それにしてもシロコって本当にかわいいですよね。なでなでしたい(願望)
「私……私は、これからどうすればいいんだ。」
シロコが、ヴァルキューレに捕まった。
そんな事実を突きつけられたのは、朝起きてすぐ。いつものように朝食を食べ、インスタントコーヒーを淹れてデスクの前で飲みながら生徒からのモモトークを確認するというルーティンをしていたときのことだった。
トークを見ているときに新たな通知が一件。起きてから少し経っているのにもかかわらず未だにぼやけたままの視界に入ったのは「銀行強盗をしてたら通報された。もうすぐヴァルキューレが来ると思う。」という文。
「シロコは大丈夫なの?」
「今はどうしているの?」
「嘘じゃないよね。」
「何かあったらまたすぐに教えて。」
一旦手を止めて、送るつもりの文章を読み返す。そんな常日頃からやっているようなことをする暇もないと言わんばかりに連続して返信する。シロコとのトーク画面に自分の言葉が縦に積み重なる。
嘘であってほしい。シロコと会った後どう声をかければいいのか。そう考えているうちに過ぎていく時間までもが自分の心を重くする。
少し冷静になるために深呼吸した後、まだ半分ほど残っていたコーヒーを一気に飲み干す。
今日の予定表を確認した後、席を立ってから片手に持っていた端末をカタンとデスクに置く。急いで外に出る準備に取り掛かる。
鞄のジッパーを閉めた後、モモトークの画面が点きっぱなしになっている端末をデスクから持ち上げて画面の上端の方を見る。時刻は午前7時をちょっと過ぎた頃。
忘れ物がないかを揺れる手の先で何度か確認した後、未だに物音一つしない端末を見ようと画面を数回タップして立ち上げるが、未だに既読がついていない。
外に出ようとした瞬間、通知音が鳴る。
「無理に来なくていいよ。」
そんなひと言。今の私にとっては関係がない、そんなことで気が変わるわけがない。そう言わんばかりにそのまま行くことにして、走ってドアの先に飛び出す。
ヴァルキューレに着いた後、玄関前にいたコノカに声をかけて事情を伝えた。
曰く、先にカンナが取調べしており、少し前に終えた直後だったのでシロコはまだいるらしい。
コノカが面会の許可を貰うために教室まで廊下を歩いていく。その間に私は新着のモモトークが来ないかを見る。シロコではなく別の生徒だったので見るのは後にしようと思いアプリを閉じた。
しばらく何もせずに廊下で待っていたらコノカが戻って来て許可が出たということなので取調べ室に案内された。
取調べ室の目の前に着くと扉越しからシロコの姿が見えた。少し目が合ったがすぐにドアノブの方に目を向けた。
軋む音を立てながら扉を開ける。
薄暗い照明の光に照らされてシロコは座っていた。椅子をゆっくり引いて面前に座る。
「えっと、まずどんな話をしていたか教えてくれる?」
「ん……なんで銀行を襲ったのかとか、これからどれくらいの期間矯正局に入れられるのかとか。」
一瞬喉から出そうになった声が詰まる。
「矯正局に入ることになったの?」
「う、うん。」
「どうして、また銀行強盗をしたか、聞いても大丈夫?」
「アビドスの借金が多いから、返すために。」
「そっか。」
それからというもの、全く言葉が出てこない。
ようやく考えて出てきた言葉でさえ正しく思えない。
自分の言葉に責任を持てる気がしない。
纏まらない思考のまま、言葉だけが先行する。
「話してくれてありがとう、じゃあ、元気でね。」
私が、その一言で終わらせてしまった。
その後ゆっくり席を立ち、扉を開ける。扉が軋んだ音を立てて閉まる。部屋を離れる。今からまだ引き返せると思っているはずなのに、絶対に後悔すると確信しているのに、もう戻れない。廊下を歩く足はここから戻ろうとしない。
「話してくれてありがとう、じゃあ、元気でね。」
あの言葉が、あの一言が強烈に視界から離れない。
自分にも、勿論シロコにも悪いって分かってる。
それでもさっき言った言葉は取り消せない。
シロコがした行動に対して、"先生"としての責任を果たせなかった。
もう玄関の前まで来たのに、そこから一歩も歩き出せない。
自ら言った言葉が呪いのように耳に響く。今から戻れないのかを考えてしまう。
私はこれからどうシロコと接すればいいか分からない。考えても分かる気もしない。私は初めから何もわかっていなかった。無駄だった。
ずっと募っていた不安がふと口から出る。