過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~   作:ブンチョウ

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第25話:「交渉」と「天才(という名の時限爆弾)」

 浅井長政の居城、小谷城への道のりは、俺の人生(二度目)で、最も胃が痛む「出張」だった。

 

 俺の右には、明智光秀(合理・冷徹)。

 

 俺の左には、竹中半兵衛(失望・狂気)。

 

 そして、俺の背後には、柴田勝家が吐き捨てた。

 

「……男色の猿め。せいぜい枕営業でもしてこい」

 

 という、特大の「憎悪」が突き刺さっている。

 

(どうすんだよ、このチーム……!)

 

 道中、戦略会議を開こうにも、この地獄の「与力」二人は、俺を挟んで一言も口を利かなかった。

 

「……光秀殿。浅井長政は若いが、義理堅いと聞く。お市様の『政略』だけで、果たして……」

 

 俺が無難に口火を切ると、光秀は馬上で冷ややかに答えた。

 

「木下殿。貴殿が若様に『採用』させた策でしょう。策に『迷い』は禁物。我らは、貴殿の『合理性』を実行するのみ」

 

(うわ、皮肉か! しかも『藤吉郎』じゃなくて『木下殿』呼び! 俺の『奇行』は、こいつの中では『擬態』として処理されたままか!)

 

「……ククク」

 

 反対側で、半兵衛が病的なほど静かに笑った。

 

「光秀殿は、カタいな。ゲホッ……」

 

 半兵衛は、俺に向き直った。

 

 その目は、「失望」のまま、冷え切っている。

 

「藤吉郎殿。貴殿の『本性』は、『合理的』な政略結婚ごっこではなかったはずだ。……実に、退屈だ」

 

(うわあああああ! こっちはこっちで、プレッシャーかけてくる!)

 

 俺は、片や「常識人(擬態)だろ、お前」と疑われ、片や「狂人(本物)じゃなかったのか、お前」と失望される、最悪の「板挟み」に遭っていた。

 

【小谷城・謁見の間】

 

 浅井長政は、『覇道』のCGで見た通りの、実直で涼やかな目をした青年武将だった。

 

 だが、その目は、俺たち「信長の使者」を明らかに警戒していた。

 

(ここが、正念場だ……!)

 

 交渉役は、発案者の俺。

 

 だが、俺が口を開くより早く、光秀が前に出た。

 

「浅井殿。我らが主君・織田信長は、貴殿との『血』の繋がりを望んでおられる」

 

 光秀は、俺の『Dルート(お市)』を、非の打ち所のない「合理性」と「弁舌」で、完璧にプレゼンし始めた。

 

「美濃を平らげた我らと組む『実利』。信長公の妹君を(めと)るという『名誉』。貴殿が、(みやこ)への道を(ひら)くのです」

 

(完璧だ……! これならイケる!)

 

 俺が、光秀の「知略90台」のステータスに感心していた、その時。

 

 長政は、静かに首を振った。

 

「……お言葉、感謝いたす。だが、光秀殿」

 

 長政の目が、鋭くなった。

 

「織田と組むということは、我ら浅井家が、長年の盟友である『朝倉家』を見捨てるということになる」

 

(来た! 『覇道』シナリオ通りの、最大の障害(フラグ)!)

 

 長政は、俺たちを真っ直ぐに睨みつけた。

 

「信長公は、いずれ朝倉をも攻めるおつもりであろう。その時、俺は、妻(お市)を取るか、盟友(朝倉)を取るか、選ばねばならぬ。……そのような『不義理』、できぬ相談だ」

 

(マズい!)

 

 光秀の「合理(ロジック)」が、長政の「義理(感情)」に真正面からブロックされた。

 

 光秀が、

 

「朝倉は旧い体制。織田は新しい天下。合理的に判断されよ」

 

 と、さらに「論破」しようとして、場の空気が最悪に凍りついた。

 

(どうする!? 俺が、俺が何とかしないと!)

 

(この交渉が決裂したら、俺たち三人の首が飛ぶ!)

 

 俺が必死に『覇道』知識を検索した、その瞬間。

 

 チカッ、と、視界がウィンドウで埋まった。

 

【強制イベント:浅井の『不義理』問答】

 

 浅井長政の『朝倉への義理』を、どう切り崩すか?

 

A:「『覇道』知識で。朝倉など、どうせ数年で滅びます! 合理的にいきましょう! (光秀の追随)」

 

B:「長政の手を取り。『義理』とは何です! 『情熱』です! 拙者と『契り』を……!」

 

C:「ウキキ! 猿は、盟友より『芋』が大事!」

 

D:「土下座し。お市様を貰う代わりに、若様(信長)は『朝倉家とは、決して(いくさ)をせぬ』と、拙者がこの首を賭けて誓います!」

 

E:「半兵衛を指差し。この『天才(病人)』が、朝倉よりも役に立つと、お見せしましょう!」

 

(Dだ!!!)

 

 俺は、一瞬で正解(チート)を理解した。

 

(これだ! 『覇道』のシナリオ通り! ここで「朝倉攻めはしない」という『嘘(約束)』を取り付けるのが、唯一のクリア条件だ!)

 

(A(合理)は、光秀が失敗した! B(情熱)とC(芋)は、交渉の場でやったら、俺が斬られる!)

 

 俺は、今度こそ指が滑らないように【D】を選んだ。

 

 ……いや、選ぼうとした。

 

 その時、俺の袖を、隣で死んだように黙っていた半兵衛(天才)が、クイクイと引いた。

 

(ん?)

 

 半兵衛は、俺にしか聞こえない声で、こう(ささや)いた。

 

「……藤吉郎殿。『退屈』な『嘘』で、この場を収めるおつもりか?」

 

(ひっ……!)

 

(こいつ! 俺が『嘘(チート)』をつこうとしてるのを、見抜いてやがる!)

 

 半兵衛は、冷え切った目で、俺の目の前の――彼には見えないはずのウィンドウを、まるで「見ている」かのように、嘲笑(あざわら)った。

 

「貴殿の『狂気』を期待して、ここまで来た私が、馬鹿だったようだ。ゲホッ……」

 

「ち、違う! これは、そういうんじゃ……!」

 

 半兵衛は、俺から顔をそむけ、浅井長政に向き直った。

 

「――浅井殿。この話、なかったことに」

 

「なっ!? 半兵衛殿!?」

 

 半兵衛は、俺の「制止」を無視し、立ち上がろうとした。

 

「このような『退屈な交渉』は、時間の無駄だ。我らは帰る。……なあ、藤吉郎殿?」

 

(こ、こいつ! 俺の『交渉』を、ブチ壊しやがった!)

 

(俺が『正解(D)』を選べば、半兵衛は「退屈だ」と、この場を去る!)

 

(だが、交渉を決裂させれば、俺は信長に殺される!)

 

(どうする俺!?)

 

(『正解(D)』を選んで、天才(半兵衛)に「失望」されて、交渉をブチ壊されるか!?)

 

(それとも、B(情熱)やC(芋)を選んで、浅井長政に「斬られる」か!?)

 

(詰んでる! 詰んでるじゃねえかあああ!)

 

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