過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~   作:ブンチョウ

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第27話:「将軍」の威光と「修羅場(トライアングル)」

「――これより、(みやこ)(のぼ)る!」

 

 1568年。

 

 信長の大号令が、岐阜城に響き渡った。

 

 目的は、亡命していた足利義昭を奉じて上洛し、彼を第15代将軍につけること。

 

 『戦国の覇道』における、織田家のブランドが一気に「地方大名」から「天下の覇者」へと変わる、超重要イベントだ。

 

 だが、俺の胃は、歴史の重みとは別の理由でキリキリと痛んでいた。

 

「……藤吉郎殿。また会えたな」

 

 進軍の集合地点。

 

 同盟相手である浅井家の軍勢が合流した瞬間、その総大将・浅井長政が、馬を降りて一直線に俺の元へ歩み寄ってきた。

 

 その顔は、爽やかな笑顔。

 

 だが、目は笑っていない。

 

「は、ははっ! 長政殿! お市様はお元気で……」

 

 俺が必死に話題を奥さんに逸らそうとすると、長政は俺の手をガシッと握った。

 

 まただ。

 

 あの日の「恋人繋ぎ」の感触だ。

 

「市は元気だ。だが、俺が会いたかったのは、『魂の契り』を交わした貴殿だ」

 

(ひいいっ! 声がデカい!)

 

 周囲の織田家臣団が、サーッと引いていく。

 

 柴田勝家が「見ろ……やはりあの噂は本当だったのだ……」とヒソヒソ話している。

 

 その時。

 

「……おや」

 

 俺の背後から、冷ややかな声がした。

 

 竹中半兵衛だ。

 

「これは浅井殿。……私の藤吉郎殿の手を、随分と強く握られるのですね」

 

「……む?」

 

 長政の眉がピクリと動く。

 

「貴殿は『外交』の相手。ですが、私は藤吉郎殿に『情熱』を見出され、共に寝食を共にした『内』の人間(※城で仕事をしただけ)。……あまり、気安く触れられては困る」

 

(やめろおおお! 張り合うな!)

 

(なんだこの地獄の空間は! ここは戦場だぞ!? 乙女ゲーのルート分岐画面じゃないんだぞ!)

 

 俺が、この「天才(ヤンデレ予備軍)」と「猛将(ガチ勢)」の板挟みに脂汗を流していると、輿(こし)の中から、野太い声が響いた。

 

「――控えよ! 公方(くぼう)様のお着きである!」

 

 足利義昭。

 

 次期将軍となる、この上洛戦の「神輿(みこし)」だ。

 

 白塗りの厚化粧に、公家のような衣装。

 

 プライドだけが高そうな男が、輿から顔を出した。

 

「……信長。騒がしいぞ。……ん? そこの猿面の男は誰だ」

 

 義昭の扇子が、俺を指した。

 

 信長が進み出る。

 

「はっ。これは我が家臣、木下藤吉郎。……少々、『奇行』が目立ちますが、使える道具にございます」

 

「ほう。奇行とな」

 

 義昭は、ニヤニヤと俺と長政、手を繋いだままの長政を見た。

 

「聞こえておるぞ。男色で天才や他国の将をたぶらかす、稀代(きだい)の『好色猿』とな」

 

(将軍にまで噂が届いてるうううう!!)

 

 俺の「社会的な死」は、ついに「室町幕府」認定となってしまった。

 

 義昭は、扇子で口元を隠した。

 

「オホホ。余も、『(みやび)』な遊びは嫌いではないぞ? 京に着いたら、余の寝所にも参れ」

 

(テメーもそっち側かよ!!)

 

(もう嫌だ! この時代の男たちは、どいつもこいつも!)

 

六角(ろっかく)攻め・観音寺城の戦い】

 

 上洛の道中、南近江、滋賀県を支配する名門・六角氏が、信長への服従を拒否した。

 

「田舎大名、信長になど従えぬ!」

 

 六角承禎は、難攻不落の山城「観音寺城」に立て籠もった。

 

「……フン。(ふる)いな」

 

 信長は、山を見上げて冷たく言い放った。

 

「上洛を急ぐ。猿! 半兵衛! 光秀! そして長政!」

 

「はっ!」

 

「この城、一日で落とせ。俺たちの『力』を見せつけろ」

 

(また無茶ぶりか!)

 

 観音寺城は、巨大な要塞だ。

 

 力攻めなら数ヶ月はかかる。

 

 だが、今の俺には『覇道』知識がある。

 

(史実では、織田軍の猛攻で支城が落ち、ビビった六角が夜逃げするんだ!)

 

 だが、どうやって「一日」で?

 

 俺が悩んでいると、長政が剣を抜いた。

 

「藤吉郎。俺の『武勇』を見せてやる。俺が先陣を切って、あの城壁を……」

 

「いえ、非効率です」

 

 光秀が遮る。

 

「私の計算では、全軍で包囲し、兵糧攻めにすれば二週間で……」

 

「遅いよ」

 

 半兵衛が、気だるげに言った。

 

「一日、と言われたんだ。……ねえ、藤吉郎殿?」

 

 半兵衛が、俺に「あの目(期待)」を向けてくる。

 

「貴殿なら、もっと『派手』で『情熱的』な、敵の度肝を抜く『祭り』をお考えでしょう?」

 

(祭り!?)

 

 その単語が出た瞬間、ウィンドウが開いた。

 

【強制イベント:観音寺城・炎上フェス】

 

 敵の戦意を「一日」で折るためのパフォーマンスを選べ。

 

A:「長政と共に、『愛の共同作業』だ! 二人で城門をぶち破る!」

 

B:「光秀と共に、『経費(金)』で敵兵を買収し、門を開けさせる!」

 

C:「ウキキ! 山ごと燃やして『焼き芋』大会だ!」

 

D:「全軍に、今夜は『無礼講(ぶれいこう)』だ! 松明(たいまつ)を数万本焚き、山を包囲して『大宴会』を開け!」

 

E:「義昭に、将軍の『威光』で開城命令を! 効果薄」

 

(Cは比叡山、焼き討ちの予行演習になっちまう! AとBは時間がかかる!)

 

(Dだ! Dの『大宴会(心理戦)』だ!)

 

(圧倒的な兵力差を見せつけつつ、余裕で『宴会』をして敵のメンタルを折る!)

 

 俺は、震える指でDを選択した。

 

「……皆の者! (いくさ)はやめだ!」

 

 俺は大声で叫んだ。

 

「今夜は『祭り』だ! 全軍、松明(たいまつ)を持て! 城の周りで『大宴会』を開くぞ!」

 

「はあ!?」

 

 柴田勝家が叫ぶ。

 

「敵前で宴会だと!?」

 

「そうだ! 俺たちの『余裕』と『情熱』を見せつけるんだ!」

 

 俺は、長政と半兵衛の肩を、ヤケクソで組んだ。

 

「長政殿! 半兵衛殿! 今夜は朝まで踊り明かすぞ!」

 

【その夜】

 

 観音寺城の周りは、数万の松明で昼間のように明るく照らし出された。

 

 ドラが鳴り、太鼓が響き、織田・浅井連合軍の大合唱が山を揺るがした。

 

「飲めや歌えや!」

 

「藤吉郎様、万歳!」

 

 城に籠もる六角軍は、その光景に戦慄した。

 

「な、なんだあれは……!?」

 

「我らを攻める気すらないのか!?」

 

「あれほどの兵力で、余裕しゃくしゃくと……! 勝てるわけがない!」

 

 心理的圧迫感と、俺たちの奇行への恐怖に耐えきれず、六角承禎は、その夜のうちに城を捨てて夜逃げした。

 

 史実通りの「スピード決着」だったが、その中身は「炎上フェス」だった。

 

「ククク……! やはり貴様は面白い!」

 

 信長は、燃え上がるような松明の海を見て、満足げに笑った。

 

「この『光』こそ、天下への狼煙(のろし)よ!」

 

 俺は、宴会の中心で、長政、ベタベタしてくる長政と、半兵衛、ニヤニヤしている半兵衛と、義昭、扇子で誘ってくる義昭に囲まれ、死んだ目で踊っていた。

 

(上洛は成功だ……)

 

(だが、俺の周りの『人間関係』は、戦国時代とは思えないほどドロドロに煮詰まっている……!)

 

 そして、一行はついに京へ入る。

 

 そこで待っていたのは、この物語の「ラスボス」候補の一人。

 

 将軍・義昭と対立することになる、「信長包囲網」の黒幕たちだった。

 

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