過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~ 作:ブンチョウ
1574年、秋。
俺は、信長から与えられた新領地、近江・
琵琶湖を望むこの城は、俺が初めて「一国一城の主」として、ゼロから築いた「マイホーム」だ。
だが、俺の心は晴れなかった。
夜な夜な、夢を見るのだ。
黄金の髑髏――長政が笑いかけ、幼い茶々が「私のパパを飲んだ味はどう?」と無邪気に聞いてくる夢を。
「……うなされていましたよ、あなた」
ねねが、冷たい手ぬぐいで俺の額を拭ってくれる。
「……ああ。酒が抜けないんだ」
俺は嘘をついた。
酒ではない。
罪の意識だ。
ねねは、俺の手を握った。
「藤吉郎さん。……『長浜』の民は、みんなあなたに感謝していますよ。税を安くし、楽市を開き、誰も殺さずに豊かにしてくれたって」
「……」
「あなたは『修羅』じゃない。私が知っている、優しい『藤吉郎さん』のままでいて」
ねねの言葉だけが、俺の壊れかけた心を、人間界に繋ぎ止めていた。
だが、時代(シナリオ)は、俺を「人間」でいさせてはくれない。
【急報・武田動く】
「――注進! 注進!」
早馬が、長浜城に飛び込んできた。
「
(来た……!)
戦国最強。
武田の
信玄は死んだ(史実通り)。
だが、その後を継いだ勝頼は、父以上の猛将だ。
『覇道』のデータでも、武田騎馬軍団の攻撃力はチート級。
まともにぶつかれば、織田の足軽など紙切れのように踏み潰される。
「殿! 岐阜(信長)より
権蔵が叫ぶ。
「鉄砲だ! 若様は、ありったけの『鉄砲』を集めてこいと仰せだ!」
(長篠の戦い……!)
(三段撃ちか!)
(『覇道』じゃ定番イベントだ。条件を満たせば、五段撃ちまである)
俺は、光秀と半兵衛を連れて、日本最大の貿易港「
決戦に必要な「鉄砲三千丁」と、膨大な「火薬」を調達するために。
【堺・豪商との交渉】
堺の
そこは、金と欲望が渦巻く、戦場とは別の「修羅場」だった。
「……三千丁、でございますか」
宗久は、茶をすすりながら、冷ややかに言った。
「木下様……いえ、羽柴様。無理を仰ってはいけません。鉄砲は今、日の本中で奪い合い。一丁が『城一つ』の値段にもなる時勢ですぞ」
「そこを何とか! 金なら信長様が出す!」
「金の問題ではございません。『在庫』がないのです」
嘘だ。
俺の『覇道』知識(交易データ)によれば、堺の倉庫には、まだ数千の在庫が眠っている。
こいつらは、値を吊り上げるために出し渋っているだけだ。
光秀が、静かにキレかけた。
「……宗久殿。これは『天下』のための徴収だ。拒めば、どうなるか……」
「おや、脅しでございますか? 堺は中立都市。織田様の武力をもってしても、我らの『商い』は曲げられませぬなあ」
宗久は、薄ら笑いを浮かべている。
こいつらは、権力者になれている。
脅しや暴力では動かない。
「……藤吉郎殿」
半兵衛が、俺の耳元で囁いた。
「この手合い(商人)を動かすのは、『恐怖』でも『合理』でもありません。……彼らがまだ見たことのない、未知の『狂気(情熱)』です」
(またそれかよ!)
(だが、時間がない! 長篠城が落ちれば、徳川が滅び、次は織田だ!)
俺は、必死にウィンドウを睨んだ。
【強制イベント:死の商人との商談】
出し渋る豪商に、鉄砲三千丁を吐き出させる『決め台詞』を選べ。
A: 「(
B: 「(黄金の髑髏の話をし)……俺に売らないと、貴殿の頭も『金箔』で飾ることになるぞ?」
C: 「ウキキ!(火薬を食べて見せ、腹の中で花火大会だ!)」
D: 「(陳列された鉄砲を抱きしめ、頬ずりしながら)ああ……たまらん……。この『冷たい鉄』の肌触り……女より興奮する……。俺の『ハーレム(三千丁)』を作らせてくれ……!」
「(Dがああああ! ド変態だああああ!!)」
A(泣き落とし)は足元を見られる。
B(脅迫)は、中立都市・堺を敵に回し、信長の戦略(経済支配)を崩すリスクがある。
C(花火)はただの死だ。
(Dだ……! また『
(男色(半兵衛)、ヤンデレ(長政)ときて、次は『
俺は、死んだ魚のような目で【D】を選択した。
体が、勝手に動く。
俺は、床の間に飾られていた最新式の
「……ああ……」
「なっ!?」
宗久が茶を吹き出しそうになる。
俺は、銃の
「たまらん……。この黒光りする『鉄』の冷たさ……。火薬の焦げた匂い……」
俺は、潤んだ瞳で宗久を見た。
「宗久殿。……俺は、女も好きだが……これ(鉄砲)がないと、もう『イケない』体になってしまったのだ……」
「は、はあ……?」
「一丁や二丁じゃ足りない……! 三千だ! 三千人の『
俺は、銃口を自分の胸に押し当てて叫んだ。
「頼む! 俺に『鉄のハーレム』を作らせてくれ! 金ならいくらでも払う! 俺の『
「…………」
「…………」
光秀が、顔を覆って部屋の隅へ逃げた。
半兵衛だけが、
「ククク……! 物欲を『性欲』に昇華させたか。見事な狂気だ」
と喜んでいる。
宗久は、口を開けたまま固まっていたが、やがて、腹を抱えて笑い出した。
「カッカッカッ! 武士にも『
宗久は、膝を叩いた。
「気に入った! 脅しでも、泣き落としでもなく、純粋な『愛(フェチ)』で鉄砲を求めるとは! 商人として、その『狂った愛』、応援せねばなりますまい!」
「それに、三千丁を欲しがるほど鉄砲に惚れ込んだ客が、後で値を渋るとも思えませぬ」
「三千丁! 蔵の奥から出して進ぜよう! 持っていかれよ、稀代の変態殿!」
(商談成立……!)
俺は、鉄砲を抱きしめたまま、心の中で号泣した。
(ねね……ごめん……)
(俺、鉄砲とも『浮気』したことになっちまった……)
【1575年・長篠
俺たちが調達した三千丁の「愛人(鉄砲)」は、設楽原の戦場に到着した。
信長は、それを「三段撃ち」にするため、
「来るぞ……!」
地響きと共に、最強・武田の騎馬隊が突っ込んでくる。
死を恐れぬ、赤備えの悪魔たち。
だが、俺の周りには、三千の「鉄」があった。
「構えッ!」
信長の号令。
ズドン!
ズドン!
ズドン!
轟音が、戦場を支配する。
「ぎゃあああ!」
「馬鹿な! 近づけない!」
最強と呼ばれた騎馬武者たちが、俺の連れてきた「愛人たち」の吐き出す鉛玉によって、ゴミのように撃ち砕かれていく。
それは、
一方的な「
俺は、
(これが……俺のしたことか)
俺の「変態演技(D)」が、戦国の最強軍団を、歴史の彼方へ葬り去った。
その時。
壊滅する武田軍の中から、一騎の武者が、死に物狂いで俺の陣へ突っ込んでくるのが見えた。
「羽柴ァァァァ!! 貴様の『鉄』かァァァ!!」
それは、武田勝頼……ではなく、武田の重臣・
全身に銃弾を浴びながら、それでも倒れない。
「貴様のその『小細工』! 俺の『武田魂』で叩き潰してくれる!」
(来る!)
鉄砲は撃ち尽くした。
柵が破られる!
「半兵衛! 光秀!」
俺が叫ぶより早く、二人の与力が動いた。
「させませんよ」
半兵衛が、冷静に采配を振る。
「光秀殿! 『合理的』な射撃を!」
「言われずとも!」
光秀が、自ら火縄銃を構え、山県昌景の
どうと、伝説の猛将が倒れる。
「……ふう」
光秀は、銃を下ろして俺を見た。
「木下殿……いや、羽柴殿。貴殿の『
「(だから誤解だと言ってるだろ!)」
長篠の戦いは、織田・徳川の圧勝に終わった。
だが、俺の背負う「誤解」の荷物は、また一つ増えた。
「男色」「ヤンデレ殺し」に続き、「重度の銃フェチ」というレッテルが、天下に
そして、歴史はさらに加速する。
次は、西。
中国地方の覇者・
そして、その先には……あの「本能寺」のカウントダウンが、俺の知らない速度で刻まれていた。