クビになった庭師の俺、スキル『剪定』が覚醒して行き倒れ少女を整えたら実は最強聖剣士だった!? 訳あり美少女たちを手入れして最強英雄パーティを作ります 作:らっぽん
太陽が真上に昇り、昼時を迎えた頃、俺たちは街道沿いにある小さな宿場で馬車を止め、昼食を取ることにした。
賑やかな酒場の片隅にある円卓を五人で囲み、地元の素朴な料理が一通り運ばれてきて全員の食器が落ち着いたところで、俺はコップを置いて切り出した。
「みんな、ちょっと食べてる途中で悪いんだけど、一個、提案というか、試してみたいことがあるんだ」
「なんですかー、アルト様?」
シアが口いっぱいに肉料理を頬張りながら、リスのように頬を膨らませて顔を向けてくる。
「今の俺の『作庭』のスキルが進化してさ、新しくできるようになったことがある。……一言で言うと、誰かの中に眠っている『もう使わなくなった、要らないスキル』を俺の鋏で綺麗に剪定して、それを今まさに『その能力を必要としている人間』に接ぎ木することができるんだ。……どうだ、みんな、一度やってみないか?」
「要らないスキル、を……ですか?」
フィリアが不思議そうに首を傾げる。
「ああ。戦いを重ねていくうちに、みんなそれぞれ、今の自分の戦い方やスタイルとは噛み合わなくなって、実質死にスキルみたいになってる能力が眠ってるはずなんだ。それを、こっちの能力が欲しい!って思ってる別の人間に渡した方が、絶対にそのスキルにとっても幸せだし、全体の戦力も跳ね上がると思う」
「……ちょっと待ちなさいな。それはつまり、わたくしの中に『要らない無駄な能力』が眠っていると、そう仰りたいのですか?」
エルダが少しプライドを刺激されたように目を細める。
「いや、無駄っていうか、今のエルダの戦い方が高次元になりすぎて、使わなくても良くなった能力ってことだよ。でもそれ、他の誰かには、喉から手が出るほど必要なやつなんだ」
俺がそう説明すると、シアが「私、やります!」と真っ先に食器を置いて即答した。アルトの言うことなら何だって信じる、という無条件の信頼がそこにはあった。
「私も、アルト様がそう仰るなら賛成です」
とフィリアが続き、
「フン、肉体の効率が上がるなら断る理由はないな。やってくれ」
とテラが短く頷く。
エルダは最後に、フゥと小さく息を漏らし、少し考えてから
「……そこまで言うのでしたら、すべてお任せしますわ」
と、観念したように微笑んだ。
「よし、じゃあ早速、一人ずつやっていくからな」
俺はポーチから、いつもの白銀の剪定鋏と、不思議な輝きを湛えた如雨露を取り出した。
◇
まずは、真っ先に志願したシアから始めた。彼女の魂の輪郭にハサミを当て、チョキン、と静かな音を立てて刃を噛み合わせる。
「……あれ? なんか、身体の芯のあたりが、すっごく軽くなった気がします……!」
「それはもう、今のお前には必要のない古い枝葉だからな。手放して大丈夫だ」
切り取った光の枝を、そのまま隣に座るフィリアへと差し込み、ジョウロの水を一滴、優しく滴らせて接ぎ木する。
「あ……っ。なんか、頭の奥に、すっごく温かい感覚が……来ました……!」
「とりあえず、その感覚を身体に馴染ませて持っておけ。使い方は、実戦になれば身体が自然と理解してくれるはずだから」
フィリアが驚きに目を見張りながら、静かに目を閉じてその新しい力を体内で確かめる。
テラの剪定と接ぎ木には、彼女が龍の因子を宿していることもあって、少しだけ慎重な時間がかかった。ハサミを慎重に滑らせ、新しい因果を接ぐ。
「……む? なんだ、これは……」
「それは、お前の中に新しく根付いた『地龍の意識』と、これまで以上に深く、正確に対話ができるようになるためのバイパスだ」
テラがその効果を察知したのか、驚愕に目を細めた。
「……底が知れないな、アルト。面白い」
最後に、少し緊張した面持ちのエルダの前へ立つ。
「エルダ、ちょっとハサミを入れるぞ」
「ええ……。痛くしないでくださいね?」
チョキン、と上品な音が響く。
「アルト様、これは……。確かに、あの煩わしい眼鏡の変装をやめてからは、一度も使っていなかった感覚の能力ですわね」
「ああ。でも、今のエルダの戦い方には不要でも、もっとその精密さを必要としてる場所がある。向こうへ行けば、何倍にも活きるはずだ」
エルダが静かに長い睫毛を閉じ、体内の魔力の巡りが変化していく不思議な感覚に、
「……言葉では説明しづらい、本当に奇妙な感覚ですわね」と呟いた。
四人全員の剪定と接ぎ木を終え、俺は手応えを噛み締めながら鋏をポーチへと収めた。
「ねぇねぇ、アルト様! 具体的に、私たちの何がどう変わったんですか!?」
シアが待ちきれないといった様子で、身を乗り出して目をキラキラと輝かせる。
「それは、次の戦闘で実際に戦ってみたら一発で分かるさ」
「ええーーっ!? 教えてくれないんですか、ケチ!!」
「はは、こういうのは自分で体感するもんだって」
◇
そこからさらに馬車を走らせ、周囲の景色が徐々に茜色に染まり、日が完全に暮れかけた頃――馬車が最後の大回廊の丘を越えた。
その瞬間、馬車の窓の向こう、眼下の視界が一気に開けた。
遥か地平線の先まで広がる、圧倒的な規模を誇る石造りの巨大な城壁。天を突き刺すように幾本もそびえ立つ魔導の塔。そして、夕闇の中で無数に灯り始めた、どこか冷徹で、洗練された大都市の街の明かり。
「……大きいな。これが、人間の築いた最大の都か」
車窓からその光景を見下ろし、テラがぽつりと、圧倒されたように呟いた。
「ああ、文字通り大陸最大の帝国だよ。……大きいけれど、俺にとっても、そこにいる奴にとっても……決して、いい記憶ばかりが残っている場所じゃない」
俺がそう言って隣に視線を向けると、シアが「……っ」と小さく息を吸い込み、身体を強張らせる音が聞こえた。かつて自分を奴隷として縛り付け、尊厳を奪い続けた恐怖の象徴が、今まさに目の前に広がっているのだ。その小さな拳が、ドレスの膝の上で微かに震えている。
俺はそっと、彼女のその震える小さな手を、上から自分の手で優しく包み込んだ。
「大丈夫か、シア」
シアは一瞬驚いたようにこちらを見つめ、それから、俺の手の温もりを確かめるように強く握り返して、愛おしそうに微笑んだ。
「……はい。もう、全然大丈夫です。……だって私の隣には、今度はアルト様がいてくださるんですから」
その力強い言葉を合図にするように、エルダの操る馬車は、静かに、始まりの地である帝国への下り坂を滑り下り始めた。
(第67話 終)