過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~ 作:ブンチョウ
「――これより、
1568年。
信長の大号令が、岐阜城に響き渡った。
目的は、亡命していた足利義昭を奉じて上洛し、彼を第15代将軍につけること。
『戦国の覇道』における、織田家のブランドが一気に「地方大名」から「天下の覇者」へと変わる、超重要イベントだ。
だが、俺の胃は、歴史の重みとは別の理由でキリキリと痛んでいた。
「……藤吉郎殿。また会えたな」
進軍の集合地点。
同盟相手である浅井家の軍勢が合流した瞬間、その総大将・浅井長政が、馬を降りて一直線に俺の元へ歩み寄ってきた。
その顔は、爽やかな笑顔。
だが、目は笑っていない。
「は、ははっ! 長政殿! お市様はお元気で……」
俺が必死に話題を奥さんに逸らそうとすると、長政は俺の手をガシッと握った。
まただ。
あの日の「恋人繋ぎ」の感触だ。
「市は元気だ。だが、俺が会いたかったのは、『魂の契り』を交わした貴殿だ」
(ひいいっ! 声がデカい!)
周囲の織田家臣団が、サーッと引いていく。
柴田勝家が「見ろ……やはりあの噂は本当だったのだ……」とヒソヒソ話している。
その時。
「……おや」
俺の背後から、冷ややかな声がした。
竹中半兵衛だ。
「これは浅井殿。……私の藤吉郎殿の手を、随分と強く握られるのですね」
「……む?」
長政の眉がピクリと動く。
「貴殿は『外交』の相手。ですが、私は藤吉郎殿に『情熱』を見出され、共に寝食を共にした『内』の人間(※城で仕事をしただけ)。……あまり、気安く触れられては困る」
(やめろおおお! 張り合うな!)
(なんだこの地獄の空間は! ここは戦場だぞ!? 乙女ゲーのルート分岐画面じゃないんだぞ!)
俺が、この「天才(ヤンデレ予備軍)」と「猛将(ガチ勢)」の板挟みに脂汗を流していると、
「――控えよ!
足利義昭。
次期将軍となる、この上洛戦の「
白塗りの厚化粧に、公家のような衣装。
プライドだけが高そうな男が、輿から顔を出した。
「……信長。騒がしいぞ。……ん? そこの猿面の男は誰だ」
義昭の扇子が、俺を指した。
信長が進み出る。
「はっ。これは我が家臣、木下藤吉郎。……少々、『奇行』が目立ちますが、使える道具にございます」
「ほう。奇行とな」
義昭は、ニヤニヤと俺と長政、手を繋いだままの長政を見た。
「聞こえておるぞ。男色で天才や他国の将をたぶらかす、
(将軍にまで噂が届いてるうううう!!)
俺の「社会的な死」は、ついに「室町幕府」認定となってしまった。
義昭は、扇子で口元を隠した。
「オホホ。余も、『
(テメーもそっち側かよ!!)
(もう嫌だ! この時代の男たちは、どいつもこいつも!)
【
上洛の道中、南近江、滋賀県を支配する名門・六角氏が、信長への服従を拒否した。
「田舎大名、信長になど従えぬ!」
六角承禎は、難攻不落の山城「観音寺城」に立て籠もった。
「……フン。
信長は、山を見上げて冷たく言い放った。
「上洛を急ぐ。猿! 半兵衛! 光秀! そして長政!」
「はっ!」
「この城、一日で落とせ。俺たちの『力』を見せつけろ」
(また無茶ぶりか!)
観音寺城は、巨大な要塞だ。
力攻めなら数ヶ月はかかる。
だが、今の俺には『覇道』知識がある。
(史実では、織田軍の猛攻で支城が落ち、ビビった六角が夜逃げするんだ!)
だが、どうやって「一日」で?
俺が悩んでいると、長政が剣を抜いた。
「藤吉郎。俺の『武勇』を見せてやる。俺が先陣を切って、あの城壁を……」
「いえ、非効率です」
光秀が遮る。
「私の計算では、全軍で包囲し、兵糧攻めにすれば二週間で……」
「遅いよ」
半兵衛が、気だるげに言った。
「一日、と言われたんだ。……ねえ、藤吉郎殿?」
半兵衛が、俺に「あの目(期待)」を向けてくる。
「貴殿なら、もっと『派手』で『情熱的』な、敵の度肝を抜く『祭り』をお考えでしょう?」
(祭り!?)
その単語が出た瞬間、ウィンドウが開いた。
【強制イベント:観音寺城・炎上フェス】
敵の戦意を「一日」で折るためのパフォーマンスを選べ。
A:「長政と共に、『愛の共同作業』だ! 二人で城門をぶち破る!」
B:「光秀と共に、『経費(金)』で敵兵を買収し、門を開けさせる!」
C:「ウキキ! 山ごと燃やして『焼き芋』大会だ!」
D:「全軍に、今夜は『
E:「義昭に、将軍の『威光』で開城命令を! 効果薄」
(Cは比叡山、焼き討ちの予行演習になっちまう! AとBは時間がかかる!)
(Dだ! Dの『大宴会(心理戦)』だ!)
(圧倒的な兵力差を見せつけつつ、余裕で『宴会』をして敵のメンタルを折る!)
俺は、震える指でDを選択した。
「……皆の者!
俺は大声で叫んだ。
「今夜は『祭り』だ! 全軍、
「はあ!?」
柴田勝家が叫ぶ。
「敵前で宴会だと!?」
「そうだ! 俺たちの『余裕』と『情熱』を見せつけるんだ!」
俺は、長政と半兵衛の肩を、ヤケクソで組んだ。
「長政殿! 半兵衛殿! 今夜は朝まで踊り明かすぞ!」
【その夜】
観音寺城の周りは、数万の松明で昼間のように明るく照らし出された。
ドラが鳴り、太鼓が響き、織田・浅井連合軍の大合唱が山を揺るがした。
「飲めや歌えや!」
「藤吉郎様、万歳!」
城に籠もる六角軍は、その光景に戦慄した。
「な、なんだあれは……!?」
「我らを攻める気すらないのか!?」
「あれほどの兵力で、余裕しゃくしゃくと……! 勝てるわけがない!」
心理的圧迫感と、俺たちの奇行への恐怖に耐えきれず、六角承禎は、その夜のうちに城を捨てて夜逃げした。
史実通りの「スピード決着」だったが、その中身は「炎上フェス」だった。
「ククク……! やはり貴様は面白い!」
信長は、燃え上がるような松明の海を見て、満足げに笑った。
「この『光』こそ、天下への
俺は、宴会の中心で、長政、ベタベタしてくる長政と、半兵衛、ニヤニヤしている半兵衛と、義昭、扇子で誘ってくる義昭に囲まれ、死んだ目で踊っていた。
(上洛は成功だ……)
(だが、俺の周りの『人間関係』は、戦国時代とは思えないほどドロドロに煮詰まっている……!)
そして、一行はついに京へ入る。
そこで待っていたのは、この物語の「ラスボス」候補の一人。
将軍・義昭と対立することになる、「信長包囲網」の黒幕たちだった。