シャーレの先生は化け物である 作:人肉の味を知りたいようで知りたくない
東京喰種の世界って喰種に生まれても人間に生まれても地獄なのってほんとやばく無いですか? 皆さんは生まれるとしたらどちらに生まれたいですか? 私はムカデになりたいです
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便利屋68
それはハードボイルド(自称)な零細企業である。
理想のアウトローを追い求めつつも最後にはチョロい本性が漏れ出す社長・陸八魔アル。
他人のトラブルをポップコーン片手に楽しむ、いたずら好きの浅黄ムツキ。
重すぎる忠誠心ゆえにすぐ爆破で解決しようとする、自虐の狂犬・伊草ハルカ。
そして、このカオスな面々をやれやれと見守る最年長・鬼方カヨコ、計4人が便利屋68のメンバー達である。
「い……いら、いら…いら…!――依頼料100万!!?」
「先生、正気?」
「流石の私でもびっくりしちゃったかなぁ…」
「アワワワワワッ…!!?」
――そんな彼女らが住む事務所に先生は単身で乗り込んでいた。しかも依頼を高額で受けてもらいに。
「私の依頼を受けてくれるのなら、この分の依頼を君達に渡す。…どうかな?」
「どうかな…って……先生、100万、100万だよ?先生がどれだけのお給料を貰っているかは知らないけど…こんな大金、そう簡単に渡していいの? 会長代理の人に怒られたりしない?」
「私のポケットマネーだから大丈夫」
「本当に大丈夫って言っていいのかしら…」
「この依頼にはそれくらいの価値がある。生徒の為にお金が必要だって言うのなら、私はいくらでも使うって決めているんだ――改めて、私の依頼を受けてはくれないかな?」
早朝、便利屋68のことをクマ店長から少し聞いた先生は体を洗い身支度を整えた後、すぐさま便利屋68事務所に向かった。
ちょうど彼女らは今受けている依頼内容である『アビドス学園への襲撃と制圧』に向かおうと準備をしているところだった為、話は後日ということにしようとしたのだが……その依頼内容と金額を耳にし、流石に動きを止めらざるをえなかった。
「『少しの間だけアビドス側について欲しい』……しかも、今受けている依頼の主には内緒で。……う……うーん……うーん…!」
アルは頭の中で「裏社会の冷酷な二重スパイ」としての自分を想像し、一瞬だけ頬を上気させた。
だが、すぐにブンブンと首を振って、社長としての顔を無理やり作り直す。
「い、いやダメよ! ダメダメ! 陸八魔アル、ここで流されてはプロの悪党失格よ……! たしかに100万は破格の条件だけど、便利屋68は一度受けた依頼は最後までやり遂げるのがモットーなんだから! 」
「裏切りっていうのも、君が目指すアウトローっぽいとは思わない?」
「うぐっ…そ、それは……うーん…」
先生の提案に悩むアル、そこで話を進めようとカヨコが口を開く。
「私たち便利屋で金を貰えばなんでもするをモットーに動いている組織なのは間違いない。でも相手を選んだりはちゃんとしてるつもり……例えば今回みたいな、話が良すぎる提案とかは特に警戒してる」
「そうだねー。私たちがアビドスを襲撃しようとしていることは知ってるはずなのに、わざわざ話し合いをしに来るなんて…確かに怪しさ満点だよね〜」
「や、やっぱり、罠ですよね…? ある様の身に何かが起きる前に…今この場で…」
「まっ待ちなさいハルカ!相手は生身の人間、怪我じゃ済まないわ……先生、この依頼を受けるかどうかを決めるために、一つだけ質問に答えてくれるかしら」
「なんでもどうぞ」
「先生、どうして武力行使では無く…対話を望んだのかしら。私達は今先生が守ろうとしている生徒達の敵なのよ? 先生の力があれば、アビドスの生徒達をうまく動かし、私達を制圧することだってできたはず……なのにどうして?」
アル真っ当な問いかけに、先生は一呼吸置き、まっすぐに4人を見据えた。
「私はね、なるべく誰も傷つけ合わずに、この問題を解決したいんだ」
「え……?」
「君たちがアビドスを襲撃すれば、対策委員会の子達だって黙っていない。確実に激しい銃撃戦になる。そうなれば、アビドスの子たちも、そして君たち便利屋68のみんなも、絶対に無傷じゃすまないだろう? 私は生徒同士が傷つけ合う姿なんて、絶対に見ていたくないんだ」
先生の言葉には、一切の打算も嘘もなかった。
人間が好きで、生徒たちの平穏を何よりも愛している先生だからこそ、心の底から出た切実な願い。
「突然の襲撃にあったり、いきなり襲われたりしたら、流石にこっちも動かないといけない。でも今回はまだ襲撃もされていない、だからこそ会話を望んだんだ」
「ここで私たちに捕まって人質にされる可能性だったあったはずよ」
「その時はその時」
「怖くは無いの? 私達の手には、貴方の命を消せる武器がすぐそばにあると言うのに」
「キヴォトスで先生をやってるんだし、銃なんてもう怖く無いよ」
先生はいつものように、困ったような、けれどどこか呑気な笑みを浮かべてそう言った。先生にとって生徒達の銃は恐怖の対象では無い、暴力を振るわれることだって、もう慣れきってしまっているので怖くは無い。
これまで自分が対峙して来た怪物や、武器に比べれば……なんてことはない。
「…私はアビドスを守りたい。けれど君達も大事な私の生徒だ、だから君達の生活を、居場所を守りたい……だから、どうかな。私の依頼を受けてはくれないかな」
「……」
事務所の中に、重苦しいほどの沈黙が降りた。
100万という大金はでかい、実のところ便利屋68の事務所はつい最近ガスと水道が止まってしまっており、さらには所々ガタも来ている。
先生の言っていることにおそらく嘘は無い、武力では無く対話という甘すぎる考えではある。だが彼の『争いはもう嫌だ』という強い意志も伝わって来ていた。そんな優しい彼に、少し流されつつあった。
そしてアルの脳内ではある一つの言葉が浮かんでいた。
『より高い報酬を提示した方が真の雇い主になる』
最近見たアウトローを題材とした映画の中に出て来た言葉……まさか、こんなドンピシャなタイミングで使うことになるとは思わなかった。
アルの脳内で、先程までの先生の『優しさにほだされかけていた自分』への言い訳が、凄まじいスピードで構築されていく。
これなら便利屋のプライドも保てる。誰も裏切ったことにはならない。あくまで『非情な裏社会のルール』に従っただけなのだから。
アルは我が意を得たりとばかりに、勢いよく机をバンッと叩いて立ち上がった。そして、内心のバクバクとした興奮を必死に隠しながら、コートの裾をバサッと翻して腕を組む。
なるべく低く、冷徹な声色を作って、彼女は不敵な笑みで先生を見下ろした。
「ふん、いいでしょう先生。貴方のその熱意と……何より、その『100万』という大金の価値に免じて、我々便利屋68がその依頼、特別に引き受けてあげるわ! 勘違いしないでちょうだい、私たちは情に絆されたわけじゃない……ただ、より高い価値に動く、冷酷で非情なビジネスパーソンなのだから!──よしっ! 決まったわ……! 完璧な悪のアウトロームーブ!!)
フンス、と誇らしげに鼻を鳴らすアル。
そのあまりにも分かりやすく、そして根が善良すぎる態度に、先生は思わずニヤけてしまう。
「くすくす☆ あーあ、アルちゃんまたあの映画に影響されてる。でも、そういう分かりやすいところ、嫌いじゃないよ〜」
「アル社長……! あぁ、やっぱりアル社長は底知れない悪のカリスマです……! その非情な決断力、一生ついていきますぅぅっ!」
「社長がそう決めたのなら、私はそれについて行くよ……でもバイトの子達はどうする?」
「その分のお給料も出すよ、ここまで来たらね」
「先生太っ腹〜」
裏の世界で動く生徒達を前にしても、先生はなるべく争わない方向で動く。何十年といつ死ぬかもわからないような世界で生きて来た彼にとって、キヴォトスの裏の世界はぬるすぎた。
「ありがとう、アル社長。みんなも、本当に助かるよ」
「べ、別に感謝されるようなことじゃないわよっ! あくまでビジネスなんだから!
「……それで、もう一つだけ聞いてもいいかな」
「何かしら?」
「君達に依頼を出した人物について知りたいんだけど、ダメかな?」
「依頼主はもう先生に変わったのだから……そうね、教えるわ」
そしてついに、ヘルメット団を使いアビドスを襲撃させ、傭兵を雇いセリカを誘拐しようとし、便利屋68の面々まで使った者の正体を先生は知ることとなる。
「私たちに依頼を出して来たのは、『カイザーコーポレーション』の『カイザーPMCの代表取締役・カイザー理事』よ」
(カイザー理事……そうか、そいつが―――敵か)
そしてこの瞬間……このカイザー理事は、キヴォトスに住まう怪物の敵として認定されたのであった。
次回からギアを上げていきたいなと願望を抱いておりますので、よろしくお願い致します。