単に高いだけではない。
外壁には細かな術式が刻まれ、ところどころに青白い結晶が埋め込まれている。
空へ向かって伸びるその塔の先端から、外郭結界へ細い光の筋が伸びていた。
いくつもの筋が空でつながり、王都全体を包む膜になる。
「……でか」
二度目の「でか」である。
語彙力は王都の建造物に負けていた。
セレスが言う。
「外から見るだけでも迫力があるでしょう」
「迫力というか、建築物が本気」
「王都結界の中心の一つだから」
「一つ?」
「結界塔は複数あるわ。これは東塔。中央塔はもっと大きい」
「これで東塔」
王都、規模感がよくない。
ボクは塔を見上げた。
手のひらの奥が、少しだけ熱くなる。
昨日、館の窓から結界を見た時と同じ反応。
蒼銀が、結界に触れたがっているような感覚。
嫌ではない。
けれど、吸い寄せられるようで落ち着かない。
胸元の雨雫を押さえる。
ころん、と小さく揺れた。
「反応している?」
セレスが聞いた。
「少し。手がそわそわする」
「痛みは?」
「ない」
「気分は?」
「塔がでかい」
「それは気分?」
「だいぶ気分」
レオンが塔の方を見る。
「近づくのはここまでにするか」
「まだ外門にも入ってない」
「見るだけだろう」
「そうだけど」
塔の外には、広い石畳の広場があった。
結界局の職員や術師らしき人が行き来している。
大きな荷を運ぶ者。
術式板を抱える者。
警備兵。
外門まではまだ距離がある。
でも、近づけば近づくほど手の奥の熱が強くなりそうな気がした。
「……ここで見るだけでも、見学としては成立する?」
ボクが聞くと、レオンは頷いた。
「成立する」
「ガルド審査員は?」
「成立する」
「セレス先生は?」
「十分よ」
「じゃあ、ここで」
そう言って、ボクは広場の端にある低い石塀のそばへ寄った。
塔を見る。
巨大な術式。
王都を守る光。
そこに、ほんの少しだけ自分の蒼銀が引かれる。
この力は、あの大きなものと相性がいいらしい。
だから王都はボクを呼んだ。
それは分かる。
分かるけど、分かったからといって、すぐに納得できるわけではない。
「王都は、これをずっと維持してるの?」
「そうだ」
レオンが答える。
「結界師、術師、浄化師、封印士。いろんな人間が関わっている」
「大規模プロジェクト」
「また分からない言葉だ」
「いっぱいの人でやる大きい仕事」
「そうだな」
「じゃあ、蒼銀が欲しいわけだ」
自分で言って、少し声が硬くなった。
セレスがこちらを見る。
レオンはすぐに答えなかった。
ガルドも黙っている。
ボクは塔を見たまま続けた。
「大きい結界を支えるのに、相性がいい見習い浄化師が来ました。便利そう。そう思う人はいる」
「いるだろうな」
レオンが答えた。
やはり正直だ。
「でも、今日ここへ来たのは、使うためじゃない」
「見るだけ」
「ああ」
「今後は?」
「今後は、君がどうしたいかも含めて決める」
「王都が?」
「君も」
君も。
その言い方は少し引っかかった。
王都だけではない。
レオンたちだけでもない。
ボクも。
当たり前のようで、あまり当たり前に感じない。
「ボク、まだ自分の蒼銀のことよく分かってない」
「だから、今は見るだけでいい」
「便利回答」
「便利でいい」
レオンがまっすぐ言ったので、少しだけ笑った。
◇
しばらく塔を眺めていると、結界局の職員らしき若い男性がこちらへ歩いてきた。
手には書類束。
表情は真面目で、少し緊張している。
「レオン殿」
彼はレオンに礼をした。
「こちらがルシェル・ノア殿でしょうか」
名前を呼ばれた。
昨日ほどではないが、身体が少し固まる。
水鏡の声ではない。
でも、知らない人の声だ。
レオンが半歩前に出る。
「そうだ。今日は見学のみだと伝えてある」
「承知しています。クラウス書記官より、外門内への案内は不要との指示も受けています」
「なら、用件は?」
レオンの声は硬い。
若い職員は少し慌てた。
「いえ、その、通達書の控えをお渡しに」
彼は書類を一枚差し出した。
ただし、直接ボクへではなく、レオンへ。
距離を保っている。
昨日の報告がちゃんと回っているらしい。
レオンが受け取り、軽く確認する。
「今日の予定変更はなし。見学のみ。接触確認なし。結界同調確認なし」
「はい」
「問題ない」
レオンがボクへ見せる。
書類には、確かにそう書かれていた。
王都は書類で怖いこともあるが、書類で守ることもある。
面倒だが、少しだけ便利。
「ありがとうございます」
ボクが言うと、若い職員は少し驚いた顔をした。
「いえ。こちらこそ、お疲れのところ」
「疲れてるの、もう伝わってる?」
「昨日の記録に、到着直後で疲労ありと」
「顔色だけじゃなく書類にも出るんだ」
「申し訳ありません」
「いや、いいです。ちょっと王都を実感しただけ」
若い職員は困ったように笑った。
「クラウス書記官が、無理に案内しないよう強く言っていました」
「クラウスさん、書類の人だけど意外と気が利く」
「本人に言うと、たぶん困ります」
「じゃあ今度言う」
「お手柔らかに」
少し笑いが起きた。
知らない職員相手でも、これくらいなら話せる。
ただし、距離があるからだ。
近づかれすぎると、たぶん無理。
自分の中の境界が、まだどこにあるのか分からない。
でも、あるのは分かる。
◇
職員が戻ったあと、ボクはもう一度塔を見た。
手のひらの熱は、少し落ち着いている。
さっきの職員が、予定を増やさなかったからかもしれない。
書類に「今日はここまで」と書かれていたからかもしれない。
「今日は本当に見るだけだった」
ボクが言うと、セレスが頷いた。
「ええ」
「王都、今日は二連勝」
「何と戦っているの?」
「予定変更」
「ああ」
セレスは納得したように笑った。
「予定通りに終わると安心する?」
「うん。予定が勝手に増えるのは嫌」
「覚えておくわ」
「覚えること増えたね」
「少しずつ」
「セレスの少しずつ、けっこう強い」
「そう?」
「うん」
ガルドが言った。
「戻るか」
「盾職が撤収を提案」
「疲れている顔だ」
「顔色プライバシーがまた侵害された」
「見える」
「見えるものは仕方ない理論」
「そうだ」
反論しづらい。
実際、疲れている。
塔を見るだけで、思ったより消耗した。
蒼銀が反応する場所にいるだけで、身体の奥が少し動く。
それを抑えるのに、気力を使う。
「戻る」
素直に言うと、レオンが頷いた。
「馬車を呼ぶ」
「歩けるよ」
「帰りは乗れ」
「馬車と再戦?」
「疲れて倒れるよりいい」
「正論」
「今日は道も整っている」
「馬車側のハンデが減る」
「何の勝負だ」
「人類対馬車」
レオンは首を横に振った。
「馬車は敵ではない」
「レオンはまだ馬車の恐ろしさを知らない」
「知っている」
「ならなぜ味方する」
「便利だからだ」
「便利な敵」
セレスが笑い、ガルドが微かに肩を揺らした。
たぶん笑った。
分かりにくいけれど、たぶん。
◇
帰りの馬車は、意外と悪くなかった。
道が整っているせいか、揺れが少ない。
ボクは座席に沈みながら、窓の外を流れる王都の街並みを見ていた。
石造りの建物。
通りを行き交う人。
パン屋の煙突。
布屋の鮮やかな軒布。
巡回する兵士。
大きい街だ。
大きすぎて、ボク一人くらい簡単に飲み込まれそうになる。
でも、今日は飲み込まれなかった。
塔の外で見て、予定通り戻っている。
それだけで十分だ。
胸元の雨雫を触る。
「雨雫、今日は仕事なし」
小さく言うと、向かいのレオンが反応した。
「石に仕事をさせるつもりなのか」
「本人は無職希望だと思う」
「本人?」
「石にも事情がある」
「そうなのか」
「たぶん」
セレスが窓の外を見ながら言った。
「でも、今日も持っていてよかった?」
「うん」
「どうして?」
「塔を見てる時、手が勝手に営業しそうだった」
「営業」
「蒼銀が結界に反応して、働く気を出しかけた」
「それを止めた?」
「雨雫を触ったら、ちょっと落ち着いた」
セレスは少し考える顔をした。
「そう」
「研究対象みたいな顔しないで」
「ごめんなさい」
「いや、研究者顔というより、心配顔だった」
「なら、合っているわ」
「合ってるんだ」
レオンが言う。
「それは、石があると落ち着くということか」
「たぶん」
「なら、なくすな」
「なくしたくない」
言ってから、自分で少し驚いた。
すんなり出た。
なくしたくない。
昨日買ってもらったばかりの石なのに。
レオンは何も言わなかった。
セレスも。
ガルドは御者台の方で外を見ている。
誰も大げさにしない。
それが、少しありがたい。
◇
館へ戻ると、クラウスからの伝言が来ていた。
紙片一枚。
『本日の結界塔見学は終了扱いとする。追加予定なし。午後は休養推奨』
「休養推奨」
ボクが読み上げると、レオンが頷いた。
「休め」
「書類で休めと言われた」
「従え」
「行政命令?」
「推奨だ」
「推奨なら断れる?」
「断る理由がない」
「正論で詰められた」
セレスが紙片を見て微笑む。
「クラウスさんらしいわね」
「書類で優しい人」
「そうね」
「本人に言うと困る?」
「たぶん」
「じゃあ言う」
「ほどほどにね」
部屋へ戻り、外套を脱ぐ。
雨雫を机の上に置こうとして、少し迷った。
今日は首にかけたままでもいいかもしれない。
「外さないの?」
セレスが聞く。
「少しだけこのまま」
「首が疲れたら外してね」
「うん」
寝台に座る。
窓の外では、王都の結界が薄く光っている。
塔から離れても、空にはまだ膜がある。
この街のどこにいても、結界の内側だ。
守られている。
そして、管理されている。
その両方を感じる。
「セレス」
「なに?」
「結界って、守るものだけど、囲むものでもあるよね」
セレスは少しだけ動きを止めた。
そして、ゆっくり答える。
「そうね」
「王都の人は、囲まれてる感じはしないのかな」
「慣れている人は、しないかもしれない」
「慣れてないと?」
「少し息苦しいかも」
「うん」
ボクは窓の外を見る。
大きな結界。
大きな街。
大きな期待。
その中に、自分の蒼銀が反応している。
使えば役に立つのかもしれない。
でも、まだ自分の手のひらすら完全には分かっていない。
「ボクの蒼銀も、守るものなのかな」
小さく言った。
セレスはすぐには答えなかった。
その沈黙は、嫌ではなかった。
考えてくれている沈黙だった。
「今は、そう決めなくていいと思うわ」
「便利回答」
「ええ。でも、本当にそう」
「そっか」
「今日見た結界も、最初から王都全体を覆っていたわけではないのよ。小さな結界石から始まって、何度も組み直されて、今の形になった」
「蒼銀も?」
「あなたの光も、これから分かっていけばいい」
これから。
その言葉は少し軽い。
先があると言われるのは、時々怖い。
でも、今日くらいなら、少しだけ受け取れる。
「じゃあ、今日は見るだけで終了」
「ええ」
「見学業務、完了」
「お疲れさま」
「疲れた」
「言えたわね」
「練習の成果」
セレスが笑った。
◇
午後は、本当に休みだった。
書類も来なかった。
呼び出しもなかった。
光を見せろとも言われなかった。
王都に来て初めて、予定が何もない時間だった。
ボクは部屋の窓辺で雨雫を転がしながら、ぼんやり外を見ていた。
屋根の上に昨日の猫がいた。
同じ猫かどうかは分からない。
でも、勝手に同じ猫ということにした。
「猫、今日も自由」
レオンが扉の近くの椅子で剣の手入れをしながら言う。
「猫を見ているのか」
「うん」
「王都は猫が多い」
「いい街かもしれない」
「基準が猫なのか」
「猫基準は重要」
「そうか」
レオンはもう深く聞かなかった。
慣れてきた。
しばらくして、ガルドが焼き菓子を持ってきた。
「食え」
「命令形」
「食うか?」
「食べる」
昨日とほぼ同じやり取り。
しかし、今日の焼き菓子は王都のものだった。
蜂蜜ではなく、果実の煮詰めたものが入っている。
「王都菓子、強い」
「甘いか」
「甘い。ガルド、菓子選びの才能ある」
「そうか」
「褒めてる」
「そうか」
セレスも一つ受け取って笑った。
王都の結界。
蒼銀。
書類。
役人。
大きなものばかり考えていた頭に、甘いものが入る。
少しずつ、現実が普通の大きさに戻ってくる。
◇
夕方、クラウス本人が短く顔を出した。
もちろん、扉の前で名乗ってからだ。
「入っても?」
レオンがこちらを見る。
ボクは少し考えて、頷いた。
「いいよ」
クラウスは部屋に入っても、机の近くまでは来なかった。
扉に近い位置で止まる。
「本日の見学記録を届けに来た」
「本人が?」
「ついでだ」
「ついでで来る書類の人」
「そうだ」
クラウスはレオンへ紙を渡した。
「予定通り終了。追加確認なし。疲労ありのため午後休養。以上だ」
「そのままですね」
「そのままを書いた」
「書類なのに珍しく分かりやすい」
「分かりにくい書類は面倒を増やす」
「正論」
クラウスの視線が、胸元の雨雫へ一瞬だけ向いた。
だが、何も聞かなかった。
見たけれど、触れない。
その態度が少し印象に残った。
「明日は?」
ボクが聞くと、クラウスは答えた。
「午前に登録書類の確認。午後は空ける。蒼銀の発現確認は予定していない」
「名前呼ばれる?」
「書類上、一度確認する。呼び方は事前に伝える」
「事前に?」
「水鏡の件を考慮した」
「書類の人、ちゃんと覚えてる」
「必要事項だ」
淡々としている。
でも、少し助かった。
「クラウスさん」
「何だ」
「書類で優しい人って言ったら困る?」
レオンが咳き込んだ。
セレスが口元を押さえる。
ガルドは焼き菓子を食べている。
クラウスは数秒黙った。
「……評価として受け取る」
「困ってる」
「少しな」
「じゃあ成功」
「何の成功だ」
「言ってみたかっただけ」
クラウスは小さく息を吐いた。
「ルシェル・ノア氏」
「はい」
「王都には、君の蒼銀を見たい者が多い」
急に真面目な声になった。
「はい」
「だが、全てに応じる必要はない」
「書類に書く?」
「書く」
「じゃあ、少し安心」
「それはよかった」
クラウスは軽く頭を下げ、部屋を出ていった。
扉が閉まる。
レオンがこちらを見る。
「本人に言ったな」
「言った」
「困っていたぞ」
「少しって言ってた」
「そうだな」
セレスが笑う。
「でも、悪くなかったと思うわ」
「ならよし」
◇
夜。
枕元に雨雫を置いて、ボクは布団に入った。
外では王都の音がする。
鐘。
靴音。
遠くの馬車。
結界の気配。
昨日より少しだけ、うるさく感じない。
少しだけ。
「明日は書類」
呟く。
「書類も馬車も強敵だね」
セレスが隣で灯りを落としながら言う。
「王都の二大脅威」
「水鏡は?」
「水鏡は殿堂入り」
「殿堂?」
「別枠」
「そう」
灯りが小さくなる。
雨雫がぼんやり光を反射する。
蒼銀ではない。
ただの石の反射。
でも、今日はそのただの光で十分だった。
結界塔は大きかった。
王都も大きい。
蒼銀に向けられる期待も、たぶん大きい。
でも、今日は見るだけで終わった。
予定通りに終わった。
それだけで、少し眠れる。
「おやすみ、雨雫」
小さく言う。
今度は、恥ずかしさは少なかった。
セレスも何も言わない。
王都の夜の中で、ボクは目を閉じる。
明日は書類。
強敵だ。
でも、今日は勝負しなくていい。
眠るだけでいい。
そう思うと、少しだけ呼吸が楽になった。