過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~   作:ブンチョウ

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第33話 「鉄の愛人(こいびと)」と「最強の騎馬」

1574年、秋。

 

俺は、信長から与えられた新領地、近江・長浜(ながはま)の城にいた。

 

琵琶湖を望むこの城は、俺が初めて「一国一城の主」として、ゼロから築いた「マイホーム」だ。

 

だが、俺の心は晴れなかった。

 

夜な夜な、夢を見るのだ。

 

黄金の髑髏――長政が笑いかけ、幼い茶々が「私のパパを飲んだ味はどう?」と無邪気に聞いてくる夢を。

 

「……うなされていましたよ、あなた」

 

ねねが、冷たい手ぬぐいで俺の額を拭ってくれる。

 

「……ああ。酒が抜けないんだ」

 

俺は嘘をついた。

 

酒ではない。

 

罪の意識だ。

 

ねねは、俺の手を握った。

 

「藤吉郎さん。……『長浜』の民は、みんなあなたに感謝していますよ。税を安くし、楽市を開き、誰も殺さずに豊かにしてくれたって」

 

「……」

 

「あなたは『修羅』じゃない。私が知っている、優しい『藤吉郎さん』のままでいて」

 

ねねの言葉だけが、俺の壊れかけた心を、人間界に繋ぎ止めていた。

 

だが、時代(シナリオ)は、俺を「人間」でいさせてはくれない。

 

【急報・武田動く】

 

「――注進! 注進!」

 

早馬が、長浜城に飛び込んできた。

 

甲斐(かい)武田勝頼(たけだかつより)、兵一万五千を率いて三河へ侵攻! 徳川家の『長篠城(ながしのじょう)』を包囲しました!」

 

(来た……!)

 

戦国最強。

 

武田の赤備え(あかぞなえ)

 

信玄は死んだ(史実通り)。

 

だが、その後を継いだ勝頼は、父以上の猛将だ。

 

『覇道』のデータでも、武田騎馬軍団の攻撃力はチート級。

 

まともにぶつかれば、織田の足軽など紙切れのように踏み潰される。

 

「殿! 岐阜(信長)より呼集(こしゅう)です!」

 

権蔵が叫ぶ。

 

「鉄砲だ! 若様は、ありったけの『鉄砲』を集めてこいと仰せだ!」

 

(長篠の戦い……!)

 

(三段撃ちか!)

 

(『覇道』じゃ定番イベントだ。条件を満たせば、五段撃ちまである)

 

俺は、光秀と半兵衛を連れて、日本最大の貿易港「(さかい)」へと飛んだ。

 

決戦に必要な「鉄砲三千丁」と、膨大な「火薬」を調達するために。

 

【堺・豪商との交渉】

 

堺の会合衆(かいごうしゅう)今井宗久(いまいそうきゅう)の屋敷。

 

そこは、金と欲望が渦巻く、戦場とは別の「修羅場」だった。

 

「……三千丁、でございますか」

 

宗久は、茶をすすりながら、冷ややかに言った。

 

「木下様……いえ、羽柴様。無理を仰ってはいけません。鉄砲は今、日の本中で奪い合い。一丁が『城一つ』の値段にもなる時勢ですぞ」

 

「そこを何とか! 金なら信長様が出す!」

 

「金の問題ではございません。『在庫』がないのです」

 

嘘だ。

 

俺の『覇道』知識(交易データ)によれば、堺の倉庫には、まだ数千の在庫が眠っている。

 

こいつらは、値を吊り上げるために出し渋っているだけだ。

 

光秀が、静かにキレかけた。

 

「……宗久殿。これは『天下』のための徴収だ。拒めば、どうなるか……」

 

「おや、脅しでございますか? 堺は中立都市。織田様の武力をもってしても、我らの『商い』は曲げられませぬなあ」

 

宗久は、薄ら笑いを浮かべている。

 

こいつらは、権力者になれている。

 

脅しや暴力では動かない。

 

「……藤吉郎殿」

 

半兵衛が、俺の耳元で囁いた。

 

「この手合い(商人)を動かすのは、『恐怖』でも『合理』でもありません。……彼らがまだ見たことのない、未知の『狂気(情熱)』です」

 

(またそれかよ!)

 

(だが、時間がない! 長篠城が落ちれば、徳川が滅び、次は織田だ!)

 

俺は、必死にウィンドウを睨んだ。

 

【強制イベント:死の商人との商談】

 

出し渋る豪商に、鉄砲三千丁を吐き出させる『決め台詞』を選べ。

 

A: 「(土下座(どげざ)し)一生のお願いです! 後生ですから売ってください!」

 

B: 「(黄金の髑髏の話をし)……俺に売らないと、貴殿の頭も『金箔』で飾ることになるぞ?」

 

C: 「ウキキ!(火薬を食べて見せ、腹の中で花火大会だ!)」

 

D: 「(陳列された鉄砲を抱きしめ、頬ずりしながら)ああ……たまらん……。この『冷たい鉄』の肌触り……女より興奮する……。俺の『ハーレム(三千丁)』を作らせてくれ……!」

 

「(Dがああああ! ド変態だああああ!!)」

 

A(泣き落とし)は足元を見られる。

 

B(脅迫)は、中立都市・堺を敵に回し、信長の戦略(経済支配)を崩すリスクがある。

 

C(花火)はただの死だ。

 

(Dだ……! また『性癖(D)』で誤魔化すしかねえ!)

 

(男色(半兵衛)、ヤンデレ(長政)ときて、次は『()フェチ』かよ!)

 

俺は、死んだ魚のような目で【D】を選択した。

 

体が、勝手に動く。

 

俺は、床の間に飾られていた最新式の種子島(たねがしま)――火縄銃を手に取ると、あろうことか、銃身(バレル)に舌を這わせるように頬ずりし、うっとりと吐息を漏らした。

 

「……ああ……」

 

「なっ!?」

 

宗久が茶を吹き出しそうになる。

 

俺は、銃の引き金(トリガー)を、愛撫するように指でなぞった。

 

「たまらん……。この黒光りする『鉄』の冷たさ……。火薬の焦げた匂い……」

 

俺は、潤んだ瞳で宗久を見た。

 

「宗久殿。……俺は、女も好きだが……これ(鉄砲)がないと、もう『イケない』体になってしまったのだ……」

 

「は、はあ……?」

 

「一丁や二丁じゃ足りない……! 三千だ! 三千人の『鉄の愛人(こいつら)』に囲まれて、戦場で『轟音(こえ)』を聞きながら、昇天したいんだ!」

 

俺は、銃口を自分の胸に押し当てて叫んだ。

 

「頼む! 俺に『鉄のハーレム』を作らせてくれ! 金ならいくらでも払う! 俺の『性癖(あい)』を満たしてくれ!」

 

「…………」

 

「…………」

 

光秀が、顔を覆って部屋の隅へ逃げた。

 

半兵衛だけが、

 

「ククク……! 物欲を『性欲』に昇華させたか。見事な狂気だ」

 

と喜んでいる。

 

宗久は、口を開けたまま固まっていたが、やがて、腹を抱えて笑い出した。

 

「カッカッカッ! 武士にも『数寄者(すきもの)』は多いが、鉄砲にそこまで『欲情』する変態は初めて見ましたぞ!」

 

宗久は、膝を叩いた。

 

「気に入った! 脅しでも、泣き落としでもなく、純粋な『愛(フェチ)』で鉄砲を求めるとは! 商人として、その『狂った愛』、応援せねばなりますまい!」

 

「それに、三千丁を欲しがるほど鉄砲に惚れ込んだ客が、後で値を渋るとも思えませぬ」

 

「三千丁! 蔵の奥から出して進ぜよう! 持っていかれよ、稀代の変態殿!」

 

(商談成立……!)

 

俺は、鉄砲を抱きしめたまま、心の中で号泣した。

 

(ねね……ごめん……)

 

(俺、鉄砲とも『浮気』したことになっちまった……)

 

【1575年・長篠 設楽原(したらがはら)

 

俺たちが調達した三千丁の「愛人(鉄砲)」は、設楽原の戦場に到着した。

 

信長は、それを「三段撃ち」にするため、馬防柵(ばぼうさく)の後ろに並べさせた。

 

「来るぞ……!」

 

地響きと共に、最強・武田の騎馬隊が突っ込んでくる。

 

死を恐れぬ、赤備えの悪魔たち。

 

だが、俺の周りには、三千の「鉄」があった。

 

「構えッ!」

 

信長の号令。

 

ズドン!

 

ズドン!

 

ズドン!

 

轟音が、戦場を支配する。

 

「ぎゃあああ!」

 

「馬鹿な! 近づけない!」

 

最強と呼ばれた騎馬武者たちが、俺の連れてきた「愛人たち」の吐き出す鉛玉によって、ゴミのように撃ち砕かれていく。

 

それは、(いくさ)ではなかった。

 

一方的な「虐殺(さつりく)」であり、時代の「転換点」だった。

 

俺は、硝煙(しょうえん)の匂いの中で、震えていた。

 

(これが……俺のしたことか)

 

俺の「変態演技(D)」が、戦国の最強軍団を、歴史の彼方へ葬り去った。

 

その時。

 

壊滅する武田軍の中から、一騎の武者が、死に物狂いで俺の陣へ突っ込んでくるのが見えた。

 

「羽柴ァァァァ!! 貴様の『鉄』かァァァ!!」

 

それは、武田勝頼……ではなく、武田の重臣・山県昌景(やまがたまさかげ)だった。

 

全身に銃弾を浴びながら、それでも倒れない。

 

「貴様のその『小細工』! 俺の『武田魂』で叩き潰してくれる!」

 

(来る!)

 

鉄砲は撃ち尽くした。

 

柵が破られる!

 

「半兵衛! 光秀!」

 

俺が叫ぶより早く、二人の与力が動いた。

 

「させませんよ」

 

半兵衛が、冷静に采配を振る。

 

「光秀殿! 『合理的』な射撃を!」

 

「言われずとも!」

 

光秀が、自ら火縄銃を構え、山県昌景の眉間(みけん)を撃ち抜いた。

 

どうと、伝説の猛将が倒れる。

 

「……ふう」

 

光秀は、銃を下ろして俺を見た。

 

「木下殿……いや、羽柴殿。貴殿の『異常性愛(鉄フェチ)』のおかげで、助かりましたな」

 

「(だから誤解だと言ってるだろ!)」

 

長篠の戦いは、織田・徳川の圧勝に終わった。

 

だが、俺の背負う「誤解」の荷物は、また一つ増えた。

 

「男色」「ヤンデレ殺し」に続き、「重度の銃フェチ」というレッテルが、天下に(とどろ)くことになったのだ。

 

そして、歴史はさらに加速する。

 

次は、西。

 

中国地方の覇者・毛利(もうり)との戦い。

 

そして、その先には……あの「本能寺」のカウントダウンが、俺の知らない速度で刻まれていた。

 

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